軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第37話

私は苛立ちを隠しもせずに、私の身体を支えたままのリオの手を軽く叩く。

「つれねぇなぁ」

「いつまでもレディに触れているからよ」

倒れそうになったのは私なのは自覚している。こんなのは只の八つ当たりなのは重々承知の上での行動である。

私はニヤニヤしているリオを一瞥してから、気を取り直すようにしてガスパールに顔を向けた。

「ねぇ、通行手形はどうなっている?」

通行手形。それは名前の通り、関所を通過するための通行証である。通常、グラン国民のガスパールはグラン国を出国するための手形とクワンダ国に入国するための手形の2通持っているはずだ。それがあるだけでなく、関所それに加えクワンダ国貴族との商談の為となると、恐らくテイラー男爵夫人からの紹介状もあるだろう。それがあれば関所を通過するのが格段と楽になる。

だが問題は2通の通行手形の記載事項である。

ガスパールを含め、人数だけではなく、同行している人すべての性別と年齢が記載してあるのだ。私とキースがガスパール商団に合流するためには辻褄合わせをしなくてはいけない。ちなみに辻褄合わせをするというのはれっきとした犯罪行為なことは重々承知である。

でも時には犯罪行為に手を染めてでも実行しないといけない事例というものはあるのだ。とはいえ、私だって好き好んで犯罪行為を行いたいわけではない。

「オイラと親分は個別で持ってやすよ」

ガスパールに訊いたのに、答えたのはヤンスだ。ん?と小首を傾げたのは一瞬。私は話を続けた。

「それは好都合ね」

「テイラー男爵夫人との連絡手段は?」

私の好都合という言葉の意味を正確に捉えたキースがリオに尋ねた。

「当然確保済みだ」

リオは頷き、私は思いっきりにやりと口端が弧を描いた。半面、リオの用意周到さに気味悪さを覚えてもいたけれども。

「なら私が夫人に手紙を書くわ。……なによ、キース」

「いや、俺からも一筆添えよう。その方が確実だ」

はっはーん、また私を偽物扱いしたな。 偽物(わたし) の手紙では信用されないかもしれないとでも思ったのだろう。ガスパールもリオ達も私をマーシャリィ・グレイシスだと認識したうえで話を進めているのに、なぜそこまで頑なに信じようとしないのか。自分の理想を崩されたくないとしても、頑な過ぎだ。

「まぁ、いいわ」

もう慣れたし。

「手紙は仲介を挟まず、夫人に直接渡せる?」

「それなら親分よりオイラが適役でやんすね!」

ひひ、と笑うヤンス。私は眉を顰めてリオに視線をやると彼は小さく頷いた。リオがそういうのであれば問題ない。

「そう、なら任せるわ」

協力要請だけではなく、これから行わなければならない犯罪行為に対しての情状酌量の余地を残しておく為の一筆を 認(したた) めるのだ。抜かりはありません。

「お任せあ~れ♪」

「………」

結構な頼み事のはずなのに緊張感がまるでない。どんなに胡散臭くても信用すると言ってしまったからには撤回はしないけれど、思わず冷たい視線を送ってしまった私はおかしくないと思う。

私の視線に気付いたヤンスが、てへぺろと舌を出して誤魔化そうとしたけれど「全然可愛くない」という私のセリフに撃沈していた。もう頼むことは頼んだからヤンスは放置でいいや。

「ねぇ、ガスパール。通行手形を見せてちょうだい。キースならまだしも私が潜り込める余地があるか知りたい」

人数を合わせることができても、年齢性別は誤魔化せない。なんとかこれをどうにかできないだろうか。

「最悪、俺の部下に手形を用意させることができるが、その場合俺達を襲った相手にばれる可能性がある」

「そうよね。できればガスパールの持っている通行手形をそのまま活用したいわ」

安全かつ確実に王都入りをするなら、少しでも危険を遠ざけたい。

「ねぇ、ガスパール、聞いてる? 通行手形を見せてちょうだいって言っているんだけど⁉」

口数が少ないと思いきや、何かを考え込むような顔してどこかに意識が行っているようだった。

「ガスパールってば!」

声が大きくして、やっとガスパールと視線が合った。

「お、おぉ…。ちょっと考え事してたわ」

「今はこちらに集中して!」

後でいくらでも考えていいから、まずはこちらを最優先してちょうだい。

「すまんって。あーっと、なんだ通行手形な。その心配はいらねぇよ」

ガスパールはそう言った。

「嬢ちゃんはカリエに成り済ませばいい」

「え、カリエですって??」

どうしてここにカリエが出てくるのか。ガスパール一行はむさ苦しい男ばかりで、馬車の中にカリエがいる気配もない。というかいたら彼女ならこんな状態の私を放っておくはずがない。懐かれている自信はありますからね、ふふん。

「嬢ちゃん、熱で頭回ってないんか?」

失礼ね。熱で頭の回っていない人間がするような会話はしていない。むしろ今の私はいつも以上に高ぶっていて無敵な気分だ。

「あのな、俺ぁ宝飾品の商談をしに遙々クワンダ国に来てんの。それなのにむさ苦しい男だらけで商談に挑むと思うか?」

「それはそうね」

しかもオーナーであるガスパールを筆頭にして、全員なかなかの強面集団だ。その集団の宝飾品商談だなんて何の冗談かと思われるに違いない。

「だからな、ちゃんと商談用の見目の良い従業員も男女とも連れてきたんだよ」

「あぁ、なるほどね」

納得である。だがカリエもいなければ、見目の良い男性も見当たらない。問うようにガスパールに向かって首を傾げる。

「なんというか、丁度良いというか、都合が良いというかだな、ここに来る前に立ち寄った村で体調を崩してな」

「まぁ!」

しかもガスパールが言うには、カリエだけではなく見目の良い男性従業員も同じように体調不良の為に村に残っているらしい。

「そのおかげで山賊に間違われかけはしたが……」

遠い目をするガスパールから思わず視線を外す私とキース。

「そ、それなら問題ないな。その二人には悪いが体調不良になってくれて感謝したいくらいだな」

キースも気まずいのか、声を上擦らせて言った。

「でもカリエと私では年齢差を誤魔化すのは難しくないかしら」

確かカリエは十代半ばくらいだ。私との年齢差は一〇歳近くもあるのだ。さすがに厳しいような気がするのだ。けれど私の台詞に対しての三人の反応は、

「「「問題ない(でやんす!)」」」

である。解せない。