軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

46話 地上まであと少し

ショートカットを使って迷路のような階層を脱出した。

俺たちが出た場所は、7階層の安全地帯らしい。

姫とカオルコも訪れたことがあるようだが、入口が解らず断念したという。

もしかして――その入口ってのが、俺たちが這っていたあの穴だとすれば、ここを作ったやつは相当根性が曲がっている。

まぁ、ゲームのような世界とダンジョンだが、こいつはゲームではない。

冒険者というプレーヤーを楽しませる必要はないのだ。

逆に、ただただ冒険者を苦しめて、ダンジョンを作った連中が楽しんでいるだけなのかもしれない。

脱出した俺は、とりあえず近くにいる冒険者に声をかけることにした。

「おお~い!」

「誰だ!」

警戒した返答があった。

「こっちは冒険者だ! そっちも冒険者か?!」

「こちらも冒険者だ」

「そちらに行ってもいいか?」

「構わんが……」

あまり歓迎されていないのか、それとも単にいきなりこんな場所で声をかけられたので、警戒しているだけだろうか。

ゆっくりと冒険者たちに近づく。

「やぁ」

そこにいたのは、ファンタジーっぽい装備の冒険者たち。

ファンタジー装備ってのは、おそらくドロップアイテムだろう。

こんな場所までやって来られるってのは、高レベル冒険者に違いない。

男が3人、女が1人――女は魔導師のようだ。

「なんのようだ?」

返事をしてくれた男がパーティのリーダーらしいが、やはり警戒しているように見える。

「ウチの仲間がここに来たことがあるらしいんだが、入口が見つからないと言っていた。入口はあったか?」

「そちらもか……」

「――ということは、やっぱりないのか?」

「ああ……」

「ほらぁ! やっぱり 爆裂魔法(エクスプロージョン) で、壁を吹き飛ばしちゃえばいいのに!」

女の魔導師が叫び始めた。

「そいつはオススメできないな。俺たちもそう考えて――ここじゃないが、穴を開けたんだが」

「どうだったんだ?」

「まったく別の場所に繋がっている感じだった。なにか危険を感じたんで、奥まで確認してないけどな」

「やっぱり……」

「それでな――実は、入れる場所があるんだ」

「本当か?!」

「興味があるかい?」

「ああ」

冒険者たちは顔を見合わせた。

俺のことを、少々疑っているのかもしれない。

「こっちへ来てくれ」

冒険者たちを連れて、ロープがぶら下がっている場所までやってきた。

そこには姫とカオルコもいる。

「このロープを上ると横穴があって、そこから中に入れる。中はグリフォンなどがいる迷宮だ」

「ちょ、ちょっとまってくれ!」

相手のリーダーが突然大声を出した。

なにか動揺しているように見える。

リーダーだけではない、他の男たちもざわざわしている。

「なんだ?」

「そ、そこにいるのは、もしかして 桜姫(おうき) か?!」

「そうだ」

姫が短く答えた。

彼女は、冒険者たちからは桜姫って言われているのか。

サクラコで姫なので、さもありなん。

「こ、こんな所で会えるなんて! ファンです!」「お、俺も」「おい! 抜け駆けするなよ!」

男たちが、姫の前に集まってきて興奮しているのだが、残った魔導師の女はキャッキャしている少年たちを白い目で見ている。

自分以外の女が注目されているのが、面白くないのかもしれない。

「そ、それじゃ! そちらがもしかして エンプレス(女帝) ?!」「それって、新装備ですか?!」

「え?! きゃ! きゃぁぁぁ!」

カオルコが、胸の部分を隠してしゃがみ込んだ。

自分が乳暖簾装備だったのを忘れていたらしい。

「けっ!」

相手の女魔導師が吐き捨てた。

「姫が姫なのに、カオルコがエンプレスって……」

「し、知りませんよ。なぜか、そう呼ばれるんで……」

胸か? 胸の大きさか?

「まさか、こんな場所で桜姫のパーティに出会えるなんて!」

「え? あれ? でも桜姫のパーティは行方不明だってネットに上がってたけど……」

向こうの男の1人が、気がついたようだ。

「その行方不明になった2人と俺が合流して、ここまで戻ってきたところだ」

「オッサンは?」

まぁ、オッサンだけど。

女の子2人とえらい反応が違うじゃないか。

「俺か? アイテムBOX持ちを公言したオッサンがニュースになってたろ? それが俺だ」

「えええ?!」「それじゃ、桜姫のギルドに入ったって……こと?」

「まぁ、そういう感じになるかな」

「そして、私のダーリンでもある!」

「「「は?!」」」

姫の言葉に、男たちが固まった。

「ははは、まぁそんなことより、この迷宮の中に入りたいんだろ?」

「え? ええ……まぁ……」

「最初に言ったが、このロープを上った所に、横穴があって中に入れる」

「ほ、本当かよ……」

「本当だ!」

姫の強い口調に、男たちがたじろいだ。

「俺たちは、逆に上から降りてきたんだがなぁ」

「そ、それってどういうことですか?」

女の魔導師が一歩前に出てきた。

「それはな――カクカクシカジカってわけで」

俺は彼らに、ここまでやって来たいきさつを話した。

「「「「め、迷宮教団……」」」」

冒険者たちの顔が曇る。

「最近、高レベル冒険者の行方不明者が出ていたとネットやらで話題になっていたろ?」

「は、はい」

「全部、やつらの仕業だったんだ」

「我々は、飛ばされた深層から、命からがらここまでやってきたというわけだ」

姫が俺の言葉を補足してくれた。

「「「「……」」」」

俺の眼の前にいる連中が言葉を失う。

わけのわからんオッサンの言葉には信頼性がないと思うが、姫は違う。

冒険者なら誰でも知っている超有名なトップランカーだからな。

「俺たちは、このまま地上に戻るけど、迷宮教団には気をつけてくれよ」

「は、はい」

「あ、あの~」

女の魔導師がそっと手を上げた。

「ん? なんだい?」

「ダンジョンの深層ってどうなってたんですか?」

「ああ、ドラゴンとかが、うようよしてた」

「ええ?! ドラゴンって本当にいるんですか?!」

「いたいた――なぁ、姫」

「ああ、もうさすがに駄目かと思ったが……」

「もしかして――ドラゴンを倒したんですか?!」

「ああ、姫がばっさりと!」

「おおお~っ!」「すげぇ! さすが桜姫!」「すごい!」

俺の言葉に、冒険者たちが湧く。

「いや――それはダーリンが……」

「いいからいいから」

姫が否定しそうだったが、俺が遮った。

わけのわからんオッサンが倒したより、超有名なトップランカーが倒したってほうが盛り上がるし、ネタにもなる。

こういうのってのは、カリスマ性が大事なのよ。

俺がなにか言っても、誰も注目してくれないし、相手もしてくれん。

まぁ、トップランカーに名乗りを上げて、実績を積めばいいのだが、そんなの面倒だし興味もない。

「ドラゴンってやっぱりすごかったですか?!」

姫に対する男たちの態度に、ちょっと面白くなさそうな顔をしていた女性だが、魔物には興味があるらしい。

「ちょっと見てみるか? 実はアイテムBOXの中に入っている」

「ええ?!」「マジすか?!」「見たい!」

スペースを作ってもらい、尻尾だけ出してみることにした。

「召喚!」

硬い鱗に覆われた巨大なドラゴンの尻尾が、石畳の上に現れる。

アイテムBOXに入っていたので、まだ湯気が出るぐらいに温かい。

「す、スゲー!」「マジでドラゴンっすか?!」「でけー鱗!」

冒険者たちは、興味津々で巨大な尻尾の周りをグルグルと回っている。

やっぱり冒険者をやっていると、魔物に興味が湧くようになるのか。

まぁ、その前に男の子なら、ドラゴンとか基本的に好きだしな。

傷むと困るので、すぐに収納した。

「――というわけで、俺たちはこういう魔物に囲まれて、命からがらここまで逃げてきたわけだ、君たちも気をつけてくれよ」

「わかりました」

最初に比べたら、なんか素直になったな。

「それから――そのロープを上ると、ハーピーがいる。気をつけてくれ」

「ハーピー? こんな場所にいるんだ」

女の魔導師が驚いたような顔をしている。

個人的には、ハーピーたちを狩ってほしくないのだが、魔物を狩るのが冒険者――と、言われれば返す言葉もない。

彼らもこれで暮らしているわけだし。

俺としては、ハーピーたちには無事に逃げてくれと願うばかりだ。

「その穴の中は、安全なのかい?」

「いや――あの穴を抜けてきた俺たちからのアドバイスは――あまりオススメできない」

「魔物がいるのか?」

「酸を吐くスライムがいたな。それから虫だ」

「虫?!」

「Gではないんだが、なんかそんな感じの虫が……」

「「うんうん」」

俺の話を聞いて、姫たちが頷いている。

まぁ、男前の姫が、正気を失うぐらいの状況だからなぁ……。

それも、俺の殺虫剤攻撃があって、切り抜けられたわけだし。

あれがなかったら、中々大変なことになっていたぞ。

「げぇぇ! ちょっと虫は嫌!」

話を聞いていた、女の魔導師が身悶えている。

「まぁ、とりあえず出会った敵はその2種類だけだったが、他の敵もポップするかもしれない」

「ありがとう。気をつけます」

「行くのか?」

「いや――仲間と相談します」

「わ、私は嫌なんだけど!」「しかし、入口がここしかないとなると――」「いったん戻って、計画を練るべきだ」

さすが、高レベル冒険者のパーティだな。

状況判断が的確だ。

これなら心配はいらないだろう。

危ないのは、迷宮教団の連中だけだ。

「それじゃ、くれぐれも迷宮教団には気をつけてくれよ」

「ありがとうございました」

冒険者たちが、一斉に姫に礼をした。

やっぱり姫の知名度はすごいな。

俺だけのときと全然対応が違うじゃん。

話は聞けたし、情報収集もできたので、俺たちは地上に向けて出発することにした。

7層の安全地帯を抜けて、6層に入る。

「ダーリン、ここは私たちが作ったマップがあるから、すぐに抜けられる」

「やったぜ」

6層は、天井の高い幅の広い迷宮。

ドカーンとデカい通路で、迷路が構成されている。

彼女たちの話では、ポップする魔物は――レッサーデーモン、ミノタウロス、ガーゴイルなどなどらしい。

「やっと知っている光景が見えてきました……」

カオルコがかなりぐったりしている。

「なんか、ミノタウロス以外は金になりそうにないな」

「そうなんですよ。だから、みんな下に降りてこないんですよね」

「こういう場所までやってくるのは、攻略ガチ勢だけか」

「そういうことだ」

そこらへんを、迷宮教団に狙われたのかもしれない。

「それはそうと――レッサーデーモンって、本当に悪魔なのか?」

「いいえ、なんかゲームに似たようなキャラがいたということで、いつのまにか、その呼び名が定着してしまったようです」

「ああ、なるほど」

レッサーということは、レッサーじゃない悪魔もいるんじゃないかと心配したのだが、確認はされていないようだ。

「ガーゴイルは空を飛んできますし」

「石像なのに空を飛ぶなんて、理解し難い」

まぁ、姫の言うことももっともだが、そもそも物理法則がぐちゃぐちゃになっている空間だしなぁ。

「石像が空を飛ぶぐらいなんだから、空を飛ぶ魔法なんてものもあるんじゃないか?」

「それはありえるな……う~む」

姫が真剣に考えているが、俺のアイテムBOXを使えばジャンプするぐらいはできる。

実際にドラゴン戦のときに使えたし。

俺たちは広大なダンジョンの通路に足を踏み入れた。

天井は見上げるほど高く、その高さに圧倒される。

まるで巨大な洞窟の中を進んでいるかのように通路は広々としていて、壁から壁までの距離が遠い。

足音が反響して、静寂の中に自分の存在を強く感じさせる。

空気は冷たく、湿り気を帯びていて、深い静けさの中には他の冒険者たちの存在も感じない。

「ダーリン!」

なにかが近づいてくる、乱暴な足音だ。

「冒険者か? いや、冒険者にしちゃ、変だな」

「おそらく魔物だろう、よし!」

姫はやる気だが――いや、外へと急ぐんじゃなかったのか?

「ブモォォォ!!」「ブモッ」「ブモッ! ブモッ!」

現れたのは、ミノタウロスが3体――ジェットストリームアタックだ。

俺たちの気配を感じ取ったのか、巨大な斧を構えて、こちらに突進してきた。

「ブモォォォ!!」

赤い目がランランと光り、開いた口からは涎を流している。

武器が握られた太い腕には、ヘビのように血管が浮く。

「さぁ! 来い!」

「やっぱり戦うのか?!」

「魔法を使いますから、援護を――」

カオルコの前に青い光が集まり始めた。

「いや、俺がやる!」

「ダーリン?」

「へいへい! こっちだ!」

アイテムBOXからボーラーを取り出して、魔物の足をめがけて投げつけた。

「ブモォォ!」

俺が投げたものが、魔物の足に絡みつきコケる。

「オラオラ! どうした!」

ちょっと距離を取って挑発を続ける。

「ブモォォォ!」

激怒した2匹が俺にまっすぐ突進してきた。

「ははは、タンク召喚!」

俺がアイテムBOXから出したのは、処理水の空タンクだ。

あれだけでもかなりの重量がある。

満水にしたタンクもあるし、あれなら100トンの重さがあるが、あいつを地面に落としたら衝撃で破損するだろう。

そんな丈夫にも作ってないだろうし。

「ブギャー!」

奇声を上げて、ミノタウロス2匹がタンクの下敷きになった。

数トンのタンクが数メートルの高さから落下する――質量攻撃だ。

相手が強敵でもかなりのダメージが入るだろう。

「収納!」

「ブギャ!」「ブギャー!」

タンクを収納すると、魔物の身体は潰れているが、2匹ともまだ生きている。

動いているが、すでに危険はない。

姫たちのほうをチラ見する。

俺がボーラーでひっくり返した敵を、すかさず無力化したらしい。

さすが高レベル冒険者。

鮮やかな手並みだ。

「それじゃこっちは――再び召喚!」

「ブギィ!」

再び、巨大なタンクによって魔物が潰された。

これで完全に行動不能になっただろう。

タンクをどかしてみる。

「ブギ」「ブギィ……」

「まだ生きているのか?」

すでに手足は折れ曲がり、胴体からは色々なものが飛び出しているのだが、それでもまだ動いている。

これだから、魔物ってのは危険なんだよな。

俺はアイテムBOXからメイスを取り出すと、ミノタウロスの頭を潰した。

さすがに頭がなくなれば、凶悪な魔物だろうが沈黙するしかない。

「こんなになっちゃ、もう金にはならないだろうなぁ」

とりあえず、魔石を探して収納した。

「ダーリン、こっちも頼む」

「はいよ」

姫が倒した個体は首を切られているので、失血死らしい。

さすがベテランらしい倒し方だ。

これなら売れるだろう。

アイテムBOXに収納した。

「ミノタウロスの金になる部位ってないのかい?」

「角なら、金になるぞ」

どうやら薬になるらしい。

そういえば、動物の角ってのは漢方薬としても利用されているな。

そんな感じだろうか。

潰した2体の角も切って収納した。

「なるべく、戦闘は控えたいところだがなぁ」

「魔物と戦うのが冒険者ゆえ、仕方あるまい」

姫には逃げるという選択肢はないのか?

「全力で走って逃げるという手もあるが……カオルコは俺が背負うぞ?」

「しかし、敵に背中を見せるというのは……」

「だからって、ドラゴンと戦闘をしなくてもいいじゃないですか!」

カオルコが、姫の行動を諌めている。

「ドラゴンにどのぐらいの戦闘力があるのか、確かめてみたいじゃないか」

「正式に攻略して、準備とマージンがあるときに、そういうことをやればいいじゃないですか!」

「うう……」

姫がカオルコの正論に押されている。

彼女の言うことももっともだが、姫の戦闘狂の血が疼くらしい。

強敵とは戦ってみたいという感じだろうか。

「まぁ、そういうピンチのときにも、俺というイレギュラーがやって来るんだから、やっぱり金持ちってのは運を持っているんだよな」

「それって褒めてます?」

「もちろん」

カオルコが訝しんでいるが、本音である。

そのまま6層を突っ走って、5層へ到着。

当然、5層のキャンプにも目もくれない。

「あの、そろそろローブを着てもいいですか?」

カオルコは、今の装備が恥ずかしいようだ。

「まぁ、もう戦闘もしないだろうし」

ここらへんの階層の敵を倒しても、レベルにも関係ないしな。

「そうですよねぇ」

「そういえば、その装備の効力が不明のままだな」

ついつい、カオルコの胸の部分に目がいってしまう。

「多分、防御力アップと、魔法防御あたりだと思いますけど……」

「それと自動回復か――魔法防御って、自分の魔法は阻害されないんだよね?」

「はい」

対魔法(カウンターマジック) みたいなタイプは、自分の魔法も使えなくなるらしいが。

話している間に、長い枝がわさわさと動く木のような魔物――トレントとエンカウントした。

集団で通路に広がり通せんぼをしている。

この敵は、防御力は高いし、金にはならないしまったくいいところがない。

通路を占領しているが、動きはあまり速くないし、隙間もある。

上手く躱せば抜けられそうだ。

なんて思っていたら――。

「よし!」

姫が戦う気満々である。

「ここは逃げる一手!」

俺は姫を抱えると、ダッシュした。

「ダーリン!」

「カオルコ! ついてこられるか?」

「た、多分大丈夫で――きゃぁぁぁ!」

――なんて言ってるあいだに、カオルコがトレントの枝に絡め取られた。

やっぱりロングスカートとローブを羽織っているので、動きが鈍いようだ。

「カオルコ!」

「ぎゃぁぁあ!!」

逆さ吊りになっているのに、両手両足を絡められるので、ロングスカートがめくれてしまい、色々と丸見えである。

「姫! 武器は?!」

「カオルコが持ってる!」

こういうときに不便だな。

俺のアイテムBOXの武器を取り出した。

以前、リザードマンからゲットした大型の剣だが、姫なら余裕で使いこなせるだろう。

「これでなんとかならないか?」

「おお! さすがダーリン! 任せろ! やぁぁぁぁっ!」

剣を持った彼女は、まるで疾風のような速さで、魔物の中を駆け抜けた。

俺は姫を援護するために、そのあとについていく。

彼女の動きは稲妻の如く鋭く、瞬く間に一体一体の魔物を切り伏せていく。

その姿はまるで一陣の風が戦場を駆け巡るかのようで、彼女の周りには光の残像が舞う。

トレントの枝はその速さと力に圧倒され、反応する間もなく切断された。

彼女の剣技はまさに芸術――一振り一振りが完璧な軌跡を描いている。

枝が切られるとどうなるのか?

当然、胸のデカい女が落ちてくる。

「きゃぁぁぁ!」

俺はカオルコをキャッチするために落下地点に走った。

両手を出して、デカい尻を受け止める。

普通は落下してくる女なんて受け止めることはできないだろう。

一緒に潰れて終了だが――さすが、高レベルパワーだ。

トレントに絡みつかれて、彼女のローブは破れてしまっていた。

アイテムBOXから毛布を出して、カオルコにかぶせる。

「姫! もういいぞ! 逃げよう!」

「し、しかし!」

「それじゃ、俺はカオルコを担いで先に行くから」

俺はダッシュで走り出した。

「ダァァァァリン!」

後ろから姫の声がする。

さすがに、彼女も俺を追ってきた。

まさか、置いていかれるとは思っていなかったようだが、いやもう――本当に地上に帰りたいのよ。

ほぼ全速力で、4層入口のキャンプにやってきた。

ここは何回も訪れているから、知っている顔もいる。

姫も、ローブを羽織った。

俺が目指すのは、蒸気エレベーターの場所。

もう走るのも嫌だ。

飯を食えば、体力的には問題ないが、精神的にヘトヘト。

多少の金はかかってもいいから、列車を使う。

「姫、列車に乗ろう」

「ぶー!」

なんだか彼女がむくれている。

列車に乗るのに反対ではなく、さっき置いていかれたことにたいしてらしい。

「悪いな、早く帰りたくてさ」

「いいんですよ――サクラコ様! ダイスケさんは、仲間のために早く帰りたいんですよ」

レンのことが心配なので、それももちろんあるのだが、個人的にも精神的に疲れた。

もう帰りたい。

「もちろん、それもあるのだが、単純に帰りたい」

「本当にそれですね……」

カオルコも俺と同じ意見らしい。

戻ったとしても、また迷宮教団とエンカウントできるのかも不明だし。

そもそも、あのテレポーターかなんだか解らんが、また飛ばされる可能性もある。

奴らの本拠地がどこにあるのかも解らん。

さらわれたんじゃなくて、レンは自分から行ってしまったわけだし――。

彼女のことに関しては、半分諦めている自分がいる。

光ファイバーの明かりが灯るスペースでエレベーターを待つ。

「ぶー!」

むくれている姫と一緒に待っていると、蒸気エレベーターが降りてきた。

鉄骨と滑車、ワイヤーで組まれた完全なアナログ。

ボイラーは魔法で沸かされているという、魔科一体建造物だ。

最初に沢山の荷物が降りてくるのだが、馬に牽かれた馬車が多数。

電気も内燃機関も使えないから仕方ない。

運搬車に蒸気機関を使うのも非効率だろうし。

馬糞などは放置していてもダンジョンに吸収される。

本当にここだけ昭和の初期だ。

俺たちは搬出が終わるまで待つことにした。

人も乗っているのだが、そんなに多くはないし、皆装備がいい。

ここは明るいせいか、装備がよく見える。

金を持っているパーティか、高レベルの冒険者たちだろう。

彼らの目的地はもっと深層なので、列車とエレベーターでショートカットしているわけだ。

降りてきた魔導師らしい女性と目が合う。

ファンタジー風味な上等そうなローブを羽織り、杖を持っており、栗色の巻き毛がローブからはみ出していた。

「ちょっと! 桜姫と、エンプレスじゃない?!」

「ああ、お前か」

魔導師がこちらにやってきた。

「あなた方、行方不明だって聞いてたけど?!」

「たったいま、地獄から帰ってきたところだ」

彼女が不機嫌そうに答える。

知り合いのようだが、彼女が奥にいたプレートアーマーの男をチラ見した。

「む……」

お姫様の表情から察するに、あまり会いたくない連中らしい。