軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

戦闘シミュレーション

ダンジョンの中でこんなに魔物と戦わないことも珍しい。

魔物は西条さんがテイムした魔物が二交代制で倒して回っているからだ。

俺たちの仕事といえば、各階層の入り口にまとめて置かれたDコインやドロップアイテムを回収するくらいだ。

「壱野くんのアイテムボックスは本当に便利だね。いつもなら全部持って帰ることができなくてアイテムを厳選しているんだけどね」

「いや、これだけ魔物を操ってる方が凄いですよ」

俺はそう言って落ちているアイテムを全部回収した。

インベントリのことをアイテムボックスと説明している理由は、アイテムの自動回収スキルのことを隠し、他の人が認識している俺のアイテムのドロップ確率を調整することで俺の正しい幸運値を把握されないためだ。

とはいえ、ここまで有名になってしまった以上、もうその意味も薄くなっている気がするが、わざわざ訂正する必要もないのでそのままにしている。

魔物とほとんど戦わないままボス部屋の前に辿り着いた。

「壱野くんは高校三年生なんだよね? 卒業したらガッツリダンジョンに潜るのかい?」

「いえ、大学に進学予定です。月見里研究所の所長の月見里さんが俺の担任で、その勧めで――」

「……月見里さん――」

閑さんのことを言うと、西条さんの顔色が変わった。

「あっ、すみません」

「いや、君の気にすることじゃないよ。あれは僕の罪だ」

西条さんは終末の獣に操られているとき、閑さんの父親、石倉さんをその手で殺めている。

月見里研究所の研究員が石化ブレスを浴びて石になった。

石倉さん以外の研究員は元に戻すことができたが、石倉さんは石化を解除する前に砕けてしまった。

石になって砕けた人は死ぬ。

「西条さんは操られていただけですよ。悪いのは終末の獣です」

「月見里さんにもそう言われたよ」

西条さんは自嘲気味に言った。

「閑さんに会ったんですか?」

「ああ。入院施設から出た後で。罵倒される覚悟でね」

謝罪は必要ないけれど、謝る気持ちがあるのなら、捕獲玉に関する実験結果の情報を提供した上で、西条さんの血液を提供するように言われたらしい。

終末の獣に操られていたことにより肉体に変化があるかを調べたかったそうだ。

西条さんの罪悪感を減らすために言ったのか、単純に研究対象としての好奇心によるものか。

うーん、後者の確率の方が高そうだ。

「さて、ボス部屋に到着したね。今回は戦闘シミュレーションAIは使わないでいこう」

「戦闘シミュレーションAI?」

「おや、知らないかい? だったら前言撤回、使ってみようか」

西条さんはそう言って、配信クリスタルから文字が流れて来る。

敵の攻撃パターンとその回避法、どっちに避けたらどのような追撃が来るかの確率まで表示されている。

チャット機能を使ってこういう情報も得られるのか。

「戦う人間のステータス、スキル、装備品などを入力することで最適な戦いの動きや敵の行動パターンなどを導き出してくれるんだ」

「こんなの初めて見ました」

「そうなのかい? 結構有名だと思ったんだけどね」

「いつもはさっき言ったみたいに口頭で作戦会議して突入してるので」

二十階層のボスだとそれすらしていないことが多い。

どう動くかとか、どう回避するかとかは基本行き当たりばったり感が強い。

「へぇ、さすが若い人は度胸があるね」

若い子って、西条さんも十分若――あ、そういやこの人若作りしてるけど、実はもう四十歳手前だったっけ。

入院中はもっと老けて見えたけれど、やっぱり今は三十歳手前にしか見えないから失念してた。

「確かに同じパーティで戦うならそれでもいいかもしれないけど、例えば、ダンジョンシーカーズなんかだと、固定メンバーでダンジョンに潜る事の方が稀だ。時間の都合の合う探索者でパーティを組んだりする。そうなってくると、それぞれ思ったまま行動するより、予め動きを決めた方が行動しやすい。ボス部屋の場合は情報もいっぱいあるからね。といっても、シミュレーションAIに頼れるのは序盤だけなんだよ。序盤の敵の型ってのはだいたい決まってるけど、そこからこちらの動きに合わせていろいろと変化していくから」

「へぇ、まるで将棋ですね」

俺は何気なくそう呟いた。

将棋も序盤の定石ってだいたい決まっているって聞くから。

まぁ、俺はそんな定石は知らないし、将棋も簡単なルールくらいしかわからないけどな。

「惜しい。将棋じゃなくて、囲碁のAIを作っている会社がこのソフトを開発したんだよ」

「そうだったんですか」

……囲碁はルールもわからない。

姫はこのAIソフトのことを知っているのだろうか?

いや、あいつが知らないはずがないか。

聞いたところ、AIを使うにはスキルの情報を入力する必要があるらしい。

俺たちは四人ともユニークスキルを持っている。

ユニークスキルを使った戦闘の作戦会議に戦闘シミュレーションAIを使うとなると、その戦闘シミュレーションAIの制作会社にスキルの情報を提供しないといけない。

それに、入力したステータスの情報が外部に流出したらやっぱり面倒なことになる。

そこからPDの存在がバレるのも避けたい。

うん、戦闘シミュレーションAI、やっぱり無しだな。

「じゃあ、行こうか。まずは僕が戦ってみるよ。君にはカッコ悪いところばかり見せたから、汚名返上とはいかなくても少しは大人らしいところを見せないとね」

「はい」

そういえばここのボスってなんだったかまだ調べてないな。

そう思ってボス部屋の扉を潜ると、中に黒く大きな魔物が空を飛んでいた。

全長十メートルはある影。

「空飛ぶクジラ……さすがダンジョン、なんでもありだな」

「なんでもありってのは同意だけど、これはクジラじゃなくて巨大なナマズだよ」

ナマズ!?