軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

クロスラティス大会

冒険者ギルドもやはり石造りの直方体型の建物だ。

日本の家屋みたいに屋根が斜めになっていないのは、そもそもここは雨の心配が少ないのだろう。

空全体を世界樹の枝葉で覆われているのだから。

雪の時とか、葉っぱの上に積もった雪が一度に落ちてきて事故とかになりそうな気もするが、この辺りは雪とか降らないのかもしれない。

冒険者ギルドの入り口には扉はなく、中には大勢のエルフが食事の飲み食いをしていた。

食堂なのだろうか?

『凄い人だな』

肉と酒の匂いが満ちている。

料理を見ると、野菜は少なく、キノコと木の実が主な食材になっている。

そうか、木の影に覆われたこの大地では畑を作るには不向きなんだ。

ただ、気になるのは、白い千切りの何か。

あれはなんだ?

芋? 大根?

『ミレリー、あれってなに?』

『あれは世界樹の内樹皮です』

『世界樹のっ!? 食べてるの?』

『はい。とっても美味しいんですよ』

と言ってミレリーは近くにいるエルフのお兄さん――やっぱり美形――に何やら話して、世界樹の樹皮が盛られたお皿を持ってきた。

『是非召し上がってください』

『うん、もらうよ』

茹でているようだ。

食べてみる。

食感はタケノコに似ているか?

少しコリコリしていて甘味と旨味もある。

『美味しいな。彼にもお礼を言っておいて』

俺は頭を下げる――お礼のポーズはこれで伝わるかな。

たとえば同じ握手でも、インドでは左手で握手したら無礼だって言われるし、アメリカでは強く握らないといけないっていう。

これでお礼の意味が伝わるかはわからなかったが、エルフのお兄さんは手を挙げて笑みを浮かべた。

ちゃんと伝わったようだ。

みんな食事を楽しんでいるな。

青木から聞いた『異世界に行って冒険者ギルドに行ったらベテラン冒険者に難癖をつけられるテンプレ』っていうのはないみたいだ。

『行きましょう。こっちです』

とミレリーが俺を案内してくれる。

人混みの中進み、あまり人のいないカウンターに向かった。

そのカウンターの向こうには、緑色の髪の見た目20歳くらいのお姉さんがいた。

エルフだから200歳くらいだろうか?

彼女とミレリーが話をして、摘んできたお花を渡した。

彼女は頷き――

『いらっしゃい。私はイリス・ノ・ハンデルマスよ。ミレリーを救ってくれてありがとう』

『イチ・ノ・タイラです。あの、ミレリーから聞いているかもしれませんが、俺ははぐれた仲間を探しているんですが、知りませんか?』

『ごめんなさい、今日はお祭りだから近くの村からも大勢の人がやって来ていて町の出入りの全部は把握できていないの。一応、見つかったら念話で伝えられるようにしておくわね』

とイリスさんは優しい声で言ってくれた。

俺は仲間の特徴を伝えた。

『タイガーウルフの買い取りをさせてもらうわ。ついてきて――』

彼女はそう言って、俺たちを裏口から別の部屋に案内する。

解体部屋だろうか?

ところどころ血の跡がある。

まさか、ここで俺を油断させて後ろからぶすり――なんてことはないよな?

『タイガーウルフはここに出して。常勤の解体担当職員は祭りでいないから私がささっと済ませちゃうわね。これでも解体技能Ⅱを持ってるから直ぐに終わるわ』

彼女はそう言ってマグロを解体するような巨大な包丁を持って言う。

俺はインベントリから雀の大きな葛籠を取り出し、そこからタイガーウルフを取り出した。

その時、売らずに持って帰った方が閑さんが喜んだかもしれないな――と少し考えたが、出してしまったものは仕方ない。

『へぇ、立派な個体。それを一撃――さすが別大陸から旅してきただけのことはあるわね。うちに欲しいくらい』

とイリスさんが言うと、ミレリーと何か話を始めた。

何を言っているかわからない。

暫く待っていると、ミレリーが俺の視線に気づき、

『あ、すみません。タイガーウルフの出現場所を報告していたんです。どうも、最近魔物の異常行動が見つかっているみたいで』

『あぁ、そうだったんだ』

ミレリーが魔物に襲われたのは彼女の不注意ではなく、普段出てこない魔物がいたせいか。

なんか、ミルクや姫の時と似ているな。

『異常行動の原因は?』

『調査中だそうです。もしかしたら、どこかに強い魔物が現れて魔物の縄張りが変わったのかもしれません』

縄張り争いに負けたタイガーウルフが新しい場所に逃げて来た。

ということはタイガーウルフより強い魔物が現れた可能性がある――ということか。

可能ならば倒してあげたい…………って、何を考えてるんだ。

ここは記憶の世界。

ここで俺が問題を解決したところで、何も変わったりしない。

だいたい、どこにいるかわからない魔物を二時間弱で倒せるわけがない。

『はい、解体終わったわよ』

え? もう?

イリスさんは返り血を一切浴びずに解体を終わらせていた。

凄い手際の良さだ。

『うん、状態もいいね。必要な部位を持っていきな』

『え? あ、じゃあ毛皮のこの部分と爪と牙を一本ずつ貰います……ね。あとこの肉片も』

『それだけでいいの? だったら買い取り額は……ミレリーを助けてくれたからおまけをつけて3000Dでどう?』

『はい、十分です』

俺がそう伝えると、イリスは解体小屋の端にある金庫からDコインを取り出してくれた。

地球のDコインと微妙にデザインが違う。

地球のDコインはDの文字が刻まれていたが、これは別の文字が刻まれていた。

自前のものを使わなくてよかった。

贋金を使ったと言われて捕まっていたかもしれない。

『そういえば、クロスラティス大会がもうすぐ始まるわよ』

『あ、もうそんな時間ですかっ!? イチ様、行きましょう!』

『え? クロスラティス……なにそれ?』

『ゲーム大会です。全員誰でも参加できて、誰でも優勝の可能性があるので私も楽しみにしていたんです。行きましょう!』

『それって、優勝したら女王陛下に会えるってあれ?』

『いえ、それはその後、同じ会場で行われます。その前座みたいなものですよ』

なるほど――誰でも参加できる大会で客を集めて、本命の大会を盛り上げるわけか。

このDコインで買い物を楽しみたかったが、そっちも気になる。

大会はあと10分で始まり、だいたい30分くらいで終わるらしいので、時間的にも間に合うな。

『イリスさんも一緒に行くんですか?』

『もちろんよ。誰でも優勝できるんだもの』

そうじゃなくて、仕事をしなくてもいいのかって聞いたんだけど――まぁ、いいや。

どうやら人気の大会らしく、皆が同じ方向に進んでいく。

行った先にあったのは、コロッセウムみたいだ。

もしかして、全員揃ってバトルロイヤルでもするのだろうか? 運が良かったらライバル同士が倒し合って優勝できる――みたいな?

入る時に一枚のカードを渡されたが、エントリーシートじゃないだろうな?

カードを見ている。

縦五文字、横五文字の二十五個の文字が並んでいて、中心の文字だけ光っている。

魔道具?

会場の入り口は何カ所もあって、俺たちはその中で人の少ない入り口から中に入る。

舞台の中心には大会運営らしい女性がいて、その上空には球体の物が浮かんでいて、その舞台の女性の姿が映っている。

これって光魔法を使った映像か。

『ミレリー、これってなに?』

『これから説明が――あ、イチ様はわからないんでしたね。では、説明をそのまま伝えます』

どうやらこの文字はエルフ文字らしく、五百種類の文字のうち、二十五の文字が書かれている。

モニターにこれから順番に一文字ずつ映し出されていき、その文字が映し出されると該当した文字も光る。

なお、中心の文字は『空虚』を示す『ん』の文字で、最初から光っている。

光った文字が縦横斜め、どれでもいいから一列揃ったらその者が勝者となる。

『これ、ビンゴ大会かよっ!』

なんでそこは翻訳してくれないんだ、念話さん。

『ビンゴ? イチ様の大陸ではそう呼ぶんですね。あ、始まりましたよ!』

とミレリーが言うと、文字らしきものが中心のモニターに映し出された。

そして、四つ目の文字が映し出されたとき――

「あ、揃った」

斜めに一列、綺麗に揃った。

俺のカードが輝き、その光が天に昇っていったのだった。