軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

71.グレイテスト・ショーマン

王都に住まう人々は、朝からそわそわしていた。王命により、今日は祝日とされ、仕事は休みだ。何か特別な催しがあるのだろうと期待していたが、街中は静かなものだった。商店も休業のため、尚更静けさが感じられる。

「祭りではないのか?」

人々は首を傾げた。祭りならば、そろそろ出店や屋台を準備する職人たちが忙しそうにしているはずだが、その気配は全くない。

代わりに、異様な緊張感が街全体を覆っていた。

すると、遠くから微かな地鳴りが聞こえ始めた。最初は気のせいかと思ったが、その音は徐々に大きくなり、やがて地面を揺らすほどの振動になった。人々は不安げに顔を見合わせる。

「た、大変だぁ!街道の向こうから、ま、ま、魔物の大群が!」

一人の見張りが、恐怖に顔を歪ませながら叫んだ。その言葉に、街の人々はパニックに陥りかける。

しかし、別の見張りが、目を凝らしてその影を捉えた。

「違う違う! あれはロートシュタインの大型魔導車さ!」

「な、なに?」

魔物の大群ではない、という安堵が広がる一方で、「大型魔導車」という聞き慣れない言葉に、王都は騒ぎに包まれた。

皆、街道に集まり、向こうから砂埃を上げながらやってくる一団を固唾を飲んで見つめた。その光景は、常識を遥かに超えていた。本当にあんな物が動いているのか?

そして、あの数はなんなのだ?

まるで戦争ではないか?

様々な言葉が飛び交い、人々の間に混乱と興奮が入り混じった感情が渦巻く。

すると、風に乗って、澄んだ歌声が聞こえてきた。

「街道をゆくぅ♪ 山脈を越えてぇ♪」

その歌声は、ラルフによる拡声魔法によって増幅され、王都中に響き渡る。それに重なるように、別の声も聞こえてきた。

「鳥たちは東へ♪ 僕は街へぇ♪」

それは、吟遊詩人ソニアとラルフのデュエットだった。ソニアの伸びやかな歌声と、ラルフのどこか飄々とした歌声が、見事に調和している。

「あれ? これって、『旅人の歌』?」

王都の人々は、その歌詞に聞き覚えがあった。それはこの世界に広く知られている、古い詠み人知らずの歌だ。旅立つ者たちの心情を歌い上げた、素朴で心温まる歌だ。

「君はぁ、待っているかい♪ 旅の終わりにぃ♪」

歌声と共に、車列は徐々に近づいてくる。その巨大な魔導車の数々、そしてその迫力に、王都の人々はおののいた。これまで見たこともないファット・ローダーの巨体が、規則正しく連なって進む姿は、圧巻の一言だった。

そして、車列の先頭に一人の男の姿が見えた。

彼の手には、拡声器の代わりに、魔力を帯びた杖が握られている。

「どうもぉ! ロートシュタインから、はるばる参上! ラルフ・ドーソンでーす! では、街道の整備工事完了を記念して。パーっといきましょう!」

ラルフの陽気な声が、王都中に響き渡った。その言葉を合図に、魔導車の荷台に乗っていた魔術師たちが、一斉に魔法を打ち上げた。

爆裂魔法の応用、《 大花火(ファイヤーワークス) 》。

清流を思わせるような青い光、情熱的な赤、生命力溢れる緑……。色とりどりの光の粒が空に向かって駆け上がり、そして、巨大な花となって空に咲き誇った。轟音と共に開く光の花は、王都の人々の度肝を抜いた。

「うわぁぁぁぁ!」

「すげえ!」

人々は空を見上げ、割れんばかりの歓声を上げた。不安と困惑は、一瞬にして興奮と感動へと変わった。王都の空には、これまでに見たことのない、魔法の花火が咲き乱れていた。それは、単なる街道の完成記念式典ではなかった。ロートシュタインの領主ラルフ・ドーソンが仕掛けた、王都を巻き込む一大エンターテイメントショーの幕開けだったのだ。