軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

もう一人のエルフ

35階層にエルフがいる……トゥーナ以外のエルフが?

トゥーナはシェルターの魔法を使ってこの世界に辿り着いた。

シェルターの魔法を使うにはかなりの力がいるそうだし、彼女が言うには自分以外のエルフは避難できなかったという。だが、彼女がシェルターの中に避難したのは何も世界が滅ぶ直前というわけではない。

彼女がシェルターに避難し、眠りについたあと何らかの方法で同じ方法を取り、この世界に辿り着いたエルフがいたとしても不思議ではない。

だから、トゥーナ以外のエルフがいたとしても不思議な話ではない。

だが、問題は何故、そのエルフがこんな場所にいて、そしてダンプルからエネルギーを奪っているのかということだ。

俺が知る限り、トゥーナから聞き、実際にエルフの世界に行ってこの目で見た限り、エルフとダンプルの関係は良好だった。ダンプルに害をなす理由はどこにもない。

わからない。

だが、この先何があるかわからない。

「35階層に偵察を送るか? アヤメの形代とか」

「それは無理だよ」

ミルクが言う。

なんで?

「時間の流れが違うから。形代を送ってそのエルフさんを仮にたった3秒で見つけても、この世界だと3万秒――九時間弱の時間が必要になるんだよ」

「うっ、それは。でも安全を考えると」

「すみません、壱野さん。形代の連続操作はできて一時間くらいです。それに映像が送られてきても情報処理が追い付かず……たぶん頭がパンクしてしまいます」

「うっ、じゃあ、姫の分身は――」

「私も同じよ。分身は連続使用数時間くらいが限度だし」

便利だと思った時間の流れの変化がこんなところで障壁になるとは。

「キッケ、時間の流れを戻すことはできないのか?」

「無理だぜ? 時間の流れを管理しているのはダンプルの奴だからな。あいつがいないと変更できない。おいらはシステムナビゲーターであって、管理者じゃないんだ」

やっぱり無理か。

「じゃあ、35階層に潜ってから偵察を――」

「あぁ、さっきから聞いていたが、それは無理だぜ? 35階層は本来は裏ボス用のマップなんだ。たぶんエルフがいるのはその裏ボスを配置するための部屋のはずだが、そこに行くにはパーティメンバー全員で転移装置に入る必要がある。だから、偵察を送るとかはできないんだ」

キッケが説明をした。

それならそうと先に言えよ。

覚悟を決めて先に進むしかない。

警戒はしているが、しかしエルフが今回の事件の黒幕だったのならむしろ幸運かもしれない。

なにしろ、こちらにはエルフの女王であるトゥーナがいるのだから。

エルフが何の目的なのかは知らないが、トゥーナが俺たちと一緒にいることを教えればついてくるだろう。

えっと、確かトゥーナの本当の名前は――

「アヤメ、トゥーナの本当の名前はルシャトゥーナだったよな?」

「はい、ルシャトゥーナ・ラミロア・マクル・ノ・ハンデルマスですね」

よく覚えてるな。

エルフに会ったら、ルシャトゥーナ女王が一緒にいるから、会いに行こうって言えばいい。

俺たちだけで説得するのが無理なら、一度家に帰ってトゥーナを連れて戻ってくればいい。 迷宮転移(ダンジョンワープ) を使えば三十一階層から三十五階層まで一瞬で転移できる。

それで解決したら戦闘になることもないのだ。

35階層の階段を下りた。

35階層は隠しダンジョンということで迷路になっていたが、まだ未完成のマップということで魔物の配置も済んでおらず、ただひたすら長い廊下をキッケの案内で歩くだけで済んだ。

「エルフって言ってもトゥーナと同じエルフなのかな? 世界っていっぱいあるんだから、トゥーナのいた世界以外にもエルフがいても不思議じゃないんじゃない? 夜の民の世界にいた人間たちって私たちと変わらない姿をしていたでしょ?」

「……そう言われてみれば」

勝手にエルフというから、トゥーナと同じ世界のエルフだと思っていたが、それ以外にエルフと呼ばれる種族がいても不思議じゃない。

「キッケ、エルフがいる世界っていくつもあるのか?」

「おいらが知るわけないだろ」

キッケが胸を張って言う。

やはり戦いの準備は重要だ。

「いざとなったら琴瑟相和を使うぞ」

皆も頷いた。

キッケの案内で迷うことなく最奥の転移装置の前に俺たちは辿り着いた。

転移装置は転移魔法陣と違って、機械の装飾の中心にあった。

まずは俺だけ乗ってみるが、反応はない。

やはり全員で乗らないと意味はないのだろう。

四人とキッケで転移装置の上に乗る。

すると、床に転移魔法陣が現れた。

そして気付けば俺たちは別の空間にいた。

ここも三十五階層なのだとは思うが、細長い通路の脇には壁も地面もない。遥か底が赤いマグマの海になっている。

恐ろしい空間だ。

その迫力に圧倒されて息を呑んだ。

落ちたらいくらレベルが高かろうと命はない。いや、身代わりの腕輪があるから命はあるのか。

「壱野さん……あそこにエルフが……」

アヤメが指差した方向にいたエルフ――彼女を見て俺は自分の目を疑った。

「なんで……嘘だろ?」

そこにいたのは俺が知っている数少ないエルフの一人だった。

黒い光を放つ方陣の上に立つ彼女は俺を見ると、小さく口を動かす。

『……イチ……様』

彼女は念話を使い、俺にそう囁いたのだった。

かつてのミレリーと同じ姿、同じ声で。