軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

身代わりの腕輪

「姫、お前姉ちゃんがいたのか?」

「そりゃいるわよ。泰良とアヤメには言ってあったでしょ?」

え? そんなの聞いたっけ?

「妃は私のマムの姉の娘」

「それって従姉じゃ」

「で、ダディが同じ」

そういうことか!

確かに聞いたわ!

キングには愛人が100人いて子どもがそれ以上いるって。

それがあまりにも衝撃過ぎて、姉がいるっていうのと結びつかなかった。

そうか、異母姉妹なのか。

いまだに意味がわかっていないのか、ミルクは混乱しているようだ。

ちなみに、姫の母親が社長をしているのが押野リゾートグループで、妃の母親が社長をしているのが押野ホテルズ&リゾーツらしい。

明石君代は、代々押野家に仕えている人間で、その関係から姫も何度か会ったことがある間柄らしい。

「姫には護衛とかいないんだな?」

「家にはいるけれど、護ってるのはマムの方ね。ダンジョンには必要ないでしょ?」

「あっちのお嬢様は護衛三人に守られてたぞ」

「妃らしいわね。実家の力を自分の力と勘違いして、本当に腹が立つ」

それって、実家のコネ使いまくってるお前が言うのか?

まぁ、それに俺も助けられてるわけだが。

「泰良、こんな奴にトレジャーボックスを売る必要はないわよ」

「いいのか? 姉ちゃんだろ?」

「いいのよ。トレジャーボックスを欲しがってる理由もだいたい想像がつくし、必要ないわ。なんなら私が買い取ってあげる」

本当にそれでいいのか? と思ったら、明石さんもなんか諦めている様子だった。

姉妹喧嘩に巻き込まれて一番迷惑を被ってそうだな。

「明石さん、すみませんが――」

「いえ、壱野さんが姫お嬢様の仲間であるのなら仕方がありません。妃お嬢様にはそのようにお伝えいたします」

明石さんはそう言って一礼とともに去っていく。

彼女が叱責されないか心配だ。

ダンジョンの外で父さんと母さんが待っていてくれた。

クロは尻尾を振って母さんの方にダッシュする。

「クロちゃん、会いたかったわ」

息子よりペットの方が大事かよ。

「あら、カワイイ女の子がまた増えたわね。外国の子かしら?」

「はじめまして。泰良さんのお母様ですね。私は泰良さんと同じパーティで前衛担当をさせていただいております、押野姫と申します。ハーフですが国籍は日本です」

「あらあら、ご丁寧にどうも。泰良の母です」

「泰良の父です。押野姫というと、もしかして」

「はい。押野グループの者です。昨日は私のパーティメンバーも一緒に白浜まで運んでくださり感謝しています。これ、うちのホテルの食事券です。もしよろしければ、来月の結婚記念日にご利用ください」

「まぁまぁ、ご丁寧にありがとうございます。泰良、しっかりしたお嬢様じゃない。しっかり守ってあげるのよ」

物に弱い母さんが笑顔で言う。

姫の奴、俺の両親の結婚記念日まで把握してたのか。

ここまでくると少し恐怖を感じるぞ。

クロを預け、俺たちは会議室にそのまま移動。

一度風呂に入ってさっぱりしたいところだが、先に本日の成果について話し合うこととなった。

まずはミルクからだ。

「私はレベル13に上がりました。それと、新しい火の魔法、 火の盾(フレイムシールド) を覚えました。目の前に全身を隠すほどの火の壁のようなものを生み出す魔法で、補助魔法ではなく防御魔法です」

ミルクは少し残念そうに言う。

そう簡単に覚えられるとは思っていないだろうが、悔しいのだろう。

「私とアヤメはレベルは上がっていないわね。ただ、今回は余裕だったから、明日から八階層に行く予定よ。それと、アヤメが魔法を覚えたわ」

「 風の道標(ウイングポスト) という魔法を覚えました。周囲に魔法の風を展開させて、周囲の地形を把握する魔法です。いまは地図があるから必要ありませんが、地図のない深い階層でいずれ役立つと思います」

二人とも魔法の熟練度がちゃんと上がってるんだな。

「俺だけだな。レベルも上がってないし、新しい魔法も覚えてないのは」

「でも、トレジャーボックスTは180個でしょ?」

「まぁな。それにしても、これが一個百万ね」

俺はトレジャーボックスTを弄って言う。

「妃さんは何が欲しかったのかな?」

ミルクが言った。

確かに気になるよな。

装備は最高級品が多かったし、いまさら必要な物はないと思うのだが。

「身代わりの腕輪でしょうね」

「ゲームでよくある、死んでも腕輪が代わりに砕けて生き返るってアレか?」

「少し違うわね。ダメージを肩代わりするのよ。肩代わりをしてもらってる間は痛みも感じないわ」

「それは凄いですね。身代わりの腕輪をしている間は無敵ってことじゃないですか」

アヤメが言った。

俺も

某配管工が星を取ったときのBGMが脳内で再生される。

キラキラ光ってそうだ。

「それほど便利なものでもないわよ。体力100だけ肩代わりしてくれる腕輪だったら、確かに凄いとは思うけれど、レベル100の探索者だと体力が2000以上って人も少なくないわ。つまり、一割もカバーしてくれないの。それだったら防御力を向上させる腕輪を装備したほうが便利だわ」

身代わりって言ってはいるが、体力の最大値が2000の人が2100になって、しかも一度減ったら元に戻らない。

そう考えてみると防御値を上げるとか、自動回復効果のある腕輪の方が役に立ちそうだ。

「とはいえ、滅多に出ない上に使い捨てのような腕輪だから滅多に手に入らないのよ。販売所に売られてもほぼ国が買い上げるから、お金でどうこうできるものじゃないのよね。オークションの出品も禁止されてるし」

「国が? 警察官とか自衛隊がダンジョン内で探索するときに使うのか?」

「いいえ、各国の首脳クラスの人間が装備するのよ。身代わりの腕輪はダンジョンの外でも効果が発揮されるから、暗殺防止に役立つわ」

……あぁ、そういう使い方があるのか。

そういえばニュースで聞いた気がする。

身代わりの腕輪はお金では手に入らないってことか。

個人間取引くらいなら許容されるかもしれないけれど、大っぴらに売ってくれる人を探すことはできないということか。

「だから、トレジャーボックスの、中身が分かっていない状態のこれを買おうとしていると」

「そういうこと。とはいえ、こっちも滅多にオークションに出回ることもないのよね」

それって、白浜ダンジョンを押野グループが独占しているからミミックが狩られる数が減ってトレジャーボックスTも減ってるんじゃないか? って思ったが、ミミックを倒せる人間なら、ピンクシェルが落とすピンクパール目当てで白浜ダンジョンに来るから、どのみちミミック狩りする人はいないそうだ。

「じゃあ、みんなで開封するか。さすがに一人で開けるの面倒だし」

「そうね。ここで開封したら、必要ないものはすぐにフロントから売ることができるし」

「何が入ってるか楽しみですね」

と言って、四人で同時に最初のトレジャーボックスTを開ける。

そして、それを取り出して、全員引きつった笑みを浮かべた。

何故なら、四個全ての中身が身代わりの腕輪だったから。

鑑定したから間違いない。

「泰良、私、言ったわよね? 身代わりの腕輪は滅多に出ないって。これは、どういうこと?」

「待て、俺のせいじゃない! さすがにこればかりは俺のせいじゃないぞ! ほら、二個目開けたら普通にポーションが入ってた。ハイポーションだけど!」

俺は慌てて二個目のトレジャーボックスTを開け、中からハイポーションを取り出した。

「あ、あの、押野さん、これっていくらで売れるんですか?」

「販売所買い取り専用だから安いわよ。1500万円ね」

「安くないですよっ! 大金です!」

「妃のところに直接持っていったら、きっと二十倍の値段で買ってくれるわ。売らないけど」

「そこは売りましょうよ」

アヤメが懇願するが、姫は断固拒否した。

そんな中――

「もう一個身代わりの腕輪が出たんだけど」

ミルクが恐る恐る身代わりの腕輪を取り出してそう言った。

俺は悪くないからな。

最後まで開封して、183個中12個が身代わりの腕輪だった。