軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

静岡支部からの依頼(その1)

「よぉ、泰良。邪魔してるぞ」

「……また俺の部屋で勝手に。それ、青木から借りてる奴だから汚すなよ」

兄貴が俺の部屋に来ていた。

兄貴の部屋は現在トゥーナが使っているため、兄貴が遊びに来たときは自ずと俺の部屋に来ることになる。

「お前、ベッドのマットレス新しいのにしたらどうなんだ? これ、通販で買った5000円の奴だろ? 今のお前ならもっと高い奴買えるだろ?」

「別にいまのでも困らないし、買うのはよくても粗大ゴミに出すのが面倒だ」

「睡眠は大事だぞ?」

「兄貴がいいベッドで横になりたいだけだろ」

それに、最近はここで寝るよりPDの中で寝る回数の方が多い気がする。

PDのベッドはかなり寝心地がいい。

いい加減にリビングに行けよって言おうとしたら――

「父さんの誕生日プレゼントどうする?」

兄貴が別の話題をぶつけて来た。

あぁ、そういえば来週だったか。

「兄貴は?」

「俺はもう決まってる。このカタログギフトだ」

「結婚式の引き出物の残りだろ。前に見たぞ」

「ハズレはないだろ?」

ハズレはないだろうが、普通、父親の誕生日プレゼントにカタログギフトを贈るか?

しかし、俺はどうする?

ケーキは毎年母さんが買ってくる。

スライム酒はいつも贈ってるし、デパートで高級な酒でも買うか? いや、十八歳だから酒は買えないか。

ネクタイ、ネクタイピン、ハンカチ、泉州タオル……無難なプレゼントは過去に贈った。

かといって、金に糸目をつけずに贈るプレゼントはたぶん受け取ってもらえない。

いっそのことダンジョンの中で取って来るか?

と考えていたら、スマホが鳴った。

明石さんからメッセージだ。

「兄貴、車出せる?」

「出せるぞ。昨日車検から戻ってきたばかりだ。ガソリンスタンドの車検頼んだら、パワーウインドウのスイッチの部分がパカって外れて文句を言って無料で修理してもらったんだが、そのせいで余計に時間がかかってな――でどこに行くんだ?」

「八尾空港」

「八尾空港? 八尾に空港なんてあったか?」

「あるよ。緊急の仕事が入ったらしくて行きたいんだが、送ってくれない?」

俺たちはまだ高校生ということで面倒な依頼は結構断ってくれている。

それなのに用事ってことは、本当に大切な仕事なのだろう。

まさか、また新しい黒のダンジョンが? それとも終末の獣が出てきたのか?

「いいぜ! そういえば、八尾にコーヒーカップ一杯11万円の超高級コーヒーがあるんだが飲んでみたいと思わないか?」

「俺は缶コーヒーか、マクドのコーヒーで十分だから」

兄貴の会話に適当に相槌を打ち、明石さんに車で行くことを伝える。

「待て、泰良。フライトの利用者は事前申請したら無料で駐車場を使えるらしい。俺の車のナンバーを伝えて駐車場の申請もしておいてくれ」

「は? 空港まで送るだけだから駐車場に止めなくてもいいだろ?」

「念のためだ」

何の念かはわからないが、言われた通り伝えて車で移動する。

八尾空港に到着すると、既に明石さんが待っていた。

「お待ちしておりました、壱野様」

「お待たせしました、明石さん。これは――」

「はじめまして、泰良の兄です。宝石のバイヤーをしています」

と兄貴は名刺入れから名刺を取り出して明石さんに渡した。

明石さんも名刺を返して挨拶をする。

「ご丁寧にありがとうございます。弟の泰良様にはいつも助けられております」

「迷惑をかけていなければそれでいいんですが。で、これから弟はどこに行くので?」

「これから浜松に向かってもらいます。詳しくは現地で説明があると思います」

浜松――富士山よりは近いか。

まぁ、ヘリなら直ぐだろ。

「明石さん、私も行ってよろしいですか?」

「ちょ、兄貴! 何言ってるんだ。観光じゃないんだぞ」

どうせ、ウナギが食べたいとかそんな理由だろ。

送ってもらってなんだが、家に妊娠中の奥さんがいるんだからさっさと帰れよ。

そう思ったんだが――

「構いませんよ。用事が終われば観光の時間もあると思いますので」

明石さんがあっさりと了承してしまった。

もしかして、国の危機とかそういう仕事じゃないのか?

仕事が終わればって、俺、一体何をしに浜松まで行かされるんだ?

※ ※ ※

「幻のサファイアウナギ?」

「はい。どうか強運の持ち主である壱野様に、そのウナギを取ってきてほしいのです」

そう言って頭を下げたのは、ダンジョン局静岡支部の支部長さんだった。

なんでも、I国の要人が日本を訪れるのだが、その要人は大のウナギ好きらしい。

それを知った首相が、最高のウナギをご馳走すると約束した。

その要人はずっとSNSで「最高のウナギといえばサファイアウナギ、いつか食べてみたい」的な内容を投稿していたことから、その要人は幻のサファイアウナギが食べられると思い込んでしまったそうだ。

首相は普通に銀座の高級なウナギ屋を予約していただけで、その行き違いに気付いたのが今朝のこと。

どうにかサファイアウナギを手に入れられないかとダンジョン局に相談を持ち掛け、巡り巡ってダンジョン局静岡支部へ、そして俺へ依頼が回ってきたそうだ。

そもそも、事前に依頼の内容について説明がなかったのは、首相のうっかりミスの話を俺から世間にリークされることを恐れてのことらしい。

しょうもない依頼だな。

しかしそういう理由なら――

「わかりま――」

「断れ、泰良」

依頼を受けようとした俺の横で、兄貴が突然そう言ったのだった。