軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑さんの家庭訪問

閑さんが来たことで良かったことがあるとすれば、俺がベータだと身バレしたという大きな話題が彼女にかなり逸れたことだ。

閑さんは、自分がレベル300越えの探索者であること、国内ランキング32位の探索者であることなどを暴露した。

一人で23階層まで行っていることから強いだろうとは思っていたが、それには俺も驚いた。しかも14歳で海外の大学を飛び級で卒業し、日本に戻って月見里研究所を設立し、ダンジョン素材の研究に携わっていたのだという。

なんで先生になったのか? という生徒の質問には、

「私は子どもの頃から先生になるのが夢だったんだ。実は金〇先生が大好きでね。できればこの1組をB組に改名してほしいくらいだよ」

と嘯いていた。この人は生徒を番号で呼ぶタイプだと思う。

教員免許も本物かどうか疑わしい。

ただ、生徒からは結構人気になっていて、「しずかちゃん」呼びが定着しつつある。

「それで、やっぱりしずかちゃんが来たのって壱野くん目当て?」

「そうだって言ってたよ。俺の幸運値の秘密を探りたいらしい」

「そっか。運がいいのも大変だね」

水野さんとは、二人で下校し情報共有をすることに。

「他人事じゃないよ。水野さんだって、魔道具製造スキルっていうレアスキルを持ってるんだし。『これはまた優秀なモルモットだ』とか言って狙われるかもしれないよ?」

「え? しずかちゃんって生徒のことモルモット呼ばわりするタイプなの?」

「俺は言われた」

「そっか……ちょっと意外」

と水野さんが引き気味に言った。

まぁ、みんなの前では白衣と寝ぐせを除けば結構普通の先生っぽいこと言ってたもんな。

金〇先生が大好きってのは嘘だとしても、金〇先生を見て学校の先生になり切る研究くらいはしていたのかもしれない。

「それで、レベルの方はどう? 順調?」

「うん。あの丸薬凄いね。一気に10粒くらい飲めるし、あのコップに入れて飲んだら効率もあがるからもうレベルが上がったよ」

「そっか。俺も簡易調合の熟練度が上がって調合が楽になったからな。むしろドラッグトードを倒すのに手間取ってるよ」

と話をしながら水野さんと一緒に帰宅。

庭に移動すると、真っ先に水野さんに気付いたシロが走ってくる。

俺が帰ってきてもここまでのお出迎えは滅多にないので、やっぱりシロは水野さんのことが大好きなんだよな。

「シロちゃん」

水野さんがシロを抱え上げる。

クロがゆっくりと歩いてきて、俺の横に座った。

クロには事前に説明をしていた。

今日、水野さんと一緒に帰ってきたのは情報共有だけが目的ではない。

一番の目的は、シロを引き取ってもらうためだ。

「水野さん、これ。シロが好きな野菜入りの犬用チュール。クロは野菜の入っていない方が好きだから、これは持って行ってよ」

「うん、ありがとう。じゃあ貰うね」

シロはいつもと様子が違うことに気付いたようで、不安そうにクロを見る。

「わふ」

クロがシロに声をかけた。

クロは実は鳴くのは得意ではない。むしろ苦手だ。

苦手すぎて、「わん」と吠えることができず、「わふ」になってしまっている。

元々狼はワンワンと吠えたりはしない。

これは姫から聞いた話なのだが、犬が吠えるのは、よく吠えて人間とコミュニケーションを取る種が優秀な猟犬として重宝されてきた結果なのだという。

だから、クロがこれまで声をかけたのは俺に対してだけだった。

そのクロがシロに声をかけたのだ。

大丈夫だ。いつでも会いに行く。

そういう意味で。

「くぅん」

シロは水野さんの顔を見て、彼女の顔を舐めた。

俺にはクロの言おうとしている意図はわかっても、シロの言葉はわからない。

でも、この時は一緒についていくと言ったのだと思った。

その後、母さんが庭に来て水野さんと挨拶をし、シロとお別れをする。

母さんもシロのことは可愛がってくれていたからな。

そして、水野さんが帰った後、パソコンで仕事をしていたトゥーナに、閑さんのことを説明する。

もしも会うのが嫌なら、新しくできたリモート用の建物に避難していてもらおうと思ったのだが、

「……会う」

と即答。まぁ、そうなるだろうと思っていた。

滅んだ世界を救う方法、しかもこことは異なる世界を。

それは砂漠の中に落ちたコンタクトレンズを探すよりも難しい話だ。

エルフの世界を救う方法に繋がる可能性が僅かにでも増えるのであれば、彼女は首を縦に振ると思っていた。

閑さんが来るのは13時頃で、昼飯を済ませてから行くと言っていた。

俺たちも早めに昼食を済ませる。

「夏のうちに素麺を食べきっちゃいましょう」

ということで、今日も素麺である。

まぁ、嫌いじゃないからいいけど。

トゥーナはいつものように素麺にカレーをかけている。

一度真似をしたことがあるが、冷たい素麺に温かいカレーをかけると皿の中でぬるくなって少し苦手なんだよな。

母さんは細かいことは気にしないのでカレーでもいいと言っているが、俺は麺つゆで食べる。

「先生はどんな方なの? 電話で聞く限り、雰囲気のいい若い先生のようね」

「えっと、研究者タイプの先生かな? ものすごく優秀な探索者だって」

「だから泰良のことも相談に乗ってくれるのね。助かるわ。高橋先生は探索者にはあんまり詳しくなかったもの」

と母さんが言う。

うちの高校にも卒業後は探索者になりたいって生徒は大勢いるけれど、在学中にレベル100に到達した探索者は過去に一人もいなかっただろうし。

昼飯を食べ終わり片付けが終わったところで、トゥーナが着替えてきた。

最初に発見したときに着ていた服だ。

エルフの正装らしい。

「……世界を救う手がかりをくれるかもしれない学者様に会う。正装は必須。歓待の舞いは必要?」

「エルフの歓待の舞いっていうのがどんなダンスかは是非見てみたいという気持ちはあるが、必要ない。ただの家庭訪問だ」

あまり大袈裟にもてなすのはやめてほしい。

できればアウェイの空気を作ってこの家には来てほしくないんだよな。

念のためにPDも回収しておく。

そして、12時59分に家の呼び鈴が鳴った。

母さんと一緒に玄関に行って出迎える。

玄関の扉を開けたその先にいたのは――

「本日は急な訪問を受け入れてくださり、ありがとうございます。泰良くんのお母様」

と言って現れたのは寝ぐせ一つない、きっちりとスーツを着こなした女性だった。

……この人、本当に閑さんか?