軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

92話 サナといっしょに

イロハの妹のカガリを救出して、ダンジョンから無事に帰ってきた。

姫の姉――カコがやって来たので、ドラゴンの緑の鱗をプレゼント。

身体が宝石っぽいので興味を持ったのか、彼女はアレコレ聞いていたが……。

やっぱり女の子だから、キラキラしたものが好きだったか?

―― 一休みした次の日。

俺は、ダンジョンで撮った動画の素材などをチェックし始めた。

アイテムBOXから一眼カメラを取り出して、HDDを抜く。

「やっぱりダンジョンの中は、暗いのがネックだよなぁ」

それでも、暗所性能が上がっているので、前のカメラよりはかなり映りがいい。

レイス戦、リッチ戦、おそらくデーモン戦、ヘルハウンド(仮称)、エメラルドドラゴン(仮称)もしっかりと映っている。

「そうだ、センセにも魔物のキャプチャ画面を送ってやろう」

ヘルハウンドや、エメラルドドラゴンは見たことがないはず。

こいつは売りものだし、サナと共同で倒したから、センセの所にはやれないが。

それに、ドラゴンのほうはめちゃ高く売れそうじゃね?

鱗についている緑色が全部エメラルドだったら、マジで生きた鉱脈ってことになるな。

地面や山を掘る必要もないわけだし。

作業をしていると、センセからメッセージが来た。

『うわぁぁぁん! 見たいですぅ!』

「ですぅ――とか言われてもな。『こいつは複数人で倒したから、無理です』っと」

泣いているキャラの絵文字が送られてきた。

「ドラゴンを売った買い取り屋に売ると思いますから、また解体現場にお邪魔したらどうですか?」

『そうします!』

ドラゴンは間違いなく買うと思うが、ヘルハウンドはどうかな?

ただのデカくてキモい狼みたいなもんだし。

撮影した動画は問題なかったので、動画編集の外注をしているクアドリフォリオさんを呼ぶことにした。

メッセージを送る。

『すぐに行きます!』

彼女の仕事場は特区にあるらしいので、本当にすぐに来る。

待っていると、ホテルに到着しました――というメッセージが来たので、迎えに行く。

「姫、ロビーに客が来るので、ちょっと行ってくる」

彼女にHDDを見せた。

「わかった」

すんなりと納得してくれたようなので、ロビーに向かう。

1階に行くと、クアドリフォリオさんが待っていた。

「こんにちは~」

「今回もよろしく~」

一緒にカフェに入る。

「なんか頼みます? 好きなものを頼んでもいいですよ」

「え? は、はい」

すぐに注文を取りにきたので、俺はパフェを頼んだ。

「え? パフェですか?」

「ああ、好きなんだよねぇ。こういう所は滅多に入らないけど、パフェがあったら100%頼む」

「男の人って甘いもの好きな印象がないですけど……」

「いや、結構好きな人はいるけど、男がパフェ食っているのが格好悪いみたいな見栄があるんだろうな。俺はまったく気にしないけど、ははは」

「そ、そうなんですか」

彼女にHDDを渡した。

「それから、胸が大きな女の子の魔導師が一緒に映っているから、その子だけ切り出した動画も作ってくれない?」

彼女に動画キャプチャ画面を見せた。

魔法を使う、サナの姿が映っている。

「解りました……」

彼女がちょっと戸惑っているように見える。

「どうしました?」

「いや、あの……すごい格好だなぁと……」

「この装備が、すごい性能なんだよねぇ」

「あ、そうなんですか。レアアイテムってそういうの、多くないですか?」

「ダンジョンを管理しているやつの、嫌がらせなんじゃないかな? 要は、強力なアイテムを使わせたくないのかもしれない」

「ああ、そういう考えかたも……」

パフェが来たので、食う。

「美味い! 美味すぎる!」

クアドリフォリオさんは、パフェの写真を撮っている。

女の子はそういうのが好きやね。

そう思ったのだが、カフェの明るい照明の下で、パフェの写真を撮ってる女の子のほうが、絵になると思うが。

仕事も頼んだし、パフェも食ったので、クアドリフォリオさんとは別れた。

今度は、サナだ。

例のエメラルドドラゴンを売らないとダメだし。

彼女にメッセージを入れた。

もしかして、ダンジョンに潜っているかもしれんが――。

返事はすぐに来た。

『すぐに行きます!』

「それじゃ、いつもの買い取りのオッサンの所に来てくれ」

『はい!』

彼女の話では、俺と同じオッサンに買い取りを頼んでいるらしい。

まぁ、あのオッサンなら信用できるからな。

俺はホテルを出ると、特区の市場に向かった。

買い取りに向かう途中で、食い物を色々と買い込んでみる。

とりあえず、なんでも放り込んでおけば、役に立つこともあるし。

アイテムBOXにドラゴンが入るぐらいだ。

食料を備蓄した所で、満杯になるわけでもないだろう。

「ちわ~」

「お?! 兄さん! また、なにか大物を持ってきてくれたのか?!」

「実はそうなんだよ」

「え?! マジか、今度はなんだ?!」

オッサンが迫ってくる。

男に迫られてもまったくうれしくねぇ。

買い取りにも巨乳のお姉さんとかを配置してくれたら、もっと商売繁盛するんじゃなかろうか。

「ちょっと待ってくれ。複数人で仕留めたんで、そいつが来てから出すから」

「お、おう! わかった」

少々待っていると、サナが走ってきた。

今日はジャージだな。

まぁ、ダンジョンに潜るわけではないので、装備は必要ない。

「おお、来たな」

「はい」

サナが来たので、スペースを空けてもらう。

「はいはい、ちょっと大物を出すんで、スペースを空けてちょうだい」

他の買い取り屋も集まってきた。

「おいおい、マルサンよ、今日はなにが拝めるんで?」

マルサンってのは、買い取りのオッサンの屋号らしい。

「解らんが、かなりの大物らしい」

「また、ドラゴンか?!」

「解らん!」

十分なスペースが空いたので、アイテムBOXから獲物を出す。

当然、緑のあいつだ。

白昼の陽光が降り注ぐ広場に、突如として現れたその生物は、見る者の目を奪うような輝きを放っていた。

全身はエメラルドのように光り輝き、まるで宝石が生命を宿したかのように美しい。

「「「おおおおおっ!」」」「なんじゃこりゃぁぁぁ!」「うぉぉぉ!」

周りにきた観客からも驚きの声が上がり、一斉にスマホのシャッターを切る音が響く。

見れば、皆がこちらにスマホを向けていた。

「どうだ?」

「に、兄さん! こいつはいったい?!」

「名称は解らんよ。とりあえずエメラルドドラゴンと呼んでいるが」

「はぁ――、鱗は本物のエメラルドなのか?」

「それも解らん。緑色の未知の鉱石かもしれないし」

「そ、そうだな……う~む」

他の買い取り屋も一斉に群がっている。

「以前のドラゴンよりは小さいが、どのぐらいで取引されると思う?」

「いやぁ、まったく想像もつかねぇ――とりあえず、写真撮っていいか?」

「もちろん――あ、事前に言っておくが、今回の獲物の魔石はこっちにくれ」

以前のドラゴンは、そのまま魔石も売ってしまったが、俺に考えがある。

魔力を込めた魔石が武器になるとわかったので、今回の魔石はそのための武器にする。

ドラゴンの魔石だ、さぞかしデカいだろう。

そいつに、ちまちまと魔力を溜め込んで、必殺の武器とする。

用意はするのに越したことはない。

俺が深層に飛ばされたとき――地底の割れ目から出てきた、あの得体のしれないなにか。

あれがラスボスだというのなら、強力な武器が必要だ。

普通の兵器が使えるなら、アイテムBOXにMOAB(燃料気化爆弾)などを入れて持ち込めば一発でケリがつくと思うんだが。

そんなのを使われたら、即ダンジョンをクリアされてしまう。

そのために色々と制限が加えられているのだろう。

オッサンが資料を作るために、詳細な写真や動画を撮っている。

こんな魔物は作り物だと思われるかもしれない。

大商いになるのは解っているので、他の買い取り人も、人を近づけないように警戒している。

鱗の欠片でも大金になる可能性がある。

「サナ、こいつの魔石だけ、俺にくれないか?」

「はい」

彼女が簡単に返事をした。

「え? いいのかい?」

「だって、ダイスケさんのお陰で倒せたようなものですし」

いやいや、サナの魔法がなけりゃ、俺たちもあぶなかったんだがな。

「よっしゃ! こんなもんだろ―― 一旦元に戻してくれ」

緑色のドラゴンを、アイテムBOXに収納する。

「「「あああ~」」」

観衆から残念そうな声が多数漏れた。

腐らないなら見世物にする手もあるけど、こいつはなまものだしな。

それに、売ったほうが絶対に金になるだろ。

「まったく見当もつかねぇが、なにか決まったら、兄さんに連絡を入れる!」

「よろしく頼むよ。一応、この子と共同で倒したんだが――サナ、連絡は俺でいいか?」

「はい、大丈夫です」

「本当は、オッサンを簡単に信じちゃいけないんだぞ?」

「ダイスケさんは大丈夫です」

「がはは!」

俺たちの会話を聞いていたオッサンが、大笑いをしている。

笑えるところはあったか?

まぁ、いい。

とりあえず、こんなものが売れるのか?

買うやつがいるのか?

そこら辺が問題になるな。

まぁ、石は綺麗だし、バラで売ってもそれなりの金になると思う。

「やったな、サナ。これはかなりの金になるぞ? これでもう冒険者は、やらなくても済むんじゃないのか? 爺さんもいい施設に入れたりもできるぞ?」

「……そ、それでも、ダイスケさんとダンジョンに潜りたいんです」

「構わないけどなぁ……」

俺も、姫に付き合ってるだけなんだが……。

彼女が引退するとなると、すでに金を稼いでしまっている俺も、自動的に引退することになる。

サナと話していた俺だが、獲物がもう1匹いるのを思い出した。

「あ! ちょっと、ちょっと! もう1匹いるの忘れてたよ」

「ええ?! またデカブツか?! まだいるのか?!」

「いや、デカいんだけど、ドラゴンほどではない」

「マジか」

「売れるかどうか解らんが」

「とりあえず、出してみてくれ」

「わかった」

再び、スペースを作ってもらい、ヘルハウンド(仮)を出す。

「「「おおおお~っ!」」」「なんだコレ?!」「頭が2つ?!」

眼の前に現れた黒くて巨大な魔物に、再び観衆が沸く。

「なんこりゃ!」

「犬か、狼系だとは思うが、頭が2つあって、全身から炎を噴き出していた」

「燃えてたのか?!」

「解らんが――もしかして魔法みたいなものだったかもしれないが……」

「これも初めて見る魔物だが――前のドラゴンを見ちまうとな」

「まぁ、俺もそう思うよ」

「とりあえず、持っててもしょうがないから、売れるなら売ってくれ。肉にしてもいい」

「わかった――が、食えるのか?」

「それすら、わからん、ははは」

マジでオッサン2人で苦笑いするしかない。

ダンジョンの深層になるほど、常識から外れた魔物が多くなってきた。

一応、魔物が食用にできるかどうかは、検査する国の機関があるらしい。

本気でダンジョンを工場かなにかにするつもりなのだろうか?

いや、マジで原料もなしで、どんどん物資を生み出す、魔法の箱なのだが……。

そんなよくわからないものを無理して使っていいものなのか?

あとでとんでもないしっぺ返しが待っているんじゃないのか?

それはそうと――あとは、デーモン(仮)も入っているが、こいつはイロハと一緒に来ないと駄目だろう。

とりあえず、イロハに連絡してみよう。

すぐに返答が来た。

『ダーリンの好きにしてくれ』

おいおい、それでいいのか?

「デーモンは初めての魔物だし、人型なんで売れないかもしれないぞ?」

『レベルアップしたし、レアアイテムもドロップしたから、それでいいよ』

「わかった」

信頼してくれているのは、嬉しいがなぁ。

『それで、こんどいつやる?』

「遠征の話は、まだ出てないぞ?」

『違うよ、勝負の話だよ』

「やったばかりじゃないか」

『あたいは、いくらやってもいいんだよ』

「今、ちょっと忙しいから、また今度な」

『ちぇ』

あれだけやって、まだ足りないのか?

さすがランカーだけあって、体力はあるし、この前に拾ったレアアイテムもある。

要は、あれを装備して運動しまくれば、体力無限なわけだし。

それよりも――とりあえず、デーモンも買い取りのオッサンに見てもらった。

黒くて巨大な魔物が、眼の前に現れた。

「「「ざわざわ……」」」

観衆からもあまり驚きの声が上がってこない。

人型だし、そんなに異形でもないからだろうが、相変わらず、スマホで撮影している人はいる。

オーガなどの亜種と言われても仕方ない。

「こいつは……」

オッサンが腕を組んで、難しい顔をしている。

「やっぱり難しいかな?」

「確かにはじめてみる魔物だが……モロ人型だしなぁ……」

「素材も取れそうに見えないしな」

「ああ、魔石ぐらいか」

「これは預かりなんだが、俺に任せてもらっているから、一緒に売るよ」

「わかった。こいつはあまり期待しないでくれよな」

「解ってる」

オッサンに色々と頼んで、サナの所に戻る。

「待たせてしまったな」

「いいえ」

市場での用事はこれで終了なのだが、気になる事案がまだある。

「さて……サナの力の検証をしたほうがいいだろうなぁ」

「検証ですか?」

「ほら――背中の模様の件」

「あ」

彼女も忘れていたようだ。

「ギルドの本拠地に戻って、確認してみた?」

「はい、鏡を使って――キララさんや、ミオにも見てもらいました」

写真も撮ってもらったらしい。

「でも、痣という感じではないだろ?」

「綺麗な模様でした」

左右対称の幾何学模様的痣なんて、ないからな。

「その模様の力で、本当にダンジョンから離れても魔法が使えるのか? ってことだ」

「使えたら、すごいですね!」

「でも、バレたら、紋章隊ってところから、スカウトが来るかもしれないぞ?」

「そ、それは嫌です……」

「紋章隊ってどういう組織かまったく解らないけど、多分警察みたいなものだろ?」

「多分……」

「今どきなるのが大変な公務員だぞ? 終身雇用間違いないし、福利厚生、年金もあるし」

「私! ……ダイスケさんと、冒険者をするほうがいいです……」

う~ん、もったいないなぁ……。

まぁ、特務機関みたいだから、ブラック間違いなしかもしれないしなぁ……。

危険度と給料が釣り合わないか。

それはダンジョンの冒険者も似たようなものだが。

彼女が決めることだし。

「それじゃ、ちょっと羽田の先に行って、魔法が使えるかどうか調べてみようか」

「はい」

自分の持っている力を正確に把握するというのは大事なことだ。

彼女と一緒に人混みの中を歩く。

サナは嬉しそうだ。

2人で歩いていると、眼の前に黒い猫が出てきた。

「おっと?」

「にゃ~」

猫が近づいてきて、俺の脚にスリスリしている。

「ああ、あのときの猫かぁ。あれから大丈夫だったか?」

「にゃ」

特区には猫も多い。

ネズミも多いので、あえて増やしているのかもしれない。

それで、ダンジョンに紛れ込むやつがいるんだろうか。

アイテムBOXから、猫ブラシを取り出すと、しゃがんでブラシをかけてやる。

毛並みは綺麗だし、ここの住民たちからも大事にされているようだ。

もしかして、飼い主がいるのかもしれない。

ブラシから抜け出すと、俺の腕に飛び乗って、そのまま肩に乗ってしまった。

「おいおい、これから俺たちは、海を渡るんだが……」

「にゃー」

「うふふ」

サナは笑っているし、猫を肩に乗せたまま海の近くまで行くと、猫が飛び降りた。

そのまま振り返りもせずに、建物の陰に行ってしまう。

「人をタクシー代わりにしやがったな」

「猫ってそういう感じですよね~」

基本、人間を下僕だと思ってるっぽいしな。

そんなことをしているうちに、波止場に到着したので連絡船に乗った。

生ぬるい磯臭い風の中を船が進む。

粘度が高い空気が身体に絡みついてくる中で、辺りを見回す。

「どうしたんですか?」

「いや、姫と来ると、湧きに襲われることが多くてな」

「あの人が、魔物を引き寄せているんじゃないんですか?」

「本人の前でそれは言わないでな?」

「……」

俺も、薄々そうじゃないかな~と思ってたりするんだが、もちろん口には出さない。

今日は、海の上で湧きが起こることはなかったようだ。

船から降りると、アイテムBOXから自転車を出す。

「後ろに乗ってくれ」

「はい」

久々に、彼女を後ろに乗せる。

急ぐわけではないし、人が沢山いるので、ゆっくりと進む。

俺と彼女も高レベル冒険者なので、走ったほうが早いような気もするのだが。

人がいない場所までやって来ると、止まって自転車を収納した。

「ここでやるんですか?」

「いや、ここだとまだ特区が見えるからな。念の為にもうちょっと先まで行ってみよう」

俺はアイテムBOXから、軽トラを出した。

久々だな。

東京にやって来てから、ずっとアイテムBOXの肥やしになっていたし。

「車を持ってたんですね!」

「車って軽トラだけどな」

「すご~い!」

「ははは――あのドラゴンの金が入ってくれば、サナも車ぐらい買えるようになるぞ?」

「特区で車なんて使えませんし」

「まぁ、そうだな」

あそこでは、許可された業者など以外は、車両の乗り入れ禁止だからな。

なにしろ、人が多すぎる。

軽トラに乗り込むと、サナは助手席に座らせた。

しばらく乗っていなかったので、エンジンをかけて燃料計をチェック。

大丈夫だろう。

そのまま道を走り始めたのだが、東京といえど車は少なく、道は空いている。

なにしろ、ガソリンもクソ高いしな。

ダンジョンから出てくる魔石がなんらかのエネルギーになるとかならいいんだが……。

あるいは、魔力を動力に転換できるとかさ。

ファンタジーだと、魔道具で動く車とか飛空船とかつきものじゃん?

そういうのはないのかよ。

いや、あるのかもしれないが、人類がその叡智を発見してないだけなのかもしれない。

軽トラに揺られて、サナをチラ見する。

楽しそうである。

「車の中は暑いな、窓を開けてもいいぞ」

「はい」

彼女が窓を開けると、潮風がドッと吹き込んできた。

埋立地の道をまっすぐに走る軽トラック。

その助手席には、楽しそうな美少女。

風になびく髪は陽光を受けて輝き、彼女の柔らかな笑顔が窓の外の景色と溶け合う。

軽トラの唸るエンジン音が少々うるさいが、車の揺れに合わせて、彼女の大きな胸も揺れる。

遠くの水平線にきらめく光が見える。

助手席の美少女が指を伸ばして「船が見えます!」と言えば、俺の視線も同じ方向へ向かう。

まるで、青春映画のワンシーンみたいで、思わず古い歌を口ずさみたくなる。

あいにく、乗っているのはオッサンだけど。

しばらく走ると、横浜の市街が見えてきたので、ちょっと横道にそれる。

スマホのナビで、人気のなそうな所を探す。

「ここらへんでいいか」

埋立地のハズレ、防波堤の所で車を止めた。

「はい」

横浜にダンジョンがあるとは聞いたことがないし、ここなら超常の影響力も及ばないだろう。

こういう人の多い所だと、ダンジョンを隠すのは難しいだろうな。

降りて人気を確認する――大丈夫そうだ。

「車に乗ったままでいいんで、明かりの魔法を使ってみてくれ」

「本当に使えるのでしょうか?」

「それを確かめないといかん」

「はい――う~ん、 光よ!(ライト) 」

車の中に青い光が集まり、白い球体が浮かぶ。

陽の光の下なので、あまり明るく感じないが、間違いなく魔法の明かりだ。

「やったじゃないか」

「やりました!」

魔法の明かりが消える。

「これで決まりだな。サナはダンジョンに関係なく、魔法が使える」

「でも――なぜなんでしょう?」

「それは……まったく見当もつかないな」

ダンジョンなんて、人知の及ばないものがこの世界に現れたんだ。

魔法が使える人間が出てきてもおかしくない。

これから、こういう例が増えるのか? ――それは解らないが。

「ですよね~」

「ダンジョンを作ったやつがやっているのか、それとも他のなにかがいるのか?」

「なにかってなんでしょう?」

「う~ん? 神さまみたいな?」

「うふふ」

サナは笑っているのだが、物理法則すらひん曲げるあんなものを構成できるなんて、それかそれに近いものだと思うのだが。

「さて、検証はすんだし、帰るか」

「……もうちょっと、ダイスケさんといたいです」

「市場に行くだけって言って出かけてきたんで、姫が怒るなぁ……」

「む~」

姫のことを出されて、サナが不機嫌そうである。

――と、いいつつ、ここでなにするわけにはイカン。

すぐ近くに人はいないが、見える範囲では人影もあるし。

「また、今度な」

「ぶ~」

俺は軽トラのエンジンをかけると、発進させた。

ダンジョンの中でもこいつが使えればいいんだがなぁ……。

内燃機関は使えんし。

車で波止場まで戻ってくると、船に乗って特区に到着した。

途中からまた自転車を出そうとしたのだが、意外と人が少なかった。

「収納」

軽トラを収納すると、周りからどよめきが起こる。

サナの魔法についての検証は済んだが、まだ彼女と話があるのだ。

「サナ、時間はいいかい?」

「はい、大丈夫です」

「ちょっと、お茶でもしようか」

「わかりました」

女の子を連れてお茶をするなら、洒落た店にでも――と、思ったのだが、特区にそんなものがあるはずがない。

羽田の店に入ればよかったか。

俺は探すのを諦めて、サナと一緒に目についた茶店に入った。