軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31.マシマシと謎解き

その夜も、居酒屋領主館は熱気に包まれていた。

「ラーメンくれ!」

「俺、チャーシューメン!」

「ラーメン大盛り!」

客たちの注文は、ラーメン、ラーメン、またラーメン。その熱烈なラーメンコールに、たまらずラルフは厨房から叫んだ。

「どいつもこいつも、ラーメンラーメンラーメンって、うるせぇ! よーし! ラーメンをバカみたいに腹いっぱい食いてぇ奴はいるかぁ? まだ試作中だが、新作のマシマシニンニクラーメン出してやるぞぉ!」

ラルフの言葉に、客たちが歓声を上げる。その中で、真っ先に手を上げたのは、先日から居酒屋の常連になっている、あの大食い女騎士、ミラ・カーライルだった。

「マスター! すまない! 食べたいのだが、その新作とやらを……」

ラルフは、ミラの意外な反応に、思わずたじろいだ。

「あっ、いや。ちょっとさすがに、見目麗しいレディーに出すようなモノでは……」

山盛りのニンニクと豚肉、背脂が特徴のマシマシニンニクラーメンは、お世辞にも上品な見た目とは言えない。

「ドーソン公爵。私を小娘扱いなど、これでも一端の騎士である。食い物ごときで手加減は無用」

ミラの言葉に、ラルフは苦笑した。

「あ、いやー。ラーメン三杯食べた後に、まだ食いますか?」

「おーい! 俺も食うぞー! 出せ出せ!」

「あっ、俺も俺も! ニンニクたっぷりでなぁ!」

他の客たちも、次々とマシマシニンニクラーメンを要求し始めた。

「わかったよ! 出してやる! 吠え面かくなよ!」

そして、ラルフが出した“それ”は、一言で言うなれば、山だった。レンゲを突き刺すのが困難なほど、高く盛られたモヤシとキャベツの山。その頂には、雪のように白い背脂と、刻まれた大量のニンニクが載っている。分厚いブロックチャーシューが、ゴロゴロと転がっている。

「はっはっはっー。マジでバカラーメンだな! さすがの公爵様もヤキが回ったかぁ?」

「ちげぇねー! なんだこれ? 豚の餌かよ?」

最初は口々に罵詈雑言を浴びせていた客たちだったが、一口食べると、その表情は一変した。散々言っておきながら、どいつもこいつも遮二無二食らっている。

女騎士のミラも、その細い身体のどこに入るのか、信じられないほどの勢いでラーメンをすすっていた。チュルチュルと麺を味わい、分厚いブロックチャーシューに食らいつき、うっとりとした表情を浮かべている。その姿は、上品な騎士とはかけ離れていたが、彼女の食欲と、ラーメンへの純粋な感動が伝わってくるようだった。

一息ついたラルフは、ふと疑問に思った。

「にしても、なんでレシピを公開したのに、同業他社があらわれないんだ? 製麺工場も稼働してるのに。ラーメンなんて簡単に真似できるだろ。みんなウチばっかり食いに来やがって」

アンナが、そんなラルフの疑問に答えた。

「えっ? でも、屋台で有名なお店も出てきてますよ? なんと言いましたかね? 女性冒険者三人組がはじめた、ああ、そうそう。"ポンコツラーメン"」

アンナの言葉が響いた瞬間、その場にいた何人かの客、そしてなんとグレン子爵までもが、ギクッと硬直した。

「ん? 今、グレン子爵から変な音したな?」

ラルフが、グレン子爵の方を向いた。グレン子爵は、慌てたように顔を逸らす。

「い、いや。なんのことかな。私は、そんな有名なら、食べてみたいかなぁ、なんて?」

グレン子爵は、明らかに動揺していた。

「んー? グレン子爵。なんか隠してません?」

ラルフがさらに詰め寄ると、グレン子爵は顔を青ざめさせた。

「い、いや、そんなことはないぞ?」

その時、ラルフは何かを閃いた。

「おーい! こん中で、ポンコツラーメンって食った奴はいるかぁ?」

ラルフの声に、何人かの客が目を逸らした。なんと、あの大食い女騎士、ミラ・カーライルまでもが、気まずそうに目を逸らしているではないか。

「わかったぞ! アンナ! こいつら、お気に入りのラーメン屋を隠してやがる! 有名店になって自分の食い分がなくなるのが嫌なんだ! "オキニ隠し"だ!」

ラルフの叫びに、グレン子爵は真っ青になった。他の目を逸らした客たちも、冷や汗を流している。

「おいトム!」

ラルフは、厨房のトムに声をかけた。

「はい!」

「お前の製麺工場から大量に仕入れてる店の名前を教えろ!」

トムは、ラルフの剣幕に怯えながらも、正直に答えた。

「は、はい。一番は、やはり南通りの"セキレイの止まり木"という宿屋です……」

その言葉が響いた瞬間、またしても「ギクッ!」という音が聞こえた。今度は、先ほど目を逸らした冒険者の一人からだ。

「ん? そこの冒険者の兄ちゃんからも変な音がしたなぁ?」

ラルフがその冒険者を睨みつけると、彼の仲間が詰め寄った。

「おい! セキレイの止まり木っていやぁ、お前が世話になってる宿だよな?」

「いや、違う。違うんだ。これには深いわけが……」

冒険者は、しどろもどろになりながら弁解しようとする。

「どう深いんだよ? 浅かったら容赦しねぇーぞ」

「そうだそうだ!」

仲間たちからの追及に、冒険者はついに白状した。

「す、す、すまねー! 実は、あそこの宿屋の店主が作る、スパイスラーメンが、バカみてぇに、絶品なんだ! だけど、だけど、小さい宿でよ。客が押し寄せたらと思うと……」

その言葉に、厨房から「スパイスぅ!」という叫び声が響いた。カレーに目がないエリカが、飛び出してきたのだ。

「お前は皿洗いしてろ! やっぱそういうことかぁ! 謎はすべて解けたぁぁぁぁあ!」

ラルフは、すべてを悟ったかのように叫んだ。居酒屋領主館のレシピ公開にも拘らず、特定の店が繁盛する謎。それは、顧客たちが自分のお気に入りの店を秘密にして、混雑を避けていた「オキニ隠し」だったのだ。