軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

97話 角煮

ダンジョン内の鉄道が脱線してしまったので、その復旧工事を請け負うことになったのだが――。

工事責任者の役人に入れ替わった暗殺者に襲われたり、テロリストにホテルを襲撃されたりと散々な目に遭った。

俺がいると、ホテルに迷惑がかかると思って出ようと思ったのだが、当のホテルから引き止められてしまった。

俺たちがいるほうが、ホテルにメリットがあるらしい。

後日、本物の役人がやって来た。

俺を襲った暗殺者によく似た、メガネの女性。

いや、この女性の真似をして暗殺者が変装したわけだな。

こちらが本物なわけだし。

まずは、現場の確認をするらしい。

現場監督らしき男性と、助手たちを従えて、脱線事故現場に向かうことになった。

彼らは測量道具らしきものを持っていたのだが、工事の書類を作るために必要なのだろう。

まぁ、これも国民の税金を使っての工事なので、きちんとした手続きを踏むのは致し方ない。

役人たちを引き連れて、ダンジョンに潜る。

彼らはみんな一般人なので、俺たち冒険者が護衛につく。

現場の4層は、魔物もそれなりに強い。

普通の人間だけなら、一瞬で全滅してもおかしくないのだ。

1層から列車に乗って2層に到着した。

続いて蒸気エレベーターに乗る。

役人たちが被っているヘルメットに装備されているライトが光っているのだが、やっぱりケミカルライトタイプらしい。

その光は弱々しいが、ないよりはマシだろう。

「小野田さん、ダンジョンは?」

「は、初めてです」

「怖くないですか?」

「正直、怖いですが……仕事なので(キリ!」

キリ! ってやつも、地上で見せたときより、かなり弱々しい。

かなり無理をしている印象である。

「普通の人は暗闇じゃなにも見えないでしょうが、高レベル冒険者は夜目が利くんですよ」

「そうなんですか?!」

俺の言葉に、彼女が驚いた声をあげた。

「ええ、色は薄いかグレーですが、よく見えますよ」

「見えるだけでも、恐怖心はかなり薄まるでしょうね……」

「そうですね。やっぱり真っ暗でなにも見えないというのは恐怖ですよ」

話している間に下に到着した。

光ファイバーの明かりの下、2層の列車に乗り込む。

そのまま2層~3層と列車を乗り継いで、いよいよ4層に到着した。

「ここが事故があった層ですか」

「ええ、4層ともなると魔物も強力ですから」

「ごくっ」

小野田さんが緊張している。

冒険者でもないまったく一般人がやってきていい場所ではない。

まぁ、一番最初に俺がここにやって来たときには、他の冒険者からもそう見えていたんだろうな。

「ダーリン、ここからの移動はどうする?」

「自転車を使う」

アイテムBOXから、自転車を2台取り出した。

「役人たちは? 4人じゃ後ろには乗せられないぞ?」

「ふふふ、こんなときのために、いいものをゲットしてきた――リアカー召喚!」

前にも移動で苦労したので、なにかいいものがないかと思っていたら、ダンジョンの外でリアカーを引っ張っている冒険者を見かけた。

その人に聞いてみると、特区で売っているらしい。

そいつをゲットして、アイテムBOXに入れていたのだ。

自転車の後ろとリアカーのフレームを結ぶ。

「はい、こいつに乗ってください」

「こ、これにですか?」

「歩くと結構距離がありますよ。時間がかかると、それだけ魔物とエンカウントする可能性が上がりますし」

「は、はい」

「乗り心地は悪いでしょうけど、歩くよりは楽ですよ――多分」

リアカーにはサスペンションがないからな。

地面の凸凹が直接振動として伝わるはず。

俺の言葉に、役人たちは渋々とリアカーに乗り込んだ。

まぁ、歩くのは大変だと、自分たちも思ったに違いない。

カオルコは姫の自転車の後ろに乗っている。

いつものとおりだ。

「よし、出発」

「きゃ!」

「ちゃんと掴まっててくださいね」

「は、はい!」

ガタガタと音を出しながら、自転車に牽かれたリアカーが進み始めた。

現場に向かうのは簡単だ。

地面に敷かれた線路沿いを進めばいい。

「う、うお!」「こ、怖い!」

リアカーの若い男性からも、声が上がる。

まぁ、真っ暗の中を進んでいるから、恐怖感もあるだろうが、暗闇の中を延々と歩くよりマシなはず。

普通の人に合わせて歩いていたら、いつつくか解らんし。

「俺たちは、結構先まで見えているから、大丈夫ですよ」

「ひえぇぇ!」

小野田さんの悲鳴が聞こえる。

「ギャ! ギャ!」「ギャー!」

「おっと、早速やつらが来たか」

もしかして、待ち構えているのか?

「な、なんですか?」

「魔物ですよ」

「ま、魔物……ひぃぃ!」

小野田さんと一緒に乗っている男たちが、ビビりまくっている。

これで工事とか大丈夫なんだろうか?

ババ引いたとか思っているんだろうな。

まぁ、危険手当などは出るだろうけど。

そのまま進んでいると、右手に翼を広げた灰色の影が浮かぶ。

並走して飛んでいるらしい。

す~っと近づいてくると、俺の頭に止まった。

「ギャ!」

「お~い、頭の上は勘弁してくれ。重いんだぞ」

「ぎゃあ! ぎゃあ! ま、魔物!」

ハーピーの鳴き声かと思ったら、違う。

後ろをチラ見すると、リアカーのフレームにハーピーが止まっていた。

胸のデカいチチだ。

「お~い、ちょっとこっちに来な」

「ぎゃ」

チチが、フレームを伝って俺の近くにやってきた。

「だ、大丈夫なんですか?!」

「ああ、このハーピーはちょっと特別でな。俺と仲良しなんだよ」

「……し、信じられない……」

まぁ、一般人からするとそう見えるのかもしれない。

俺から見ると、ただのペットみたいなものだし。

野生の狼でもヒグマでも、人に慣れることがある。

――とは言っても、いつ野生に戻って襲われるか解らんのだが。

「ハーピーなら、もし襲ってきても簡単に追い払えますよ」

「お、お願いします」

そんなことをしている間に、現場に到着した。

俺たちが脱線して放り出されたときのままだ。

こんなダンジョンの奥じゃ、誰も動かせない。

「手漕ぎのトロッコや、線路を走る自転車があればもっと早く移動できそうだが」

「それを認めてしまうと、鉄道の運行に支障が出ますので」

「まぁ、そうか」

事故でも起きたら、役所の責任だと言われるしな。

ダンジョンの中では全てが自己責任とはいえ、他の冒険者に迷惑がかかる行為は困るな。

俺はアイテムBOXから、役人たちの荷物を出した。

「明かりを出しますか?」

「お願いします」

「カオルコ、魔法の明かりをお願いできるかな?」

「はい―― 光よ(ライト) 」

上方に出た魔法の青い光が、横倒しになった機関車や客車を露わにする。

「おおお~」

「はいはい! 感心している暇はありませんよ。すぐに測量を始めてください」

「「「はい」」」

男たちが、地面をメジャーで計ったりしている。

ある者は三脚に乗せたカメラを使う。

「それって、フィルムカメラですか?」

「もちろん、ここじゃデジタルは使えませんから」

まぁ、使えるのは俺だけなんだが。

今はAIで簡単にデジタル絵の改ざんができたりするから、フィルムカメラのほうが証拠として有用だったりする。

写真撮影のあとは、測量を始めた。

「機関車は回収するとして、客車はこのまま放置でよくないですか? すぐにダンジョンに吸収されますよ」

「そうですねぇ……運び出すとなると、切断しないといけないんでしたっけ?」

「ええ、このままじゃ、私のアイテムBOXに入らないですからねぇ」

「考慮します」

俺に手伝うことはなさそうなので、ハーピーたちに餌をやることにした。

「ほら、チョコだぞ」

「ギャ!」「ギャー!」

やっぱり、チョコの甘さにつられて、俺の言うことを聞いているっぽいな。

「お前たち、上空で他の魔物が来ないか、見張っててくれ」

「ギャ!」

ハーピーたちをなでてやり、髪の毛も伸びていたので、カットしてやる。

散髪用に専用のハサミもゲットした。

刃がギザギザになっており、普通のハサミで切ったように一直線にならず、自然な感じになる。

「ちゃんとできたら、また美味しいものをやるぞ」

「ギャギャ!」

チョコを食べ終わったハーピーたちが、暗闇に飛び立った。

「本当に魔物が懐いているんですね」

俺とハーピーたちの関係に、小野田さんが驚いている。

「はは、あいつらは特別みたいですよ。目もいいし鼻もいいんで、他の魔物が湧くとすぐに教えてくれますよ」

「すごい! 偵察機みたいですね!」

「そのとおり、ダンジョンの道案内もしてくれますよ。なん回も助けられてます。なぁ、姫」

「……うぐぐ」

彼女は、ハーピーに助けられたと、素直に認めたくないようだ。

そのまましばらく、役人たちの作業を見守る。

なにをやっているのかさっぱりと解らんから、手伝うこともできない。

「ギャ! ギャ!」

上空で、ハーピーが騒ぎ始めた。

「敵が湧きます! 皆さん、作業を中止して客車の陰に」

「は、はい!」「中止! 中止!」

辺りを警戒すると、なにか大きなものが飛んできた。

攻撃だ。

「おっと、あぶねぇ!」

その危険の先には、小野田さんがいる。

俺は、素早く彼女に駆け寄ると、お姫様抱っこで飛んだ。

「きゃあ!」

彼女がいた場所に巨大な岩が着弾する。

「すみませんねぇ。緊急回避だったんで」

彼女を抱いて、そのまま着地。

作業服越しだが、彼女の身体は意外とムチムチだった。

着痩せするタイプか。

「は、はひ」

「身体を触ったって、あとでセクハラで訴えないでくださいよ」

「だ、だいじょうぶれす」

暗闇での作業で、かなりストレスだったろう。

そこに魔物の来襲――ちょっとパニックになっているようだ。

「ブヒ! ブヒ!」「ブヒーッ!」

暗闇から、豚面で棍棒を持った巨躯の魔物が現れた。

「ひぃぃ!」

デカい魔物を見て、小野田さんが悲鳴を上げる。

俺の首にしがみついた。

「オークか! 投擲武器を使ったりするんだな。姫! 頼む!」

ハーピーによる上空の偵察や、夜目も利かないと、意外と奇襲を食らうかもしれん。

「む~!」

姫の機嫌が悪い。

俺が小野田さんを抱えているせいだろう。

「あのオークで、なにか美味しいものを作ってあげるから! そうだ、オークの角煮はどう?」

「え?! なにそれ、美味しそう……」

反応したのは、姫じゃなくて、小野田さんだった。

「……」

黙って姫がオークに向かっていくと、ジャンプ!

一撃で、豚面が真っ二つになった。

振り回される棍棒を、ひらりひらりと躱して、ジャンプ。

二匹目も、豚面が真っ二つ。

肉にするために、身体を傷つけないようにしているのだろう。

内臓の汚れが肉についてしまうと、もう食用には向かなくなってしまう。

「す、すごい!」

驚いている小野田さんを、横倒しになっている客車の陰に降ろす。

そのころには、オークはすべて倒されていた。

「姫、ありがとう」

転がっている魔物をアイテムBOXに収納した。

途中のキャンプで肉にしてもらおう。

上にいるハーピーに呼びかける。

「お~い! 他の魔物はいるか?」

「ギャ!」

「いないみたいだな――魔物は駆除しました」

「あ、ありがとうございます」

尻もちをついている小野田さんが、ペコリと礼をした。

腰が抜けたのだろうか?

「ちょっと怖い思いをしたあとだと、作業が進まないでしょう? 少し休みますか?」

「は、はい」

アイテムBOXから、缶コーヒーを出した。

「おっと、公務員が一般からものをもらうと、収賄になるんでしたっけ?」

「うう……」

さすがに、みんな飲みたそうだ。

「まぁ、こんなダンジョンの奥じゃ、誰も見てませんしね」

皆にコーヒーを手渡した。

「こ、今回だけですから!」

小野田さんが強調しているが、作業員の男たちのほうは、あまり気にしてないっぽいな。

「は~、ありがたい」「本当になんでも出てきますね~」「俺もほしい……」

「アイテムBOXだけじゃありませんよ。あんな巨大な魔物を簡単にやっつけるなんて……」

「桜姫クラスの冒険者を雇うとしたら簡単じゃないでしょうねぇ」

「費用と時間と、その折衝……ああ」

俺の言葉に小野田さんが頭を抱えている。

「冒険者は、クセのある人間が多いし……相手をするとなると結構大変でしょうね」

「うう……基本、役人って嫌われているところもありますし……」

小野田さんが、そう漏らしたってことは、色々と言われたことがあるのだろう。

「ギャ!」「ギャギャ!」

そこにハーピーたちが降りてきた。

ぴょんぴょんと跳んできて、俺の胸に飛び込んでくる。

「よしよし、よくやってくれたな。食いねぇ食いねぇ、チョコ食いねぇ」

「ギャ!」

なでてやると、チョコをやった。

そのあとは、順調に作業も進み、測量なども無事に終わったようだ。

事故車両がどうなって、どこにあるのか、損害状況などは? ――みたいな諸々を書類にして報告しなくてはならないらしい。

それに対して、こういう工法でこれだけ予算がかかる予定です――と、いう感じで、ことが進む。

本当はもっと時間がかかるのだろうけど、今回の復旧工事は最優先事項になっているっぽい。

直に総理もでてきているしな。

色々と困るのだろう。

作業が終わったので、また皆をリアカーに乗せて4層のキャンプまで戻ってきた。

「申し訳ない。急ぎますか? オークを肉にしたいのですが」

「だ、大丈夫です。予定より早いぐらいですから」

彼女はもっと時間がかかるものだと思っていたらしい。

まぁ、普通は移動するだけでも、かなりの時間がかかるからな。

買い取りを探して、オークを出した。

姫とカオルコは暗闇にいる。

彼女たちがいると、騒ぎになるからな。

「ああ、アイテムBOXの旦那か」

「前に頼んだことあったかな?」

「いや、近くで見ていたことがあったんで」

「2匹売却で、1匹を肉にしてほしいんだが」

「急ぎかい?」

「ああ、バラの所を頼む」

「それなら、すでにできている肉と交換というのはどうだい?」

「ちょっと肉を見せてくれ」

「はいよ」

においを嗅ぐ――大丈夫だ。

せっかく姫が丁寧に倒してくれたのに、粗悪な肉を押し付けられたらたまらんからな。

「だ、大丈夫でさ! トップランカーに粗相なんかしねぇよ」

「すまん」

小分けにしてもらった。

「旦那、あんな連中の護衛かい?」

彼が、小野田さんたちを指した。

金を積んだ観光客かなにかと勘違いしたのかもしれない。

「彼らは役人だよ。鉄道の復旧工事の調査でやってきたんだ」

「ああ! なるほど! それなら、早く直してくださいよ」

「やっぱり商売に影響があるかい?」

「そりゃそうですよ!」

鉄道がないと、人力で運ぶしかなくなるからな。

移動に危険も伴うし、4層終点、5層始点のキャンプが実質使えない状態になる。

やっぱり、素人や一般人が安全に移動ができるというのは大きいんだよな。

肉は、紙に包んで小分けにしてもらう――とはいえ、肋骨がついているバラ肉状態だが。

昔はコンビニ袋という便利なものがあったが、今はそれなりの値段がする。

もちろん、紙だって高い。

「ほい、小野田さんたちに、お土産」

若い男たちが反応した。

「これって、オークの肉ですか?」

「そうそう、今落としたてだぞ。熟成させたほうが美味いのかもしれないが……」

「オークの肉って高級品ですよね!」

「まぁな。スペアリブにしたら美味いと思うぞ。お土産にどうぞ」

「うひょ~」

男たちは、喜んでバックパックの中に入れている。

「小野田さんもどうぞ」

「で、でも、これって、収賄で……」

「このぐらい大丈夫ですって」

「で、でも、そうやって徐々に深みに嵌まると……」

「とても、美味しいんですよ」

「ネットでも評価高いんですよね……」

「そうそう、動画で料理している方もいますねぇ」

「うう……」

すごく葛藤している。

「それじゃ、オフの時間に、これで作った角煮でも食べますか?」

「さ、さっき話していた……」

「そうです」

「ううう……」

さっきより葛藤している。

めちゃ真面目だなぁ。

すご~く悩んでいたが、結論が出たようだ。

「そ、それでお願いします」

「わかりました、はは――それじゃ、戻りましょうか?」

「はい」

皆でまた暗闇の中へ――蒸気エレベーターと鉄道を乗り継ぎ、エントランスホールまで戻ってきた。

「は~、ここが随分と明るく感じますねぇ」

小野田さんが、天井のライトを見上げている。

「我々は暗闇でも見えているので、あまり変化がないんですけどね。色が鮮やかになるぐらいですか」

「そうなんですね」

「これから工事計画を練ると思いますが、今日みたいに魔物に襲われることも配慮しておいてくださいね」

「は、はい」

「たまに、沢山出てきて、対処で手が一杯になることもあるので」

「な、なるほど……10匹とか20匹とか?」

「たまにそういうこともありますねぇ」

「承知いたしました」

「まぁ、工事を急かされているのかもしれませんが、ご安全にいきましょう」

「はい」

皆で外に出て、小野田さんたちと別れた。

「む~」

「なんだ、姫はまだ機嫌悪いの?」

「ダイスケさん、姫を甘やかさないでください」

「む~」

俺が小野田さんと、仲良くしていたのが気に入らないらしい。

「ほら、ホテルに帰って、オークの角煮を作ろう」

「ダイスケさん、作れるんですか?」

「ああ、一人暮らしのときにも作ってたからな」

「すごい!」

なぜか、カオルコがすごく喜んでいる。

もしかして、角煮が好きなのだろうか?

そういえば、ホテルのルームサービスには角煮なんてないしなぁ。

――というわけで、市場で材料を買うが、足りないのは、生姜と卵ぐらいか。

そうそう、八角も入れるか。

本当は醤油と酒を使うんだろうけど、俺は面倒なので、市販のつゆを使ってしまう。

材料を買い込んでホテルに戻った。

「ホテルのキッチンで料理してるのって、俺ぐらいじゃないのか」

「そうかもしれないですねぇ」

「まずは米を研ぐ」

「お米を炊くんですか?」

「いや、研ぎ汁で肉を煮ると柔らかくなるんだ」

「そうなんですね!」

カオルコが感心している。

米を研いで研ぎ汁ができたので、アイテムBOXからデカい圧力鍋を出した。

どうせ食うから大量に作ってもいいだろう。

アイテムBOXに入れておけば、保存も利くし。

卵も大量に煮ながら、その隣でリブから剥いだ肉も、ぶつ切りにして研ぎ汁で煮る。

肉を柔らかくするのと、余計な脂を落とすためだ。

圧力鍋で煮て、蓋を開けてしばらくおく――再び煮るを繰り返す。

「カオルコ、ゆで卵の殻剥き手伝ってくれ」

「はい」

それが終わったら、卵と肉に生姜、八角も入れて市販のつゆで煮る。

「いいにおいですね~」

カオルコが、圧力鍋の周りをウロウロしている。

姫より彼女のほうが、角煮を楽しみにしているように見える。

そのうち、姫も一緒にウロウロし始めた。

ちょっとうざい。

「そうだ」

リブから肉を離したのだが、まだ肉がついている。

アイテムBOXからガスコンロを出すと、骨を炙ってみた。

チリチリという音と部屋の中に香ばしいにおいが充満する。

「こっちもいいにおいですぅ!」

「本当に美味しい所ってのは、骨の近くなんだよ」

焼けた肉を、ナイフを使ってこそぐように骨から離してから、皿に盛った。

こういうのはシンプルに、ガーリックパウダー、塩コショウでいいだろう。

皿を出すと2人が行儀悪く手で持って肉にかぶりついた。

勢いよく食べていたと思ったら、よだれを垂らして放心している。

「うまぁぁぁ」「美味しいですぅ!」

「良家のご令嬢だと、こういう食べかたはしないだろうしなぁ」

「いや、冒険者の食事こそ、こうあるべきじゃないのか」

「まぁ、野趣あふれるほうがそれっぽいけど、はは」

そのあと、でき上がった角煮も好評だった。

放っておくと全部食べられてしまいそうなので、あとで食べる分と、小野田さんにあげる分は確保した。

――色々とトラブルはあったが、10日ほどで工事の準備ができたらしい。

俺はその間、羽田で食料などを集めていた。

ダンジョン内での今までのできごとで、食料はいくらあっても困ることはないと、解った。

なにが起きてもおかしくない――それがダンジョン。

特区の役所にも、早く鉄道を復旧してほしいという陳情が沢山来ていると――あそこのお姉さんから聞いた。

俺が工事のために待機しているので、姫たちもダンジョンに潜らずに部屋にずっといる。

姫は暇そうだが、カオルコは溜まっている事務仕事をやっているようだ。

準備万端――いよいよ工事が始まることになった。