軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

召喚魔法

ジゼルは柔らかい砂の感触を足の裏で感じながらゆっくりとロランのところまで戻った。ここには二度とこられないかもしれない。白い砂は別れを惜しむようにジゼルの足取りを重くした。

砂に足を取られながらゆっくりと歩くジゼルを見てロランは手を差し伸べる。ジゼルは戸惑いながらもロランが差し出した手に手を添える。ロランの優しさは時も場所も選ばず突如ジゼルに向けられる。

この優しさが偽りだと思うと急激に心が波立つ。

けれどそれは仕方のないこと。

嘘でもこうして手を差し伸べてくれることに感謝しなければロラン様はきっと安心できない。

ジゼルはぐっと息を止め気持ちを切り替えロランに笑顔を向けた。

ロランはジゼルの笑顔を見てなぜか少し寂しそうに目を細め、魔法を使って良いかと聞いた。

「魔法?」

ロランが何を考えているのかわからない。初夜の夜を思い出す。ダークネスドラゴンを召喚した時のこと。

「嘘を言ったら死ぬぞ」

そう言ったロランは好戦的な瞳をジゼルに向けた。召喚魔法でジゼルが死んでしまっても仕方がないと思っただろう。けれどジゼルに魔法は効かなかった。だから今も生きているのだが、それを承知でまた違う魔法を使うのだろうか?効かないとわかっているのに?

矢継ぎ早に疑問が浮かぶ。

私を……殺したいのだろうか?

魔法を使うふりをして剣で斬り捨てるのだろうか?

誰もいない海で起きた事故。ジゼルがここで死んでも行方不明になったと言えば誰も気が付かないだろう。

一瞬そんな考えが浮かんだ。

けれどジゼルを見つめるロランの瞳はその考えを悟ったかのように悲しく揺れて見えた。

その瞳を見て罪悪感を抱く。しかしロランの優しさは偽りで、ジゼルの思いもロランは知らない。

なぜこんな出会いをしてしまったのだろう?魔力が無い人間と対極にある大魔法使い。古からの因習だからと、言われるがまま、お互い拒否もできず結婚させられ、愛のない生活、愛のない契りをし、そうしたからと言って何か変わるのだろうか?

公爵家や、王族でさえ逆らえない神殿の意向。愛し合う二人を引き離してまでしたこの結婚で誰が幸せになったのだろう?本音を隠し残りの時間を過ごす私に残るものは何もない。ロラン様が望んでいない私との生活は五ヶ月過ぎたら思い出したくもない時間となるだろう。

……それなら、ロラン様が望むことは全て受け入れよう。

ロラン様にとってこの苦痛の日々が少しでも楽になれるのなら。

たとえ殺されても。

ジゼルはロランに微笑み頷いた。

ロランはジゼルからゆっくりと離れ、空中に魔法陣を描いた。

ロランの目の前に薄いグリーンの魔法陣が浮かび上がり暗い砂浜を照らす。月の光はより一層輝きロランの姿を浮かび上がらせる。魔法を使うロランはまるでこの世の支配者のように見えた。その圧倒的なオーラは魔法を無効にするジゼルでさえ後退りしたくなる。

魔法陣から噴き上げる強力な魔力風に煽られたロランの長い髪は後方に流れ金色に輝きながら緩やかな動きを見せる。ロランの魔法は繊細で力強く美しい。まるでロランそのものだ。ロランの美しい顔が顕になりジゼルはその瞳に釘付けになった。あの初夜の夜に見せた輝く瞳。

ああ、この瞳だけは信じられる。

あなたに殺されるならそれは本望です。

ジゼルはロランに微笑んだ。

ロランはジゼルに向けてまた召喚魔法を使った。

不死鳥(フェニックス) が現れた。

ジゼルは目の前に現れた巨大なフェニックスを見て驚いた。なぜ死者を蘇らせる高難度の召喚魔法を使うのだろう?

私は殺されてもいいと思ったのに。

フェニックスはオレンジ色に輝きながらジゼルに向かって飛んできた。

暗闇にオレンジの炎を纏い飛んでくるフェニックス、その様子はまるで絵画のように美しかった。

フェニックスはジゼルに触れた瞬間粉々に飛び散った。オレンジ色の残像が消えないうちに砂浜には次の魔法陣が浮かび上がり間髪を容れず白魔法のエンジェルが召喚された。瀕死の人を回復させる魔法だ。

ジゼルはロランが白魔法まで使えるとは知らなかった。ロランの能力の高さに足が震える。これほどの人が他にいるだろうか?大魔法使いと呼ばれる人はこの世でただ一人ロランだけだと確信した。だからこそ、ロランはジゼルの伴侶になったのだ。

エンジェルも眩い白色の光を放ちながらジゼルに向かって飛んで来る。

しかしフェニックス同様ジゼルに触れた瞬間粉々に飛び散った。

「……お前は最強で、最弱だな」

ロランは笑いながら言った。

ジゼルはロランの笑った顔を初めて見た。

ああ、神様ありがとうございます。

ロランの笑顔は眩しく優しい瞳はジゼルにとって奇跡だった。

これが嘘でも構わない。これほど美しい笑顔と純粋な瞳を向けてもらうことはもう二度と無いだろう。それに私を生かしてくれた。でもなぜこの高度な召喚魔法を?

ロランはため息を吐き、ジゼルに近づいた。ジゼルは目の前のロランに戸惑いながらもロランを見上げた。

「あ、あのロラン様、先ほどのは、」

ロランはジゼルの前髪にそっと触れ傷口を見た。

「やはりダメか」

そう言ってジゼルを抱き寄せ「帰る」と言って別邸に戻った。

その夜ジゼルはベッドで横になりながら先ほどのことを考えていた。

まさかこの傷を治すためにあの召喚魔法を?まさか、ありえない。また自分の都合良い方に考えてるだけ。

しかしジゼルはロランのあの笑顔を思い出しその夜は眠れなかった。