軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

戸惑い

ロランは立ち上がり血だらけの服を脱ぎながらジゼルに聞いた。

ロラン様はまだ着替えていなかったのね。私が先に着替えるなど、ここにいさせてもらっている身で厚かましいわ。……でも……。

ジゼルはロランの鍛えられた体を見て胸の鼓動が速くなった。目のやり場に困り目線を逸らしながら答える。

「……皆さんよくして下さり感謝しております」

目線を逸らしたものの、見たらいけないと思えば思うほど鍛え抜かれた美しい体に目を向けたくなる。あの体に抱かれた……。急にロランを意識し高鳴る胸の鼓動を抑えられなくなった。

ロランはメイドが用意したシャツに袖を通し、襟の内側に入った長い髪を両手で払った。夕方の柔らかい光がロランの金色の髪をオレンジに染め、青い瞳との対比があまりにも美しくジゼルはロランに見惚れた。

「私の知らぬ間に、色々なことが起きているんだな」

ロランはカフスボタンを留めながらジゼルに言った。

「も、申し訳ありません。……気をつけ、ます」

ジゼルは言葉に詰まった。またロランを嫌な気分にさせてしまった。心がずんと重くなり自分の行動を恨めしく思う。主人の知らない間に屋敷の中が変わっているなどあってはならないこと。それを指摘されるまで何も考えなかった己の浅はかさに嫌気が差す。

気をつけます。という言葉にロランはどんな返答を返すのか。ジゼルは息を呑み身構えた。

諦めのため息か、叱責か、それとも無視か。

だが、落ち込みつつも、一人で着替えているロランが気になる。手伝ったほうがいいのだろうか?エミリーを呼んだ方がいいのだろうか……。気分は最悪だが、一方でそんなことを考えている自分に呆れた。

「……いや、良い。好きにやってくれ」

ロランは上着を羽織りながらさらりとした口調でジセルに言う。

ジゼルはその言葉に目を見開いた。

好きに……やってくれ??

ジゼルは顔を上げまじまじとロランを見た。

どういう意味?

ジゼルは思いもよらない返答に動揺した。想像していた答えとは全く違う返答に頭の中が混乱し始める。

そんなジゼルを横目に見ながらロランは立ち上がった。

出かけるのだろうか?

話は途中、途中どころか想像だにしない状況に動揺しあたふたしながらも、ジゼルはロランを見送るために立ち上がった。

「立たなくて良い」

ロランはそう言いながらソファーに座っているジゼルの背後に回った。ジゼルは一体何事かと緊張が走った。立つなと言われどうして良いのかわからずキョロキョロと頭を左右に動かしロランを見る。

「そのまま動くな」

一体何が起きているの?

ジゼルは混乱している。だが動くなと言われ、ジゼルは言葉通りピタッと動きを止めた。

ロランは姿勢良く腰掛けているジゼルの背中にそっと掌を押し当てた。

蹴られた場所がズキンと痛む。だがそんな痛みよりもロランに背中を触られた驚きが勝る。背中から掌を通し鼓動の強さが伝わってしまうかもしれない。

どうしよう!恥ずかしい。

……でもなぜロラン様は私の背中を触るの?

まさか、ホコリがついてた?

「……ロ、ロラン様、背中にホコリでもついていましたか?」

ジゼルは顔を赤くし、恥ずかしさに声を震わせながらロランに聞いた。

「……ああ、大きなゴミが……」

そう言いながら炎の魔法を使った。その炎は部屋の中を燃やすほどの勢いがありその色は血のように赤かった。

「す、すみません。ありがとうございます」

ロランの魔法に驚きながらもわざわざ大きな炎を使いゴミを燃やしてくれたことに感謝した。だが、本音はロランの意外な行動にどう対応して良いのかわからない。

それに、先ほどの「好きにやってくれ」……嫌いな妻がメイドや使用人と仲良くなることが嫌ではないのだろうか?主人がいない間に好き勝手され嫌じゃないのだろうか?

一体、ロラン様は何を考えてらっしゃるの?

ジゼルはまたまた混乱した。

ロランは身支度を終えグローブを手にした。

ジゼルは先ほどのロランの言葉をどう理解して良いのかわからず、複雑な心境になっていた。

好きにやってくれ……まさか私を信頼してくださった?嘘?!それは無いわ。ロラン様は私のことなど全く興味がない。

……興味がない。

あ!

よくよく考えるとロランはジゼルに興味がない。興味がないから勝手にどうぞ……という意味だ。怒りを通り越し、お好きにどうぞと言っているのだ。

ジゼルはロランの本音を悟りため息をついた。

「……じゃあ、私は戻る。安静にしてろ」

着替え終わったロランはジゼルに言った。

ロランはなぜか魔法使いのローブを羽織っている。これは仕事に行く時や、魔法を使う時に羽織る特殊なローブ。ジュベール公爵家に戻る格好に思えない。

だが、ロランの洋服を血で汚してしまったことを思い出した。

大切な洋服を汚してしまったからだわ。優しいロラン様は興味もない私に対しここまでしてくださった。それなのに今は「洋服を汚してしまってごめんなさい」の一言を口にする勇気がない。

ジゼルは沈んでゆく心を引き上げることもできず、背中を向けたロランに頭を下げた。

「……お祖父様に何か伝言はあるか?」

ロランは振り返りジゼルに聞いた。

ジゼルはロランの言葉に驚いた。今出かけようと背を向けたロランが?!思わず息が止まりそうになった。だが、ベルトランにお礼とお詫びを伝えたいと思っていただけに喜びが表情に表れる。

「ロ、ロラン様、ありがとうございます。お言葉に甘えて、少しお願いがあります。あの、ベルトラン様に……」

ジゼルはロランの気遣いに戸惑いながらも今日持って行った花の名前と、途中で退席した謝罪のメッセージを急ぎ書き始めた。

ロランは椅子に腰をかけメッセージを書いているジゼルの姿を見ている。ジゼルはロランの視線に気付き緊張したが、待たせる訳にはいかない。そう思いながらもふとロランはベルトランとの関係をどう思っているのか気になった。

ベルトラン様と私の関係……。

お茶会で令嬢達が言った た(・) ぶ(・) ら(・) か(・) す(・) という言葉を思い出す。ベルトランの名誉を回復できずここに戻ってきたことが悔しい。このままにはしたくない。そう思うが、ロランの元を離れようと決めたジゼルにできることは何一つない。

ジゼルはメッセージを書きながら溢れ出る涙を止められなかった。

ベルトラン様、ごめんなさい。私が至らないばかりに……。本当に心から感謝しています。

いつも我慢していた涙、今日は一生分泣いたかもしれない。

書き終えたジゼルはロランにメッセージを託し、ロランはそれを受け取り目の前から消えた。