軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32階層への階段

閑さんはほくほく顔で採取したサンプルを鞄に入れる。試験管やシャーレの中には、フレイムリザードマンの爪や鱗、肉片が入っていた。通常、魔物の素材はドロップアイテム以外は持ち帰ることができないのだが、そこで役立ったのが魔物用解体包丁だ。

魔物用解体包丁を使えば、斬り落とした素材を持って帰ることができる。

それはテイムした魔物であっても効果は同じ。

ただ、相手は従魔なので、問答無用に斬るのは勘弁してもらい、交渉をしての採取だ。

クロほどはっきりとした感じではないが、テイムした魔物とは簡単な意思疎通を取る事ができる。

爪や鱗については快く応じてくれた。

伸びた爪を切るだけだし、俺に殴られた衝撃で鱗もちょうど剥がれ落ちそうなところがあったそうだ。

問題は肉だ。

お前の肉、ちょっと包丁で抉り出していいかって聞かれて頷く人間がいないように、フレイムリザードマンも拒否したが、閑さんの交渉により、回復魔法で治療することを条件に尻尾の先を分けてもらった。

さらに、閑さんから、魔物解体包丁について売ってくれないかと言われたが、これは今後ミスリルゴーレムの解体、販売に必要なので断り、ただし、俺たちが使わないときに貸すという提案をした。

改めて、フレイムリザードマンの案内でダンジョンの中を進む。

途中、野生のフレイムリザードマンに遭遇した。

従魔のフレイムリザードマンと野生のフレイムリザードマンの遭遇。

どうなるのかと思ったら、なんかどっちもぎこちない態度を取っている。

もしかしたら、顔見知りなのかもしれない。

『え? どうする? 俺たち戦う?』

『あぁ、まぁ敵同士になったんだしな……命令があったら戦う?』

って言っているかのようだ。

と思ったら、敵のフレイムリザードマンが去って行った。

「どっかいった?」

「テイムした魔物が同種族と戦闘になった場合、知能の高い魔物が相手なら戦闘を放棄して逃げ出すことがあるそうよ」

姫が説明してくれた。

逃げたというより、戦闘を放棄したって方が正しいのか。

「私も西条虎の報告書で読んで知っていたが、ちの太くんは読んでいなかったのか? 調査依頼はダンジョン局によるものだが、その指示を出していたのは君たちだろう?」

姫が説明をし、閑さんが呆れた様子で俺を見た。

ミルクとアヤメも知っていたらしい。

いや、俺も報告書は読もうかなって思ったんだよ?

西条虎の捕獲玉に関する報告書、辞典並みに分厚くて読む気が失せたんだよな。

「じゃあ、この階層でフレイムリザードマンと戦う必要はないってことですか?」

「いいや、相性と性格の問題らしい。中には怒って攻撃をしてくる場合もある」

閑さんが説明をした。

よくも俺たちを裏切ったな! 成敗してくれる!

って感じだろうか?

魔物にも個性とかあるんだな。

実際、次に出会ったフレイムリザードマンは逃げ出したと思ったら仲間を呼んで戻ってきて攻撃してきた。

裏切者扱いされてるのか?

と思ったら違った。

「え? あいつらは別の群れのフレイムリザードマンなの? それで、ライバルの群れが人間を従えてカチコミに来たと勘違いされた?」

同じ種族でも全員が元味方ってわけじゃないのか。

まぁ、人間だっていがみ合うんだ。

同じ種族でも魔物が全員仲良しこよしじゃないのは当然か。

「お前は下がってろ。巻き込まれるぞ」

従魔のフレイムリザードマンに後ろに退避させ、俺は水魔法、ミルクは無魔法、アヤメは風と雷の融合魔法がフレイムリザードマンを襲い――あ、俺の水魔法だけなんかショボい。相性的にはいいはずなのに、フレイムリザードマンに触れると蒸発している。

とはいえ、魔法を鍛えるつもりはない。

魔法も剣もどっちもって考えは、器用貧乏に繋がりかねないからな。

魔法による攻撃はミルクとアヤメに任せ、物理攻撃を俺と姫が行う。

それが役割分担というものだ。

魔法で撃ち漏らしたフレイムリザードマンの炎を閑さんが指パッチンで消し去る。

やっぱり俺は剣で――

「炎がなかったら大したことがないわね」

姫が分身とともにフレイムリザードマンの残党を処理していた。

俺の役割は……あ、うん。

落ちてるドロップアイテムの回収ね。

それからも何度か戦い、時には見逃し、先に進む。

どうやら、32階層の階段はもうすぐらしい。

と思ったら、一番蒸気が噴き出している場所に来て、フレイムリザードマンもそこを進もうとしている。

「ちょっと待て。そこは面倒だ。回り道して行こ……え? 階段はこの蒸気の中心?」

マジかよ。

そりゃ中々見つからないわけだ。

高温ガスの中に階段を隠しているなんて。

さて、どうする?

俺の水魔法じゃ水蒸気を増やすだけで高温ガスの冷却効果は期待できないぞ。

「火傷覚悟で突撃する?」

姫が分身を消して言う。

「んー、俺一人で突撃するのがいいんじゃないか?」

火鼠の外套のお陰で高温ガスにも強いはずだし、対応力スキルを使えばすぐに火と水の耐性が付くはずだ。

一度32階層に降りて戻れば、 迷宮転移(ダンジョンワープ) を使って全員で32階層に移動できる。

できれば 短距離転移(ショートワープ) で階段のある場所に転移したいんだけど、あれは見える場所にしか転移できないんだよな。

「それが現実的ね」

「泰良、無理しないでね」

「少しでも壱野さんが怪我をしないように…… 風の速足(ウインドウォーク) 」

アヤメが補助魔法をかけてくれる。

うん、これで少し早く動けるな。

俺はアヤメに礼を言った。

「……泰良様、気を付けて。イヤな気配を感じる」

「イヤな気配?」

トゥーナが妙に怖いことを言う。

蒸気の中に何か隠れているってわけじゃないよな?

気配探知の反応はない。

32階層に何か待ち構えているってことか?

「それって本当なの!? 泰良、やっぱりみんなで――」

「いや、大丈夫だって。いざとなったら逃げるくらいはできるから」

姫が突撃を覚悟する。お前の速度なら一瞬で走り抜けることができるだろうが、他のみんなはやっぱりきついって。

「……泰良」

「ミルクも心配するな」

俺は彼女の頭を撫で、そして覚悟を決めた俺は息を止めて、フレイムリザードマンとともに高温ガスの中に突撃した。

暑い暑い熱い熱い燃える燃える燃える燃える!?

スチームサウナどころかスチームオーブンの中に入っているような気分――というかその現状の中で走り抜けた。

これで火鼠の外套と対応力の補助を得ているというのだからな。

他のみんなが突撃しなくてよかった。

そして――

(見えたっ!?)

下り階段を見つけ、中に転げ落ちた。

転がる時の痛みなど、蒸気の熱さに比べればどうということはない。

「死ぬかと思った。竹内さんはどうやって突破したんだよ」

なんとか32階層に到着したな。

さて、31階層に戻ってみんなと――って踵を返した途端、何かにぶつかった。

ん? なんだこれ、見えない壁?

引き返せない?

壁の向こう側にはフレイムリザードマンが取り残されている――と思ったら普通に中に入ってきた。

一方通行の結界なのか?

結界の向こう側が見えているのなら、

「解放: 短距離転移(ショートワープ) 」

結界の向こうに転移しようとしたが発動しない?

とその時、何かの気配を感じて俺は咄嗟に横に飛びのいた。

すると、突然床が砕けると同時に、そいつが姿を現した。

「待っていたゾ、壱野泰良っ!」

「お前は――」

そこにいたのは、ダンジョンシーカーズの元理事長――鈴原だった。

「ちっ、イヤな予感しかしない」

鈴原よりも、彼が着けている右手の真っ白い手袋が気になる。

まさか、そこにいるのか。

終末の獣が。