軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

揺れる卒業日

高校一年生の入学時、三年間ずっとこの上り坂の通学路を通い続けるのかと億劫に思っていた。

しかし、その通学も間もなく終わりを迎えようとしている。

長いようで短く、短いようで長い三年間だった。

とはいえ、高校三年生になってからの一年間の出来事が強烈過ぎて、一年生と二年生の思い出が掠れている気がする。

修学旅行とか大切なイベントがあったはずなのにな。

「おはよー、壱野! 今日はいい天気だな!」

青木が声を掛けてきた。

いつもと変わらないテンションだ。

まぁ、こいつの朝のテンションが駄々下がりになったときは、地球が滅ぶときだって言われてる(主に俺によって)ので、むしろこのテンションでいてくれたら安心する。

挨拶を返そうとすると、

「おはよう、壱野君。青木くん」

後ろから水野さんが声をかけてきた。

「「おはよう、水野さん」」

俺と青木が揃えて挨拶した

元々黒いロングヘアに眼鏡だった彼女も、今や裸眼の白髪だ。

眼鏡属性が好きな人間には申し訳ないくらいの変化だな。

もっとも、彼女にとって見た目の変化は、それ以外の変化に比べれば些細なものだ。

「今日で卒業だね」

水野さんが少し寂しそうに言う。

今日は月新高校の卒業式が執り行われる。

「水野さんは結局、壱野と同じ大学に進学なんだよな」

青木が少し残念そうに言う。

俺と水野さんは進学で、自分だけ社会人だからな。

疎外感を覚えたのかもしれない。

「うん。ぎりぎりまで悩んだんだけどね。閑先生の研究室に行くことにしたの。あそこなら、お金を払っても見ることのできない魔道具とか研究用の備品がいっぱいあるから。それに、お父さんが行った方がいいって」

「思い出作りとか?」

「ううん。私がそのまま仕事を続けたら、休む間がなくなるから大学に行けって。まぁ、今でも高校に通っている間が休憩時間みたいなところあるし」

水野さんらしい答えに俺も青木も失笑した。

彼女の中では高校の勉強時間の方が休憩時間って感覚らしいし、今でも休日は平均15時間働いているそうだから、水野さんのお父さんの選択は正しい気がする。

「ところで、トゥーナちゃんは一緒じゃないの? 最近、一緒に通ってたよね?」

「今日は卒業式で外部の人間――保護者もいっぱい来るからな。安全のために公安の人たちが送り届けてくれるらしい。少し遅れるって言ってた」

「文字通り重役出勤――重役登校か?」

「重役じゃなくて王族だよ」

しかもただの王族ではない。

なろう系の異世界漫画とかなら王女とか王子が学園に通っているのはよくある話だが、彼女は王女どころか女王だからなぁ。

現実って小説より凄いよ。

三人そろって教室に入り、それぞれ自分の席に移動する。

卒業旅行の話題が聞こえてきた。

なんでも、近藤たちは東京ディ〇ニーランドに行くらしい。

夢の国か。

中学校の修学旅行で行ったっきりだな。

そういえば、大学に入ってから一度、天下無双の関東支部に顔を出すって姫が言ってたし、ついでにみんなでディズニーランドに行ってもいいな。

前に東京に行ったときは浅草寺とスカイツリーくらいしか見てないし。

チャイムが鳴って、閑さんと副担任の吉岡先生が入ってきた。

「閑先生! 来てくれたんだ!」

みんなが騒ぐ。

最近、閑さんはダンジョンの調査で忙しくてほとんど学校に来られなかったので、卒業式に出席できるか不安視されていたからな。

それなのに、SNSなどを通じて生徒みんなの相談に乗っていたらしく、生徒たちの人気はいまだに高い。

副担任の吉岡先生はどこか空気になってる。

「みんな、静かに。三学期はほとんど来られずに迷惑をかけたな。今日は卒業式だ。よく一人も欠けることなく今日まで通ってくれた」

閑さんが挨拶をしている間に、吉岡先生が安全ピンのついた赤い胸花を配っていく。

これを付けると卒業生っていう気がする。

閑さんが挨拶を終え、吉岡先生が赤い花を配り終えたとき、トゥーナがスーツを着た男性二人とともに教室に入ってきた。

「……遅れました」

「話は聞いている。よし、全員揃ったようだし、講堂に移動――」

と先生が言ったときだった。

突然床が揺れた。

地震かっ!?

縦に揺れているってことは震源地が近いってことか。

「落ち着け! 机の下に隠れる必要はない! 転倒してきた机に頭が当たる可能性の方が高い! 直ぐに揺れも収まる」

閑さんが指示を出す。

机の下に隠れようとしていた生徒も閑さんの指示で冷静さを取り戻す。

この校舎は十分な耐震強度があるので、天井が崩落したりする心配はないって避難訓練の時に教わったっけ。

まぁ、直ぐに地震も収まるだろう。

そう思っていた。

そして、本当に直ぐに揺れは感じなくなった。

と同時に尻もちをついた。

何があったかわからなかった。

確かに椅子に座っていたはずなのに、何故かその椅子が急になくなったのだ。

そして――

「え?」

俺は見知らぬ部屋の中にいた。

クラスメート全員と一緒に。