作品タイトル不明
大魔術師の首飾り
万博公園ダンジョンの21階層は、他のダンジョンと同様に転移陣のある小部屋が最初にあり、その先――扉の向こうは大草原だった。
振り返ると、立方体の建物があるだけで、天に伸びる階段はない。
そして、その空には青空が広がっていた。
天井とかどうなっているのだろうか?
試しに火魔法の 火の矢(ファイヤアロー) を天井に放ってみると、十メートルくらい上空で何かにぶつかったように爆ぜて消えた。
あそこに見えない天井があるのかもしれない。
遠くに魔物の影が見えるが、こちらに近付いてくる様子もないので、ひとまずここで昼飯を取ることにする。
アヤメのお弁当だ。
「もしかしたら壱野さんの場合、自分で作った料理の方が口に合うかもしれませんが」
「そんなことないよ。女の子が作ってくれたお弁当ってだけで120点なのに、アヤメのお弁当は美味しいから500点の弁当だよ」
「ふふっ、それって何点満点なんですか」
「何点満点かはわからないけど、満腹になる量ではあるな」
相変わらず俺のお弁当箱は大きい。
ただ、おかずが何か豪華になっている気がする。
このおにぎりなんて、いくらが入ってるし。
「卵焼きも前より美味しいな」
「はい。ワンパック1000円の卵を買ってみました」
「わぁ、贅沢。じゃあ、この唐揚げは? もしかして烏骨鶏?」
「普通の国産鶏です。烏骨鶏って美味しいんですかね?」
「食べたことないからわからない。でも、唐揚げも美味しいよ」
二度揚げ唐揚げ美味しい。
以前言ったことを覚えていたのか、レモンもちゃんと付いている。
食べながら大魔術師の首飾りの説明をしようかと思っていたが、こんな手の込んだお弁当をながら食いしてはいけない。
しっかりお弁当に向き合って――
「解放: 地獄の業火(ヘルファイア) 」
こっちに向かってやってきた馬っぽい魔物を魔法で蹴散らし、お弁当に向き合って最後まで完食した。
ふぅ、うまかった。
「ご馳走様!」
「お粗末様でした」
「じゃあ、解放: 水球(ウォーターボール) 」
空中に水の玉を出現させる
お弁当箱をその中に入れてさっと洗い流す。
「水魔法って便利ですね」
「確かに。風魔法と併用したら洗濯機の代わりにもなりそうだな」
「下手したら服がズタズタに切り裂かれそうです」
確かに。
とアヤメがお弁当箱を鞄に入れた。
さて、じゃあ――
「大魔術師の首飾りの効果について説明するんだけど、メモとか必要?」
「覚えられます。記憶力には自信がありますので」
そういえば円周率とか100桁まで覚えてたもんな。
じゃあ、説明をする。
魔力吸収:敵を倒したとき、敵の残っている魔力の一部を吸収する。
奥義炸裂:特定の魔法の熟練度を最大まで上げると魔法の奥義を覚えることがある。
偽装:鑑定結果と見た目を偽装することができる。
帰属:持ち主以外の人間が手にすることはできない。魔力を20消費することで首飾りを手元に戻すことができる。
不壊:この首飾りは持ち主が生きている限り決して壊れない。持ち主が死ぬと自壊する。
積土成山:魔法の熟練度成長速度が二倍になる。
大魔術士:持ち主の魔力が五割上昇する。
「これ、どうしましょう? 今回はミルクちゃんに渡した方がいいんでしょうか?」
「いや、今日は俺とアヤメはプライベートなわけだし、そこで手に入れた装備品なら俺たちが好きにしていいと思う。あと、本音で言えば、こういうシリーズ物って一人が全部揃えたら何か特典がありそうな気がするからアヤメに装備してほしい」
「ふふっ、ではお言葉に甘えて装備させてもらいますね」
とアヤメが首飾りをつけようとするが、難しそうなので俺が背中に回って付けてあげた。
うん、これで装備品が東アヤメ専用になってる。
……これって、俺たちの婚姻届が正式に受理されたら、壱野アヤメ専用になるのだろうか?
まさか、名前が変わったから装備できなくなる――なんてことはないよな?
「奥義炸裂ってのが気になるな。使えそうな魔法はある?」
「いえ、ありません。奥義っていうくらいですから、もっと熟練度を上げる必要があるんだと思います。幸い、積土成山のお陰で魔法の熟練度の成長速度が二倍になりましたから。それより、魔力の上昇率が凄いですね。通常の2.5倍になってます。それと、魔力吸収ですが、下の階層にいったら魔力を持つ魔物も増えてきているので魔力の節約になりますね」
相変わらず、大魔術師シリーズの装備はぶっ壊れ性能をしている。
「ただ、見た目が少し派手ですね。盗まれても平気だとわかっていてもこれは目立ちすぎます」
「そうだな……ん? 偽装のところを見ると、見た目も偽装できるみたいだぞ?」
「え? ……あ、本当ですね! 少し地味になりました」
ネックレスのようになって、紫の宝石はそのままって感じか。
紫の宝石が大きいので目立つのは目立つが、服の中にいれたら平気だろう。
「じゃあ、25階層までいってみるか」
「はい!」
ということで俺とアヤメは階段を目指して歩く。
さっき倒した馬の魔物――そこには馬肉(箱入り)と馬油(瓶入り)が落ちていた。
「下の方の肉って全部箱入りで出てくるのか?」
「その方が清潔なのでいいですよね。一度地面に落ちたものだとやっぱり抵抗がありますから」
「ところで、さっきの馬、なんて馬だったんだろ?」
「ダークホースですね。馬の魔物で、闇魔法を使ってきます」
「闇魔法か。てことは闇耐性もありそうだし、影獣化は使わない方がいいかもな」
影獣化は闇属性の力があるからな。
いや、でも影獣化を使っていたら、闇魔法のダメージを軽減できるか?
「あの、壱野さん。次は私が倒してもいいでしょうか?」
「うん、いいけど、魔力は大丈夫?」
「はい。それを試すためにも使いたいんです」
「あぁ、そういうことか」
ていうことで草原を歩く。
ここは気配探知の必要はない。
だって、魔物が隠れる場所がないんだから。
ダークホースは基本的に草を食べているが、俺たちが近付くと走ってこっちにくる。
三頭がこっちに来た。
あんなのに体当たりされたら無事では済まない。
と、なんか前に黒い球のようなものが現れた。
あれが闇魔法か。
いざとなったら俺が盾になろう。
魔法反射で跳ね返してやる。
そう思っていたら、
「 風強大弓(ウインドバリスタ) ! 三連っ!」
アヤメの魔法がダークホースを打ち抜く。
「魔力は大丈夫か?」
「はい。全然減っていません」
「え?」
「ダークホースは魔力保有量が多いからでしょうね。魔力回復の効果のお陰で、魔力の消費量より回復量が上回っています。これならいくらでも戦えます」
「お、おぅ」
これまで、大魔術師のローブのお陰で消費魔力を節約できているといっても魔力量がネックだった。
そのネックが解消されるのか。
アヤメの魔法無双が続き、23階層に。
ここは祭壇だからそのまま通過しようと思っていたのだが、一人先客がいた。
白衣を着た眼鏡の女性だ。
白衣もよれよれで髪もぼさぼさで、身だしなみにはあまり気を遣っていない感じがする。
彼女は祭壇の絵を見て、何やらぶつぶつ言っていた。
3階層以降でダンジョン内で探索者に出会ったら挨拶するのが基本なんだが、ここは無視して通過した方がいいだろう。
そう思っていたら、
「待ちたまえ」
と彼女は振り返った。
隈の上にある目が俺を見据えている。
「こ、こんにちは」
「ああ、こんにちは。こんなところで出会うとは偶然だな。モルモット――ではなく壱野泰良くん」
と彼女は確かに俺の名前を呼んだのだった。