軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

トリプルレベル(その1)

俺の正体がベータであることを先に明かしていたのが良かった。

ベータがトゥーナを発見し、保護したことはクラスメートの大半が知っていたので何故彼女がこの高校に転校してきたのかについては疑問に思うことはなかったらしい。

一応、文化交流の一環ということになっている。

とはいえ、騒ぎにならないはずはなく、ホームルーム後、彼女の周囲は人で埋め尽くされ、隣の席にいた俺は落ち着いて座っていられるはずもなく教室の隅に追いやられた。

「凄い人気だな、トゥーナちゃん。いやぁ、あれで八十歳っていうから信じられないよ」

「エルフは長生きらしいからな。前に八十歳ならお婆ちゃんのように扱ったらいいのかって聞いたら怒られたから、見た目通り扱ったほうがいいぞ」

「じゃあ、合法ロリじゃなくて違法ロリなんだな……いや、脱法ロリか?」

と青木がバカなことを言う。

「それより、ダンジョンに行くのか?」

「もちろんだ! 黒のダンジョン、楽しみだな!」

「そうだな」

今回の黒のダンジョンは世界一安全なダンジョンだという。

なんでも、怪我はしないし命の危険もない、それでいて安全マージンもないという設定になっている。

一体どういう仕組みなのかは気になるところだ。

「水野さんはどうするの?」

トゥーナの登場で、一転注目の的の座を明け渡すことになった水野さんに尋ねる。

魔物に攻撃されるのが怖い彼女なら、絶対に安全という黒のダンジョンなら平気じゃないかって思った。

「うーん、私はやめておくよ」

「絶対安全だけど?」

「安全だって言われても。魔物を殺すのとか嫌だし――」

と水野さんの言う通り、安全で怪我の心配もなくお小遣いも稼げると言われても、女子生徒(一部男子生徒を含む)の中には魔物と戦うこと、命を奪うことへの抵抗がある人は少なくない。

「戦うんじゃなくて、食べるための狩りのダンジョンなら喜んでいくんだけどね。釣り堀ダンジョンとか作ってくれないかな?」

「水野さん、そういうところは割とはっきりしてるね」

もしも彼女が一人で無人島に転移することになっても逞しく生きていけるんじゃないかって気がする。

食べられる野草の知識、罠を使った魚の捕獲、そして鍛冶師としての道具作り。

無人島で生きるためのリアルスキルを多く持っている。

「壱野もいくんだろ?」

「俺はみんなより先に行くっぽい。チーム救世主として配信してほしいって依頼が来てるんだよ。そもそも、今回のダンジョン学園の設立も俺たちが生駒山上遊園地のダンジョンを攻略したのが原因だしな。一応、竹内さんが先に調査をして安全確認は済ませてるらしいぞ」

「竹内さんって、国内一位の竹内信玄さんか。凄いよな。日本一位で政府の仕事にも協力的で。トップランカーといえば、牧野の父ちゃんはまだ日本には帰って来られないのか? あの人も昔は信玄さんと同じパーティだったんだろ?」

「なんかアメリカの仕事が結構大変で長引いてるみたいでな。でも、秋には帰って来られるってミルクから聞いてる」

と話していたら水野さんがスマホを取り出す。

「お、水野さんスマホ買ったんだ。番号交換しようよ」

「うん。でも、ちょっと待って、いまメールが来て……えっ」

「どうしたの?」

「昨日作った魔石を融合する装置――取り急ぎ100台の注文が入ったみたい。素材を用意するから作ってほしいって」

「忙しくなるね……」

「……うん。ダンジョン学園に行かなくて本当によかったよ。これでまだ国内だけの注文だっていうんだから輸出することになったらどうなるんだろ」

水野さんの背中から哀愁が漂っていた。

うちはブラック企業じゃないはずだけど、なんかごめん。

※ ※ ※

「トゥーナが泰良の学校にね。この前、私の学校の制服に興味があったみたいだからもしかしたら、その時には編入するつもりだったのかな?」

PDの中でミルクが言う。

閑さんが担任になる前から既に画策していたっぽいからな。

たぶん、以前、梅田ダンジョンで襲われた後で要望を出したのだろう。

しかも、俺に反対されることを見越して、秘密裏に進めていた。

閑さんが俺だけには言えないって言っていたのも、トゥーナに口止めされていたからか。

「単純にサプライズかもしれませんけどね」

「サプライズだとしたら、ミコトが裏で手を回していそうだな。そういうのが好きそうだ。それで、今日は二人はどうするんだ?」

とミルクとアヤメに尋ねた。

「今日は二人で24階層でメタルスライム狩りをしようかなって思ってるの。泰良も一緒に来る?」

「ん? アヤメはともかく、ミルクはメタルスライム倒せないだろ?」

「昨日、薬魔法で金属溶解液を出せるようになったの」

なんとタイムリーな。

金属溶解液って薬なのか? って疑問はあるが、化学薬品かと言われたらその範疇に含まれるか。

ただ、ミルクが魔法で作った薬は一定時間が経過すると消えてしまうので、魔石を融合する装置の素材としては使えないだろう。

なお、姫はその魔石融合装置に関して理事長決済が必要な仕事が舞い込んできたらしく、今日はPDはお休みだ。

ということで、三人で25階層の入り口に転移して、24階層に階段で登る。

「二人とも――魔力の残量には気をつけろよ」

「うん。今日中にレベル100にならないと」

「壱野さんと押野さんに急いで追いつかないといけませんから」

メタルスライムが現れた。

「解放: 金属溶解(メルトメタル) 」

ミルクが使っている魔法の杖の尖端から液体が飛び出した。

普通の水魔法のように見える。

だが、それに触れた途端、メタルスライムが溶けたのみならず、金属製の床や壁も溶けた。

あ、金属の壁や床の下は普通に岩肌なんだな。

「凄いな……これ、金属系の魔物には効果があるのか?」

「うん。ブロンズゴブリンとかブロンズリザードマンとかにも効果があったよ」

「危なくはないのか?」

「人体には無毒だよ。あ、でも触らないでね。泰良の剣が溶けたりしたら大変だから」

ダンポンに頼めば修理してもらえるとは思うが、それは避けたいな。

今度はメタルスライムの集団が。

と思ったら、アヤメがスライムデスサイズ――スライムを即死させる大鎌を振るって纏めて殺していた。

一匹や二匹ならミルクが、一度に大量に出て来たらアヤメが倒す感じか。

これなら俺の出番は無さそうだ。

だったら、26階層でネオキューブを倒してトレジャーボックス集めをするかな。

「あ、壱野さん――26階層に行くのなら――」

とアヤメがヤツデの葉を取り出して、それを式神化した。

女の子化した小さい鬼の式神が現れる。

「このゼンちゃんも連れて行ってあげてください」

「よろしく頼み申す」

鬼が頭を下げる。

こいつ、ゼンって名前になったのか。前鬼だからゼン。

わかりやすくていいと思う。

「わかった。ゼン、クロ、行くぞ」

影の中で待機していたクロにも声を掛け、影獣化を使用。

俺たちは26階層に転移し、ネオキューブ狩りを始めた。