軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11 二人手を繋いで未来まで

「奥様、朝ですよ」

カーテンが開けられ、光が差し込む。眉を顰めたわたくしは、頭を押さえながら起き上がった。

「……嫌な夢を見た気がするわ」

「まあ」

お湯を張った桶を持って来たリウィアが心配そうな声を上げる。

うーん、と唸ってしまった。アグネスが笑いながら消えていく夢、これが悪夢以外の何物だと言うのだろうか。

処刑日から既に一年経っているというのに、今になって見るなんて。

リウィアが頬に手を当てた。

「今日は結婚式ですのに、災難ですね」

「……結婚式」

バッとわたくしは布団から出た。

「奥様?」

「ありがとうリウィア、元気が出たわ。そうね、今日はソル様との結婚式だもの。暗い気持ちは相応しくないわ」

一気にまくし立て鼻歌を歌うわたくしをリウィアは目をまんまるにして見つめた後苦笑した。

「リウィア。わたくしを世界一綺麗な花嫁にしてね」

「必ずや」

無邪気な笑い声をあげ、わたくしは頬を染めた。

◇◇◇

「……はぁ。式が始まる前にソル様の結婚式の為だけに誂えた姿を見とけば良かったですわ。皆様の前でわたくしの旦那様が素敵すぎて抱きついてしまいそう」

「フローのその旦那様に喝を入れに行ったら、向こうも同じようなことを言っていたぞ。『フローはいつにも増して綺麗だろうから今から緊張する』だと。似た者同士だな」

「まあ、わたくしとソル様の感性が似ているのですね。とっても嬉しい」

レムスお兄様が上機嫌なわたくしにため息をついた。……それはため息というよりは、あまりにも優しい安堵だった。

「フローが元気そうで良かったよ」

「……お兄様、髪が崩れるから頭を撫でるのはやめてくださいね」

「分かっているよ」

目元が赤い彼は、眉を下げわたくしを優しく見つめる。

わたくしをいつも案じていたお兄様。口調はぶっきらぼうだけど、思い遣りに満ちた言葉は幼いわたくしにとって救いだった。

気恥ずかしくなって、わたくしは話題をずらす。

「でもお兄様の方こそ元気そうですわね。侯爵家の当主になったんでしたっけ?」

「ああ。ついに父上を隠居させられたんだ。だからこうして、フローのバージンロードを歩く権利は俺が取った」

お兄様の腕に手を絡ませた。

「……本当に、嫁に行ってしまうんだな」

感慨深そうにお兄様が呟く。

「その言葉、今更過ぎますよ。もう一年以上前に嫁に行ったではありませんか」

「それはそうなんだが、なんだかこう……実感が湧いてきて」

ぶわり、また目に涙を溜めたお兄様をからかう。

「昨日たっぷり泣いたとコルネリアお姉様から聞きましたのに、まだ泣くんですか?」

「たった一人の妹の結婚式なんだ。好きにさせてくれ」

「うふふっ」

ハンカチを差し出せば彼は乱雑に目元を拭う。そこでリウィアに声をかけられた。もう時間だと。

「行きましょうか、お兄様」

「そうだな、フロー」

結婚式場の大きな扉の前に、二人で立つ。騎士によって扉がゆっくりと開かれた。光が目に飛び込んでくる。

皆からの拍手が、絶えず鳴り響く。コルネリアお姉様にディアナお姉様、それからオーロラ。他にも沢山の人たちがわたくしたちを祝福する。それに導かれた先には、ステンドグラスの光を受けたソル様がわたくしを待っていた。

優しい笑顔でわたくしを待つソル様を見て、ふと想った。乙女ゲームのフロレンティアを想った。

ねえ、貴女は悪魔に何を願ったの?

乙女ゲームでは明かされなかった、彼女の心。わたくしは考える。彼女は、わたくしを望んだのではないかと。フロレンティアはソル様を心から愛していたから。彼が死んで絶望して、自分の命と引き換えとなる悪魔を呼び出すくらいソル様を愛していたから。

貴女はわたくしを願った。ソル様を救ってくれる誰かを願った。自分がその時側にいれなくても、ソル様が生きていることが一番大事だと、きっとわたくしでも考えるから。

わたくしは、貴女の想いに報いることが出来た?

「……フロー?」

意識が引き戻された。なんでもないと首を振って、歩き出す。

ねえフロレンティア。ソル様が大好きな貴女。もし何処かの世界でわたくしと貴女、巡り合うことが出来たなら、沢山お話しましょうね。

話したいことは、お互いいっぱいあるから。

「――お兄様、わたくし幸せですわ」

バージンロードを歩き切る直前、そう小さく言えばグスンと情けない音が隣から聞こえた。

顔を上げれば、くしゃくしゃの顔をしたお兄様がわたくしを見つめ「良かった」そう呟いた。

それから、ソル様に視線を移した。

「ソル様。俺たちの大事な妹を、どうかよろしくお願いします」

「勿論です。僕の一生を持って、幸せにし続けます」

わたくしとソル様が手を取り合う。拍手が鳴りやみ、わたくしたちは誓いの言葉を口にする。

「新郎ソル・トライトル。貴方はここにいるフロレンティア・トライトルを病める時も健やかなる時も富める時も貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」

「誓います」

「新婦フロレンティア・トライトル。あなたはここにいるソル・トライトルを病める時も健やかなる時も富める時も貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」

「誓います」

口づけを。

そう神父が言い、わたくしはソル様を見つめた。緊張した面持ちで、彼がわたくしのヴェールを上げる。

優しい口づけだった。温かくて、思わず涙が出てしまう程の。

ソル様。ねえソル様。わたくしの大好きなソル様。わたくし、貴方に愛を貰ったの。ソル様への愛で、ここまで頑張れた。

「……ソル様。これからもずっとわたくしと一緒にいてくださいね」

「当たり前だよ。僕もフローが大好きだから」

「嬉しいですわ。……決められた運命にだって、貴方とわたくしを引き離すと言うのなら、わたくしは抗いましょう」

だってわたくしたちの幸せを奪うなんて、とても烏滸がましいですもの。