軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19 ゴルデスの王宮

「そんなわけがあるか!五千の兵が全員捕縛されただと?空飛ぶ船だと?馬鹿馬鹿しい。ありえん!」

ゴルデス国王ヘルムンドは激昂して怒鳴った。同席した王子も宰相もありえない報告に怒りを通り越してポカンとしている。

「もしやお前たち、ガイヤーと示し合わせてこの私に反旗を翻そうとしているのではあるまいな?」

「とんでもございません!我々はこの目で確かに……」

そこへ従者が転がるようにして飛び込んできた。

「陛下!大変でございます!王宮の上空にっ!」

ヘルムンドは怒鳴るのをやめてテラスに走り出て空を見上げ、そこに浮かんでいる真っ白な巨体に愕然とした。そしてその次に王宮を取り囲んでいる膨大な数の民衆に目をむいた。

ヘルムンド王が度肝を抜かれる二時間ほど前。

王都の住民たちはありとあらゆる者が外に飛び出して上空を眺めていた。

真っ白で巨大な物が四十機、隊を組んで上空を移動しているのだ。白い巨体には紅く鷲と王冠が描かれていて、誰の目にもロマーン王国のものだとわかる。そして空飛ぶ船が進むあの方角は王宮だ。

空飛ぶ船はやがて沢山の紙切れを撒いた。紙に書かれているのはゴルデス語だが、字を読める者は少なかった。わずかに読める者が周りの者に読み聞かせた。

ゴルデス軍は五千人全員が無傷で捕縛されたこと。ロマーン王国及び軍事協力国であるホランド王国、及びその他三つの周辺国は、ゴルデス王家に代わりガイヤー将軍の君主就任を要求すること。

それが受け入れられればこの国への食糧支援、医療支援をする準備がある、と書いてあった。

疲弊しきっていた民衆にとって誰が国を治めるかはもう二の次だったが、民衆の英雄ガイヤー将軍が治めてくれるなら文句は無い。しかも周辺の五つの国が食べ物と医療を援助してくれるというありがたい話だ。

飢餓一歩手前の痩せた民たちが次々と王宮に向かって歩き出した。

「撃て!あんな大きな的だ!外さず撃ち落とせ!」

ヘルムンド王が叫び、銃を手に衛兵たちが構えを取る。

ドーンッ!

民衆が見ている前で、一発の爆弾が美しく手入れされた王宮の庭を破壊した。抵抗すればどうなるのかを知るには、その一発で十分だった。

うおおおおー!と喝采を上げたのは痩せたゴルデスの国民たちだった。

後に「ゴルデスの無血開城」と呼ばれる歴史的な出来事の幕開けだ。

□ □ □

その貴族は慌てていた。王家はもう駄目だろう。その上、国が他国による連合組織に支配されるとなれば、自分の家はどうなる。

愚かな王は扱いやすく、自分の家は十分に美味いところを享受してきた。だからこそ側近だった自分の家は危ない。

今度の王が誰になるにせよ、何がなんでも我が家を衰退させるわけにはいかない。

「おい!連合のトップはどんな人物だ」

貴族の男はお抱えの間諜に声をかけた。

「連合から派遣された視察団の団長はアレクサンドル・ド・ロマーン公爵。グリード国王の弟です。年は三十一才。二十六才の妻、三人の子供。長男は次期国王に指名されています」

「ふん。他には」

「石炭の輸入会社スワローの代表、自動走行機株式会社役員、郵便配達会社役員。妻の姉を経由してホランドとの太いパイプも持っています。総資産額は……」

額を聞いて貴族はたじろいだ。小国の国家予算並みだ。

「金は腐るほど持っていたか。金ではなびかぬな」

「更に今後は飛行船のロマーン王国内での権利も所有するはずです」

「ふん。王弟の権力で我が物にしたか」

「いえ、開発者が公爵の妻です。その妻マリアンヌはロマーン王国とホランド王国で自動走行機の開発生産をしています」

「女?女があれを開発しただと?馬鹿なことを言うな。ありえん。おそらく女の実家あたりが公爵の妻という立場を隠れ蓑にして税を誤魔化しているんだろう」

「アレクサンドル公爵の妻はロマーンでは幼い頃から天才と呼ばれていましたが、今回のことで民衆からは救国の天才と言われているようです」

「ぬうう。見た目はどうだ?さぞかし男勝りの可愛げのない女であろうが!そうだ、妻がそんな男勝りであれば、女らしく可愛い女をあてがったらどうだ。団長を懐柔できる手はそこにある!」

「絵姿でございます」

間諜が懐から一枚の絵姿を差し出した。

「どれ、さぞや可愛げの無い……。おい、本当にこの女が飛行船や自動走行機を作ったのか?なんとも可愛らしい、ゴホン、あー、それにこの絵姿はいつのものだ、まるで少女ではないか。古い物しか無いのか?新しい物を出さぬか」

「それは昨年描かれた物の複製です。ほぼ現在の姿と相違無いかと」

貴族の男は最後の望みに賭けた。

「夫婦仲はどうだ?仕事にかまけてる妻に愛想を尽かしてるのではないか?」

「残念ながら公爵の愛妻家ぶりは有名です。常々『自分の使命は妻を支えることだ』と公言してはばからないそうです」

愚かな王の側近として長いこと富を手に入れてきた男は頭を抱えた。そんな野暮なカタブツがこの国の道案内役になっては、自分はもう二度とうまい汁は吸えないだろう。いやそれどころか……。

貴族の男はブルっと震えた。

「ここは命だけでも助かれば上々か」

間諜の男が突然くだけた口調で話し出した。

「俺は本日限りでここを辞める。この先、あんたみたいな人間に雇われてこんな仕事をしなくても、この国には真っ当な仕事先が沢山生まれるさ。ロマーン王国万歳、連合組織万々歳だ。

笑えるほど安い報酬だったが、長いこと世話になったな。じゃあ、どうぞお元気で」

間諜だった男は最後に優雅な一礼をすると足取り軽く貴族の家を後にした。