軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

錬金術師胡桃里花蓮

今日もあたしはパペットのキサイチくんと一緒に職場に向かっていた。

最近、仕事にも慣れてきた。

最初はどうなることかと思ったけれど。

レベル20になったとき、生産職の矜持というスキルを手に入れた。

これは水野さんも持っているスキルで、アイテムを作ったときに経験値が手に入る効果がある。

スキルはその人の置かれた環境などで覚えられるスキルが決まるという。

三ノ瀬先生が言うには、あたしが尋常ではない数の魔道具を作っているのが原因だろう――って話だけれど、水野さんに比べればまだまだだと思っている。

「さぁ、ついたっすよ、キサイチくん」

リュックの中にいたキサイチくんを下ろし、ステータスを確認する。

――――――――――――――――――

胡桃里花蓮:レベル23

所持P:792

体力:150/150

魔力:0/0

攻撃:80

防御:67

技術:114

俊敏:59

幸運:12

スキル:模造 簡易魔道具作成 時短テク

生産職の矜持

――――――――――――――――――

かなり強くなった。

ステータスも随分と増え、キサイチくんを背負うのも楽になった。

キサイチくんと歩いていると、白い子犬が駆けて来た。

水野さんの家の庭で放し飼いにしているシロちゃんだ。

「シロ氏、おはようっす」

あたしが挨拶をし、キサイチくんがシロちゃんの頭を撫でる。

普通の犬はキサイチくんを見たらワンワン吠えて警戒するけれど、シロちゃんは慣れたもので、まるで家族のようにキサイチくんの顔を舐めた。

シロちゃんは普段から水野さんの家のパペットと接している時間が多いから慣れている。

「キサイチくん、行くっすよ」

ひとしきり遊んだあと、キサイチくんを連れて中に入る。

「花蓮ちゃんいらっしゃい。キサイチくん、シロに舐められたの? 涎でベトベトだよ。はい、これで拭いて」

「ありがとうっす、水野さん」

水野さんから受け取ったタオルで、キサイチくんの顔を拭く。

「ちょっと早かったっすね」

「いいよ、タイムカード切っちゃって」

「いいんすか? じゃあ早速仕事に取り掛かるっす」

「それは時間通りでいいよ。またベータくんから飴玉貰ったんだ。一緒に舐める?」

「え? またスキル覚えるんすか?」

「あはは、ベータくんでも毎回スキル玉が入ってるわけじゃないよ」

「……まぁ、そうっすね。じゃあいただくっすよ」

十分後。

あたしは錬金術スキルを覚えた。

「覚えたじゃないっすかっ!?」

「覚えちゃったんだ。さすがベータくんだね」

水野さんが優しい目で言った。

錬金術って言えば、日本でも持っている人がほとんどいないスキルだったはず。

「覚えたものは仕方ないっすけど…‥あれ? でも錬金術って何ができるんすか?」

「そうだね。たとえば鉛から金を作ったりできるスキルだね」

「鉛から金っ!? それって覚えただけで金持ちじゃないっすかっ!?」

「それがね、鉛から金にするには魔石が必要なんだけど、百万円分の金を作ろうと思ったら、その数十倍の価値はある数千万円はする魔石を使うことになるから赤字になるんだよね」

「そういうオチっすか」

世の中、うまい話はない。

簡単に金を作ることができるのなら、既に先達の錬金術師たちが金を作った結果、金の価値が暴落していただろう。

それに、金を作るには時間がかかるみたいで、だったら簡易魔道具作成スキルを使って魔石ランタンを作ったり、模造スキルを使って捕獲玉の模造品を作った方がお金になる。

「じゃあ、何ができるっすか?」

「強化金属を作れるよ」

「強化金属っすか?」

聞いたことがないので尋ね返した。

すると、水野さんが鍵のかかった箱を開けて、三本の剣を取り出した。

銅の剣だ。

「ここに私が作った三本の剣があるけど、違いがわかる?」

「同じものに見えるっすけど」

「じゃあ、これを使って」

水野さんが鑑別のモノクルをあたしに渡した。

鑑定スキルが無くても鑑定できる、いわゆる鑑定士泣かせと言われる魔道具だ。

それを使って、剣を鑑定する。

【魔銅の剣:魔銅で作られた剣。切れ味はそこそこ】

銅の剣って呼んでいるけれど、正式名称は魔銅の剣らしい。

もう一本を鑑定する。

【魔銅の剣(-2):魔銅で作られた剣。劣化していて切れ味が落ちる】

これは欠陥品? 見た感じ、違いはわからない。

だったら、もう一本は?

【魔銅の剣(+2):魔銅で作られた剣。鋭い切れ味を誇る逸品】

こっちは一流の剣だった。

「最初に鑑定したのは、ブロンズゴブリンのドロップ品。二つ目は私が鍛冶師になったばかりの頃、ベータくんから貰った魔銅で試しに作った失敗作。そして、最後に鑑定したのは私が最近作った剣だよ。鍛冶師が作った武器は鍛冶師の熟練度やステータスによってプラスマイナスの補正が入るんだ」

「そういえば、水野さんって鍛冶師だったっすね。魔道具ばかり作ってるから忘れてたっす」

「…………私も少し忘れ気味だけどね……あはは」

水野さんが自嘲するように笑った。

「高品質の金属を使えば、鍛冶師がより高品質な武器を作れるってことっすか?」

「うん、そうだね」

それにしても、水野さん錬金術について詳しすぎる気がする。

そういう細かいお金に関する情報って調べようと思わないと手に入らないものだけど、事前に知っていたみたいにすらすらと教えてくれた。

普段から錬金術について調べているのだろうか?

たとえば、錬金術師の作った金属を日常的に取り扱っているとか。

そう思い、あたしは尋ねる。

「水野さんも普段は高品質の金属で武器を作ってるんですか?」

「それがね。日本の錬金術師って、全員どこかの製鉄会社だったり、自動車会社だったりに所属していて、フリーの錬金術師っていないんだよね。それでそういう人たちが作る金属って、市場にも出回らないから、お金を積んでも買えないんだよね。海外でも錬金術師が作った金属って取り扱いが少なくてお金を積めば買えるってものでもないから――」

え? それだけ貴重な金属。

それを作れるようになったあたしって一体……いや、そのことはあまり考えないようにしよう。

「じゃあ、今日は花蓮ちゃんは錬金術を使って高品質の金属を作ってみよっか。まずは加工しやすい魔銅から」

「え? いいっすか? 仕事は? 魔石ランタンの納入期限、結構ギリギリっすよね?」

「それがね。いま、上の方がちょっとバタついていて、兵器の輸出入に大きく制限が入ったみたいで。海外に輸出予定だった魔石ランタンの納入期限も大きく変わったの」

「え?」

上というと、天下無双のことではなく政府の方だろう。

そういえば、本城さんも最近、トヨハツ探索の方で動きがあったと言っていた。

もしかして、裏でかなりヤバい動きがあるのではないだろうか?

……考えないようにしよう。

「じゃあ、お言葉に甘えて練習させてもらうっす」

「うん。魔銅のインゴットならたぶん花蓮ちゃんが一生かけても加工できないくらいの量があるから好きに使って」

「一生かけても加工できないってどんな量っすか? いくらなんでも大袈裟っすよ」

「チーム救世主のみんなが一日最大二万匹もブロンズゴブリン倒してるんだけど、一生かけたら全部加工できる?」

「すみませんっした」

一日何万体って、そんなに?

水野さんが言うには、てんしばダンジョンの21階層では、エリアボスを倒さないとブロンズゴブリンが無限湧き(一時間に千体が上限)するらしいけど、それでも一日十時間以上狩っていることになる。

さすがに土日限定だとは思うけどどんだけの量を倒してるのだろう。

ドロップ率がどれだけか知らないっすけど、ベータさんが参加している以上、生半可な確率じゃないはずだ。

「もう、魔銅の卸売りだけで会社が成立しそうっすね」

「それなんだけどね、あんまり売らないでくれってダンジョン局から言われてるんだよね」

「え? どうしてっすか? やっぱり魔銅の値崩れが問題なんっすか?」

「アメリカから輸入できないから困るんだって」

「え? 国内で十分手に入るなら輸入する必要ないってのはわかるっすが、なんでそれが困ったことに……あ、なんかややこしそうな話だから聞かなかったことにするっす」

「うん。考えない方がいいよ。大人の事情だね。まぁ、チーム 救世主(メシア) のみんなもそろそろブロンズゴブリン狩りだとあんまりDコイン落とさないし、経験値の効率が悪いから、ちょうどいいんじゃないかな?」

と水野さんが言ったところで、パペットのハナテンくんが大きな箱に入った魔銅のインゴットを運んできた。

これだけで数百キロはありそうだけど、余裕という感じ。

さすがは力持ちの岩の木のパペットだ。

「じゃあ、早速錬金術師として頑張ってみるっす」

「うん。じゃあ私も今日のノルマ頑張るね」

こうして、あたしの今日の仕事はスタートした。