作品タイトル不明
エルフの森
森の中に俺は一人いた。
仲間が誰もいない。
別の場所に転移したのだろうか?
しかし、ここで慌てる俺ではない。
今の俺たちには念話というスキルがある。
『あ、あ、テステス。本日は晴天なり、本日は晴天なり』
と小ボケを挟む余裕さえあるくらいだ。
……あれ?
『おーい、誰か、返事してくれ!』
応答無し。
だったら、一度33階層の入り口に転移するか。
「解放: 迷宮転移(ダンジョンワープ) 」
魔法を使うが、反応なし。
あれ? どういうことだ?
廃世界から再現した世界の中では念話と転移魔法が使えないのだろうか?
「解放: 短距離転移(ショートワープ) 」
と少し前方に転移してみると、移動することに成功した。
魔法が使えなくなっているわけではないらしい。
ということは、ここはダンジョンの中で間違いない。
ダンジョンの外では魔法は使えない。
だが、ここまで来ても俺は慌てない。
何故なら、この世界は二時間経過すれば元に戻る。
懐中時計を取り出して時間を確認する。
遭難したときはじっとしているのが鉄則というけれど、二時間しかないのだから、まずはエルフの村を探して歩くとするか。
ただ、結構草が生えていて、真っすぐ進むのも一苦労だ。
だったら――と俺は見上げて、大きく太い枝を見つけ、
「解放: 短距離転移(ショートワープ) 」
とその枝の上に転移した。
これで結構遠くまで見ることができるな。
とりあえず、次はあそこか――
「解放: 短距離転移(ショートワープ) 」
転移魔法は二回使えば一分間空ける必要がある。
しかし、普通に歩くより楽に、遠くに移動できる。
これでエルフの村が見つかる。
何度か転移したところで――
「悲鳴っ!?」
女性の悲鳴が聞こえた。
と同時に、魔物の気配と人の気配を感じる。
気配のする方に行くと、虎のような狼のような魔物が少女を襲っているところだった。
少女の脇に花が入っている籠が落ちている。
花を摘みに来て魔物に襲われたってところだろうか?
記憶の世界だからここで彼女を助けたところで意味はない――とわかってはいるのだけれど、それでも身体が――というより口が勝手に動いていた。
「解放: 短距離転移(ショートワープ) 」
俺は虎狼の真上に転移すると、鞘から抜いた剣を突き刺した。
うん、バイトウルフリーダーよりは強そうだけど、差はあまりないな。
ってあれ?魔物が消えない?
あぁ、そういえば再生した世界の魔物は倒してもそのままだったよな。
黒豹の時も魔物が消えなかったっけ。
「大丈夫?」
俺は少女に尋ねた。
「××××××」
少女は首を傾げ、何か喋っているが――
言葉がわからない。
トゥーナと当たり前のように話しているからすっかり忘れていたが、彼女が日本語をペラペラ話せるのはダンポンから日本語を喋れるスキルを授かったからで、元々日本語を話せなかったって言っていた。
あれ? でも前の夜の民の世界では言葉が通じなくても不審がられることはなかったが、彼女は不思議そうにしている。
何か違うのか?
『聞こえますか?』
『えっ!? 念話!?』
『あ、よかった。念話スキルを持っていらっしゃるのですね。助けて下さりありがとうございます。私はミレリー・ノ・ハンデルマスと申します』
『あぁ、俺は壱野泰良っていいます』
『イチ・ノ・タイラ様ですか。危ないところを助けてくださり、ありがとうございます』
なんか名前の区切りがおかしい気がするが、ミレリーさんがそう言って俺に頭を下げた。
念話を使えば、言語が通じなくても会話できるのか。
これは大発見だ。
世界中の人が念話を覚えたら、言葉の壁が無くなることだろう。
ってあれ? なんでミレリーと念話が使えているのに、ミルクたちとは念話が通じないんだ?
それに、ミレリーも何故俺のことを警戒していない?
彼女にとって俺は初めてみる他種族の人間のはずなのに。
『イチ様は旅のお方ですか? タイラ村というのは聞いたことがありませんが、もしかして別大陸の方でしょうか?』
『うん、まぁこの大陸の者ではないよ。仲間と旅をしていたけれど、迷っちゃったんだ』
……あぁ、わかった。
俺、わかっちゃったね。
そして、この世界にはエルフ以外の種族はいない。
だから、耳が尖っていなかったとしても、俺がエルフではないという考えはないんだ。
きっと、少し変わったエルフと見ているのだろう。
そして、もう一つ気付いたのが名前についてだ。
エルフの名前は最後に村の名前がつくのだと思う。
ハンデルマスってどこかで聞いたと思ったが、そういえば、トゥーナの本名も最後はそんな感じだった。
彼女はハンデルマス村のミレリーであり、そして、ミレリーは俺のことをタイラ村のイチと思っているのだろう。
ここで訂正したら怪しまれるかもしれない。
だったら、誤解したままでいてもらおう。
『仲間を探しているんだけど、誰か通らなかった?』
『いえ……あ、でも近くにはハンデルマス村しかありません。お仲間の方もそちらにいらっしゃるのではないでしょうか?』
『そうかもしれないな。じゃあ、案内してもらっていい?』
『はい、喜んで。ちょうど今日はお祭りの日なんで、よかったら参加していってくださいね。お礼もしたいですし』
ミレリーは俺のことを特に警戒することなく村に案内してくれることになった。
『イチ様、タイガーウルフを運ぶの手伝ってください。このお肉、とっても美味しいので、村のみんなとっても喜びます』
虎も狼も食用って感じしないんだけど……本当にこれ、食べられるの?