軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

水晶玉の導き

高校の昼休み。

アヤメがわざわざ朝早くに作って届けてくれたお弁当を食べていると、水野さんが声をかけてきた。

「鍛冶の協力者が欲しい?」

突然、水野さんから謎の宣言が。

鍛冶師になるには鍛冶スキルが必要だ。弟子を取ったからってその弟子が鍛冶師になれるわけではない。ましてや水野さんの仕事は、鍛冶の中でも特殊で、鍛冶師スキルに加え、魔道具作製スキルが必要となる。

非常に珍しいスキルで、同じスキル持ちの人を探してはいるのだが、フリーの鍛冶師はそう簡単に見つからない。

一応、妃の大学の後輩に鍛冶師スキルを持つ学生がいるのだが、卒業後まで働くつもりはないらしい。

そんなこと、水野さんだってわかっているはずなんだが。

「水野さん、疲れているんだね。ごめん、姫には魔道具の納品が遅くなるって伝えておくから、一週間くらい休んだらいいよ」

「ううん、確かに疲れてるけど、そうじゃなくて――今朝レベル35になって、仕上げってスキルを覚えたんだよね」

「仕上げ?」

聞いたことがないスキルだが、何かを仕上げるスキルか?

鍛冶師の覚醒者が覚えるスキルは特殊なものが多いからな。

「……ん、仕上げは鍛冶師の覚えるスキルの中では割とメジャーなスキル。エルフの鍛冶師も何人か持っていた」

当たり前のように一緒についてきたトゥーナが、カレーパンを食べながら言う。

鍛冶師といえばエルフではなくドワーフのイメージだけど、そもそもトゥーナのいた世界はエルフの世界なのでドワーフはいない。鍛冶師がエルフなのも当然か。

「仕上げはどういうスキルなんだ?」

「……文字通り、最後の仕上げをするスキル」

なるほど、わからん。

それと協力者がどう関係あるんだ?

「あのね、鍛冶師じゃなくても物作りができるスキルっていうのはあるの」

俺も簡易調合のお陰で薬を作ることはできる。

「その中でも割とメジャーなスキルに、模造っていうのがあってね実際にあるものを見たまま作ることができるスキルなの。ただし、武器の場合本物に比べて質が落ち、魔道具の場合は魔法の効果が発動しないの」

「それは使い物にならな……もしかして仕上げって」

「うん。仕上げスキルがあれば、その模造品に武器として本物に等しい質に上げたり、魔道具としての効果を持たせたりできるの」

なるほど、話が繋がった。

つまり、模造スキルを持つ人を雇って、面倒なことをその部下に丸投げして、水野さんはその仕上げだけを行うと。

水野さんに労基に駆けこまれることを考えると、素晴らしい提案だ。

「姫には言ったのか?」

「ううん。私って書類上は天下無双の理事ってことになってるけど、正しくは壱野くんに個人的に雇われていることになってるよね? だから先に壱野くんに聞いておこうって思って」

そういえばそうだった。

水野さんが鍛冶師として大成するには、俺が個人的に経験値ポーションを支給する必要があったからな。

彼女の給与も最初は俺の個人の資産から出す予定だった――が直ぐに水野さんが自分で稼げるようになってしまったっけ。

「話はわかった。ただ、模造スキル持ちだったら誰でもいいってわけじゃない。魔道具作製には高い素材を使う必要もあるからな。身元がはっきりした人じゃないといけないし、産業スパイの警戒しないといけない。人員を探すのは明石さんに丸な……任せていいか?」

姫と明石さんなら、その人の裏の裏のそのまた裏までしっかり調べて安全な人を雇ってくれるだろう。

「うん、その方が私も助かるよ。職場は家の隣の工場になりそうだから、変な人だと困るし」

これで、水野さんのブラック環境が改善されるといいんだが。

と思っていたら、突然、トゥーナがカレーパンを落とした。

一体何ごとかと思ったら、彼女は何もない虚空の中に手を入れ、そこから水晶玉を取り出した。

「壱野くん、あれって」

「導きの水晶玉だ。普段は神棚に飾っているんだが、何か反応があったときに直ぐにわかるようにって、学校に行くときはトゥーナがアイテムボックスに入れてるんだ」

「アイテムボックスに入れていてわかるの?」

「導きの水晶玉が作動したときは魔力が流れるからアイテムボックスの中に入れていても気付くらしい」

俺が説明をすると、トゥーナが導きの水晶を俺に差し出す。

普段は何も映らない水晶玉には確かに何かが映っていた。

「これって……池?」

水野さんにも見えているらしい。

確かに池が見える。

「これって、日下遊園地跡ダンジョン――いや、石切ダンジョンに名前が変わったんだったっけ? たぶんそこの横にある池だよ」

さらに映像が切り替わる。

堂島ロールを食べているダンポンが映った。

これはPDのダンポンだ。昨日、堂島ロールを買ってきてプレゼントしてやった。

ダンポンはダンジョンの数だけ存在すると言われているが、今日、この時、堂島ロールケーキを食べているのはPDのダンポンだけだろう。

そして、さらに映像が切り替わり、今度は祭壇?

23階層の祭壇だろうか? いや、壁画がないから33階層の祭壇か?

「石切ダンジョンって、確か九月から一般開放されたよね? 青木くんも行ったって言ってたよ。家から近いのは便利でいいけど、あの地獄の坂を自転車で登るのは一苦労だって――」

そして、石切ダンジョンはある理由で行かないといけないと思っていた場所で、閑さんと33階層に行く約束をしていた。

既に31階層の敵も倒せるようになった。

そろそろ33階層にも行けるだろう。

「……ん?」

水晶玉の映像が消えた。

ただ、水晶玉の映像が消える一瞬、何か人影のようなものが映ったように見えた。

一瞬だったから気のせいかもしれないが、あれって鈴原じゃないだろうか?

行方不明だって聞いているが、なんであいつの姿が映ったんだ?