軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第10話

マイラ様がゆらりと立ち上がり、椅子に座ったままの陛下を無表情で見下ろした。

「黙って聞いておけば…言いたい放題ですわね、陛下」

「マイラ…?」

そこには、先程まで無邪気に笑っていたマイラ様はいなかった。

「なんて傲慢…なんて身勝手」

囁くように静かなマイラ様の声音に、誰もが声が出せずにいた。

「私だって分かっていますよ。陛下のおっしゃっていることが間違っていない事くらい」

ですが、と言葉が続く。

「言い方ってものがあるでしょう!!」

カシャンと茶器が鳴った。

「だが、マーシャが乳母になるのをマイラも望んでいただろう?」

「私が言っているのは、そういう事ではありません」

「では、どういう事だ」

私の事なのに、私を無視し構わず話を続ける陛下とマイラ様に、周囲も呆然としている。

「難題でも何でもかんでも大したことございませんって顔して片付けるマーシャが、これだけ言葉に詰まるのですよ。そんな事が今までにありまして? なぜもっとマーシャに寄り添った言い方が出来ないのか、とそう言っているのです」

「俺は王としてだな…」

「今は謁見の場ではございません」

いやいやいや、待って待って、マイラ様。

「あの、マイラ様、落ち着いてくださいませ」

私の為に怒って下さるのは嬉しい。けれど、陛下まだお茶被ったままだから、ちょっと、拭き物持ってきて!

「あのね、マーシャ。私だってあなたが乳母になってくれたらいいな、と思っているわ。けれど、それはマーシャの幸せな婚姻があってこその事なの」

慌てて拭き物を手にした私に、その拭き物ごと手を握り締めてきたマイラ様。真摯な眼差しで訴えかけてくるけれど、幸せな婚姻というものが、私には他人事のように思えて仕方がない。

「陛下、マーシャが婚約破棄をしなかったのは私を守る為だった事はご存じでしょう」

そんな私を放って、マイラ様は再び陛下に向きを変える。

「9年もの間、尽くしてきてくれた彼女にこれ以上なにを強いるというのですか。女性にとってこの9年間がどれだけ貴重な物か分かっていらっしゃるでしょう。それを私達に費やしてくれたのですよ。その想いに報いたいという私は間違っていますか?」

違う、違うんです。マイラ様の為だけじゃない。

婚約を破棄しなかったのは、少なくとも私の我が儘が入っていた。だからその事で、マイラ様が心を痛める必要はないのだ。

「だからそろそろ婚約破棄をして次を、と言っているのだ」

「その口で、あのノータリンでも良いとおっしゃいませんでした?」

「マーシャの心にあれがいるのなら、それも考慮するという意味だ」

ましてや、あれに心があるとか思われていたなんて! おかげで、じくじくとした痛みも心外過ぎてどこかにぶっ飛んだ。

「私は、マーシャには望まれた結婚をして欲しい。マーシャでなければ駄目だといってくれるような男性とです。まかり間違っても、他の女性に心を残しているノータリンのような男性とではございません」

マイラ様はそう言うと小さく深呼吸のような息を吐き、私の手から拭き物を抜き取り、陛下の頬に宛てがい優しく拭った。そして耳元まで唇を寄せる。

「私が陛下を好きになったように、陛下が私を好いてくれたように」

先程とは打って変わって、睦言を囁くように、マイラ様の指が陛下の唇にそっと触れた。

「マーシャにも、そのような方との結婚をしてほしいのです」

マイラ様の吐息交じりの訴えは、陛下の心を動かしたのか、ただ単に年下の妻にメロメロなだけなのか、絶対後者だと思われる陛下はマイラ様の手を取りキスを落とした。

「俺の妻は優しいな…」

「ふふ、貴方の妻ですもの」

と、険悪な雰囲気からの一転、二人の世界突入。

はい、無理。はい、ごめんなさい、無理です!!

このお二人がラブラブなのは今日に始まった話ではないので、二人の世界についての問題はございません。何が無理かって、今、マイラ様なんて言いました?

『私が陛下を好きになったように、陛下が私を好いてくれたように』

『マーシャにも、そのような方との結婚をしてほしいのです』

誰が? 私が?? はい、無理難題!

結婚相手を見つけるだけではなく、この二人のように所かまわずいちゃつくバカップルになれと。おっといけない、主君だった。

陛下だってマイラ様に絆されたように見えて実はそうじゃない。

『お前の結婚は決定事項だが、可愛い妻の願い通り、俺達のような誰からも祝福される相手を見つけて来い。もちろん相思相愛絶対な』

って言われるに決まっている。むしろ命令で。

マイラ様が私の為に陛下に進言してくれたおかげで、初めに陛下が要求してきた以上の難題が私に降りかかってくるだろう。私の為のはずなのに、残念、全く私の為になっていない。むしろ悪化した。

私だって、そんな結婚が出来るならしてみたいという気持ちが無い訳ではない。けれど現実的に見ても、愛のない政略結婚か行けず後家が精いっぱいだろう。

マイラ様にそんな風に思って貰えているのは嬉しい。それはマイラ様が幸せだという何よりの証拠だと思うから。出来る事なら叶えてあげたいとも思う。しかし、だ。

「デートすらしたことがない私に、そんなこと言ってくれる男性を見つけろっていう方が無理難題です、マイラ様…」