軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

式神召喚

「無理じゃ、諦めろ……くぅぅ、わさびがツーンときた」

アヤメが陰陽術を使えないか聞いてみたところ、ミコトは葉ワサビの入ったいなり寿司を食べながら言った。

呼んでも全然出て来てくれないからいなり寿司を用意して出てきてもらったらこれだ。

「ミコト様。それはやっぱり私に才能がないからでしょうか?」

「いや、そうではない。お主は呪いを封印しているからのぉ。その術式のせいで気の流れが不安定になっておるのじゃ」

とミコトはそう言いながら、いなり寿司をさらにつまんで食べる。

「ちょっと待って!? 呪いって何!?」

とミルクが声を上げた。

ミルクと姫はアヤメが呪いを受けていたことを知らなかった。

まずはその説明をする。

アヤメの遥か先祖が蛇神から呪いを受けた。

その呪いは呪いを受けた本人だけでなく、その子、孫、ひ孫と継がれていった。

そして、アヤメの祖母が呪いを継ぎ、母親は無事だったのだが、アヤメへと継がれた。

アヤメの祖母により、呪いは一時的に封印されていた。

そして、ミコトによってその封印はさらに強固な物へと変わった。

「先祖代々の蛇神の呪い……陰陽術の時も思ったけどまるでジャパニーズファンタジーの世界の話ね。そっか、泰良がダンプルに聖女の霊薬を二本望んだのはそういう理由だったのね」

「そんな、私全然知らなくて。なのにパパの呪いを聖女の霊薬で解けるって一人で喜んで……」

ミルクは少し泣きそうな顔になっている。

「ううん。さっきも言ったけど、私の呪いはミコト様のお陰で、完全に封印できてるの。心配しないで」

アヤメはそう言ってミルクの手を握る。

ミルクとしてもここで自分の持っている聖女の霊薬をアヤメのために使うことはできない。

これがなかったら牛蔵さんの呪いを治すことができないのだから。

「ちなみに、一度だけ成功したと言っておったが、どのように成功したのじゃ?」

「え!?」

「なんじゃ、言えんのか?」

「えっと……ミコト様。耳を貸していただけませんか?」

「うむ。聞こう……耳はそこじゃない。上にあるじゃろ、うむ、そこじゃ」

とアヤメはそう言って、狐耳にこそこそと話し始める。

ごにょごにょと、何か喋っているのはわかるが内容まではわからない小さな声で説明をした。

そして、一通り話を聞いたミコトは――

「青春じゃのぉ……まぁ、全然参考にならぬな」

とミコトは言った。

アヤメの顔が真っ赤になっている。

一体、どんな話だったのだろう?

気になるが、無理に聞き出すことはできないな。

人間、誰しも話したくない過去の出来事の一つや二つある。

「……ん、じゃあアヤメはシキガミ……? を作れない?」

「いや、作れんことはない。ようは、今のやり方では無理ということじゃ」

「方法があるのですか?」

「うむ。形代では無理なら、別のものを式神にしたらよいのじゃ。何しろダンジョンには様々なものがあるからの。泰良よ、ダンジョンで取れた物をここに出すのじゃ」

「全部か?」

「うむ。一種類につき一つずつで構わん」

といってもかなりの量になるぞ。

庭に移動し、そこにレジャーシートを敷いて物を置いていく。

「本当にいろいろあるわね」

「これってなんですか? 毛皮?」

「ああ、これはダークネスウルフの毛皮だな。クロの前世のダークネスウルフを倒した時に手に入った」

「これは玉ねぎ?」

「黄金の玉ねぎ。この前、依頼で淡路島ダンジョンに行ったときに手に入れた」

「見たこともないものも多いわね」

「宝箱の中に入っていたものも全部インベントリに入れてるからな」

僅か四ヶ月の間だが、いろいろと集まったなぁ。

そんな中、ミコトが一つ一つドロップアイテムを吟味していく。

いまのところ彼女のお眼鏡に叶うアイテムはないようだ。

そして、ある物を手に持ち、彼女は頷く。

「うむ、これがよいな」

それはヤツデの葉だった。

かつて黒のダンジョンで天狗を倒したときに彼が落としたものだ。

「それがいいのか?」

「うむ、これは 大峰山(おおみねさん) 前鬼坊(ぜんきぼう) のものじゃろ?」

大峰山? そういえば天狗がそう名乗っていたと思う。

「元々、前鬼坊は 役小角(えんのおづの) ――飛鳥時代の呪術者の式神であったと言われておる。つまり、式神を作るには最高の素材じゃ」

前鬼後鬼という名前は俺も知っているが――

「天狗なのに鬼なのか?」

「そのあたりはインターネットで調べるとよかろう。妾が説明するより詳しいことが書いておるわ。とはいえ、知ったところで意味はあるまい」

説明するのが面倒なんだな。

この際そこは重要ではないということか。

「アヤメよ。この葉を式神のように使うのじゃ」

「わかりました」

アヤメがヤツデの葉を持つ。

そして、それに力を込めた。

ヤツデの葉が薄い光を放つのを感じる。

振るった時に風を巻き起こす魔法の道具であるが、しかしこんな光を放ったことはなかった。

そして――

彼女の手からヤツデの葉が離れ――宙に浮いた。

そしてヤツデの葉っぱが姿を変えていく。

そして――現れたのは五十センチサイズの可愛らしい小鬼だった。

頭に角が生えていているから鬼っぽい。

着ている服はあの時の天狗と同じ修道僧のような服装だが、その顔は天狗の面影はない。

というか、カワイイ女の子だった。

「これが私の式神?」

「いかにも。久しぶりだのう。我が主様。そして、小僧も」

と式神が浮かんで言った。

こいつ、声までめっちゃ可愛くなってるけど。天狗の時の記憶が残ってるのか?

「ああ、覚えておる。まさか、こうして式神として生き返るとは思ってもいなかったがな。これも前鬼坊として生を受けた者の末路としては相応しい流れか……」

としみじみとした口調で式神が言った。

「あの、前鬼坊さん。私の式神として戦ってくれるんですか? わたしたちはあなたを殺した相手ですけど」

「もちろんだ、我が主様よ。というより、ダンジョンに生まれた魔物にとって死という概念は主様たちの思うほど悪いものではない。元々この世界の記憶より生み出された存在であるが故、死ねば元の記憶の流れに還る。ただそれだけで恨みなどはない」

そういや、ダンポンやダンプルも死ぬとき普通に笑って死んでたな。

そのあたり、俺たち人間とは大きく違うのだろう。

「で、天狗。お前、小さくなったけど強いのか?」

「もちろんだ。拙者の力は主様の力に比例する。特に主様は風の力に強い適性がある。風を操る拙者への影響は大きい。その実力、しかと見届けるがよかろう。ワハハハハ」

と式神の鬼は快活に大笑いをしたのだった。