軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

VS.マザーブロンズゴブリン

「行きます! 解放: 雷竜巻(サンダートルネード) 」

開戦の合図はド派手だった。

雷の竜巻が吹き荒れ、前方にいたブロンズゴブリンたちを一掃する。

俺と姫たちは走った。

ブロンズゴブリンの集団が襲い掛かって来る。

「薙ぎ払いっ!」

「「「「急所突き!」」」」

俺と分身四人の姫たちの攻撃。

一気に二桁近いブロンズゴブリンが死んで、Dコインを落とす。

さらにスキルや、通常攻撃を駆使して前に進むが、サイドに展開していた姫が徐々に押され始める。

横一線に並んでいたはずの陣形が、くの字になっていき、さらにブロンズゴブリンが後方に回り込んだことにより、姫が後方をサポートせざるを得なくなった。

進行速度が遅くなる。

「キャっ!」

姫から声が上がった。

「姫っ!」

「大丈夫、分身だから!」

姫が言うが、分身にだって痛みはあるだろう。

ここに来て、ブロンズゴブリンに変化が起きた。

これまでは全員素手だった――それでも金属の身体で殴られたら痛そうだ――が、銅の剣を持っているブロンズゴブリンが現れたのだ。差し詰めブロンズソードゴブリンと言ったところか。

リーチの違いから分身の姫たちがさらに苦戦を強いられている。

通路を曲がった。

「見えた――」

奥に大きなゴブリンが。

あれがマザーブロンズゴブリンか。

その奥には、なんかブロンズゴブリンを作っているっぽい巨大な機械があり、そこからブロンズゴブリンが湧き出ている。

急げ、俺。

前に、一歩でも前に、一体でも多く倒せ。

俺が歩みを止めれば、俺が一体でも打ち漏らせばその分姫に負担が行く。

「泰良右っ!」

「――っ!」

姫が叫ぶ。

右方向からブロンズゴブリンが仲間を踏み台にして飛んできて切りかかってきた。

「ぐっ!」

闇火鼠の外套でその剣を受け止める。このコートは防刃だからその剣は通らない。しかし、衝撃が無くなるわけではない。体力が僅かに削られる。

焦りが油断を生んだ。

焦るな。油断するな。でも、急げ。

そう思ったら、今度は左上からブロンズゴブリンが飛んできた――

と、そのブロンズゴブリンがはじけ飛ぶ。

ミルクの銃弾が当たったのだ。

文字通り援護射撃だった。

安全な場所で隠れていろって言ったのに。

まったくもって頼もしい仲間だ。

だが、これ以上先に――

「泰良、影獣化して衝撃波で道を切り開いて、二人で突っ切って」

姫の分身が言った。

確かに影獣化したときの脚力ならば、姫一人抱えて飛ぶことくらいできる。

だが――

「お前らはどうするんだ!?」

そんなスーパーマンじゃない。

スーパーサ〇ヤ人でもない。

「 分身(わたし) 達はここに残るわ。本体と違って俊敏値を上げる装飾品がないからついていけないと思う」

「お前、でも――」

「分身を消しても直ぐに生み出せない。退路を確保するためにも、私たち四人が少しでもここでブロンズゴブリンを削る」

俺は何も言わない。

影獣化をした。

「姫」

俺は彼女を呼んだ。

本体を呼んだ。

分身を見捨てた。

「ええ」

姫が頷くと、俺は拳を前に突き出す。

衝撃波が飛んでいき、僅かな道ができた。

前へとひた走る。

衝撃波は連続で放てない。

道が段々と狭まっていく。

と、何故か直撃をぎりぎり避けたブロンズゴブリンたちが攻撃してこない。

恐怖に震えているかのように動かないのだ。

その瞬間、俺は自分の力の一端を知った。

影獣化による攻撃は、敵に影を流し込むことができる。

それはダメージを与えるものではない。

状態異常を与えるもの――恐怖を与えるものだ。

【影が差す】

そういえばそんな慣用的な言い回しがあっただろうか?

分身にも自分の意志があるように、量産型のゴブリンロボットにも恐怖はあるようだ。

それでも、全てのブロンズゴブリンが恐怖したわけではない。

残りのブロンズゴブリンが止まらない。

恐怖で動かないブロンズゴブリンを踏み台に飛び掛かって来る。

姫がクナイを投げた。

それでバランスを崩したブロンズゴブリンがそのまま落ちるが、問題は前方のブロンズゴブリンではなかった。

俺の後方――つまり衝撃波の影響を全然浴びていない後方のブロンズゴブリンたちがこちらに狙いを定めた。

全力で走れているうちはよかった。

だが道が狭まるにつれ、俺たちの速度も落ちる。

後方の敵に追いつかれる。

そう思った時、爆発が起こった。

大きな爆発だ。

まるで不発弾が爆発したのではないかというような轟音とともに、飛び掛かろうとしていたゴブリンたちも爆風によりバランスを崩し、さらにその爆風は俺を前へと押し出す追い風となった。

「カハっ!」

姫から聞いたことのない苦しそうな声が漏れた。

「姫、大丈夫かっ!?」

「大丈夫、分身が死んだダメージを引き受けただけ。大丈夫、三人が死ぬ前に解除できたからダメージは大したことないわ」

「それって大丈夫じゃないだろっ!? なんなんだ、今の爆発は」

「ミルクが真衣と一緒に開発した火薬魔法の火薬を詰めていつでも使えるようにしている炸裂弾――天狗にやられそうになったときに使った魔法を参考に作ったみたい。威力が強すぎて、自爆覚悟でしか使えないってボヤいてた。自殺覚悟が本当に自殺になるからって」

「それを分身に使わせたのか――いや」

あの時、分身がミルクの方に行ったのは自分の意志だった。

「私が分身だったら、自分のことを分身だと自覚していたら同じことをしたでしょうね。思い切りが良すぎるわ。流石私」

「そんなの自慢になるかっ!」

俺は前から飛び掛かって来るブロンズゴブリンを回し蹴りで蹴り飛ばしながら叫んだ。

姫の分身は最初から覚悟を決めていたのかもしれない。

姫の本体はその覚悟を尊重していたのかもしれない。

だが、俺にあるのは姫に死ぬ覚悟をさせてしまった自責の念だけだぞ。たとえそれが分身だとしても、その分身とさっきまで会話していたのだ。

くそっ、こんなことなら出し惜しみをせずに琴瑟相和を使っておけばよかった。

「泰良、集中。」

気持ちはありがたいけど、と姫は言った。

わかってる。

こんなところで後悔している暇はない。

マザーブロンズゴブリンはもうすぐそこだ。

俺は拳を振るった。

再度衝撃波を放つ。

マザーブロンズゴブリンに向かって衝撃波が飛んでいく。

マザーブロンズゴブリンは足下にいたブロンズゴブリンを投げてそれを迎え撃つ。

俺の衝撃波はブロンズゴブリンに衝突した。

ブロンズゴブリン一体程度で相殺できるものではない。

だが、威力は弱まる。

さらにマザーブロンズゴブリンはもう二体のブロンズゴブリンを盾に使用しやがった。

しかしそれで無傷で済んだわけではない。

マザーブロンズゴブリンの腕を影が侵食する。

わかりやすいほどの恐怖の表情がマザーブロンズゴブリンの顔を支配した。

俺はぶち切れていた。

姫の分身を犠牲にした俺と、仲間を犠牲にしたマザーブロンズゴブリンの姿が重なって見えたのかもしれない。

「姫、俺の身体にしがみつけ!」

俺が叫ぶと、姫が俺の身体に抱き着いた。

俺は大きくジャンプし、

「 地獄の業火(ヘルファイア) 」

影獣化の影響で黒い炎となった俺の必殺魔法がマザーゴブリンに飛んでいく。

マザーブロンズゴブリンはまた仲間を盾にしたが、その仲間ごと標的は消失した。

爆風で姫の金色のツインテールが後方に揺れる。まるで元気な鯉のぼりのように。

マザーブロンズゴブリンが消失したことで、後ろにある機械が止まった。

ブロンズゴブリンの量産が止まった。

だが、既に生まれたブロンズゴブリンが消えて無くなるようなことはない。

ボスを倒して戦闘終了っていうのはゲームの中だけだ。

ここからが本番。

ブロンズゴブリンは、自分を犠牲にするようなマザーであろうとも、親分を殺された怒りから死に物狂いで襲い掛かって――こなかった。逃げ出した。

「恐怖状態になってるわね。泰良の魔法の余波かしら? そして、恐怖が伝播するのは人間と同じね」

集団心理だろうと姫は言った。

「姫は大丈夫なのか? お前も魔法の余波を受けたりは?」

「大丈夫よ。私は泰良を怖がったりしないわ。たとえ殺意を向けられても笑顔で抱きしめてあげる」

なんでそんなことを堂々と言えるんだ。

配信中だってこと忘れてるんじゃないか?

「ミルクたちは大丈夫かな?」

「大丈夫でしょ。恐怖状態の魔物は敵と戦おうとはしないから。でも、 地獄の業火(ヘルファイア) を使うならもっと早く使ってくれたらよかったのに」

「いや、さっきみたいに途中でブロンズゴブリンをぶつけられて中途半端な場所で爆発してたら困るから――これはあくまで切り札だったんだ」

ブロンズゴブリンが逃げ出すなんて前情報はなかったわけだし。

あのタイミングでしか撃てなかったと俺は考えていた。

逆にあれ以上近付けば俺も炎に巻き込まれていた。

影獣化の影響か、増えた魔力の影響か、 地獄の業火(ヘルファイア) の威力は以前よりも遥かに増していた。

黒い炎といい、あの威力といい、まさに地獄って感じになってきたな。