軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ミレリーの全てを継いで

ミレリー。

過去のエルフの世界に行ったときに出会った少女であり、そして彼女はこの世界ともエルフの世界とも違う別の世界を救うという使命を帯びた勇者でもあった。

しかし、その勇者としての使命を果たせない状態でエルフの世界が滅んでしまい、結果、勇者の残滓としてこの世界を彷徨っていた。

ダンジョン学園の敷地内にあるダンジョンで彼女と再会したのは文化の日の直前。

そして、今日再び彼女に出会った。

まるで質量を持っていないかのように宙に浮き、じっと俺を見た彼女は小さく口を開け、

『イチ様』

と俺の名を呟く。

以前まではわからなかった彼女の言葉がスキルのお陰で理解できた。

『ミレリー、意識があるのか!?』

俺がエルフ語で問いかけると、ミレリーは小さく頷く。

以前会った時は最初は暴走状態で、最後、俺の名前を呼んだ時に彼女の意識みたいなものを感じられた。

しかし、いまは最初から言葉が通じるのか。

『話は聞いた。お前が救おうとしていたのは別の世界だったんだよな。悪い、それはいまの俺にはどうしようもできなくて。でも、エルフの世界の過去に行ったら、協力して――』

『これを――』

ミレリーがそう告げて、何かを取り出す。

アイテムボックスのスキルだろうか?

そして彼女が取り出したのは一本の薬瓶だった。

しかし、その瓶の形や色には見覚えがある。

もしかして――

【聖女の霊薬:どのような呪いや病気もたちどころに治療してしまう薬。死人には効果がない】

聖女の霊薬!?

なんで!?

俺がこれを必要としていることなんてまだ伝えていないのに。

『ようやく渡すことができました』

『何故これを――』

『イチ様がこれを必要とする未来が見えました。私の命を救ってくれたイチ様に恩返しがしたい。それだけが心残りでした。この前、イチ様に出会えてようやくそれを思い出すことができました』

彼女が言う。

もしかして、彼女が言っていた本当に救いたかったっていうのは、勇者として救えなかった世界ではなく、俺の――

とミレリーの身体が徐々に薄くなっていく。

『ミレリー!』

『すみません、あまり姿をとどめておくことができず』

『お前、どうなるんだ。まさか――』

『いいえ、消えません。自分の意思で消えることができないのです。ですので、お願いします。イチ様』

『お願い?』

『私を消してくれませんか』

『消すってお前――』

『酷いお願いであることはわかっています。ですが私の最後の心残りが解消された以上、次、別の場所に現れたとき自分の意思が残っているかわからないのです』

彼女が俺に言う。

その顔には苦悶の表情が浮かんでいる。

しかし、彼女からエネルギーを吸うということは、つまり――

『泰良、彼女の願いを叶えてあげて』

『……ミレリーを殺せっていうのかよ』

『彼女はもう既に死んでるわ』

姫がエルフ語でそう言うと、ミレリーは頷いた。

今の彼女の肉体は既に滅んでいる。

しかし――いや、わかっている。

これがミレリーを救うことになるっていうのは。

『ミレリー、手を』

『はい』

俺はミレリーの手を握る。

ああ、本当に酷い願いだと思う。

たった一回命を救っただけ。

たった一日一緒に行動しただけ。

なのに、なんで俺にそんなこと頼めるんだよ。

なのに、なんでこんなに涙が出るんだよ。

「エナジードレイン」

「泰良っ!」

「大丈夫だ。黒蛇とは違う」

黒蛇は瘴気の塊だった。俺の第六感がエナジードレインを使ってその力を吸うことを拒否した。

だが、ミレリーは違う。

最初は同じ気配がした。

でも、今の彼女は、彼女の力は俺を救ってくれた力だ。

だから、彼女の願いは、意思は、使命は、俺が引き継ぐ。

俺が吸収する。

『イチ様……ありがとうございます』

『礼は早いよ。俺がお前を救って、お前が俺を救ってくれた。だったら次はもう一度俺がお前を救う。絶対に――』

『…………はい』

ミレリーは笑った。

そして、いなくなった。

彼女の気配は完全になくなった。

「姫、この聖女の霊薬を――」

「わかったわ」

姫がアイテムボックスに聖女の霊薬を入れる。

そして、きっと今頃、アヤメと一緒にいる彼女の分身が聖女の霊薬をアイテムボックスから取り出し、アヤメに投与していることだろう。

「これでよかったのかな?」

俺が呟く。

「これしかなかったのよ」

姫が言った。

そう、こうなるしかなかった。

全ては最初から仕向けられていた。

俺はあいつに、感謝の言葉を伝えたらいいのか、それとも怒りをぶつけていいのかわからなかった。

ミコト――お前、なんで言ってくれなかったんだよ。