軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35.新メニューがはじまる

昼下がりの執務室。ラルフは、書類の山から目を離し、遠い目をして呟いた。

「悲しいけどウチ居酒屋なのよねぇ」

アンナが、不思議そうに首を傾げる。

「何が悲しいんですか?」

「あっ、いや。最近、なんか、ラーメンにばかりかまけていたなぁ、なんて」

ラーメン屋フランチャイズ計画は、実に順調に進んでいた。商業ギルドが、屋台オーナーになりたいと希望する人間に対して、開業資金を貸し付ける制度まで始めたという。ロートシュタイン領は、空前のラーメンブームに沸いていた。

「ま! そういうことで。今日も行ってみよう!」

ラルフは、椅子から立ち上がった。

「どこへ行くのですか?」

アンナが尋ねると、ラルフは不敵な笑みを浮かべた。

魔導車を走らせ、着いたのは職人街。ドワーフたちが営む、喧騒に満ちた鍛冶工房だ。

「こんちゃー。親方ぁ、できてるー?」

ラルフが声をかけると、汗だくのドワーフの親方が顔を上げた。

「おう。領主さま。できとるぞぉ。こっちへ」

親方が指差す奥へと進むと、そこには巨大な金属製の機械が鎮座していた。

「おじゃしやーす」

「これよ!」

ラルフは、その機械を見て目を輝かせた。

「おー! デケェ!」

「領主さまの設計どおりではあるが、一部使い勝手を考慮して変更した部分もある。が、やはり実際に使ってみんとな。調整は後でなんとでもなる」

ドワーフの親方が、自信満々に言った。その精巧な造りには、熟練の職人技が光っている。

「いいねぇ! んじゃあ。これ、約束の報酬。ちょっと上乗せしといたから、皆で飲みに来てくれよー」

ラルフは、親方に金貨の入った袋を手渡した。

「おー。相変わらず気前が良いのぉ」

親方は、嬉しそうに金貨を受け取った。

「なんなんです? これ?」

アンナが、その巨大な機械を指差して尋ねた。

「こいつは、ミンサー。どう使うかはお楽しみってことで」

ラルフは、意味深な笑みを浮かべた。ドワーフの親方が、近くにいた若いドワーフたちに声をかける。

「領主どの! 若い奴らで魔導車に乗せるぞ」

「ふんっ! これしき。《身体強化》! ふんがぁー!!」

ラルフは、身体に魔法を纏わせ、その巨大な機械を一人で持ち上げた。少々無理をしているようだが、その顔はどこか誇らしげだ。

「よし! 次は肉屋だ!」

ラルフは、ミンサーを魔導車に積み込むと、次の目的地へと向かった。

到着したのは、肉屋のアントニオの店だ。剃り上げた頭、筋肉モリモリな体躯、そして傷だらけの顔。一見すると取っつき難い強面だが、話してみればなかなかに愉快な男だ。元一流の冒険者だったが、年齢のために引退し、魔獣の解体技術を活かして肉屋に転身した、非常に信頼のおける男だった。

「よう、領主さま。今日の獲物は何だい?」

アントニオが、ニヤリと笑った。

「アントニオ。ブルホーンの肉なんざぁ、あるか?」

ラルフが尋ねると、アントニオは鼻で笑った。

「ブルホーンの肉なんざぁ。筋が多いし硬すぎてなぁ。ケツの青い新人冒険者どもが干し肉にしてチュパチュパやるしかねぇ代物だぜ? 買う奴なんかいやしねぇよ」

「じゃあ、安くしてくれるんだろ?」

ラルフが挑発するように言うと、アントニオの目がギラリと光った。

「どうかな? あんた次第だぜ。領主さまよ。自分の胸に聞いてみな? 今日、自分はツイてるかってな?」

アントニオはニヤリと笑って、一枚のコインをつまみ、掲げた。

「よっしゃ! 僕は表」

ラルフは、即座に答えた。

「一度吐いた唾は飲み込めねぇぜ? 表ならアンタの勝ち。全部半額だ。裏なら、今日の売れ残り、全部買い取ってもらうぜ?」

アントニオは、挑発的に言った。売れ残りには、硬くて不味いとされるブルホーン肉だけでなく、誰も買わないような魔獣の肉や、部位の悪い肉も含まれているのだろう。

「オーケー。やってくれ」

ラルフは、動じることなく頷いた。アントニオは、キンッと音を立ててコインを弾き上げた。コインは宙を舞い、そして、手の甲に収まる。

「負けちゃいましたね」

魔導車の中。アンナが、積まれた大量のクズ肉を見ながら呟いた。硬いブルホーン肉、鹿肉、オーク肉、その他様々な魔獣の肉が、山のように積まれている。

「ん? さっきの賭けのこと? はっはっはっ! あれ、イカサマだよ?」

ラルフは、けろりとした顔で言った。

「えっ! じゃあ、旦那様はわかっていて?」

アンナが、驚きに目を見開いた。

「違う違う! アントニオは、賭けの末に在庫処分を押し付けたみたいに装ってるけど。これ、かなり割安だよ?」

ラルフは、得意げに言った。アントニオは、表向きはラルフに勝って押し付けた形を取っているが、実際は、ラルフに大量の肉を安く売りつけるための芝居だったのだ。

「えー? でも、どうするんですか? 硬い肉に、鹿肉に、オーク肉に……」

アンナは、積まれた肉の山を不安そうに見つめた。これらをどう調理するというのだろうか。

「今日のメニューは、これを全部混ぜて作るんだよ」

ラルフは、ニヤリと笑った。

「肉、を混ぜる?」

アンナは、その言葉の意味を理解できず、首を傾げた。ラルフの頭の中では、すでに新たな料理のアイデアが形になりつつあった。

それは、彼の前世では"おなじみ"の、ある「白い粉」を使った、誰もが驚くような一品になるだろう。