軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

比較

金色の美しい巻き髪に青い瞳、透き通るような白い肌にバラの蕾のように可愛らしいピンクのくちびる。

奇跡のようなお姫様、目の前にいるのはロラン様が愛するシャルロット様。

ジゼルは今更ながらにシャルロットと自分の違いに強い劣等感を抱いた。上質なシルクで作られたペールピンクのドレスを纏うシャルロットは神殿に祀られている創造の女神メシエのように美しく上品で王族特有の存在感を放っている。

ロラン様の横に立っても見劣りしない唯一の女性。

それに比べ今の私は転んで泥だらけの外套に傷だらけのボロボロの手、身分も容姿も何もかもがシャルロット様に劣っている。ジュベール公爵家次期当主、大魔法使いであるロラン様に釣り合うものを何一つ持っていない。恥ずかしい、こんな私がお二人の間を引き裂いているなど、皆が許せないのも理解できる。この美しい人を前に見窄らしい私がロラン様に選んでもらえるはずが無い。

今宵夢のような時間をロラン様から頂き、この思い出だけを持って十日後に去って行きたかったけれど、神はそれを許さなかった。やはり現実を見せなければジゼルはロランを諦められないと神がお計らいになったのかもしれない。

それほどまでに私の心はロラン様を求めているのだと改めて気付かされる。

悲しいけれどお二人の愛し合う姿をこの目に焼き付け、離婚後二度とお二人の前に現れないと、ここでお伝えしよう。

ジゼルは深呼吸をし、シャルロットに挨拶をする為に姿勢を正しロランに握られている手を引いた。だがロランはその手を再び掴み離さない。

え?ロラン様?!

ジゼルはロランの行動に戸惑いつつも王族であるシャルロットを目前に取り乱すことはできない。けれども挨拶をしないわけにはいかない。しかし、ロランに手を握られたまま失礼のない挨拶などできるはずもない。ジゼルは混乱しながら助けを求めるようにロランを見た。ロランはシャルロットを見ている。その瞳に熱は感じない。

一方でシャルロットは手を繋ぐ二人をまじまじと見て涙を浮かべた。

ジゼルはロランの態度に戸惑いつつもとりあえずシャルロットに頭を下げそのまま俯いた。

シャルロットはジゼルなど眼中になくロランを見続け、ロランはシャルロットを見たまま繋いだ手を離さない。

ジゼルは混乱した。なぜロラン様は私の手を離さないの?

麗しい二人に囲まれている私はますます惨めな気持ちになる。ロラン様に手を繋がれていても一向に嬉しくない。なぜなら今ロラン様の隣に並んでいるのは田舎から出てきた底辺貴族の娘ジゼル・メルシエだ。妻にも恋人にもなれない見窄らしく悪女と呼ばれる女。この城でロラン様の隣に居ても誰一人私の存在に気が付かないほどのどうでも良い存在。

ロラン様、もうやめて!手を離して!

「シャルロット、ここは危険だ、広間に戻れ」

ジゼルの心の叫びとは裏腹にロランは冷静な口調でシャルロットに言った。その言葉のトーンは低く、その声を聞いたジゼルはロランに冷たくされていた日々を思い出した。胸に杭を打たれたような痛みと衝撃を思い出す。だが今その対象はジゼルではなくシャルロットだ。

なぜそんな態度を?ジゼルは驚き反射的に顔を上げた。

だがふと思い出した。偽りの優しさ。

ああ、そうだ、今はロラン様にとってその時がやって来たのだ。私の悪意からシャルロット様を守るため、シャルロット様すら騙されるほど徹底されたロラン様の演技。

私とシャルロット様とが対峙している今、ロラン様はあの新聞の記事通り動いている。

ああ、繋いでいるこの手を離したい。もう今更そんなことをしなくてもいい。あと十日で全てが終わるから。

「ロラン!お願い!そばに居て……」

シャルロットはロランに近寄りハンカチで目元を覆った。

ああ、シャルロット様が悲しんでいる。今立ち去るところだと、シャルロット様に誤解のないように話さなければ。ロラン様にもその優しさは必要ないと言わなければ!

ジゼルは顔を上げ口を開こうとした。

「シャルロット、妻を置いていけない」

ロランは言った。シャルロットはその言葉を聞きショックのあまりブルブルと震え出した。

「嘘でしょ?ロラン!!」

シャルロットは震えながら美しい瞳に涙を浮かべている。

こちらまで悲しくなるようなその姿にジゼルは我に返った。これ以上無駄にシャルロット様を悲しませるわけにはいかない。今話さなければ!

ジゼルは意を決し顔を上げ二人に向かって話し始めた。

「シャルロット様、ご、誤解です!私は今帰る所で、つ、妻ですが私は形の上でそうなった者で、ロラン様はシャルロット様を深く愛しておいでです。……あの記事で仰ったように私の仕返しを恐れ表面上私に優しくして下さっているだけです。ですが私はあと十日後には去りますからもう何もしませんから、あ、あのロラン様、もう大丈夫です。酷いことなどしません。シャルロット様も泣かないで下さいませ!!」

ジゼルはそう言って深く頭を下げた。

偽りの優しさを向けなければシャルロット様を守れないと思っているロラン様。

でもこの期に及んでここまでする必要などない。この徹底したロラン様の姿は先ほどのキスの喜びさえ忘れさせる。悲しくないわけではない。だが、残りわずか十日。離婚が目の前にある今、ロラン様の優しさはもういらない。そんなことをする必要はもうない。

なぜなら私の覚悟は決まったから。

ジゼルは唇を噛んだ。