軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

姫のユニークスキル

「妃は声を掛けなくていいの? もしかして、性格に難ありの子をこっちに押し付けようっていうんじゃないわよね?」

姫が警戒して尋ねる。

『そんな真似は致しません。私には専属の鍛冶師がいますもの。機会を恵んで差し上げようと思っての純粋な好意ですわ』

難癖をつけられた妃だが、全く意に介さず――というよりこの程度の軽口は慣れた関係なのか気にする様子もなく妃は高笑いとともにそう言った。

「はいはい。ありがとうね。じゃあ、その学生の資料送って。こちらから声をかけてみるわ」

という感じで、リモートでの通話は終了。

その学生は兵庫県出身の二十歳の男性。

鍛冶師としての覚醒は三年前。学業に専念するために鍛冶師の覚醒者登録はしていなかったそうだ。

実家がお寺で周囲の評判も良好。

生物学の中でも魔物学を専攻していて、すでに兵庫県の研究所への就職が内定している。

その研究所を就職先に選んだ理由は尊敬する学者が勤めているからという理由なのだが、とても薄給らしく、鍛冶師として副業で働ける関西のEPO法人を探していたらしい。

ダンジョン内でのレベル上げも問題ない。むしろ魔物の生態を学ぶいい機会だから是非やりたいとのこと。

ただ、就職するとしたら妃の言っていた通り一年以上先になると。

「妃にしては悪くない人材ね。明石から声を掛けさせるわ」

「……あ、あぁ」

「なに? 男が入って来るのが嫌なの? いまは泰良の後宮状態だものね」

「それはないよ。むしろ気楽に思える。さすがに女性四人に男一人の職場は気を使うからな」

俺は本音からそう言った。

男一人っていうのは気を使う。

男にしかわからない悩みってのも当然ある。

何度、青木を誘おうか考えたことか。

とはいえ、青木とは学校の中で仕事の話をしたくないから、今の関係がちょうどいいと思っている。

「だったらどうしたの?」

「いや、実は知り合いに鍛冶師の覚醒者がいて、鍛冶師になるかどうか悩んでたんだ」

「初耳ね。でも、黙ってたってことは理由があるんでしょ?」

「魔物と戦うのが怖いらしい」

「普通の理由だわ」

姫が言う。

前にも言っていた。

鍛冶師は一般的に攻撃値特化で防御値が低い。

一つのステータスが優れていて、他のステータスが平均の 尖端異常者(シャープアブノーマル) とはまた違う。

安全マージンがあってもダンジョンには危険が付き物だって言うが、鍛冶師はそれが命の危険に繋がるのだ。

「泰良はどうしたいの?」

「どうしたいんだろうな。本当にわからない」

「悩むってことは、泰良にとって大切な人なのね。また女の子?」

「またってなんだよ、またって。まぁ、女子だけど」

俺のことを女の子にしか興味のない最低野郎みたいに言うなよ。

たまたま、最近女の子と知り合うのが多いだけだ。

大切っていうのも違うと思う。

ただ、この世界に神様っていうのは本当にいるのなら、水野さんのことを救ってほしいって思うだけだ。

「言っておくけど、レベルの低い鍛冶師は必要ないわよ? 最低でもレベル10まで上げて何かスキルでも覚えてもらわないと雑用も任せられないわ。そうね、泰良が『命にかけても守ってやるから俺を信じてついてこい!』って言ったらついてきてくれるんじゃない?」

「そんな恥ずかしい台詞言えるか」

「泰良、普段自分がどんな恥ずかしい台詞口走ってるか気付いてないの?」

姫が半眼で俺のことを見て言う。

俺、普段何か変なこと言ってるか?

全然記憶にないぞ。

「どうしてもって言うなら、泰良が個人的に雇ったらどう?」

「個人的に? でも俺って普通の高校生だぜ?」

「普通じゃないのは共通の認識だけど、泰良の稼ぎなら個人の鍛冶師の給料分くらい賄えるでしょ? 細かいことは明石に任せればいいわ。彼女なら余裕よ。そのうち事務員も増やす予定だし」

確かに、家には十分過ぎるほどお金を入れているが、それでも貯金が右肩上がりで増え続けている。

水野さんを雇う余裕はある。

だが、魔物と戦いたくないという水野さんの望みはお金で解決できるものではない。

身代わりの腕輪を持たせても絶対安全というわけではないのだ。

あれは体力を100だけ肩代わりしてくれるというもので、体力が150減る攻撃を食らったら一撃で腕輪が壊れる上に50のダメージが貫通して伝わる。

どうすればいいんだろうな。

「忘れてた。姫に渡しておくものがあったんだ」

俺はインベントリからD缶を取り出した。

「これ、この前の缶よね? 見るのもムカつくんだけど……確かただの飴玉なら買い取る必要がないって言われて持って帰ったのよね?」

「ああ、一応ダミーを用意してたんだが、拍子抜けだったよ」

「ダミーを? なんのこと?」

「これはただの飴玉じゃないんだ。俺も最初は偶然発見したんだがな――」

俺はスキル玉の効果を説明した。

姫は驚き、呆れて、そしてスキル玉をじっと見る。

「ミルクの薬魔法ってもしかして――」

「ああ、スキル玉で覚えた。あとは俺の詳細鑑定と獄炎魔法もな」

「泰良の強さの秘密ね。なんで私に教えてくれる気になったの?」

俺はスキル玉の覚えるスキルについて説明した。

スキル玉のスキルとD缶の開封条件には因果関係がある。

俊敏値の高い人が覚えられるスキルっていうのなら、姫に必要なスキルである可能性が高い。

「俊敏値に関係するスキルか……欲しいのだと『韋駄天』『緊急回避』『速さこそ力』『スピードスター』とかいろいろあるんだけど、聞いたところユニークスキルの割合も多いのよね」

俺は頷いた。

「この前の配信のコメント見直したのよ。明石が通さなかったコメントね。大半は私たちに好意的なものが多かったわ。泰良にたいしては『もげろ』とか嫉妬するコメントもあったけど」

股間がスっとした

「でも、私のことをリーダーみたいなのに一番地味だって言ってるコメントもあって、正直参ってたのよね……」

落ち込んでいるのかと姫の顔を見たら、ものすごく不気味にニヤニヤ笑っている。

自分だけのユニークスキルが手に入るのがそんなに嬉しいのか。

まだユニークスキルが手に入ると決まったわけじゃないのに。

そして彼女は飴玉を口に入れて、舐めた。

声を掛けようとするも、止められる。

噛んだらいけないから絶対に喋らないスタンスのようだ。

暇なのでスマホで青木がいまやってる動画配信を見る。

今日は男の姿で響さんと一緒にダンジョンに潜っているようだ。

二階層で歩き茸を配管工のおじさんの真似して踏みつけていた。

くだらないことをやっているなぁ、と乾いた笑みを浮かべている。

「泰良、何見てるの?」

と姫が俺の背中にくっつくように、スマホを覗き込んできた。

「ああ、知り合いの配信――」

「へぇ、そうなんだ」

と姫が正面から俺の顔を覗き込む。

ってえ?

背中にくっついている姫と正面の姫。

姫が二人いる?

「驚いた?」

「正直、驚いた。それがスキルか?」

「ええ、分身スキル――データ登録のないユニークスキルよ!」

「しかも忍術! まさか、私が本当の忍者になれるなんて!」

「凄いのはダンジョンの外でも使えるところね!」

と二人の姫が俺の正面に立って、交互に喋った。

すげぇな。

分身と本物で見分けは全くつかない。

両方とも影があるし、左右逆とか瞳の色が違うとかそういうものもない。

「てことは、俺の後ろにいた姫が本物で、正面にいた姫が分身か?」

「逆よ。後ろにいたのが分身の方。分身といっても幻じゃなくて実体があるの」

と二人が指で謎の印を結んで説明する。

実体のある分身を作れるって、これも凄すぎないか?

「ちょっと触ってみてもいいか?」

「少しならいいわよ」

許可を出したのは分身の方だった。

俺は分身のほっぺを触る。

柔らかい、ぷにぷにしてる。

頭を撫でる。

頭を洗ったばかりなのだろう。さらさらしていて気持ちいい。

「ちょっと、泰良。私はたしかに分身だけど、いくらなんでも触り過ぎじゃないかしら」

「分身を解いたら記憶が 本体(わたし) にフラッシュバックするからあんまり触らないで。あとで恥ずかしくなるわ」

と本体にも注意されて、俺は手を引っ込めた。

「凄いでしょ」

「影分身の術と同じよ」

二人の姫がドヤ顔で言う。

素直に凄いと思う。

そして、ダンジョンの外で使えるのなら、最強の使い道が存在する。

「おひとり様1パックまでの卵を買う時に欲しいスキルだ」

「「そこっ!?」」

大事なところだ。