軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第28話

「あー…、そのなんだ、嬢ちゃん。そのにぃちゃんは危険な奴ではないんだな?」

後頭部をがしがしと乱暴にかきながらガスパールは私にそう言った。ちょっぴり怒っているような気がするのは、きっと気のせいじゃない。

「ぇ、ええ、そうね。どちらかと言うとむしろ命の恩人かしら?」

その命の恩人にまた襲われはしましたけども私の命を救ってくれたことには変わりない。チラリと横目でキースを見やるとバチッと視線がかち合って、またお互い目を逸らした。それからすぐにキースが額に拳を当てて小さく唸るのを聞いて内心で深く同意だ。いたたまれない気持ちだよね、分かる分かる。だって私も小っ恥ずかしくて仕方がないもの。えへ、とガスパールに向けて愛想笑いで誤魔化そうとしても無駄だよね。うん、ちゃんと分かっているから呆れた目で見ないでよ。

「んだよぉ、無駄に心配させんなよぉ…」

「ごめんなさい」

脱力した、と言わんばかりにガスパールは肩を落としたものだから、余計にいたたまれない。

「俺ぁ、 ま(・) た(・) 誘拐でもされたんだとばっかり…、はぁ、心臓がひっくり返るかと思ったぜぇ」

心配してくれて崖下から単騎でかっ飛ばして来てくれたものね。その行動は有り難いけれど、 ま(・) た(・) 、は余計である。

「んで、だ。このにぃちゃんが危険人物じゃないのは分かったが、嬢ちゃん達はここで何やってんだ? ってか、嬢ちゃんこんなとこにいちゃいかんだろ? お役目はどうしたんだ??」

よくぞ聞いてくれましたとも。ちょっと横道逸れちゃったけれど、私達が直面している問題に話題を戻してくれてありがとう、ガスパール。

「その事についてはちゃんと説明するわ。まずはキース、こちらグラン国アネモネ宝飾店オーナーのガスパールよ。私の昔ながらの友じ……知り合いよ」

そこは素直に友人って言ってくれよ、というガスパールの抗議は無視、無視。

「…………宝飾店オーナー……?」

「そう。これでもグラン国では貴族御用達の宝飾店に負けず劣らずの人気を博しているお店を経営しているのよ」

だから決して賊ではないの。例え宝飾店オーナーとは見えない容姿をしていても、正真正銘宝飾店の顔であるオーナーなのだ。こんな見た目でも美術品や宝飾品を見る目は確かなのは太鼓判を押してもいい。

「ガスパール、こちらはクワンダ国騎士のキース・ミラー様。さっきも言ったように命の恩人なの」

本来だったら、平民であるガスパールが口を利くことすら許されないご身分であろうキースだけどね、状況が状況なだけに簡易的な紹介になるのは目を瞑ってちょうだい。

「あー…、ってこたぁは、やっぱり何か面倒なことが起こってんだな?」

察しが良くて何より。にんまりと笑みを浮かべた私に、ガスパールは「さすがぁ嬢ちゃん。期待を裏切らないぜぇ……」とほんのり遠い目をした。どう言う意味よ、失礼ね。

「にぃちゃん、さっきは怒鳴っちまってすまんな。俺からも礼を言うよ。嬢ちゃんを助けてくれてありがとな」

「いや…」

気まずそうなキースの対応に頭を傾げるガスパール。そりゃ命の恩人と私が紹介したのは事実七割、襲われたのが二度目なことに対しての嫌み三割である。微妙な反応になるのは当然である。

「……何だよ?」

「いいえ、何でも」

私の嫌みに気付いていても何も言えないキースが苦虫を噛み潰したような顔していて、ほんの少しの溜飲を下げる。まぁ、今から私が マーシャリィ・グレイ(本物) シスだと分かった時の反応が楽しみで仕方がない、と言ったらさすがに性格悪過ぎかしら。

「まぁ、それは良いとしてガスパール、お願いがあるの」

断られるつもりは微塵もないから、それはお願いではなく確認である。

「あー…、まぁ、無理難題じゃなけりゃいくらでも?」

「嫌ね、無理難題なんて言ったことないわ」

その言い方では、まるで私がいつも無理難題を押しつけているみたいではないのよ。そんなことを言い出すのは私ではなくてメアリでしょう?

「私達をクワンダ国王都へ連れて行ってちょうだい」

「あ? 王都にか?」

「そう、ガスパールの連れとして。ね?」

いいでしょう? とガスパールを見上げる。

「おい!」

いきなりの私のガスパールへのお願いに、勝手な事を言い出すな、というキースが抗議の声をあげる。けれど私はそれを手で制す。

「キースの言いたいことは分かるわ」

この先の廃村でキースの部下達と落ち合う予定なのは理解している。

「でもね、騎士の中に内通者を飼っているのでしょう? ならこの先キースの部下と合流しても顔が割れている以上どんなに変装しても仲間内なら気付かれてもおかしくないわ」

そう言いキースを見やると彼は言葉を詰まらせた。

「いつどこで襲撃されるか分からず怯えながら進むより、クワンダ国で顔の割れていないガスパールに同行した方がよっぽど早く王都入りできるでしょう?」

「だが襲撃がないというのは絶対ではない。現に今、賊に襲われていたじゃないか」

「でも瞬殺だったわ」

随分と腕が立つ、そうキースが感心する程に。

「ガスパールなら比較的安全に私達を王都入りさせることができる」

それだけの信頼を、そしてその力をガスパールは持っているのだ。

「俺の部下でも十分守れる。悪いが得体の知れない相手に命は預けられない」

「それは私にとって、貴方も一緒だわ」

「な……っ」

私の台詞にキースは絶句した後、すぐに目を吊り上げた。

「ふざけるな。俺を侮辱しているのか?」

それは私の台詞である。

「あのねキース。こんなことを思いたくなかったけれど、私を偽物だと思っている貴方は式典に間に合わなくても構わないとどこかで考えていないかしら?」

それはもしかしたら無意識下でのことなのかもしれない。でもキースが私を偽物だと思い込んでいるのだとしたら、あり得ない話ではない。彼にとって本物のマーシャリィ・グレイシスが王都入りしてさえいれば、 偽物(私) が間に合わなくとも何の問題もないのだから。

私の指摘にキースは大きくを目を見張った。