軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【13】ミーシャ・トライメル──1年生1学期

「アンジェリーナ様、本当にお気になさらず。私が、かの方に近寄るなと命じられてから、もう随分経ちますから」

「……そんなに経っているの?」

「はい。半年ほどは」

「半年!」

ミーシャが、デニス様に近寄らないように抗議を受けたのは、私がバルツラインへ向かった後の話なのか。

「それに、アンジェリーナ様は、辺境へ嫁がれるのですよね?」

「ええ、そうね。私はバルツライン辺境伯閣下に嫁ぎます」

「であれば、むしろ、これで良かったのかもしれません」

「どういうこと?」

「これも『縁』と言えばいいのでしょうか。アンジェリーナ様。辺境に嫁がれた後でも、私と親しくしてくださいますか?」

「それは、もちろん。当然よ、ミーシャ」

「ありがとうございます。実は、アンジェリーナ様が、その」

「いいのよ。続けて?」

言い辛そうにしているミーシャに、私は続きを促した。

「レオンハルト殿下の婚約者になられる可能性が、一番高かったと」

「……まぁ、そうかもしれないわね。一番かは分からないけど」

ローディック公爵家のサンディカ様もいらっしゃるもの。

彼女と私は、同じ年齢だから、殿下の婚約者候補に上がっていたはずよ。

「それを見越して貴方に近付くように、と。父から言われていたのです」

「ああ……」

ミーシャの父親、トライメル子爵は権力欲が強い人で、また娘には厳しい人物だ。

『公爵令嬢と交友関係を結ぶ』ことも、彼の望み。

もっといいのは『娘が未来の王妃の友人となる』ことだったのだろう。

しかし、それは叶わなかった。それでも寄親と寄子の関係が変わるワケではない。

公爵を継ぐカルロスお兄様は、殿下の覚えもめでたいと聞く。我が家と縁を持つ意味はあるだろう。

けれど、私とだけ交友しているミーシャは、その恩恵を受けられるかどうか。

私とカルロスお兄様との関係は、今は、お世辞にも良いとは言えないから。

そうなれば、トライメル子爵はどう動くのか。私は、やはりミーシャが心配になった。

「もしも、私とデニス様の婚約が叶っていた後ならば。その後で、こうして離れろと言われていたなら。きっと私は、デニス様を諦め切れなかったと思います。もっと醜く追い縋って……。そういう意味では、今の時点で、こうして彼に拒絶されたことは、良いことかもしれません。どうあっても叶わない恋ならば、諦めてしまうこともまた、と」

「ミーシャ」

ミーシャ本人が、既に答えを出し始める段階に至っている。

私は、友人の心をケアするには遅過ぎたのだ。

「父の意向とも関わってくるので、今は何を言うことも出来ませんが、アンジェリーナ様。もし、許されるのでしたら……辺境に嫁ぐ時も、貴方と共にありたい。私は、そう願っております」

「ええ? それは……」

「まだ、先の話ですから。私の気持ちはそうある、ということです。アンジェリーナ様が王宮に上がるとなっていたなら、私も貴方のそばに居たいと思っていました。……元々の私の、幼い恋心は、そういう始まりだったのですよ、アンジェリーナ様」

「え? どういうこと?」

私は首を傾げて、ミーシャを見た。すると彼女は、微笑んで答えてくれた。

「つまり、私が先に願ったのは、アンジェリーナ様。貴方のそばに居ることです。だから『王宮に仕官する男性』の中に、婚約相手はいないものか、と。それも、あの父が納得できる相手ならばいい。そう思って、その。浅ましくも、男性たちを選り好み、と言いますか」

ミーシャは、照れたように、困ったような表情を浮かべる。

「『この条件の中でなら、この人がいいな』と。そうして見つけたのがデニス様でした。そんな事が、私の恋のきっかけだったのです。ですので、今となっては、ええ。デニス様とは『縁』がなかったのだと。それよりも、アンジェリーナ様のおそばに居るためにはどうすればいいのか、などと考えております。これも、アンジェリーナ様が、バルツライン辺境伯様に嫁ぐとお決めになられたからこそです」

「ミーシャ、貴方……そうだったのね」

私は目を見開いて、古くからの友人を見つめた。

ミーシャが、そんな事を思っていたなんて知らなかった。

「はい。ですから、アンジェリーナ様。デニス様の件を気にされるよりも、私がこの先、貴方と共に辺境へ向かえる道筋を指導していただきたいと思います。そしてアンジェリーナ様には、辺境伯閣下との仲が盤石であるように、と。そう願っております」

「……そう。ミーシャの気持は分かりました。貴方がそう言うのなら、私も貴方の道に手を貸せるよう、考えておきます」

「はい、そうして頂けますと幸いです。アンジェリーナ様」

政略、権威。家同士の思惑があって結ばれた私たちの『縁』だった。

でも今、たしかに私たちには友情のようなものが芽生えている、と。そう感じた。

それは私の胸の内を温かくさせる。

「それより、アンジェリーナ様。私の事よりも、王都で、辺境伯閣下と 逢瀬(デート) をなさるとか」

「……どこから聞いたのよ」

「とても広く噂になっております」

なんで、そんな噂が広がっているのよ!

「お二人にとっては、おそらく王都での逢瀬は、初めてのことでしょうから。思い出を深くはしたいでしょうが、ここは無難な場所をお選びください、アンジェリーナ様」

「……そ、そうね。色々とそちらの話も聞いて貰える? ミーシャ」

「喜んで」

公爵令嬢と辺境伯閣下の逢瀬ではあるが、護衛を王族ほど付ける事はない。

王都から出ないのであれば、そこまでの危険もないはずだ。

学生らしく、男性との逢瀬に胸をときめかせ、浮かれてはしまうが……。

もちろん、節度は保つつもりである。

そうして私は、学園生活を送りながら準備を進め、アッシュ様に王都を案内する日を迎えた。