軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

SS驚かないトゥーナ

トゥーナがテレビを見ている。

将棋の解説番組だ。

「トゥーナ、将棋に興味があるのか?」

「……ん、興味ある」

「そうか……」

なかなか渋い趣味だ。

彼女が将棋に興味があるのは別にいい。

気になったのは、明らかに彼女がテレビを普通のものと受け入れていることだ。

異世界人がこの世界に来たら、「え? 箱の中に人が出てきた? こんな小さいところに住んでるの?」とか、「鉄の箱が動いている!? あれって魔物っ!?」とか現代文明に驚く姿を想像していた。

だが、トゥーナはテレビや車を当たり前のように受け入れている。

もしかして、エルフの世界って俺たちよりも文明が進んでるのか?

むしろ、「え? いまだに電気を主なエネルギーとして使ってるの? 泰良様の世界の文明って、化石レベル?」とか思われているのかもしれない。

魔法が当たり前に使える世界だ。

俺たちよりも高度な文明を築いていてもおかしくない。

少し気になった。

「トゥーナ、外に行かないか?」

「……泰良様と二人で?」

「ああ。姫は明石さんに呼び出されて居ないし、ミルクとアヤメは今日は学校に行ってるからな」

「……ん、行く」

ということで、二人で外出することにした。

とはいえ、トゥーナは有名人だ。

耳を隠せばエルフということはバレなくても、彼女の顔はメディアに公開されている。

だが、俺にはこれがある。

変身ヒーローマスク。

これを使えば周囲の人からは絶対にトゥーナだと気付かれることはない。

ということで、俺とトゥーナは、まず近所の大型家電量販店を訪れた。

様々な電気製品が売られている。

我が家にある型落ち品どころか昭和の遺物と言っても過言ではない家電などとは違う、最新家電だ。

どうだ? 驚いたか?

とトゥーナを見る。

「………………」

無反応っ!?

無表情でじっと家電売り場を見た後、俺の視線に気づいたのかこちらを見てきた。

「……泰良様、買い物?」

「いや、最新家電がどんなものかと思ってな。トゥーナも何か欲しいものがあったら買っていいぞ」

「……ん、じゃあ、カレー売り場に」

「家電量販店にそんな売り場はない」

じゃあ、とりあえず調理器具のコーナーに行くか。

「……カレーたこ焼き製造機がある」

「たこ焼き器な」

たこ焼きにカレーを掛けて食べるのはお前くらいだ。

せいぜい、カレーライスの上にたこ焼きを乗せるくらいだろう。

大阪の家電量販店に売られているたこ焼き器の数は他の都道府県よりも多いという。

「エルフの国にはこういうホットプレートとかあったのか?」

「……ん、知らない。トゥーナは調理場に立ち入ったことがない」

そういえば、こいつはエルフの女王だったな。

女王は自分で料理を作ったりはしないか。

だったら調理器具で驚かせるのは難しそうだ。洗濯機とかもダメだな。

「これはどうだ? 羽の無い扇風機だ。これはエルフたちも作ってないだろ?」

「……ん、風の出る魔道具ならエルフの国にもあった」

「こっちは冷たい空気と温かい空気、両方出るエアコンが」

「……氷と火と風の三属性の魔法で実現可能……かな?」

「あぁ、ドライヤーって言って……」

「……火と風の魔法で――」

風を出す電化製品は全滅だ。

魔法、万能過ぎるだろ。

その後、色々と家電を見て回る。

「……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

マッサージチェアに身体を沈めて、声を上げていた。他の客がいないからか、奇声を上げる仮面の少女が不気味だからなのか店員は声をかけてこない。

これならどうだと思ったんだが――

「……別にトゥーナは肩とか凝ってないから必要ない」

そもそも需要がなかった。

失敗だったか。

「……じゃあ、これを買う」

「お前、要らないんじゃなかったのか?」

「……ん、泰良様のお勧め。それに、泰良様の御父上が最近肩が凝るって言ってた」

買うって、これ、一台50万円とかするんだが。

……でも、まぁいいか。

父さんにはトゥーナを温かく迎えてくれたり、いろいろと世話になってるしな。

母さんに許可を取ってから、マッサージチェアを購入。

自宅に配送してもらった。

そして、自宅に帰ると、トゥーナはパソコンで囲碁の動画を見始めた。

「……トゥーナ、囲碁に興味があるのか?」

「……ん、興味ある」

「そうか……」

家電には全然驚かず、将棋や囲碁の方に興味があるなんて。

囲碁で棋士が長考に入ったタイミングで、トゥーナが俺の方を見た。

「……泰良様、今日は楽しかった」

「ん? そうか?」

驚かせる事には失敗したが、彼女が楽しいならそれでよかった。

「……ん。日本の電気製品は不思議なものがいっぱい。驚きっぱなし」

「へ?」

思わず変な声が出た。

「……鉄の板が熱くなったり風が出たり椅子が揺れたり。鉄の箱が動いたり箱の中で遠くの景色が映ったり。凄い」

「トゥーナ……もしかして、ずっと驚いてたの? でも、ドライヤーのような魔道具は作れるって言ってたよな?」

「……ん。言った。でも、魔力を使わずにどうやって動いているのかわからない。謎。トゥーナのいた世界にこんなのなかった……と思う。理論上は魔道具で実現可能なものでも、それを大量生産していることに驚き」

トゥーナはそう言ってマウスを器用に操り、囲碁の倍速視聴を始めた。

あぁ、そうか。

トゥーナは単純に家電製品に使い慣れるのが早く、そして感情が表に出ないだけでちゃんと驚いてくれていたのか。

って、だったらせめて表情に出して言ってくれよ!

俺の心の叫びは、パソコンから聞こえてくる碁石を打つ音によってかき消されるのだった。

尚、マッサージチェアは三日後に自宅に届けられ、

「あぁぁぁぁぁ、気持ちいい。ありがとうな、泰良、トゥーナちゃん」

と父さんをとても喜ばせた。