軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

トゥーナのPD入り

PDを出て新居のリビングに戻った。

トゥーナが見知らぬダンボール箱の開封作業をしている。

俺がD缶を開けている間に何をしていたんだ?

「…………ん、PD内で使うレトルトカレーとレトルトご飯の確認」

「なんでそんなにあるんだ? ていうか、なんだ、このご飯。俺が知ってるレトルトご飯といったらサトウのごはんなんだけど」

「……ん、インディカ米の一つ。カレーによく合う。日本のカレーには日本のご飯がよく合うけど、スパイスから自分で作るスパイスカレーにはこっちの方がいい」

「スパイスから自作してるのか?」

「……ん。真衣のところで量産してるから」

そういえば、水野さんに預けている箱庭農園でスパイスを作ってたな。

トゥーナのことだから、かなり拘ったカレーができただろう。

少し気になる。

ちなみに、バスマティライスは茶屋町にあるテレビ局での収録後、近くのカ〇ディで買ったらしい。

トゥーナの奴、俺より日本に馴染んでるよな、絶対。

「……(D缶の開封結果)どうだった?」

「ああ、それなんだが――」

俺は絶対安心仮死寝袋についてトゥーナに説明をする。

いくら彼女でも仮死状態になるなんて聞いたら躊躇するはずだ。

そう思ったが――

「……ん、わかった。入ってみる」

「え? いいのか?」

「トゥーナちゃん。仮とは言っても死ぬんだよ? 絶対安全なんて言葉信用したらダメだよ? 絶対安全だって言われたジェットコースターの安全バーが開いたことだってあるんだから。逆さにならない奴だったから助かったけどさ」

ミルクが絶対安全について苦言を呈す。

こいつの場合は単に運が悪いだけなんだが、絶対なんて言葉は絶対にない――という矛盾する言葉があるくらいだ。

俺も安全性について疑問を持つべきだと思うが――

「……ダイジョブ、経験者」

「そういえばトゥーナは仮死状態でこの世界に来たのよね」

姫が思い出すように言った。

トゥーナはシェルターの中に仮死状態で眠っていた。

そう言う意味では、彼女ほど仮死状態に適した人間はいないだろう。いや、エルフだけど。

「……心配なら、姫に試してもらったらいい。」

トゥーナがとんでもないことを言い出した。

姫をモルモットにするなんて。

そんなの若干マッドサイエンティストが入ってる閑さんでも言わないぞ。

あの人が言うモルモットは別の意味だし。

いや、普通に考えたらトゥーナがそんなことを言うわけがない。

あ、そうか。

姫の分身を使えばいいのか。

考えればわかる答えだった。

「姫、頼めるか」

「ええ、いいわよ」

姫は俺なんかよりとっくに理解していたので、さっさと分身を作り出した。

姫の分身が寝袋に入ってジッパーを閉める。

直ぐに目を閉じた。

寝ているようだが、寝息は聞こえない

「どうだ?」

返事はない。

仮死状態になっているのか?

普通に見れば寝ているだけにしか見えないな。

カワイイ寝顔だ。

ちょっと悪戯したくなる。

「壱野さん、変なことしないでくださいね」

「そうだよ、泰良。私たちが見てるわよ」

「そもそも本体の私がここにいるんだから、するならそっちにしなさいよ」

俺、何も言ってないし表情も変えてない自信があったんだがな。

少し時間が経ったあと、姫の本体が寝袋のジッパーを開ける。

「どんな感じ?」

「どうって、閉めたばかりでしょ? すぐに仮死状態になれるわけじゃないみたいね」

「ああ、そういう感じなのね。じゃあ次の実験よ」

そう言って姫は再びジッパーを閉める。

分身が仮死状態になった。

「泰良、インベントリに入れることはできる?」

「インベントリに? 入れていいのか?」

「ええ、お願い」

インベントリに姫の分身ごと絶対安心仮死寝袋を収納してみる。

入った!?

インベントリはダンジョンのアイテムしか収納できないはずなのに?

「まぁ、そうなるわよね。仮死状態っていうのがアイテムの機能なら、その中に入っているものもアイテムの一部に認定されるみたい」

「なるほどな、てことは姫のアイテムボックスにも収納できるのか」

「そうなるわね」

絶対安心仮死寝袋を取り出してみる。

姫の分身はそのまま残っていた。

次は姫がアイテムボックスに入れる。

やっぱり入った。

これで安全が確認できたな。

だが、姫が渋い顔をする。

「どうしたんだ?」

「分身を消すことができないのよ。アイテムボックスに入っているときも、いまも」

「どういうことだ?」

「たぶん――」

姫がクナイを取り出した。

そして俺が止める間もなく、姫が自分の分身の額をクナイで突く

最悪の未来が脳をよぎったが、その想像通りにはならなかった。

姫の分身は寝たままナイフをその額で受け止めたのだ。

「絶対安全って名は流石ね。傷一つついてないわ」

マジか。

そういう使い方もあるのか。

もう一度詳細鑑定で見てみる。

【絶対安全仮死寝袋:寝袋の中に入っている間、コールドスリープによる仮死状態となる。使用中のため破壊不可。敵意のある者の開封不可。絶対安全】

さっきまでなかった文言がある。

「寝袋に破壊不可設定と敵意のある奴も開封できないって設定が追加されている」

「まるで簡易のシェルターですね」

アヤメの言う通りだ。

この中に入っている間に地球が滅んだらどうなるんだろ?

コールドスリープ状態で地球外生命体に拾われるまで宇宙を彷徨うのか。

終末の獣に世界を破壊されたときに使っていたら、トゥーナみたいに別の世界に転生できそうだな。

「これ、凄いチートアイテムね」

「ああ。名前が名前だけにネタアイテムかと思ったら、ヤバかった。こんなの世間に公表したらどうなるか――」

まぁ、敵意のある人間に開封不可ってことは、敵意のある人間が、無垢な子どもに頼んで開けてもらう方法とか抜け道はありそうだけど、コールドスリープでよくある不治の病にかかったとき、その治療法が見つかるまで眠る……みたいな使い方とかできそうだ。

姫がジッパーを開ける。

分身が目を開ける。

「どうやら、私、仮死状態だったみたいね。全く気付かなかったわ」

さっきまで死んでたとは思えないくらい頭の回転が早い。

さすが姫の分身だ。

姫が分身を消して記憶をフィードバックさせる。

「とりあえず絶対安全なのは確かみたいね。問題は仮死状態のままPDに入れるかどうかだけど、まず大丈夫でしょ」

「その根拠は?」

「PDのセキュリティって結構甘いんだもの。腰巾着程度で入れるんだし、アイテムボックスの中身なんてチェックできないでしょ?」

姫が自信満々に言う。

俺も同じ意見だ。

あと、残す問題は一つあるな。

まぁ、なんとかなるだろう。

※ ※ ※

「まったくもう! タイラは! まったくもう! おいしいのです。まったく!」

「でも、前に言ってただろ? 俺以外がPDに入る方法は自分で見つけろって」

「あれは、スキルレベルを上げて条件を緩和しろって意味なのです。システムの穴をついて入れなんて言ってないのです」

ダンポンが怒りながら、ええ〇んちぃ(黒豆入りマドレーヌ)を食べている。

結果的に言えば、トゥーナはすんなりPDの中に入れた。

インベントリに入れないとダメな可能性も考えたが、普通に担いでもOKだった。

それにダンポンは怒った。

前にアヤメが結界をすり抜けて入って来たときも怒っていたが、あの時は偶然要素が強くダンポンも注意をしただけで強く怒ったりはしなかった。

ただ、その後もパソコンなどの電気機器をアヤメの腰巾着スキルを使って持ち込んで嫌味を言われていて、その後のこれである。

怒るなという方が無理だった。

ちなみに、お土産はちゃんと謝罪をして許してもらってから渡している。

決して 賄賂(あまいもの) を渡して許してもらったわけではない。

本当はそうしようと思ったのだが、女性陣に止められた。

お菓子を渡すから許してもらうのではなく、許してもらったあとに謝罪の意味を込めてお菓子を渡す方がいい。

ダンポンもちゃんと説明すればわかってくれるけど、ただ、ダンポンの管理者としての立場から、事前に説明して承諾を貰うのは難しいから、何も言わずに連れ込んで事後承諾を貰ったほうがいい。

礼儀正しいのか悪賢いのかわからないが、こういう時は女性陣の意見が正しいな。

それに、許してもらえたのは思わぬフォローもあった。

「まぁ、そう怒るなダンポンよ」

ミコトが一緒にマドレーヌを食べながら言う。

普段はトゥーナにくっついているミコトだが、今日は普通に入った。

彼女は特別にPDの中に出入りできる聖獣だ。

彼女がフォローに出てくれて、ダンポンも文句は言うが強く出られない。

なにしろ、今回の件はダンポンやダンプルとは関係のないダンジョンが原因。

ダークエルフが蘇らせたのか、もしくは別の理由があるのかはダンポンにもわからない。

ダンポンからしても、ここで俺たちが調査をするのは渡りに船のような状況だった。

「タイラたちは暫くここでレベルを上げるのです?」

「そのことなんだが、一つ問題が起きてな」

実は、ええ〇んちぃを買いに行っている間に、ダンジョン局から仕事の依頼が来た。

これまでダンジョン局や一部の探索者が行ってきた各地のダンジョンの紹介動画を俺たちに作ってほしいというものだ。

しかも、断りにくいように俺たちのスケジュールを完全に把握しての依頼。

もしかして、トゥーナをパワーレベリングさせないための工作かと思ったが、そうではなかった。

これは政府絡みの問題だった。

というのも、最近になって一部の政治家の間で「探索民イーブン」という言葉が浸透し始めてきた。

政府はEPO法人を拡大して、ダンジョンに潜れる年齢を引き下げ、探索者を税制などの面で優遇する政策を打ち出した。だが、そこまで探索者を優遇するのはどうなのか? 自分たちの方を優遇しろ! という意見が出始めた。

経済について理解している人間なら、日本の産業はいまや探索者なくして語れない。

魔石やダンジョン産の金属が日本の製造業を支えているので探索者の数を増やしたい政府の方針を理解できる。

だが、有権者のほとんどはダンジョンに潜ったこともない人間だ。

そしてダンジョンに潜ったことのない人間は探索者ばかり優遇されるのは気に食わない。

探索者イーブンのスローガンは恐らく今後も浸透していき、中にはそれを政策の柱として今度の夏に行われる選挙に向けた政党も現れるはずだ。

だから、探索者の数を増やしたいと思った与党は人気のあるNPO法人の探索者に、紹介動画を作るように依頼してきた。

「面倒だけど、依頼としては正規の手順が踏まれているのよね」

「スケジュールに余裕はあるのですよね?」

「余裕はあるんだが、その打ち合わせでこれからダンジョン局に行く必要があるんだ。あと写真撮影もしたいらしい」

マジで面倒なんだが、ダンジョン局で俺たちの担当をしている園原さんも、これにはかなり参っているようで――上層部の思い付きに振り回されるのは現場の人間――できれば協力してあげたかった。

「だったら、今日は帰るのです?」

「そう思ったんだが――」

「……頑張る」

トゥーナがやる気なんだよな。

むしろ、俺たちが会議に行っている間にレベルを上げるつもりらしい。

そのためのカレーも大量に持ってきている。

一応、護衛として水野さんから預かっているパペットを用意している。

エンペラートレントから作られた最新のパペットだ。

なんとあの水野さんが三日もかけて作ったという最高傑作だ。

その実力はかなりのもの。

40階層くらいは余裕で入れる。

名前はキズリカミキタくんだ。

キズリカミキタくんと二人だとトゥーナが無茶をしないか心配だが、そこはミコトがストッパーになってくれるらしい。

俺たちがいない間、安全マージンを確保しつつレベル上げにいそしんでもらおう。

これで完璧かと思ったが――

「それだとダメなのです」

ダンポンが言った。

なんで?

「前に泰良に説明したと思うのですが、泰良たちがいないとこのダンジョンは機能が停止するのですよ。せめて、四人のうち一人は残ってもらわないと」

そういえばそんな説明をされた記憶がある。

え? でも四人で来てほしいって言われているのに。

姫の分身に残ってもらう?

いや、でも分身でも姫は姫。

消えたときに記憶をフィードバックするから結局は一緒だ。

それに、分身のHPはとても低い。

万が一死んでしまってダンジョンの機能が停止したら、残ってるトゥーナが危ない。

「だったら私が残るわよ。会議には分身に参加してもらいましょ」

「いいのか? かなり待たせることになると思うぞ」

なにしろ時間が百倍だ。

いまから五時間かかるとしたら五百時間。

二十日以上待ってもらうことになる。

「そうね。二十日以上戦うのは平気だけど、二十日も泰良に会えないのは少し寂しいわ」

姫がなんかめっちゃ嬉しいことを言ってくれる。

「だから三日くらいトゥーナと一緒に様子を見ながら戦って、トゥーナがまだ続けるっていうなら私はそれで寝てるわよ」

そう言って彼女は絶対安全寝袋を指さした。

そうか、絶対安全寝袋を使えば万が一にも死ぬことはないし、一瞬で時間経過もできるってことか。

これが本来の使い道なのかもしれない。

ここならダンポンとミコトもいるし、さらに安全だろう。

よし、さっさと会議を終わらせて戻ってくるか。