軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

川辺にて

5年前、ダン畜という言葉が新語・流行語大賞にノミネートされた。

俺が生まれるより遥か前の1990年に『社畜』が新語・流行語大賞として選出され、そこから派生された言葉である。

元々は、ダンジョンで頑張っても頑張っても生活が豊かにならない探索者のことを指す言葉として使われ始めた言葉だが、いまでは一日の半分以上をダンジョンの中で過ごす人間に対して使われるらしい。

だったら、俺はどうなるのだろう?

今日、ダンジョンに潜り続けて32時間が経過した。もうダン畜なんて目じゃないね。

作業といえば、ひたすらハニワを見つけては捕まえて投げるだけ。

熟練度を上げるために魔法を使うときもあったけれど、基本はこの作業である。

それでも頑張り続け、もう800個以上は勾玉を集めた。

最初に倒したときは2体に1個の割合でしか落とさなかった勾玉も、いまでは10体に9個は落としてくれている。

非常に効率がいい。

最低幸運値は80で、それを満たしていない場合のドロップ率は0.82%だと言われているので、一般人に比べると効率100倍以上だ。いや、PDは魔物の出現率が5倍になってるから500倍か?

「クロ、行くぞ! え? ハニワ人形は飽きた? あいつら土の匂いしかしないし、逃げたりもしないから狩りの楽しみがない? そうか……じゃあ、気分転換に散歩でも行くか……」

俺がそう言うと、クロは大きく尻尾を振った。

木曜日の夕方。

二人で散歩に出かける。

国道沿いのコンビニで犬用のおやつを買ったあと、少し歩いた先にある川沿いを歩くのが定番の散歩道だ。

5月までは川沿いに菜の花がいっぱい咲き誇って綺麗だったのだが、いまはもう見られなくなってしまった。

普段は野良猫も多いのだが、クロの気配を感じてか散歩中に見かけることはない。

他の散歩中の人たちとすれ違うときは、その犬たちが伏せをして動かなくなることもしばしば。

非常にやり辛い。

クロにも悪気はないのでこればかりは怒れない。

「クロ、お前、隠形スキルとか埋没スキルとか手に入れられないの? まだ無理? 努力はしてるんだ、偉いな。ちゃんとスキルを覚えられたら、ペットショップでトリミングとかしないとな。ん? 頑張る? そうか、オシャレが好きなのか」

出張トリミングとかだったら他のペットを気にすることなくトリミングできそうだが、せっかくクロがやる気になってるんだし、水を差すのも違うな。

そういえば、姫から先日連絡があり、魔物のテイムに成功したそうだ。

成功率は1%未満で、未だにスライムしかテイムできていないそうだが、それでも大きな一歩であることには違いない。

これらを公表するには、今後さらに検証をしていく必要があるそうだが。

「魔物のテイムが一般的になったら、お前の仲間ができるかもな。そうだよな、狼は群れで生活するものだから仲間がいた方が楽しいよな」

クロの頭を撫でてやる。

「ん?」

あれは水野さん?

川沿いに水野さんがいた。

何をしているんだ?

野草を摘んでいる……とかじゃないよな?

お金が無いって聞いていたけれど、そこまで貧乏だとは聞いていないぞ。

いや、待て、野草を摘むことが貧乏とは限らない。

うん、俺の母さんだって、昔はよく生駒山にいってヨモギを取ってきて、草餅を作っていた。

そう思って、自分に言い聞かせ、その場を去ろうとしたら――

「わうっ!」

クロが吠えた。

そこで彼女が立ち上がって振り返る。

彼女は小さな白い犬を抱えていた。

※ ※ ※

「え? 捨て犬?」

「うん。さっき、そこのダンボールに棄てられていてね。うちじゃ飼えないからどうしようもなくて……本当は警察に電話するべきなんだけど」

犬を捨てることは犯罪だ。

本来なら、その場で動かさずに警察に通報し、一時保護してもらう必要がある。

でも、警察に電話して動物愛護センターなどで一時保護してもらっても、持ち主が現れなければ殺処分される可能性もある。

それで、水野さんはダメだとわかっていても、警察には通報せずに家からじゃがいもを持ってきてあげようと思ったらしい。

そうしたら、ダンボールから抜け出して川辺に行っていたからあわてて保護したところで俺と出くわしたと。

クロが俺を見上げる。

あぁ、うん、そうだな。

「とりあえず、警察に通報するよ」

「うん、そうだよね……やっぱりダメだよね」

「その後は俺が保護するよ。動物病院に行ってワクチン接種も必要だな……」

「壱野君が飼ってくれるの?」

「いや、預かるだけだって。まぁ、クロも友だちが欲しいだろうし。」

俺はそう言って、子犬をクロの頭の上に乗せる。

この子犬はクロの前でも威圧に屈しなかった。

生まれたばかりだから、クロが畏怖の対象だとわからないのかもしれない。

小さい子どもがヤ〇ザのおじさんを怖がらないのと同じように。

きっといい友達になれるだろう。

うちの母さんは寿命のあるペットを飼うのは反対なので、うちで飼うのは難しいが、預かるくらいなら大丈夫だろう。

電話で母さんに子犬を保護する許しを得たあと、警察に電話をする。

30分後、警察が来て、現場検証が行われた。

その後、俺たちは近くの警察署へ移動。

簡単に書類手続きをして、俺が保護するという形で白犬を受け取った。

とりあえず、三カ月間は俺が預かり、里親探しはその後にする。

「あの、壱野くん。その、さっき言ってたワクチン代とご飯代だけど、私、お金があまりなくて。でも、ちゃんと払うから――」

「いや、飼い主が見つかったらそいつに払ってもらうからいいよ。たぶん、保護犬ってそういうものだろ? 飼ってくれそうな心当たりがあるし」

ミルクが飼ってくれるだろうか?

あいつが飼ってくれたらクロといつでも一緒に散歩できる。

ミルクに飼ってもらっても、姫に飼ってもらってもお金持ちの家の犬として優雅な生活ができるはずだ。

「ありがとう、壱野くん」

「どういたしまして。ところで、水野さんっていつもこの川に来るの?」

「ううん、普段は来ないんだけど、今日はバイトがお休みだったから――」

と水野さんは俺に笑顔で言う。

「川の鯉を捕まえて晩御飯にしようかなって思っていたの。結構大きいの捕まえたよ」

「そっか。食べるならちゃんとバケツの中に入れて、泥を吐かせてからにしような」

俺は汗を流してそう言った。

なお、小犬をつれてPDの中に入ろうかと思ったが、入ることができなかった。

人間以外なら入れるのかと思っていたが、そういうわけではないらしい。