軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【01】逆行前の婚約破棄、そして(+レオンハルトside)

「アンジェリーナ・シュタイゼン、私と君の婚約を破棄する」

シュタイゼン公爵令嬢、アンジェリーナを呼び出して婚約破棄を突きつけたのは、彼女の婚約者。

王太子、レオンハルト・ベルツーリだった。

そばには他にも三人の男が居て、彼女を厳しく睨んでいる。

王子の護衛騎士であるフリード・マルコット侯爵令息。

宰相の息子であり、侯爵家三男のデニス・コールデン。

アンジェリーナの兄であるカルロス・シュタイゼン公爵令息。

さらにもう一人、その場には女子生徒が居た。

黒い髪とルビーのような赤い瞳を持つ少女、メルク・シュリーゲン男爵令嬢だ。

卒業パーティーの一週間前。この場は、アンジェリーナの『断罪』の場だった。

アンジェリーナは、メルクを迫害した『主犯』として、レオンハルトたちに糾弾されている。

この状況に導いたのはメルクであり、彼女は『転生者』だった。

彼女たちが暮らすベルツーリ王国は、乙女ゲーム『花咲く頃に明ける夜』の舞台だ。

メルク・シュリーゲンは、前世にあったゲームの知識を活かして、王太子レオンハルトとハッピーエンドを迎えている。

転生者であり、ゲームの知識を持っているのは、メルク一人だけ。

『悪役令嬢』であるアンジェリーナには、前世の記憶はない。

そのことは、メルクが何度も確かめてきたから、確かなことだった。

メルクは、今日までレオンハルトを射止める努力をしてきた。

メルクにとって前世からの好きなキャラクターがレオンハルトだったから。

断罪劇は終わる。

既に王家と公爵家で、婚約破棄の話は済んでおり、アンジェリーナの反論は許されなかった。

破滅を突きつけられたアンジェリーナだが、彼らが警戒するように暴れはしない。

ただ、睨みつけてくる彼らに対して『失望』の視線を冷たく向けるだけで、言葉さえ呑み込んで沈黙を選ぶ彼女。

そして、兄であるカルロスに連れられ、アンジェリーナは去っていった。

その後ろ姿を見てメルクは、ようやく、すべてが終わったと思った。

幼い頃から前世の記憶を持っていたメルクにとってのハッピーエンド。

前世から大好きだったレオンハルトと結ばれて、そして『ゲーム』は終わり。

彼らも悪女を断罪し、そして主君となるレオンハルトとメルクが結ばれることを笑顔で祝った。

彼らは満たされていた。幸せだった。

そう、すべてが整えられたハッピーエンド、だった。

──はずだった。

………………。

…………。

……。

「レオンハルト殿下。おはようございます」

「ん……?」

朝を迎える。幸せな朝だ。レオンハルトは、ようやく真実の愛を手に入れた。

だが、ベッドから起き上がった彼は、違和感を覚える。

(……なんだ?)

視界に映る光景は、確かに自分の部屋なのだが。

どこか『視点』が低い。それに室内の調度品が、いつの間にか変えられている。

それもどこか、レオンハルトの見覚えがあるものに。

「なんだ、これは……?」

レオンハルトは、鏡の前に立って驚愕した。

彼の背が『記憶』にある自身の姿よりも、かなり縮んでいたのだ。

その後も彼は、王宮で違和感を拾い上げていく。周囲の人々の年齢が若返っていた。

そして、起きる出来事もどこか覚えのあることばかりだった。

「私は今、何歳だ……?」

レオンハルトに仕えている侍女に問い掛ける。

返ってきた答えは、レオンハルトが自覚している年齢よりも、五年も前のものだった。

「なぜ? 時間が……巻き戻って、いる……」

レオンハルトは、時間を逆行し、五年前の時間に目を覚ましていたのだ。

それは、乙女ゲーム『花咲く頃に明ける夜』が始まる前。

真実の愛の相手、メルク・シュリーゲンに出会う前。

……そして。アンジェリーナと彼が婚約をする、前。

「レオンハルト殿下。近々、殿下の 婚約者(・・・) を陛下がお決めになるそうですよ」

「……ッ!」

レオンハルトは、その事を聞き、駆け出していた。今ならば間に合うと思ったのだ。

婚約破棄することが決まっているアンジェリーナと婚約を結ぶ必要はない。

もしも、時間が巻き戻ったのなら。

今度は最初から、メルク・シュリーゲンと婚約を結べばいい。

メルクの血筋が貴いものであると、レオンハルトは既に知っている。

幼い頃からメルクの正体を明らかにし、己の婚約者として据えれば……。

彼女には今から王妃教育を受けて貰うことだって出来るだろう。

そうすれば、自分たちの真実の愛は、より滞りなく結ばれるはず。

レオンハルトは、そう考えて……アンジェリーナとの婚約を取りやめるように、国王に願い出た。

そうして彼の願いは叶う。二度目の人生が始まった世界で。

レオンハルトとアンジェリーナは、婚約を結ばれることはなかった。