軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

34話 地の利

原発跡地で、俺の仕事が始まった。

1000トンの処理水が入っているタンクを、別のタンクに移し替えて、そいつをダンジョンに投棄する仕事だ。

ダンジョンに捨てたものは、いずれ吸収されてなくなる。

ゴミだろうが、放射能物質だろうが、関係なくどこかへ消えてしまうわけだ。

そいつを利用して、30年以上放置されたゴミを片付けようというプロジェクト。

面倒な仕事だが、収入がデカい。

一生遊んで暮らせるぐらいの金が入ってくる。

正直、ダンジョンに入って魔物相手に戦闘するという危険なことをしなくても済む。

こいつが終われば、俺は冒険者を引退して、北の大地の故郷に帰れるわけだ。

一緒に働いている晴山さんと「それって、フラグっぽいですね」

――なんて話をしていたら、本当にトラブル発生だ。

聞こえてきた、連続する破裂音と、爆発。

慌ててやって来た自衛隊員によると、「敵襲です!」らしい。

「え?! マジで?!」

俺は間抜けな言葉で、聞き返してしまった。

「マジですよ! マジ!」

相手も若い隊員なので、同じ口調で返してくれたが、そんなことを言っている場合ではない。

「銃声は、マシンガンかなにか?」

「サブマシンガンか軽機だと思われますが……ここはダンジョンのそばなので、無線が使えません。情報が入ってきませんから」

「そうか!」

突然のトラブルに、一緒にいた作業員たちも動揺している。

当然だろう――なにしろ、いきなりの戦闘体験だ。

一般人には、そんな経験はない。

俺の隣にいる、晴山さんも青い顔をしている。

「丹羽さん、よく平気ですね……」

「冒険者は、常日頃から魔物と肉弾戦をやっているからねぇ。慣れって怖いよな」

「お、俺たちはどうすれば――」

作業員たちもオロオロしているので、俺から提案をしてみた。

俺が責任者でもなんでもないので、指示はできない。

「作業員の皆さんは、ダンジョンの入口近くに伏せていたほうがいいと思います」

「ダンジョンですか?」

「あそこはちょっと高い位置にあるし、下から撃ってくる銃弾は伏せていれば当たりませんよ」

「ああ、なるほど……」

「それに――敵の目的は俺ですから、俺から離れた場所にいたほうがいいですね」

「それじゃ、丹羽さんはどちらに?!」

晴山さんが、心配そうな顔をしている。

「戦術的には――高い位置を取りましょう。自衛隊の方と一緒に山を登ります」

「山を?!」

ダンジョンの入口は谷間にあるため、両側を山に挟まれている。

そこを登る作戦だ。

「晴山さんは、作業員たちと一緒にダンジョンの入口にいてください」

「わ、私も一緒に!」

「駄目ですよ――危険ですし、戦闘の経験などないでしょ?」

「うう……確かにそうですが……」

根が真面目なのだろうが、ここでついて来られても、正直困る。

戦闘になったりしたら、邪魔になってしまうだろうし、彼女を守れない。

さっきも言ったが、敵の目標は俺だ。

俺と一緒にいれば、危険が増す。

「あの、でも! 下から撃たれたりするのでは?!」

「大丈夫ですよ――ちゃんと考えてありますから」

「わ、わかりました……」

晴山さんは、作業員と一緒にダンジョンに向かった。

「晴山さん! ダンジョンから出てくるかもしれない魔物には、気を付けてくださいね」

「承知いたしました!」

処理水で押し流しているから、ポップした魔物は流されていないはずだが、新しく湧かないとも限らん。

「さて、行きましょうか?」

自衛隊員に声をかけた。

俺たちが会話している間にも銃声が聞こえてきている。

それが、徐々に近づいているようだ。

「上を取る作戦と伺いましたが、具体的な作戦は?」

「コレですよ」

俺はアイテムBOXから、大きな石を取り出した。

「もしかして、弾除けですか?」

「そうそう、こいつを出して陰に隠れつつ、敵の上を取る」

「了解です」

「とりあえず、ダンジョンから離れて、通信できるところまで移動しましょうか?」

「了解!」

隊員が敬礼をした。

俺は彼と一緒に山を登り始めた。

隊員は体力があるし、彼はその中でも特殊部隊の人間なのだろう。

半端ないスタミナがあると思われるから、問題なし。

俺は当然、高レベル冒険者なので、山だろうが谷だろうが全然平気。

ただ、山には笹がいっぱいなので、ダニが心配だな。

まぁ、面倒な感染症になったとしても、 回復薬(ポーション) で治るんだろうし、大丈夫か。

「急げ、急げ!」

笹をかき分けて進む。

「丹羽さん、平気ですか?!」

彼が振り向いて心配してくれているのだが、もちろん平気だ。

「はは、俺は高レベル冒険者だよ」

「あ、そうですね! 失礼いたしました」

「それより、連絡はどう?」

「やってみます! こちらキツネ2、目標を確保した。状況知らせ、送れ」

隊員が無線機を出して味方と交信を試みる。

『こちらスアナ! 現在敵と交戦中! キツネの位置はどこか、送れ』

つながったようだが、やっぱり交戦中か。

「こちらキツネ2、目標とグリッド12から13を移動中、送れ」

『了解! 上で合流したのち、反撃に移る! 送れ』

「了解! 終わり!」

「敵って、どんな奴らですかねぇ」

通信を終えた彼に聞いてみた。

「多分ですが、某国かと――」

「やっぱり、そこしかないって感じ?」

「他の国は、もう軍を派遣する力すら残ってないでしょうし」

まぁ、そのぐらい自国がヤバい状況なのだ。

戦力が残っていたら、自国の治安維持に回さないと国が崩壊してしまう。

「どこも似たようなものだと思うんだがなぁ……」

「どこかの軍閥が、先走ったのかもしれません」

ある国は、現状で3つだか、4つだかの軍閥に分裂して、内戦状態らしい。

さらに軍閥が分裂して、さながら群雄割拠の五胡十六国時代。

歴史は繰り返すってか。

権力争いは勝手にやっていればいいけど、こちらに迷惑はかけないでほしいよなぁ。

そりゃ、俺のアイテムBOXはチートだろうが、これがあっても一発逆転とはならないと思うが。

よく解らん。

自衛隊員と一緒に山を登ると、空気を引き裂く音が近くを通る。

「おっと! 来たか?」

下を見ていると、前方がガサガサと鳴っている。

「誰かぁ! 特戦!」

声が聞こえてきた。

「精強!」

「無事か?!」

「問題ありません!」

合言葉ってやつだろう。

原始的だが、一番確実だ。

迷彩服を着た、フル装備の自衛隊員が集まった。

ライフルを持ったゴツい隊員が、全部で6人ほど。

怪我人も出たらしいが、後方に避難したらしい。

「とりあえず、遮蔽物を出しますよ」

俺はアイテムBOXから、デカい岩を3つ出した。

少し扇型に出したので、広い範囲をカバーできるだろう。

「おお! こいつは凄い!」

「十分に引きつけてから、反撃に移りましょう」

「丹羽さん、なにか作戦が?」

「ええ、俺のアイテムBOXを使って先制しますから、それに合わせてください」

「了解!」

皆で岩の陰に隠れていると、発砲音が近づいてきた。

ライフルやサブマシンガンで、この岩は崩せないだろう。

――と、思ったら、近くで爆発音だ。

一斉に笹や木の葉が鳴る。

どうやら、手榴弾らしい。

「手榴弾が来るってことは、近いですよね」

「ええ!」

「それじゃ行きますか!」

「「「了解!」」」

俺は、なるべく高い位置に、アイテムBOXから岩を取り出した。

空中に現れた岩は、地響きを立てて地面でバウンドすると、下に向かって転がり始めた。

次々と岩を出して、腹に響くような振動とともに斜面を転がし落とす。

「*&&^&^*!」

下から日本語ではない悲鳴が聞こえてきた。

「射撃開始!」

自衛隊員が岩陰から一斉に射撃を始めた。

轟音と飛び散らばる金色の薬莢――耳元で聞く銃声は非常にうるさい。

耳が聞こえなくなりそうだ。

「おっと、俺も参加しないとな」

アイテムBOXから投石機を取り出し、振り回し始めた。

追加の岩も落とす。

水を流しやすくするために、ダンジョンの中で岩をたくさん拾っていたのが役に立った。

「*&&(!」

「ははは! 地の利を得たぞ!」

悲鳴を聞くと、身を乗り出し投石機の紐を放した。

デカい石が、迷彩服の敵兵士にヒット。

下に転げ落ちていく。

いくら防弾ベストを着ていても、時速数百キロで飛んでくるデカい石は防げないだろう。

「「「おおおっ!」」」

自衛隊員からも、声が上がった。

「あんなのは喰らいたくありませんねぇ」

そう言いながら、隊員が岩陰で弾倉を交換していると、下で爆発音が響く。

手榴弾の投げ合いでも、上を取っているこちらが強い。

しばらく撃ち合いを続けていたのだが、徐々に下火になり、静かになった。

「やりましたかね?」

「いいえ、死んだふりかもしれません」

「岩を落としてみますか?」

「お願いします」

「おりゃ、岩召喚!」

空中に出現した岩が地面に落ちると、ゴロゴロと下に転がっていくのだが、なんの反応もなし。

「……待て」

しばらく、そのまま待っていると、茂っている笹がガサガサと音を立てた。

「なにか近づいてくるぞ!」

解らんが凄いスピードだ。

隊員がライフルを構えると、俺たちの岩の盾を回り込んで迷彩服が立っていた。

黒いグローブにデカいナイフを構えて鋭い眼光――明らかに殺意マシマシである。

彼の視線は氷のように冷たいのだが、その目の奥には地獄の炎が燃え盛っているかのように見えた。

味方を殺られたことに対する報復の決意なのか、それとも任務に忠実であろう燃える心なのか。

「総員 着(つ) け剣!」

皆が銃剣を装備しようとしたのだが、間に合わない。

「敵襲!」

叫んだ隊長が1斉射したのだが、目に止まらぬスピードでその弾幕をかい潜り、敵が迫ってきた。

「速い!」

隊長がかろうじて、ライフルを立てて敵のナイフを受け止めた。

鋭い刃によって弾倉が切断されて、金色の弾が飛び散る。

他の隊員が至近距離射撃を試みたのだが、それも避けられて距離を取られてしまう。

いくら鋭いナイフだろうが、ライフルの本体は切れないようだ。

もしかして、あの武器はダンジョンからのドロップアイテムでは?

「多分、あいつは高レベル冒険者だ!」

「冒険者!?」

俺の言葉に、隊員たちが銃を構え直したのだが、あの動きからすると、その飛び道具が通用するとは思えない。

「俺に任せてくれ」

高レベル冒険者の相手は、高レベル冒険者しかできない。

「し、しかし!」

「いいから――全滅するぞ!」

「りょ、了解……」

俺は、アイテムBOXからプラバットを取り出した。

鉄筋メイスより、こっちのほうが速さがある。

俺がアイテムBOXを使ったので、敵も目標が眼の前のオッサンだと解っただろう。

やつの敵は、明らかに俺ということになったはず。

その証拠に殺意が明らかに俺に移った。

「ウォォ!」

敵がまっすぐに突っ込んできた。

相変わらず、凄いスピードだ。

本当に高レベルなのか、それともスピードアップするアイテムやらスキルを持っているのか。

俺の眼の前で、ナイフが空を切る。

確かに凄いスピードだが、俺の目にはしっかりとその軌跡が見えているし問題ない。

そのまま敵が踏み込んで、連続技を横から上から下から仕掛けてきた。

まるでカンフー映画だ。

やっぱり、そういう訓練を受けているのだろうか?

鋭い連続攻撃だが、全部空を切った。

敵の攻撃を避けたあとは俺のターンだ。

隙を突いて敵の腹をフルスイングする。

防弾ベストを着ているだろうが、それなりにダメージは入るだろう。

プラバットには砂鉄が入っているから、柔軟に変形して相手の身体に張り付くように衝撃を送り込む。

効き目があった証拠に、敵は腹を押さえて一旦距離を取った。

また正面から睨みあうが、敵の攻撃パターンは解った。

俺は武術の心得はないが、アイテムBOXがある。

「イヤァァ!」

敵が奇声を上げて再びナイフを構えて突っ込んできた。

確かにスピードは凄いし、攻撃は鋭い。

手練れなのだろうが、突っ込みが一直線だ。

スピードに頼っているから、まっすぐに突っ込んでくるしかできないのだろう。

普通は、スピードで抑え込める――普通ならな。

「召喚」

俺はアイテムBOXから瓦礫を召喚した。

場所は、敵が突っ込んでくる正面だ。

自慢のスピードがあるから、途中で方向転換などはできないだろう。

突然現れた瓦礫に正面衝突するしかない。

「ギャ!」

男は正面から障害物に突っ込むと1人ラリアットを食らったように地面に転がった。

その上に瓦礫が落下してきて、そのまま下敷きになる。

ジタバタしているので、まだ生きている。

「止めを!」

「撃て撃て!」

俺の言葉に、隊員たちが一斉に射撃を始めた。

倒れている敵兵が、のけぞり痙攣を繰り返す。

いくら屈強な兵士だろうが、冒険者だろうが、至近距離から蜂の巣にされたんじゃ助からない。

すぐに黒くなった迷彩服が動かなくなった。

「撃ちかた止め!」

隊長の合図で射撃が終わると、突然の静寂が訪れる。

さっきまでは、騒然とした戦闘が嘘のように静か。

そのせいか、耳がキンキンと鳴っているように感じる。

「ちょっと待って」

俺は隊員に声をかけた。

「は、はい」

「収納」

岩と敵の身体が目の前から消えた。

「おお!」

「収納されたってことは死んでます」

「はぁ~!」

大きなため息をついた隊員に隊長が叫んだ。

「誰が休めと言ったかぁ!」

「も、もうしわけありません!」

そうそう、戦闘が終わったときが結構危ない。

武術でも、残心といって最後まで気を緩めないのは、そのためだ。

「全周警戒!」

「了解!」

ライフルを構えたまま、男たちが周囲を警戒している。

俺は落ちていたデカいナイフを拾った。

こいつは、ドロップアイテムかもしれないから、欲しいな。

それから――。

俺は敵の 屍(かばね) をアイテムBOXから出した。

手には分厚く黒いグローブが装備されている。

それをアイテムBOXに収納すると――案の定、指には指輪らしきものがハメられていた。

売り物ではないそのデザインは、ドロップアイテムだろう。

指輪を普通にはずそうとすると、苦労すると思うがアイテムBOXがあれば簡単。

指輪だけ収納すればいい。

死体の指から指輪が消えた。

隊員たちも気づいてないらしい。

追い剥ぎ行為だが、俺が苦労したんだ、このぐらいもらってもいいだろう。

それに、こいつの処理も――。

「この死体って回収するんですかね? 私のアイテムBOXなら簡単ですが」

「……申し訳ありませんが、お願いできますか?」

「解りました」

「それと――こいつのナイフもらってもいいですかね?」

「銃火器はマズイでしょうけど、ナイフなら――大丈夫だと思います」

隊長が一瞬考えたようだが、目を瞑ってくれるようだ。

俺が指輪を取ったのは気がつかなかったらしい。

まぁ、本当は鉄砲も欲しいが。

特区の中なら、銃刀法も関係ないし。

それにしても――普段からダンジョンにいる俺は、敵の動きからドロップアイテムらしきものの存在に気がついたのだが、冒険者以外にはピンとこないのかもしれない。

近くにナイフで切られた弾倉の破片が落ちていた。

「なんだこれ?」

最初は、鋭い刃物で弾倉が両断されたと思ったのだが、どうやら違うらしい。

鉄がグズグズになっている。

そういう効果が付与されたナイフなのか?

ためしに近くにあった倒木にナイフを刺してみた。

幹がみるみる腐敗してドロドロになる。

「こえぇぇ」

なるほど――こういう効果があるドロップアイテムか。

自分で怪我をしないように、分厚い手袋をしてたんだな。

ドロップアイテムは、魔法と同じようにダンジョンで最大の効果を発揮する。

この場所はダンジョンから近いので、効果を発揮できたのだろう。

敵の奥の手ってやつだ。

眼の前の蜂の巣になった死体を見るが――なんとも思わない。

まったく、俺もすっかりと荒んでしまったなぁ。

毎日ダンジョンで魔物を殺しまくってれば、このぐらいはなんとも思わなくなってしまうのか。

それとも、ダンジョンそのものが、人間の精神になにか悪影響を及ぼしているのだろうか?

そんな研究や話を聞いたことがないけどなぁ……。

「収納」

屍(かばね) をアイテムBOXに入れた。

ついでに、攻撃や防御で出した瓦礫や岩も収納する。

瓦礫は原発跡地で拾ったものなので、ちょっと放射能で汚染してしまったかもしれないが、元々線量がそんなに高くなかったので、大丈夫だろう。

隊員と一緒に斜面を下り、転がっている敵を収納していく。

岩の下敷きになったり、俺の投石がヒットしたりで酷い有り様だ。

「南無~」

一応、手を合わせる。

まぁ、個人的な恨みがあるわけじゃないが、俺を狙ってきたんだから、こういうことになっても仕方ない。

撃っていいやつは、撃たれる覚悟があるやつだけって言葉があるじゃないか。

恨むなら、こんな任務を押しつけた、自分の上官を恨め。

そんなわけで、笹の中に転がっている死体を集めていたのだが――。

「ん? 収納できない」

俺の眼の前には、迷彩服を着た敵の男が転がっている。

「どうしました?!」

俺の異常に気がついたのか、隊員がやって来た。

「アイテムBOXに入らないから、こいつは生きてるね」

「本当ですか?!」

「ああ」

彼がすぐに連絡を取る。

「敵の生存者発見!」

「どういう扱いになるのか解らないけど、捕虜は必要なんだろ?」

「ええ、口を割るかは不明ですが、貴重な情報源ですよ」

すぐに人が集まってきて担架が運び込まれると、敵の男が、それに拘束されてどこかに運ばれていった。

俺はそれを見ながら、戦闘中に斜面を転がした岩を回収していく。

「ふう……」

すべてアイテムBOXに入れたのだが、これからどうするんだろう。

ちょっと途方に暮れていると、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

「丹羽さん!」

手を振って走ってきたのは、晴山さんだ。

後ろに作業員たちもいるので、無事だったようだ。

まぁ、敵の狙いは俺だからな。

「無事でしたか」

「ええ、私たちなんてまったくの無視でした」

「そりゃ、敵の目標は私ですからねぇ」

「敵は?」

「壊滅させたようですよ。まだ周囲を警戒しているようですが」

「そうですか」

彼女も不安そうだ。

まぁ、眼の前で戦闘が起こって、人死が出るなんて、普通じゃ考えられないからなぁ。

そう考えると、ダンジョンで命のやり取りをしている俺たち冒険者は、やっぱり相当異常ってことになる。

「さて、これからどうするんだろうなぁ」

「そうですね――ちょっと聞いてきます」

「お願いします」

「あ、総理にも連絡を入れないと」

「内閣もてんやわんやなんじゃないかなぁ……」

「多分、作戦をモニターしていたと思うのですが……」

なんとか作戦本部みたいな感じで、デカいモニターの前に集まり、作戦の一部始終を確認していたのだろうか。?

「外からどういう風に見えていたか、俺も観て見たかったなぁ……」

しばらく待っていると、晴山さんが戻ってきた。

「あの――混乱しているので、しばらく待機していてくれと」

「解りました」

とりあえず、怪我人やら、捕虜の移送が最優先だろうし。

現場の検証などもするんだろうか?

それは理解したが――暇だな。

「丹羽さん、どうかしましたか?」

「時間ってどのぐらいですか? 1時間ぐらい?」

「まぁ、そのぐらいは余裕で待たされそうですねぇ」

「それじゃ私は、ダンジョンに行ってきてもいいですか?」

「ええ?! こんなときにですか?」

「はい、処理水を流し込んで、ダンジョンの中がどうなっているのか確認してみたくて」

「ああ、なるほど――ダンジョンに入っている冒険者って、そういうのが気になるんですか?」

「ええ」

本当は、水に押し流された魔物からのドロップアイテムが、どこかに溜まっているんじゃないと考えているだけなんだけどね。

「解りました」

自衛隊の方が来たら、伝えてもらうことにした。

まぁ、この混乱ぶりから、1時間以上はかかるだろう。

ものごとは可及的速やかに――俺は、ダッシュでダンジョンに向かった。

「あ、そうだそうだ」

あの敵の男から剥ぎ取った指輪を装備してみるか――。

これが俺の思ったとおりのアイテムなら、効果があるはず。

俺はアイテムBOXから指輪を出すと、指にハメてみた。

「おおおっ!」

そのままダッシュすると、普段よりスピードがアップしているのが確認できた。

これは、素早さを上げるアイテムだな。

俺の指には、以前にダンジョンで拾った指輪も装備されている。

これって、同時に装備できるのか?

ためしに、以前装備した指輪を外してみた。

「ん!?」

若干スピードが落ちたような気がする。

これはアイテムの同時装備が効いているのだろう。

今は2つだけだが、3つでも可能なのか? それとも、もっと装備しても反映されるのか?

興味は尽きない。

ダンジョンにやって来たので、中に侵入する。

入口付近には用はない。

多分、ドロップアイテムが溜まっているのは、奥のほうだろう。

時間がないので、ドンドン奥に進む。

処理水を使って押し流しているので、敵のポップはしていないようだ。

このダンジョンはずっと下りになっていて、どこから階層が分かれているのか、いまいち解らない。

多分、整備されていないのは、この造りのせいかもしれないな。

真っ暗なダンジョン内に灰色の景色が広がる。

俺は流れが淀みそうな所を探した。

凹んでいる場所とか、岩があってダムみたいになっている所とか。

「おっ?!」

ダンジョンの側壁から飛び出た岩の所になにかが溜まっているのが見える。

近づいて確認してみると――。

「やった!」

ポーションの瓶らしきものや、武器などが多数引っかかっていた。

ざっと見ただけで、数十本。

流し込んだ処理水の量から察するに、こんなものじゃないだろう。

もっとたくさんの魔物を押し流しているに、違いない。

多分、古いものはダンジョンに吸収されてしまっているかもしれない。

残っているものは新し目のもの――ということになる。

辺りを確認しながらドンドン奥に進む。

他にも、アイテムが溜まっている場所を発見できた。

回収できたドロップアイテムの瓶は100本以上。

武器なども多数拾うことができた。

回復薬(ポーション) などは、ウチの連中に提供してやることにしよう。

俺はこの仕事が終わったら大金をゲットして足抜けするから必要ないが、これからずっと冒険者を続けていく彼女たちには必要なものだ。

――適当な所でダンジョンから引き上げたのだが、それからかなりの時間待たされてしまった。

結局、暗くなるまで移動できず。

そのまま、原発跡地にある宿舎で1泊。

2階建てのなんの飾り気もない建物。

個室のビジネスホテルって感じで、風呂はないがシャワーがついていて助かった。

――朝起きると、メッセージが入っていた。

キララからだ。

「……ん? なんだって?!」

レンが、宿屋からいなくなったらしい。

なんだ? いったいどうしたってんだ。