軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

真実の鏡

ここで待っているようにと案内された部屋には紅茶とお菓子が用意されていた。

普通の焼き菓子のように見える。

「美味しい、このクッキー」

水野さんが早速一枚食べて感想を言う。

俺も食べてみると、かなり美味しかった。

一体どこで買ったのかあとで教えてもらいたい。

紅茶もちょうどいい温度で飲みやすい。

閑さんが戻ってこないので、少し水野さんと雑談をする。

「水野さんは大学に行くの?」

「んー、行くつもりはなかったんだけど、お金にも余裕ができたから、少し考えてはいる。気になる大学はいくつかあるんだけど、鍛冶師としてGDCグループに外部研修できないかなってのも考えてるんだけど、それも大学卒業後でも行けるしね」

「外部研修? GDCグループに?」

「うん。GDCグループって所属している鍛冶師の数が世界一多い企業でね。鍛冶師の外部研修の受け入れもしているみたいなの。お金はちょっとかかるみたいだけど、大学に行くよりそっちで学んだ方が将来のためになるんじゃないかなって思って」

水野さんは「まずは研修先でコミュニケーションを取れるように英語を頑張って覚えないといけないけどね」と言った。

ちゃんと将来のこと考えてるんだな。

「壱野くんは大学に行くの?」

「行く気はなかったけど、閑さんが推薦出してくれるって言って、ミルクとアヤメも乗り気になってる」

「まぁ、壱野くんはPDで長時間ダンジョンに潜ってるんだから、大学は身体を休める場所って思えばいいんじゃない?」

確かに、いまでもPDで長時間ダンジョンに潜るときは高校に行くのが息抜きみたいなところがある。

そう考えると大学に息抜きって考えは悪くないか。

と考えていたら閑さんが戻ってきた。

鏡と小瓶を持っている。

あれが魔鏡と金属溶解液か。

【魔鏡:魔法を一度だけ反射することができる鏡。強すぎる魔法は反射できずに壊れてしまう】

【金属溶解液:金属製の魔物を溶かすことができる魔法の薬】

金属の魔物を溶かす薬ってどこかで聞いた気がする。

あ、メタルスライムを倒せる魔法の薬ってこれのことか。

「ありがとう閑ちゃん。お金は振込でいい?」

「いや、金は必要ない」

「でも、どっちも魔法の素材ですよね? 買ったら何百万とか何千万とかしますよ? 一応、お金は稼いでいるので――」

「子どもが大人に遠慮する必要はない。どうせ私には必要のないものだ。それより、これで何を作るのか見てみたいな」

「じゃあ、作ってみますね。壱野くん。残りの素材貰ってもいい?」

「ああ、いいぞ」

魔銅や魔鉄などの魔法の金属、砂、そして魔石に金属溶解液か。

一体、これで何ができるんだ?

暫く待つ。

待ちながら雑談。

「え? あのクッキー閑ちゃんの手作りなの!?」

「うむ。菓子作りというのは化学と同じ。調合と似ているからな」

さっき、調合感覚で作ったクッキーを食べていたのか。

一時間後。

「できた!」

水野さんが言った。

時間がかかったが、なんだろう?

羽の無いミキサー?

「これは魔石の融合器だよ。黒の魔石を10個いれたら白の魔石1個に、白の魔石を10個入れたら黄色の魔石が1個できるんだ」

「へぇ……って、あれ? それだと得も損もしないんじゃないか?」

黒の魔石は500円、白の魔石は5000円、黄色の魔石は50000円で買い取りされている。

「いや、便利だな。日本に保管されている魔石の8割は黒と白の魔石で、その保管や輸送にかなりの費用がかかっている。そのためのコストが削減されるのだから、需要は高い。マインくん、これは直ぐに注文が来るぞ」

「やっぱりそう思います? じゃあ、次のを作りますね」

「また一時間くらいか?」

「えっと、ううん、たぶんそんなに時間がかからないと思う。いまのでクエスト達成して開発技能が手に入ったから魔道具の作成時間が短縮されてるみたい」

「へぇ、それでどんな魔道具ができるんだ?」

「相手の正体を暴く鏡みたい。魔法で変身したり擬態して隠れている魔物を見つけ出すのに便利だと思う」

水野さんの言う通り、次の魔道具は30分で完成した。

とその時だ。

水野さんの身体が急に光った。

「えっ!? なに、これっ!?」

「水野さんっ!」

造った魔道具が暴走した!?

と思ったら――

「壱野君、何が起こったの」

「み、水野さん……その髪」

「髪?」

俺はスマホで彼女の写真を撮って見せた。

水野さんはその写真を見て目を見開いた。

そして、自分のおさげ髪を見てさらに驚いた。

彼女の髪の毛が全て真っ白になっていたから。

【真実の鏡:鏡に映った者の真の姿が明らかになる】

なるほど――魔物だけでなく人間にも有効だったわけか。

まぁ、俺は髪を染めたり化粧をしていないから見ても平気か――と思ったときだった。

今度は俺の影が光ったと思うと、影の中からクロが飛び出した。

影の中に隠れていたクロの真の姿を暴き出したのか。

「え? クロちゃん……だよね?」

水野さんがそう尋ねるのは、クロの姿がいつもと違ったからだ。

犬にしてはその牙は鋭く、そして眼光も鋭い。

そうか、偽りの首輪でペットに見えるように姿を変えていたが、それが暴かれたのか。

「ほぉ、それがちの太くんの言っていたペットか。中々いい面構えだ。飲み物はミルクでいいかね?」

と閑さんは牛乳を取りに行った。

その時、真実の鏡が閑さんを映し出したのだが――何も変化は起きない。

目の下に隈があって寝ぐせのある今の姿がありのままの真の姿ってことか。

とその時、部屋のクローゼットが開いて中から何かが落ちた。

「なんだこれ、色紙と写真?」

どっちもラミネート加工がしてある。

色紙に描かれているのは寄せ書きだった。

【月見里先生、短い間でしたが、ありがとうございました】

【先生のお陰で行きたい大学が決まりました。ありがとうございます】

【化学が好きになりました】

これ、生徒からの寄せ書きだ。

そして写真は生徒と閑さん?

「おや、しまっていたはずだが」

「クローゼットが勝手に開いて。閑さん、これって」

「教育実習に行ったときの写真と生徒からの寄せ書きだ。私の宝物だよ。」

「え? 閑さん、教育実習とかしたのか?」

「それは当然だ。ちの太くんには言ったと思うが、金〇先生に憧れていたんだ。ただ、父の反対で教師の道に進ませてもらえなかった。一度は諦めた道だが、こうして夢が叶うとはな。これもちの太くんの幸運値のお陰かな」

と閑さんは不敵な笑みを浮かべる。

『君も私に出会えたことを幸運だと思うか』

かつて、職員室で閑さんが言っていた。

君 も(・) ってことは少なくとも閑さんは俺に出会えて幸運だと――先生になれたことが幸運だと思っていたってことか?

いや、でもこれだけで閑さんを信じるって言うのは。

俺をモルモット呼ばわりしていたわけだし。

と俺は視線を持っていた色紙に落とすと――

【しずかちゃん、いくら生徒がかわいいからってモルモットって呼ぶのは勘違いされるからやめた方がいいよ】

……は?

「閑さん……俺のことをモルモットって呼んだじゃないですか? あれってどういう意味で言ったんですか?」

「言葉の通りだ。モルモットのように可愛らしい子どもだと言った」

「実験素材って意味じゃなかったんですか?」

「生徒を実験素材にする先生がいるわけないだろ」

…………いやいや、さすがにそれは嘘だ。

だって――

「閑さん、俺の幸運値について調査したいって――」

俺のことは生徒としてではなく、調査対象として見ているってことだろ?

「当然ではないか。君の幸運値は異常だ。私が調べたところ、君は万博公園ダンジョンでイビルオーガに襲われ、石舞台ダンジョンでは幼馴染の牧野ミルクが襲われている。生駒山ダンジョンの件では無理やり日本代表の探索者に選ばれ、梅田ダンジョンでは西条虎と戦うことになった。結果的にちの太くんは救われたが、それらの事件に巻き込まれたことを運が良いと思うかね?」

「それは……」

俺も思っていた。

幸運値が高いにしては、変な事件に巻き込まれ過ぎじゃないかって。

「私の予想だと、君の幸運値は確率の偏りを良い方に引き起こす代わりに、その歪が出て不運に巻き込まれる可能性が高いと思う。そのような状態で放置すると君の身に危険が及ぶではないか。しっかりと調査をし、その不運の対処をできるようにする必要がある」

「……俺のために調査を?」

ってほだされるな。

全ての偶然が一度に解けるなんて偶然が――と視界に鏡が入った。

【真実の鏡:鏡に映った者の真の姿が明らかになる】

……真の姿?

まさか、これに映ったから、閑さんの教師としての姿が明らかになったっていうのか?

「さて、ちの太くんとマインくんの保護者には既に電話をしているが、夜も遅い。車で送ってやるから帰る準備をしなさい」

さっきまでの俺だったら、車で送ると言って、研究所に連行するんじゃないかって思うところだが、マッドサイエンティストってフィルターを外して見ると普通にいい先生にしか見えない。

あぁ、くそっ……閑さん、もっと国語の勉強をしてくれ!