軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

211.動物のお医者さん

ラルフが領主館の二階に向かって、伸びやかな声で呼びかけた。

「おーい! ヴィヴィアーン!」

すると、ドタドタと足音が響き、階段を転げ落ちるようにヴィヴィアンと、なぜかエリカも一緒に降りてきた。二人は目を真ん丸に見開き、ラルフに迫る。

「べ、べ、別に! そんなに儲けてはいないぞ! そんなには!」

「そ、そ、そうよ! 万馬券と言えど、別にそれほどは……」

お揃いのように、二人の右耳の上には鉛筆が乗っている。どうやら競馬場帰りらしい。そして、珍しく、勝ったようだ。しかも「万馬券」という、聞き捨てならない言葉が耳に突き刺さる。ラルフは冷静に問いかけた。

「……ふーん……。いくら勝ったの?」

「いや、いやいやいやいや! 今までの負け分があるから、それほど儲けたってわけじゃないし!」

「そうよ! そうよ! べ、べ、別に、大した大勝ちってわけじゃないし……」

二人は、しどろもどろに謎の弁明を繰り返すばかりだ。その様子に、ラルフは残酷な事実を告げる。

「競馬の払戻金って、一時所得として、課税対象だよ?」

その言葉に、二人は絶句した。

「えっ?」

「えっ……」

課税、つまり、税金が取られる……。その事実が、二人の頭の中で反芻される。

「そりゃあそうだよ。知らなかった?」

二人は、ぼんやりと、そんな気がしていたことを思い出す。しかし、まさか本当にそうなるとは。

「いや、いやいやいやいや。そんなバカ正直に申告する人なんて、いないだろう!」

「そ、そ、そ、そうよ! そんな律儀にやってる人なんて、いないわよ!」

ラルフは、その主張をあっさりと打ち砕く。

「このロートシュタインの税務を担っているのは、領主である、僕なんだけど……」

その言葉に、ヴィヴィアンとエリカは、顔面蒼白となる。

「あ……」

「あっ……」

すっかり忘れていた。目の前にいるこの男は、腐っても領主様なのだ。二人の額に、ダラダラと冷や汗が流れる。

「ちゃんと申告しろよ……」

色々と諦めた二人は、ラルフの言われるがままに庭に出る。すると、そこには信じられない光景が広がっていた。

「グッグッグッグッ!」

威厳に満ちた唸り声を上げるレッドフォード。その前に、耳をペタンと伏せ、尻尾をクルンと下げて平伏す、一匹のフォレスト・ウルフの姿。

「なに? またペットを拾ってきたの?」

エリカが呆れた声で言う。

「フォレスト・ウルフですか! 確かに、テイマーの従魔としては人気ですね」

ヴィヴィアンは興味深そうに目を細めた。狼の周りには、メイドのアンナや、ミンネとハル。そして、ヴィヴィアンの従魔のヤマネコ、シャギーも興味深そうにその光景を見守っている。

「旦那様、またペットを増やすんですか?」

アンナが呆れたように白い目を向けてくる。

「いや、そんなつもりはないけど……勝手についてきちゃったんだよ」

ミンネとハルは、巨大な狼に臆することなく近づき、その艶やかな毛並みを撫でている。狼の魔獣は、「グムゥッ!」と噛みついてやろうかと思ったが、巨大なワイバーンが「グググググググっ(彼女たちに危害を加えたら、殺すぞ!)」と、魔獣同士にしかわからない言葉で脅しつけた。仕方なく、狼は大人しく、小さな子供たちに撫でられるままになった。

「これは、間違いなく、モフモフ案件ですよね。クレア王妃を呼ばなければ」

ヴィヴィアンは、クレア王妃を巻き込むことを提案した。モフモフを愛する王妃を仲間外れにすれば、後で何をしでかすか分からない。

その時、予想外の人物が庭に現れた。

「あああ! ワンちゃん!」

嬉しそうに駆け寄ってくるのは、ダンジョン・マスターのスズだ。タッタッタっと軽快な足取りで狼の前にしゃがみ込み、その青い瞳に問いかけた。

「撫でていい?」

狼の魔獣は、その小さな存在が放つ、底知れない強大なオーラを感じ取る。

(こいつもヤバい……、バケモノだ……)

と、野生の勘が警告する。スズの戦闘力は、この王国でもトップクラスなのだ。狼は仕方なく「ワッフゥ……」と答える。彼女が長い指で耳の後ろを掻いてくれる。その気持ちよさに、狼は思わず目を細めた。

「この子の名前は、何にするの?」

スズはラルフに尋ねる。

「いや、うちで飼うって、まだ決まったわけじゃ……」

ラルフが言いかけるが、スズは満面の笑みで提案してきた。

「チョビ!」

「あー。あの、有名漫画のな? 確かに、ハスキー犬っぽいか?」

ラルフは合点がいった。

「私、動物の、お医者さんになるの、ちょっと夢だった」

と、スズは前世の夢を控えめに呟いた。

ラルフは、

「わかる……。"あれ"読んだら、北海道に憧れるんだよな……」

と、前世の記憶から、謎の感情に浸る。

ヴィヴィアンは、魔獣のプロフェッショナルとして、狼の身体をあちこち触診している。狼はもう諦めて、なされるがままだ。

「むっ? ラルフ・ドーソン、この子はメスのようだ……。そして……」

ヴィヴィアンが意味深な言い方をする。

「何? どうしたの?」

ラルフは面倒くさそうに問い返した。

「この子、妊娠している……」

ヴィヴィアンは、その日一番の衝撃的な事実をもたらした。