軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

守った景色

「そんなに俺たちがここまでたどり着いたのが意外か?」

「当然だよ。このダンジョンは八階層まではダンポンのダンジョンでは二十階層相当、さらに最後のボスは三十階層相当の魔物を配置していたんだ。ダンジョンに入ってまだ半年にも満たない君たちが倒せるボスでは、いいや、倒していいボスではない」

三十階層の魔物と言われて納得した。どうりで強いわけだ。

実際のところはPDで鍛えまくったと言っても、琴瑟相和がなければギリギリの戦いを強いられていただろう。

「僕たちが今回用意した、君たちが黒のダンジョン――アメリカではブラックボックスなんて呼ばれているこのダンジョンは合計50ある。そのうちクリアできる探索者は10程度だと思っていた。まぁ、才能の片鱗のようなものを見せてくれたら、改めて期日を設けて再挑戦してもらうつもりだったんだけど、一発でクリアできたのは予想外だ」

才能の片鱗を見せずに負けたらどうなるのか?

一部の黒のダンジョンの周辺に魔物が出現していると聞いた。

つまりはそういうことなのだろう。

なるほど、ダンプルにとって、今回の俺たちの挑戦は、クリアするかしないかではない。才能を見せるか見せないかの二者択一、負けイベントだったってわけだ。

違和感はあった。

天狗は俺たちを殺すつもりがなかった。

あれは天狗なりに俺たちに対するメッセージだったんだろう。

才能は十分わかった。

だから、あとは力を蓄えて来いと。

俺たちはPDの修行と琴瑟相和を使って無理やり負けイベントを勝ち残った。

「改めて祝福するよ。おめでとう」

ダンプルがそう言って拍手をする。

腕も手もないのに、どうやって拍手の音だけを出しているのかはわからない。

「それでなんであなたがいるのかしら? 私に殺されるために待っていたっていうのなら喜んで仕留めてあげるわよ」

姫が風魔のクナイを構える。

こいつには最初から苛立っていたからな。

「なに、これはゲームだと言っただろう? ゲームをクリアしたものにはクリア報酬を与えるものじゃないか」

「クリア報酬?」

「ああ。君たちの望みを叶えてあげようっていうんだ」

「へぇ、じゃあ世界を半分くれって言ったら、半分くれるのか?」

「ははは、君は面白いことを言うね。世界は誰のものでもないよ。これまでも、これからもね」

この世界を侵略しにきたはずのダンプルが、そんな常識を語る。

ムカつく。

だったら、何をしてくれるというのか。

「これが欲しいんじゃないかい?」

ダンプルがどこからともなく取り出したのは一本の薬瓶だった。

もしかして――と鑑定をする。

【聖女の霊薬:どのような呪いや病気もたちどころに治療してしまう薬。死人には効果がない】

おいおい。

「これ、聖女の霊薬だ」

「「――っ!?」」

ミルクとアヤメの顔色が変わる。

そして、姫が苦虫を噛み潰したような顔をして言う。

「こっちの事情はお見通しってわけ……」

ダンプルはその薬瓶を念動力を使って俺の前に持っていく。

「なんで俺なんだ?」

「君が今回のMVPだよ。最後の一撃、見事だった」

こいつの言いなりになるのは癪だが、これはありがたい。

聖女の霊薬をインベントリに収納する。

「何ならもう一本くれないか? こっちは命がけだったんだし、これだけだと割に合わないよ」

これ一本だと、牛蔵さんとアヤメ、両方の呪いを解くことはできない。

「それは無理だね。自分で手に入れればいい。前鬼坊を倒した君たちだ。きっといつか手に入るだろう」

やっぱり無理か。

まぁ、英雄の霊薬も手に入ったわけだし、本当にいつか手に入るとは思う。

「代わりに君たちが知りたいことを一つ、なんでも答えよう。ただし、これは君たちだけに教える情報だ。他者に口外はできないまじないを掛けさせてもらうけれどね」

何でも一つ?

そんなこと急に言われても。

ダンプルの目的はなんだ? と改めて聞くのもいいかもしれない。

もっと現実的なことで、聖女の霊薬はどこに行けば手に入る? ――いや、それでアフリカのダンジョンの100階層とか指定されても困るな。近場で聖女の霊薬を――って言っても、宝箱の中身はランダムっぽいし、正しい答えはなさそうだ

と俺は姫を見る。

「姫に任せていいか?」

その質問は姫ではなく、ミルクとアヤメに対する問いだった。

二人とも頷く。

「私でいいの?」

「ああ。この件はお前の親父さんが関わってるんだろ? だったらお前が聞くべきだ」

俺がそう言うと、姫は頷く。

そして、姫は風魔のクナイをしまうと、一歩前に出てダンプルに尋ねた。

「……教えて。ダディの――キング・キャンベルの目的は何?」

躊躇もない。

ずっと気になっていたのだろう。

「彼の目的は異世界に――僕たちの生まれた世界に行くことだ」

――っ!?

予想の斜め上の答えだった。

ダンプルの世界だって?

「異世界に? どうやって行くの?」

「質問は一つと言っただろう? それ以上は答えられない」

「力尽くでも答えてもらうわよ」

姫は本気で脅すつもりのようだが、ダンプルはその身体を横に振るう。

「聖女の霊薬をもう一本あげられないのと同じだ。僕のリソースは既に限界間近なんだよ」

そう言ったダンプルの身体に罅が入り、その身体が欠けて落ちた。

その中は空洞になっている。

「お前、死ぬのか?」

「そうだね。僕は迷宮の管理人だ。その役目が終わろうとしている以上、もう生きてはいけない――所詮は本体によって作られた分体に過ぎないんだ。おっと、そういう顔をするなよ? このゲームで僕と君たちは敵だったんだ。僕の死を君たちは喜び見送るべきだし、なによりキングの娘の望みだったろう?」

ダンプルは皮肉めいたことを言いながら、天井を見上げた。

「遊園地にダンジョンを作った理由は、ここが遊ぶ場所だからだ。僕はここで君たちと遊びたかった。期待外れなんて言ったが、君たちは僕の期待に十分以上に応えてくれた。だから、これで死ねるのなら僕は満足なのさ」

ダンプルの顔の右半分がさらに砕け落ちる。

「最後のリソースを使って君たちに一つだけ言葉を送る――全てのダンジョンは一つに繋がっている。僕のダンジョンも、ダンポンのダンジョンも。だから君たちは――」

ダンプルの身体が完全に砕け散った。

最後の最後までダンプルは笑っていた。

とても清々しい、なんの悔いもないような表情だった。

――ダンジョンの最奥を目指すんだ。

塵となっていくダンプルの最後の声がダンジョン内に響いた。

「バルサミコ酢の刑できなかったわ」

姫が言う。

その言葉に感情は込められていない。

彼女もわからないのだ。

自分の感情をどう処理したらいいのか。

そして、ダンプルが死んだからだろう。

目の前に置かれていた真っ黒な頭蓋骨も砕けていく。

地面が揺れ始めた。

ダンジョンが崩壊するのだ。

俺たちの身体が輝き出し、そして――

外は既に夜になっていた。

安全第一に、休憩時間を多めにとっていたからこのくらいの時間になっていてもおかしくはない。

拍手が聞こえてくる。

大勢の拍手、そして歓声。

自衛官たちが俺たちを笑顔で出迎えてくれた。

とクロが俺に飛びついてくる。

「留守番ありがとうな、クロ」

ひとしきり顔を舐められたあと、俺はクロの頭を撫でる。

怪しい奴はいなかったか?

そうか、ちゃんと守ってくれてたんだな。

クロを抱きかかえたまま、俺は自衛官たちの間を歩いて行き、待っていた上松大臣の前に立つ。

「よくやってくれた。ダンジョンは無事に崩壊を確認した。あちらを見てほしい」

何があるのかと上松大臣の視線の先を見ると同時に、周囲の照明が一斉に消えた。

だが、決して暗いとは思わない。

何故なら視線の先に大阪の夜景が広がっていた。

まるで宝石を散りばめたかのような街の光が、まるで俺たちの勝利を祝福しているかのように輝いている。

「……とても綺麗」

それは誰の言葉か?

しかし、この時は四人とも同じ気持ちだったはずだ。

「これは君たちが守ってくれた景色だ」

俺たちが守った景色……か。

たぶん、俺たちはこの景色を一生忘れないだろう。

「どうだろう? この後、軽く祝勝会を開く予定なのだが、君たちも参加してくれないだろうか?」

上松大臣の相談に俺たちは顔を見合わせて、そして頷いた。

「カレー以外の食事ならば喜んで参加させていただきます」