軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第35話

私は先頭に立ち聴取室へ向かおうと歩きだした。慌てだしたのは私を取り囲んでいた騎士4人。

「おい、先に行くな。何を考えているんだ、貴様は!」

「当然、私の冤罪を晴らす事を考えておりますわ。それ以外何があるというのです?」

冷たい口調で言うと、リーダー格の騎士は苛立たし気に舌打ちをした。

ダグラス様の宣言に狼狽えて後れを取ったのは自分達でしょうに、私のせいにしないで頂きたい。どうせ、ここまで事が大きくなると思っていなかったんでしょうが、自分達の発言には責任を持たなくてはね。勢いや自尊心を満たす為に言うものではありませんよ。取り返しのつかない事になりますから。

「生意気な女だ」

「まぁ、お褒め頂き光栄ですわ。そういう貴方は傲慢無礼ですわね」

にっこりと言い返す。それに苛立ちを隠しもせず、射殺しそうな視線を向けてくるものだから可笑しくて仕方がない。この位の挑発に乗るなんて青二才ですこと、ほほほ。

「貴様はブレイス伯爵家の俺を馬鹿にしているのか…っ!」

「ふふふ、心外ですわ」

馬鹿にしているのではなくて事実を言っているだけですよ。ご自覚してくださいね、無理だろうけど。

それにしてもブレイス伯爵家ね。確かご当主夫妻は穏やかな方々だったと記憶しているけれど、ご子息はその血を引かなかったのかしら。不思議。お仲間の騎士に諫められて、なんとか冷静を保とうと努力しているようですけど、失敗していますよ。奥歯をギリギリしている音が聞こえてきそうですもの。

「チッ、まぁいい。どうせ泣きを見るのは直ぐだろうからな。今だけは許してやる」

そうね。貴方が泣きを見る事になるのは、本当に直ぐですよ。ハンカチのご用意はよろしいですか。もしもの時は私のハンカチを貸してあげなくもないですよ。

「寛大ですこと、ほほ」

私が、ね。

そんな嫌味の応酬をしながら、聴取室へ向かう私と騎士4人。そして後を追うように付いてくるのはラウルだ。来ない訳にはいかないよね。部下の独断とはいえ、私が冤罪と分かれば処分は免れないもの。お得意の独りよがり劇場でどうにかできる問題ではないし。

ブレイス卿には非常に腹が立つけれど、思わぬ所でうっ憤を晴らす機会をくれた事に感謝したいくらいだわ。手加減はしてあげないけど。

「ここだ、入れ」

プフー、先に聴取室に着いたのは私なんですが? 背後からこの台詞は格好悪いわぁ。と内心馬鹿にしながら、表面上は冷静を保ちながら、扉を開けてくれるのを待った。

「書記官はまだ来ていないのですか?」

聴取室に入ると、がらんとしていて誰もいない事に不審に思い尋ねる。これでは直ぐに聴取が始められない。

「貴様一人の為に書記官が必要だと思っているのか」

「必要に決まっています。取り調べ、聴取を行う場合、正確な記録を記す為に書記官の立ち合いは原則となっております。貴方の一存で左右される事ではございません」

基本的な事なんですけど? この人、本当に騎士なの?

「まさか知らない訳ではないですよね?」

私は振り返り、背後にいたラウルとその他の騎士3人に問うた。

「そんなはずはない。そうだろう?」

そう答えたラウル以外の騎士は、ブレイス卿も含め全員気まずそうな顔をして口ごもる。

「はぁ、仕方がありません。コールデン卿、貴方が行ってきちんと状況を説明した上で書記官に来て頂いて下さい。聴取はそれからです」

「おい、俺達の誰かが行けばいいだろう。我らが隊長を貴様如きが顎で使うとは何事だ!!」

何事とは、何事よ。書記官の立ち合いにはきちんとした手続きが必要なのだ。呼んだら直ぐに来てくれるものではない事くらい分かるでしょう。

「貴方方では埒が明かないから、隊長職であるコールデン卿にお願いしているのですよ。本来であれば、私に同行を強制する前に手続きを終えていないといけない事です。それの尻拭いを上司であるコールデン卿にさせているのは貴方の方です。私を叱責する前にご自分を省みる事をお勧めしますわ」

「な…っ!!」

正規の手順を踏まず、平の騎士が『今から取り調べするから直ぐに来てね』なんて言って御覧なさい。書記官を軽んじているのかと激高されること間違いなしだ。だからそれを少しでも軽減する為に、隊長であるラウルが赴き、頭を下げてお願いしたうえで来て頂く、そういう体裁が必要なのだ。

「そこまでにしておけ。私が書記官を呼んでくる。それでいいな」

いいも何も、自分の部下のミスを上司のラウルが責任取るのは当然の話だからね。それなのに「ですが…」って不満を言うとか、もうあり得ないのだけれど。部下の教育ぐらいしっかりしておきなさい。管理不足なんじゃないの!?

「……そうして下さい」

言いたい事は山のようにあるけれど、ぐっと堪える。どうせ言ったところで時間が無駄になるだけだ。ここはまず冤罪を晴らす事を優先しつつ、お子様騎士とラウルにぎゃふんと言わせる為に我慢だ、私。

ラウルが部屋を出て行くのを横目に、私は疲れたと言わんばかりに額に手を当てた。

「侍女殿、どうぞこちらに」

そんな私の様子を見てか、一人の騎士が椅子に誘導した。ブレイス卿と違い、少し私に対しての態度が軟化している。

あぁ、私の冤罪が確定された場合の事を考えての事かな。少しでも私の心証を良くしておけば、温情で処分を軽くして貰えるかもしれないとか。お生憎様です。その気は一切ございませんよ。だがラウルが戻ってくるまで立ったまま待つのが疲れるのも事実である。

「どうもありがとう」

私は素直に礼を述べ、椅子に座った。その事に、またガタガタと文句を言うお子様がいるが、もう完全無視である。

書記官が来たら相手をしてあげるから、少し黙っておきなさいな、全く。