軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

運命の歯車

移動魔法を使ったロランは襲いかかる負荷に倒れそうになった。クラクラとする頭、崩れそうになる身体。だが、今はそんな姿を見せるわけにはいかないと歯を食いしばり耐える。

ランスロットがロランの魔力に気が付き、城全体に防御魔法を使った。

ジゼルは恐怖に体を震わせている。ロランはこの状況に対応できない身体と焦る心を隠し「心配するな」と言ってジゼルの手を握った。ジゼルもロランの手を握る。次第にジゼルは落ち着いた。

燃え盛る炎の中、パニックを起こし右往左往する兵士に声をかける。簡単な魔法を使い燻っている火を消すと兵士たちは我に返り、冷静さを取り戻した。けれど、些細な魔法だけでも突き刺すような鋭い頭痛に片目をつむる。だが、今は大魔法使いとしての責務がロランを支えた。

兵士たちは初めて見る聖女を目の前にし、活躍している姿を見せようと元気よく動き出す。ロランはそんな彼らを微笑ましく思いながら、城の中を移動し、動揺する彼らに声をかけ続けた。

聖女を初めて見た使用人達はその存在感に言葉を忘れる。ジゼルがいるだけで心が落ち着いてゆくのを感じているのだ。そして二人が城に現れてからドラゴンの攻撃が止んだ。

この現実を目の当たりにした兵士や使用人達はこの奇跡のような現実に活気を取り戻していった。

「ロラン様!! シャルロット……様は無事でございます! 広間に避難しております!」

ロランの姿を見たランスロットが駆け寄り言った。ランスロットは騎士のフリをしシャルロットを人目につきやすい場所に移動させたのだ。これであからさまにドラゴン王の卵に危害を加えることができなくなった。

ロランはランスロットの見事な判断に頷き、ランスロットは再び広間に戻る。ランスロットさえいれば問題がないとわかったロランは引き続きパニックに陥っている城の中を歩き回る。

二人の姿を見た人間はその存在感に安堵し、持ち場に戻ってゆく。そして聖女ジゼルの話題に花を咲かせ始める。

ロランは『大魔法使いが愛する聖女』の姿を知らしめるため城を歩き続けた。

「ロラン! 上空のドラゴンはなぜか攻撃しないで旋回している」

二人の噂を聞きつけたグレアムがわざとらしい口調でロランに話しかける。ジゼルを紹介してくれと言ったグレアムは我慢できず現れたのだ。

案の定グレアムの視線はジゼルに向いている。ロランはため息を吐きながらグレアムに言った。

「グレアム、城の被害状況は大体分かった。襲撃の原因も見当がついている。引き続き警戒してくれ」

ロランは呆れ顔をグレアムに向ける。グレアムはロランの不満を楽しむように目を細めた。

「……だが恐らく……ドラゴンは攻撃しない!」

ロランはジゼルを見つめ、グレアムを睨む。もういいだろう? という怒りが込められた視線だ。

「なるほど……そうか、分かった。じゃあ!」

グレアムはやりすぎたと、ジゼルに頭を下げ逃げた。

それからもロランは広い城の中を移動し、ロラン派の兵士や魔法使いにジゼルを紹介するように歩き回った。ほぼ、全員にジゼルの存在を認知させ、ようやくシャルロットがいる広間にやってきた。

もうロランにはジゼルがいるとこの城の人々は知っている。今更シャルロットが何かをしても意味がないのだ。それに、ジゼルとともにシャルロットに会った方が良いとロランは判断する。城にいた貴族達も避難しているこの広間は人目が多い。それだけにシャルロットは手も足も出ないのだ。

ロランが広間に入ろうとした時、ジゼルは手を離し言った。

「あ、ロラン様、靴の紐が…………先にお入り下さい、すぐに追いかけます」

ジゼルはしゃがみ込んだ。

ロランは一瞬考えた。突然ジゼルと行くよりも先にシャルロットの様子を確認した方が良いかもしれない。

「分かった」と返事し、先に広間に入った。

広間には多くの貴族がいた。その中でシャルロットは椅子に腰掛けその傍らにマリアンヌがいた。そして離れた場所には騎士の姿をしたランスロット。

シャルロットはロランの姿を見て立ち上がる。その時、ドレスのふくらみに目が行った。

(シャルロットはドレスにドラゴン王の卵を隠している?)

厄介な場所だとロランは顔を歪めた。だがこれだけの人間のいる中でシャルロットはジゼルが現れても何もできないだろう。ロランはドアの方を振り返る。

ジゼルがいない。

体の中の血液が抜けたようにロランの顔が青ざめる。

すぐに来るだろうと思っていたジゼルの姿が見えない。その現実に鼓動が速くなる。ロランは踵を返し広間を出た。

「ロラン様、聖女様は先にお帰りになるとおっしゃって……」

広間のドアを警備していた兵士が声をかけてきた。

「何!?」

ロランは言葉の意味がわからず立ち止まる。

(なぜ!?)

すぐに走り出す。

この城には防御魔法が施してある。ジゼルが触れれば魔法が消える。

ロランは近くにいた使用人にジゼルの走り去った方向を聞き、移動魔法を使った。が、予定していた場所まで辿り着けない。

魔力量を消費し意識が一瞬飛んだ。

だが、目の前にいるジゼルを見て意識を立て直す。偶然にもジゼルが出られないとわかり戻ってきた場所に移動できたのだ。

「何をしている!」

ロランはジゼルの手を掴み城の中に戻そうとした。今離れてしまったら、皆が守ってくれているこの場所から離れたらロランはジゼルを守ることができない。

ジゼルは城内に入ろうとするロランに抵抗するように歩みを止めた。

「ロラン様、私は大丈夫です。ほんの一瞬防御魔法を……私はここから家に戻りますから」

「お前は何を言っている!? 今ドラゴンから攻撃を受けているんだ! しかもあのドラゴンは理性を失いつつある危険なドラゴンだ! それにお前が怪我をしたら……」

ジゼルはドラゴン王の卵が危険にさらされていることを知らない。

「はい、分かっています。だけど攻撃が魔法であれば私には効きません。ここでロラン様の足手まといになる訳に行きません。それに……」

「ロラン!!」

シャルロットがロランを追いかけ広間から走ってきた。

その姿を見て血の気が引く。

(なぜこのタイミングで、なぜどうして……)

ジゼルを追い詰める最終手段ドラゴンの卵。

今シャルロットに対抗できる魔力は残っていない。