軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第51話

「王妃宮の入宮を管理していた騎士が昏倒しているのを発見した」

「…っ!」

昏倒している、それは故意に意識を奪ったという事か。近衛騎士たる者が同じ志を持つ騎士に危害を加えるなんて、と私は言葉を失った。

私を射殺さんばかりに睨みつけているブレイスには、自分に向けられる信じられない物を見るような同僚達の視線が分からないのだろうか。

その騎士の意識は戻っていないと、ライニール様は言った。

「…そして、残念な事に王妃宮付きのメイドが手引きを」

「何てこと…っ!」

ブレイスだけではなく、王妃宮に仕える人間でありながら、王妃に危険が及ぶかもしれない事に手を貸すだなんて。それを聞いた途端に眩暈がした。さりげなく身体を支えてくれたノア様に感謝。冗談ではなく意識が飛ぶかと思った。ライニール様の眉間も皺が寄っている。

そのメイドの名前を聞くと、それは私の悪口を人一倍言っていた新人メイドの一人だった。仕事ぶりには問題はなかったが、悪口で風紀を乱す存在であったゆえに、今度の異動で王妃宮からは外される予定だったメイド。

「メイドは騎士に拘束された際に、彼に唆されたと言っていますが…」

「どんな理由があれども、許される事ではありませんね」

私への悪口だけだったら多少は大目に見てあげられるが、これは嫌がらせとかの規模ではない。グラン国王妃への反意ありと思われる行動だ。唆されたとどんなに喚いても庇い立てなど出来ない。私の言葉にライニール様も同意だろう。

「それとマーシャ。君はこれに覚えがありますか?」

ん? 呼び捨て? と一瞬不思議に思ったけれど、ライニール様の差し出したピアスに意識を持っていかれた。

「これ…ですか?」

「ええ」

大きい琥珀と黒曜石に、純金の派手な装飾。キラキラしいというよりギラギラしいという印象を受ける、私の趣味の正反対のピアスである。

「全く覚えはございません」

こんな重いピアスを付けたら耳たぶが千切れそうだ、と思いながら答えると、ブレイスの大声が飛んできた。

「嘘を 吐(つ) くなっ。それはお前の部屋から見つけた王弟妃殿下の盗まれた宝飾品の一部だろうがっ‼ 言い逃れをするつもりかぁっ‼‼‼」

拘束されているブレイスは力尽くで私に迫ろうとするものの、第2部隊の騎士に阻まれ近付く事も出来ない。ラウルが制止をかけるも興奮している彼の耳には届かない。

「…私の部屋から、ですか?」

ブレイスではなく、ライニール様に私は問うた。

「彼の言い分では、ですね。私達が気付いた時には既に彼の手にありましたから」

つまりは私へ罪を着せる為のブレイスの自演かもしれない、という事。

もし、だ。この強制捜査が正しい形で行われていたとしたら、まだブレイスの言い分に一考の余地があったかもしれない。けれど彼の行動は、謹慎の身でありながら王妃宮に不当な手段で侵入し、制止したにも関わらず強行した。そして彼が拘束されているという事実は、私へ罪を擦り付ける為だったのではないかと思われている事を示している。この状況下で、ピアスが私の部屋から出てきたと思う人はこの場にはいない。

それなのに、ブレイスは嬉しそうな表情でラウルに言うのだ。

「ほら、ラウル隊長も見て下さい。俺が見つけたこのピアスが、この女が盗人だという動かぬ証拠です。俺ではなくこいつを捕まえるべきですよ、隊長。他の奴らも何をしているんだ! 俺を離してさっさと盗人を捕まえろっ‼」

そう喚くブレイスの言葉に従う者など誰もいない。その様子はいっそ哀れでもあった。

私は小さく 頭(かぶり) を振った。

「ご希望に添えなくて申し訳ありませんが、こんな趣味の悪いピアス、私には必要ありませんわ」

欲しいとも思わない物を盗む意味が分からない。

「…っ…、本当に見覚えがないと言うのか、マーシャ…」

その答えに不満だったのか、震える声のラウルが言った。

「何です? 私が嘘を 吐(つ) いているとでもおっしゃるおつもりですか?」

どういうつもりで言っているのか知らないけれど、その発言の意味をきちんと理解しているのだろうか、この男は。

騎士としてあるまじき行為をするような彼の肩を持つと、信じると言っているのと同義だ。

不愉快極まりなくて、スゥっと心が冷めていく。

「待ってくれ。そう言う意味ではない。勘違いしないで欲しい」

嫌な雰囲気を感じ取ったか、慌ててラウルは訂正をするが、周囲の近衛騎士達は冷ややかな眼差しをラウルに向けている。

「はぁ…、私をお疑いになりたいのは分かりますけれどね…。断言してもいいですが、このピアスに見覚えなどございません。今、初めて目にしましたわ」

冷たい、冷たい声音。自分でもこんな冷たい声が出るなんて思いもしなかった。

「…そうか。本当にそういう意味ではない。言葉を間違えたみたいだ…」

ラウルがそう言い募るが、誰もその言葉を信じる事はなかった。それにきっとラウルも気付いただろう。それ以上の弁解をもうしようとしなかった。

そして、ラウルはブレイスの方を向き、一呼吸置いてから、

「ダリル。もう 止(や) めるんだ」

擦れた声でそう言った。

「何を言っているんですか、隊長…っ。このピアスは盗まれた妃殿下の物です! 間違いありませんっ‼」

「いや、紛失した宝飾品のリストに、琥珀と黒曜石のピアスはない」

「そんなはずはありません。俺はこのピアスを身に付けている妃殿下を見た事がある。絶対に見間違うはずはありません。間違いなく、これは妃殿下のピアスですっ‼」

その言葉に、唇をわなわなと震わせながらブレイスは言い返すが、ラウルは静かに左右に首を振るだけ。そして小さな声で「彼女がこれを…そうか…」と呟いたのが聞こえた。

「……私にも、このピアスには見覚えがある…」

「なら…っ!」

「だが…、これは…っ」

その後の言葉をラウルは言わなかった。辛そうに眉を顰め、唇を噛み締めたその表情は、今まで見た事のない物で。

「……ラウル?」

思わず、素で名前を呼んでしまった。

いつもの独りよがり劇場で悲劇のヒーローを演じていた表情ではない。

一瞬、瞳を閉じた後に顔を上げたラウルの表情は、幼い頃によく見た幼馴染の時の物だった。

心臓が嫌な音を立てた気がした。