軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21階層の世界(その1)

ダンジョンの中に人が生活しているっぽい街があった。

これはリスナーも驚いているだろうと思ったが、コメントが一切届いていない。

「配信が切れてる?」

「うむ……23階層の祭壇と似ているな。恐らく、妨害されているのだろう」

念のために21階層の転移陣の場所に戻ってリスナーに確認を取る。

やっぱり配信が途切れていたみたいで、21階層に入ってから俺たちの様子が見えなくなっていたらしい。

リスナーたちには21階層に人が住んでいる街があったことは伝えず、夜の荒野だったことだけ伝え、配信を終了。

そして、明石さんにだけ、人が住んでいる街らしきものがあったから調査に行くことを伝えた。

さすがに今回のダンジョンは今までと毛色が違い過ぎる。

そして、俺たちは再び21階層の夜の荒野に行き、城壁の方に向かった。

街の方には多くの人の気配がするほか、夕食を作っているのだろうか? いくつか煙が見える。

城門は開いていて、衛兵らしき人が槍を持っている。

「大した強さではなさそうだな。いざとなったら反撃は可能か」

閑さんが襲われる前提で話を始める。

まぁ、俺も気配を読めばだいたいの強さがわかるのだが、21階層にいるにしては弱いと思う。

ダンジョンの外だったら強いと思うけれど、ダンジョンの中だったらせいぜい3階層くらいの魔物の強さじゃないだろうか?

しかし、あれは本当に人間なのか?

魔物が化けている、もしくは魔物が見せている幻という可能性は?

「真実の鏡を使いますか?」

俺は閑さんに尋ねた。

「泰良、真実の鏡って何?」

「新しいスキルですか?」

アヤメとミルクには言っていなかった。

「水野さんが作った魔道具だよ。鏡に映った者の正体を明らかにする鏡で、変化している魔物の正体を暴いたり、相手の本性なんかを露わにする魔道具なんだ」

「それは便利そうね」

「それは怖いですね」

ミルクとアヤメが逆の感想を言う。

しかし、どっちも正しいのが真実の鏡なのだ。

「姫は知ってたの?」

「ええ。一応泰良に相談を受けてね。この情報は公開しないって共通の見解よ。多分、こんなものが世界に出回ったらとんでもないことになるわ。本音と建て前の使い分けすらできなくなるもの」

と姫が言う。

法律を作ってしっかり規制すれば――とも思ったが、その法律を作る政治家もこの魔道具の存在は許容できないだろう。

というかこんなものがあったら戦争の火種にすらなりかねない。

しかし、こういう幻の中に迷い込んだかもしれないという状況下では便利そうだ。

「ちの太くん、真実の鏡を使うのはあとにしてくれないか? ここがダンジョンの中の街だとしたら、まやかしであったとしても調査をしたい」

「私も調査には賛成ね。とはいえ、無防備に突っ込むのは得策じゃないから、先に分身を送り込みましょう」

と姫は分身を一体作って街へと向かわせた。

こういう偵察にはもってこいのスキルだ。

姫の分身が街に行っている間、俺たちは街の周囲を見て回る。

普通に魔物もいたのだが――

「黒い豹みたいな魔物ですね……閑さん、知ってますか?」

「いいや、初めて見る……が、ちの太くん、気付いたか?」

「はい。かなり弱いと思います」

21階層の敵にしてはかなり弱い気配だ。

ここに来る途中に倒したレッドバイパー程度だろう。

と考えていたら、黒豹がこちらに気付いて駆けてくる。

殺気を感じる。

俺たちを獲物と感じ取ったのだろう。

「解放: 火薬精製(クリエイトガンパウダー) 、解放: 熱石弾(ホットストーンブレッド) !」

ミルクが銃の引き金を引く。

銃弾は黒豹のコメカミに当たり、一撃で死んだ。

死んだ――うん、気配はない。

だが――

「え?」

死体が消えていないのだ。

頭から血を流して倒れている黒豹がそのまま横たわっている。

どういうことだ?

「魔物じゃないのか?」

「ちの太くん……これを持って帰りたい」

「持って帰りたいって、持って帰ってどうするんですか?」

「研究材料に決まってるだろう。倒しても消えない魔物――非常に興味深い」

そんなこと言われても――やっぱりインベントリに入らない。

鑑定もできなかったので、アイテムの扱いじゃないんだ。

これを背負って移動するのは面倒だぞ。

そうだ、あれが使えるかもしれない。

俺はインベントリからあのアイテムを取り出した。

「雀の大きな葛籠!」

とさっきの閑さんみたいに、某猫型ロボット風の掛け声で魔道具の名前を言う。

見た目は大きな葛籠だ。

「それって、西条さんが持ってたアイテムですよね?」

「ああ、貰ったんだ。中に魔物を入れることができるアイテムらしい。逆に魔物以外は入れることができないんだが――と入った入った」

死んでいたら入らないかもしれないって思ったが、無事に入れることができてよかった。

大きな葛籠の中に黒豹の死体を入れた。

それをさらにインベントリに収納する。

「でも、なんで魔物は消えなかったんでしょうか? 仮死状態とかじゃないですよね?」

アヤメが尋ねる。

「ああ。恐らくここはそういう場所なのだろう」

そういう場所? どういう場所なんだ?

と考えていたら、分身の姫が戻ってきた。

「どうだった? って、それなんだ? 果物?」

「ええ。貰ったの。これ、結構美味しいわよ」

「貰ったってことは人と会話できたのか?」

「うーん、会話は無理ね。何を言ってるかわからないのよ」

日本語じゃないのか。

ただ、果物を貰ったってことは、いきなり襲われるってことはないみたいだな。

身振り手振りのコミュニケーションでなんとかするしかないか。

あと、果物も鑑定できなかった。

ダンジョン産のアイテムなのに鑑定できないのか?

「ただ、少し変な感じがするのよね。危なくはないみたい」

と言って、分身の姫は果物を本体に戻すと姿を消す。

「姫くん、それを貰ってもいいかね?」

「ええ、いいわよ」

「助かる。いいサンプルになる」

と言って、閑さんは自分の鞄からアルミの袋を取り出した。

【保存袋:物は腐ることも崩れることもなく安全に運べる保存用の袋】

こっちは鑑定できた。

やっぱり鑑定スキルが使えなくなっているわけではないのか。

とにかく俺たちは街に向かった。

「そういや、姫。どうやってあそこを通過したんだ?」

「どうやってもなにも、こっちが笑顔でいったら向こうも笑顔で通してくれたわよ」

と姫が真っすぐ歩いていくと、衛兵は俺の知らない言語で何か言ったが、問題なく通ることができていた。

俺たちも彼女に続いて街の中に。

やっぱり衛兵は笑顔のままだった。

俺たちはともかく、見るからに怪しい閑さんが顔パスで通過できるとか、ここの警備ザル過ぎるだろ。