軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あとは野となれ山となれ

季節は変わり冬になった。

長かった夏、短い秋が終わって一気に冬になる。

仕事で梅田に行けば、クリスマス商戦で盛り上がっている。

一応新婚、そうでなくても恋人が三人もいる俺にとっても本来クリスマスは盛り上がるものだと思っていたが、黒のダンジョンの魔物の量を緩和するための仕事がある以上、クリスマスを普通に楽しめるとは思えない。

一応、滋賀県のホテル周辺のデートスポットはいくつか見繕っているが、時間的に余裕があるかどうか。

下手したら年末年始も家に帰れないかもしれない。

そして、俺たちは今日も今日とて、PDの中でレベル上げだ。

「でも、上松大臣も融通が利かないな。文科省に掛け合って面接抜きで大学に行けるようにしてくれたらいいのに」

俺が剣を振るって言うと、ミルクが銃の引き金を引いて答える。

「たぶん、逆だと思うよ。実際、私たちが受ける推薦入試が形だけのものだって閑先生が言っていたのは本当だと思うし、それだったら面接なんてしなくてもいいようにするのは簡単だと思う」

「だったら――」

「私たちにちゃんと入試面接を受けさせることで、あとからマスコミに知られたときに裏口入学とか変な噂を流されて叩かれないように――とかもあると思うけど、一番は私たちに帰るべき日常があるってことをわかってほしいんだと思う」

「帰るべき場所……か」

ホワイトレイクサーペントの亜種のホワイトレイクフットサーペントを倒しながら思った。

俺にとって帰るべき場所でもPDの中に潜ってるんだよな。

ホワイトレイクフットサーペントを倒すと、白い靴を落とした。

「出たぞ! 白蛇の靴」

「さすが泰良! 一発で出たわね!」

ミルクが靴を受け取る。

PD内の書物庫にあった魔物図鑑――それを調べていると、ホワイトレイクフットサーペントが落とす靴に姫が興味を持った。

蛇なのに靴? と思ったが、ホワイトレイクフットサーペントには四本の足が生えていた。

いやぁ、湖から出てきて陸上を走る巨大蛇はめっちゃ気持ち悪いな。

そして、ドロップ率一パーセント(最低幸運値200)で白蛇の鱗の靴、白蛇の靴をドロップする。

光属性の魔法にプラス補正が付くらしい。

サイズフリー(履くと自動的にサイズが調整される)なので、ミルクの探索用の靴として重宝しそうだ。

「もう一足は手に入れたいな」

「私の予備?」

「いや、西条さんのな。あの人も光属性の使い手だし、履いてる靴もいい靴だったけど、この靴の方が性能が良さそうだ」

PD生成ⅡがPD生成Ⅲにランクアップしたことで、亜種の出現率も増えたからな。

半日くらい戦えば出てくるだろう。

その時にドロップするかしないかは運しだいだが、そこは俺の得意分野だ。

一度で無理でも何度か倒せば出てくるだろう。

「ホワイトシェルだ」

中華鍋サイズの白い貝が落ちていた。

どうやら、ホワイトレイクフットサーペントが上がってきたときに湖の中から一緒に出て来たのだろう。

こいつは白浜ダンジョンの三階層にもいた魔物だ。

こういう弱い魔物も、湖の中には普通にいる。

もしかしたら、レイクサーペントたちの餌なのかもしれない。

「そういえば、白浜ダンジョンでも何回か倒したけど、真珠は一回も落とさなかったな」

「スライム酒よりドロップ率の低いアイテムだからね。今の泰良なら手に入るんじゃない?」

「どうだろうな――」

とりあえず殴ってみる。

俺の拳が当たる寸前にホワイトシェルの貝殻が少し開いたが、数ミリ開いたときには既に俺の拳が貝殻を砕いていた。

脆い。

【モンスターパール:真球の大きな真珠。ホワイトシェルが極稀に落とす】

一発で出たな。

直径30mmくらいの白い真珠だ。

「ミルク、やるよ」

「ありがとう。どうしよ? ブローチにでも加工してもらおうかな?」

「どうせなら一杯集めてネックレスにするか?」

「そんなの高すぎて使えないよ。ネックレスにするなら20個くらい必要でしょ? この真珠、オークションだと一個500万円で取引されてるんだよ?」

「そんなに高いのか」

今の俺たちならべらぼうに高いってわけではないが、しかし白浜ダンジョンの三階層で倒せるホワイトシェルからのドロップ品と考えると破格だな。

その後三時間くらい戦ったところで、レイクフットサーペントが再度現れたが、蛇の鱗を落としただけで靴は落とさなかった。

俺の幸運値も万能ではない。

「どうする、今日は二人だけだしもう終わるか?」

「そうだね。泰良の面接の練習でもする?」

「それはもういい。あとは野となれ山となれだ」

どうせ合格は決まってるんだ。

恥を搔かないくらいできたら問題ない。

一階層に戻って風呂に向かう。

「泰良、一緒に入る? 水着着るよ?」

「牛蔵さんに殺されるから入らない」

「パパも怒らないと思うよ? なんだかんだ言って泰良のことを認めてるし」

いや、怒られる。

絶対に。

怒られなくても殴られる。

上松大臣の怪我とか凄かった。

あんな目に遭いたくない。

ということで、ミルクに先に風呂に入ってもらい、俺はダンポンと話をする。

「タイラ、おかえりなさい。お疲れ様なのです」

「ああ、ただいま。今度お宝ダンジョンに行くんだけど、PDをお宝ダンジョンの隣に設置したほうがいいのか?」

「設置してくれたらあっちのダンポンに会いに行けるのです。タイラたちがダンジョンに潜っている間、対戦して遊ぶのですよ。僕の赤いギ〇ラドスが火を噴くのです。まぁ、りゅうのいかりはドラゴンタイプでほのおタイプじゃないのですが――」

「いや、あのダンポンはド〇クエ9をやってたから、ポ〇モンはやってないと思うぞ?」

「なっ、まさかDS民なのですか……生意気なのです。僕はまだア〇バンスも遊んでないのに」

お前が勝手にDS避けてるだけだろ? と思ったけど、黙っておくことにした。

「なぁ、ダンポン。それが終わったら、琵琶湖ダンジョンに潜って瘴気を減らすために魔物と戦い続けるわけなんだが、PDで戦っても瘴気を減らすことはできるのか?」

「無理なのです。このPDは特別ですから、ここで魔物をいくら倒しても瘴気の浄化にはならないのです」

「だったら、ここの魔物って何からできているんだ?」

「言えないのですよ」

久しぶりだな。

ダンポンの言えない。

こいつがそう言うってことは本当に言えないのだ。

追及するのはやめよう。

「それより、泰良! ド〇クエ9って相手のダンポンはどのくらいやりこんでるんです?」

「前に浅草ダンジョンに行ったときにはもう復活してたみたいだし、一ヶ月以上はやりこんでると思うぞ?」

「むっ、いまから追いつくのは難しいのです。だったら、別のゲームで一緒に遊んだほうが良さそうなのです……ここは一度、初心に帰って携帯ゲームではなく、据え置きゲームのファ〇コンでア〇スクライマーでも……」

「なんでお前はレトロばかり行くんだよ。sw〇tchのマ〇カーとかス〇ブラで遊べよ」

「sw〇tchはライセンス料が高いのですよ」

そういえば、こいつらのゲームって単純なゲームじゃなくてコピー品で、それをコピーするのにライセンス料を払ってるって言ってたな。

「別にコピーじゃなくても本物持ってくればいいんじゃないか? PD生成Ⅲになったことで機械の持ち込みが可能になったんだろ?」

「それなのですっ! タイラ、持ってくるのですよ」

「自分で買えよ。俺たちが売ったアイテムをオークションに出品してるんだし、かなり差額で儲かってるだろ?」

「これは僕のお金であって僕のお金じゃないから自由に使えないのですよ」

そこはきっちりしてるのか。

仕方ない、今からネットで注文しても出発までに届かないだろうから、あとで自転車に乗ってジョー〇ンに買いに行くか。

「よろしくお願いする――あ!」

ダンポンの持っているパソコンから音が聞こえた。

「どうした?」

「仲間から連絡が入って――ミレリー・ノ・ハンデルマス――エルフの世界の勇者の目撃情報が出たそうなのです」

ダンポンがパソコンの画面を見て言う。

「ミレリーっ!? どこにっ!?」

「城崎ダンジョンなのです」

城崎――勇者のロケットの一つが見つかった場所だったか。

押野グループの宿泊者しか利用できないダンジョンだが、そんな場所で――

「今すぐ――」

そこに行くか。

ヘリに乗っていけば――

「待つのです。いま、人間が戦っているそうなのです。事情を知るために時間の流れを通常に戻していいのですか?」

俺が頷いた。

PDの中は時間が通常の百分の一の速度で流れる。

「変えられるのか?」

「可能なのです」

「わかった。変えてくれ」

ダンポンが時間の流れを通常に戻した。

変化は感じないが、時間を正確に刻むことができる懐中時計が普通に動いている。

時間の流れが通常に戻ったらしい。

「それで、どうなってる?」

「ミレリーと二人の人間が戦ってるのです」

「誰が?」

「えっと、ダンポンは個人の名前はわからないのですが、竹刀を持ったお爺さんと気味の悪い男なのです」

信玄さんと不破さんだ。

ダンポンに情報が来る前に駆け付けたのか。

いや、二人がミレリーと接触したことで、城崎ダンジョンの管理人のダンポンがミレリーの存在に気付いたのだろう。

「……ミレリーが逃げた……ダンジョンからいなくなったのです」

「また逃げたのか」

ダンジョン学園のダンジョンからもミレリーは逃げ出した。

竹内さんに勝てないと思って退散したのか。

「でも、妙なのですよ」

「なにがだ? 勝てないなら逃げるだろ?」

「逃げるまでの間隔が短いのです。実はタイラがいないときも何度かいろんなダンジョンに現れたのですが、毎回直ぐに消えていなくなるのですよ」

「逃げてるからじゃないのか?」

「これまでは、ミレリーは滅多に逃げたりしなかったのです」

何かを探している。

もしかして、ミレリーに何か意思がある?

俺と出会ってミレリーに変化が起きた?

「ダンポン、お前、念話は使えるのか?」

「使えないのです」

「スキル玉を舐めて覚えることは?」

「できるのです」

「だったらDコインを払うから、スキル玉を買って覚えてくれ。そして、ミレリーが現れたら教えてくれ」

「わかったのです」

ダンポンが頷いたところで、

「泰良、お風呂入っていいよ」

ミルクがお風呂から出てきた。

大学の入試面接についてはあとは野となれ山となれと言ったものだが、しかしその問題が片付いたところで、黒のダンジョン、ミレリー、そしてエルフの世界の救出と残っている。

問題が山になった挙句、山積みになってしまいそうな気分だ。