軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

楽しいバーベキュー

「そうだ、お客様。一つお願いがあるのです」

そろそろ帰るかと言う時に、ダンポンが声を掛けてきた。

「お願い? なんだ?」

「これをどこかの祭壇に持って行って供えて欲しいのです」

そう言ってダンポンが渡したのは薄茶色の卵だった。

鶏卵の倍くらいある。

「これ、卵か? ドラゴンの卵とかじゃないよな?」

と思って鑑定してみる。

【ダンポンの卵:死んだダンポンが入っている卵】

……なにこれ?

卵じゃなくて棺桶なのか?

「お宝ダンジョンの先代の管理者なのです」

「先代? お前って二代目だったのか?」

「そうなのです。このゲームも先代が遊んでいたゲームなのですよ。といっても、記憶の引継ぎは終わってるので問題ないのですよ」

そっか、ド〇クエ9は7年前に遊んでいたのか。もしかしたら日本語版じゃなくてアメリカ版だったりするのかな?

7年前ならすれ違い通信も……うん、たぶん無理だ。

「ダンポンさんに寿命とかあるのですか?」

「寿命はないのです。でも、ダンジョンが壊れるとき、僕は死んでしまうのです」

「あっ」

ダンプルもそうだった。

ダンジョンのコアを破壊して、ダンジョンが壊れるとき死んでしまった。

こいつもそうなのか。

「なんとかならないの?」

「ならないのですよ。あ、でもすぐに死ぬわけじゃないのですよ。たぶん今日一日くらいは生きていられるので、その間にこのゲームクリアするのですよ。このゲーム、クリアできなかったのが先代の心残りだったので、お客様がもう一度お宝ダンジョンを作ってくれて嬉しかったのです。ありがとうなのです」

ミルクが尋ねると、ダンポンは首を横に振って満面の笑みで答えた。

※ ※ ※

楽しかったお宝ダンジョンのはずなのに、なんか最後はもやもやした感じだな。

再び扉が閉じる。

もう扉は開かない。

内側からしか開かない扉らしい。

明日にはこのダンジョンも消えているのだろう。

俺たちは口数少なく元来た道を戻っていき、グランピング施設に戻った。

グランピング施設に行くと、既に明石さんが到着していた。

ダイヤモンド型の大きなテントの前で、バーベキューの準備ができている。

テントの前に大きなスクリーンが設置されていて、そこにトゥーナが映っていた。

彼女はここに来られなかったので、こうしてリモートでバーベキューに参加することになった。

ちなみに、映っている場所はうちの庭で、あっちはあっちでバーベキューをしている。ちなみに、トゥーナは普通に肉を食べるらしい。

『……救世主様たち、おかえり』

「みんな、おかえり。噂のエルフちゃんとこんな風にお話できるとは思わなかったよ。とってもいい子だね」

どうやら、俺たちがダンジョンに行っている間に、水野さんとトゥーナは随分と打ち解けたようだ。

「ご飯の準備できてるよ。凄いよ、淡路牛のサーロインステーキに淡路ポークステーキ、それに淡路玉ねぎのサラダも……ってあれ? なんか表情が暗いけどどうしたの?」

「ああ、それがな……」

と俺たちはお宝ダンジョンであったことを説明した。

「というわけなんだ……」

「それは、なんというか……大変だったね」

水野さんが慰めの言葉を模索するかのように言う。

「本当に……こんなことなら、お宝ダンジョンに入らない方がよかったのかなって思うよ」

ミルクが呟く。

それは全員思っていたことだ。

だが――

『……それは違う』

真っすぐ否定したのはトゥーナだった。

『……生まれてきて不幸なんてことはない。この世界の蝉という虫も地上に出たら直ぐに死んでしまうけど、地上に出たら不幸なんてことはない』

「それはそうだけど――」

『……大切なのはどれだけ生きたかではない。どう生きたか』

どう生きたか……か。

俺は目の前のバーベキューを見る。

いい具合に焼け始めている。

「ね、凄いでしょ? しかもいっぱいあってね。六人じゃ食べきれないよ」

『……こっちも――』

『トゥーナちゃん、ミコトちゃん! お肉とげきうまキノコ串焼けたわよ!』

『おぉ、食べるのじゃ!』

トゥーナの背中からミコトが飛び出して画面の向こうに走り去った。

「ね、ねぇ、壱野くん。さっき、トゥーナちゃんの後ろに狐耳の女の子が現れたんだけど、あれって――」

「え? ミコト様がなんであそこにいるの!?」

「泰良、あの子誰!? 泰良のママに呼ばれてたよね」

「獣人!? エルフだけじゃなくて獣人もいるの!? アヤメも知ってるの!?」

突然のミコトの登場に、ミコトの存在を知っているアヤメもパニックになっていたが、俺はじっとバーベキューの具材を見る。

「水野さん、ちょっとお願いがあるんだけど」

※ ※ ※

「おじゃましまぁす」

俺はそう言ってお宝ダンジョンに戻った。

ダンポンがディー〇スの画面からこちらに視線を向け、まるで幽霊を見たような顔をして固まっている。

「え? え? え? お客様、どうやって戻ってきたのです!? 入り口はちゃんと施錠したはずなのですよ!?」

ミコトを見たみんなのように、お宝ダンジョンのダンポンも大混乱だ。

まぁ、そりゃ驚くよな。

でも、お宝ダンジョンに入る方法は簡単だ。

「僕のダンジョンと繋がったのですよ」

と言ったのはPDのダンポンだ。

PDは半径500メートル以内に他のダンジョンがあると、中で繋がってしまうことがあるって、PDのダンポンが言っていた。

お宝ダンジョンであろうとも例外ではなかった。

「事情はわかったのですが、でも、何しに来たのですか? ここに来ても宝箱はもう出ないのですよ?」

「これだよ――」

俺はそう言って、インベントリからバーベキューセットを取り出した。

これは万能バーベキューセットといって、ダンジョン内でもバーベキューができる魔道具だ。

【開封条件:クエスト・エルフの賄い飯をクリア】

というD缶から出てきた。

「みんなでバーベキューをしましょ?」

「ダンポンは食事は必要ないって聞いてるけど、その分栄養バランスとか気にせず食べれるでしょ?」

「デザートに果物もいっぱいありますよ」

とミルク、姫、アヤメがバーベキューの食材を持ってきた。

「僕、食事なんてしたことないのですよ」

「ふふ、泰良の用意するものはとっても美味しいのです。経験がないのなら絶対に食べた方がいいのです」

と言ってPDのダンポンがお宝ダンジョンのダンポンを食事に誘った。

その後は全員で宴会だった。

特にお宝ダンジョンのダンポンは初めての食事に大喜びだった。

生まれて最初に食べたものが淡路牛のサーロインステーキだって贅沢だよな。

「やっぱりげきうまキノコは美味しいわね。この玉ねぎとよく合うわ」

「淡路島の玉ねぎはとっても美味しいよね」

「淡路島の玉ねぎは生でも食べやすいから、早食い大会にも使われて、その記録がギネスに登録されているらしいですよ」

うん、確かに肉もキノコも美味しいけど、玉ねぎも美味しいよな。

水野さんにはまた留守番を任せてしまった上に、高級グランピングのふかふかセミダブルベッドにも申し訳ないと思うが、豪華設備のキャンプ施設よりも、こういうダンジョンでの食事の方がキャンプっぽいよな。

「あぁぁぁぁぁあっ!?」

突然、ダンポンが声を上げた。

って、どっちのダンポンだ? えっと、ディー〇スを持ってるからお宝ダンジョンのダンポンだ。

「どうしたんだ?」

「す、すれ違ったのです!」

「すれ違ったって?」

「ほら、緑に光ってるのです!」

まさか、令和のこの時代に、しかも淡路島という都会からは少し離れた場所ですれ違い通信に成功したのか!?

俺たちはダンポンのゲーム画面を見ると、【呼び込んだ人数1人(これまでの宿泊者数1人)】となっていた。

俺は今日一番笑った。

そして、翌朝。

お宝ダンジョンから出ると、その扉は消えた。

俺の手には二つの卵がある。

一つは、さっきまで一緒に朝ご飯を食べていたダンポンがこの卵の中で眠っている。

「さよなら、ダンポン。楽しかったよ」

俺たちは卵をインベントリに入れると、水野さんと明石さんが待っているグランピング施設に帰った。