軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

143話 おらが村

異世界で暮らしていると、アンデッドの大群が襲ってきたのだが――そこに、神さまの力によって、サナが送り込まれてきた。

聖女の力さえあれば、アンデッドなんて一発だ。

亡者どもを片付けて、世話になっていたテツオの屋敷に帰ってきた。

一息つけるかなと思ってると、身体が光りに包まれて、イキナリの帰還だ。

神さま的には、もう異世界での用は済んだということなのだろう。

テツオもこんなぐあいに、使われていると思われる。

まぁ、神さまの加護があれば、家族の無事は保証されるらしいので、頑張るしかない。

それはいいのだが、元世界に帰る転移の際、獣人のニーニャが巻き込まれてしまった。

俺たちが転移してきたのは、本州と俺の故郷を繋いでいた海底トンネルの中。

ここはダンジョン化していたはずだが、俺が東京ダンジョンを潰してしまったので、ここもダンジョンじゃなくなったようだ。

もしかして、また物流で使えるようになるかもしれんが、電力不足で電車があまり動いていないので、無理か……。

ここを蒸気機関じゃ走れないだろうし。

いや、魔法を使ったボイラーなら煙もでないしいけるんじゃないか?

サナと自転車の二人乗りをして、地上を目指す。

俺たちの横には、獣人のニーニャが走ってついてきている。

――後ろのサナと今までのことを話す。

「俺がいなくなったあと、皆はどうしてたんだ?」

「それが、もう大変だったんですよ!」

「大変?」

異世界じゃ忙しすぎて、詳しい話を聞けなかったので、ここで聞いてしまう。

ただ自転車を漕いでいるだけなので、暇だし。

「そうですよ! 桜姫さんを押さえるのに大変だったんですから!」

「姫は、俺のあとを追って、ダンジョンに潜ろうとしてたのか?」

「そうです! けど、皆はダイスケさんのアイテムBOXがないと、ダンジョンの攻略なんてできないから止めようとしました」

「まぁ、そうだろうなぁ……」

できないとは言わないが――アイテムBOXがなけりゃ、他のギルドと同様に物資の補給のために膨大な時間が必要になる。

「カオルコさんに説得されて、潜る準備と物資を集めている最中にダンジョンが崩壊しました」

「それじゃ、君たちはあれに巻き込まれていなかったのか?」

「はい、でも……」

「そのあとは?」

「桜姫さんは、魂が抜けたようになってしまって……」

「ああ……」

その話を聞いて、俺の胸の奥がきりきりと締めつけられた。

裏切ってしまったのではないか、傷つけてしまったのではないか――そんな思いが波のように押し寄せ、息をするのさえ苦しくなる。

姫のことだけではない。

サナ、カオルコ、イロハ――時間は残酷なほどに限られていて、あの選択をしなければ、すべてを失う結末しか残されていなかった。

俺がいなくなっても、彼女たちはダンジョンにアタックして、あの10層にたどりついただろうが……。

アレに勝てるとは思わない。

理屈では分かっている。

冷静に考えれば、あれは最善、あるいは唯一の選択だった。

いや、ただのオッサンのエゴでもあるのだが。

それでも、みんな無事だったのはよかった。

「ダンジョンの崩落で犠牲者は?」

「いなかったと思います」

「神さまが、みんなをダンジョンから押し出してくれたんだよ」

「それは聞きました」

「神さまに感謝だな」

「はい」

あまり神さまに借りを作ると、なにをさせられるのか解ったもんじゃないのだが、不満は言うまい。

皆が無事だったのは、神さまのおかげなのだ。

「そのあとは?」

「皆で、ダイスケさんのお家に行きました」

「は?」

突然の彼女の言葉に、俺は間抜けな声を出してしまった。

「ダイスケさんの実家ですよ」

どうやら皆で俺の家に住んでいるらしい。

「なんで俺の家に!? その前に俺の住所って教えてたっけ?」

「それは……ゴニョゴニョ……」

まぁ、後ろには八重樫グループがいるんだ。

俺の住所を探るなんて朝飯前だろう。

「俺が無事だって、神さまから聞いていたんだろ?」

「はい、それで無事なら帰ってくるのは、ダイスケさんの実家だろうと」

「まぁ、合ってるな、ははは」

実際に、海底トンネルに転移してきて、今実家に向かってるし。

「あとですね……」

サナが、なにか言いにくそうにしている。

「え? なにかあったのか?」

「それがですね……」

ダンジョンがなくなるとどうなるのか?

それは当然、冒険者たちがダンジョンから得ていた、超常の力が全部なくなったということ。

普通ならそれで終了だが、ダンジョンがなくなっても力を使える人たちがいた。

紋章隊の連中や、イザルの信徒たちだ。

彼らはダンジョン由来の力に頼っていなかったので、魔法などを使えた。

「失った便利な力を求める人たちが、次々とイザルの信徒になり始めたってわけか」

「そうです」

ダンジョンがなくなってから、その数は爆発的に増えたようだ。

「神さまは大喜びだろうな」

「多分そうかも……それでですねぇ、神さまの力が増したので、再びあちこちにダンジョンができ始めたんですよ」

「それは、今までのダンジョンと違う、イザルの神さまのダンジョンってことか」

「はい」

テツオが住んでいた異世界にも、門と呼ばれる、異世界につながる場所があった。

人々は、そこから色々なものを発掘して、鉱山として利用していたわけだが……。

似たような感じになってるってことか。

「それであの~……」

なんだか、サナが言いにくそうにしている。

不吉な予感がするが……。

「まだ、なにかあるのか?」

「ダイスケさんの家の近くにダンジョンができて、村周辺がすごいことになってまして……」

「ええ?! マジで?」

「はい」

「俺の村にダンジョンってどこにできたの?」

「あの~、ダイスケさんの畑に裏山があるじゃないですか」

「ああ……もしかして、あそこか?!」

俺がいつも芋を作ってた畑のすぐそばに、裏山がある。

すぐに日陰に入ってしまうので、畑作には向かない土地なのだが、そんなことを言っている場合ではなかった。

「はい」

なんてこったい!

ダンジョンができたってことは、そこは国の管理地になってしまう。

つまり、俺の畑はなくなってしまったってことだ。

最初、自分の家の裏庭にダンジョンができたときにも、なんとか誤魔化したってのに……。

ここに来て、畑を失ってしまうとは。

少々ショックだったのだが、今の俺には金がある。

芋を作らなくてもいいのだ。

それに、ダンジョンができたってことは、そこを中心に村が街になるってことだ。

人が増えて、色々な施設、店もできるし、もしかしてホムセンの支店もやってくるかもしれない。

まさに俺の家が、街の中心―― 一等地になるじゃないか。

そう考えると、悪い話でもない。

固定資産税は爆上げするだろうが。

「そういえば、サナのお爺さんは?」

「まだ、東京の施設にいます」

さすがに、歳食ってから知らない土地に引っ越すのは気が進まないだろう。

東京に骨を埋めるようだ。

サナもダンジョンで大金を稼いだので、施設の支払いはなんの問題もない。

自転車を漕ぎながら、サナと話をしていると、暗闇に光点が見える。

「え?! もしかして、人がいる? 鉄道が動いているとか?」

「聞いたことがないですけど……」

まぁ、海底トンネルにダンジョンがなくなったとなれば、またトンネルとして使えるってことだからな。

「もしかして調査が行われているのかもしれないな」

「そうですね」

俺は自転車を止めて、魔法のランプを消した。

俺たちは暗闇でも見えるので、やり過ごそう。

俺のアイテムBOXから、ローブを出して、ニーニャに手渡した。

獣人を見たら、魔物だと思われてパニックになるかもしれん。

しばし隅っこに寄って、光がやってくるのを待つ。

トンネルの奥から、低くうなるような金属音が湧き上がり、やがてそれは壁面にぶつかって幾重にも折り重なりながら反響してきた。

暗闇の中に、ぼんやりと黄色い光が滲み、まるで闇を切り裂く警告色の刃のように近づいてくる。

姿を現したのは、角張った箱のような一両編成の列車だった。

前照灯がコンクリートの壁をなぞるたび、ケーブルやボルト、古い染みまでもが白々と浮かび上がり、列車が通り過ぎる空間そのものを検分しているかのようだ。

「そうか、ダンジョンがなくなったから、エンジンが使えるんだよな」

車輪がレールを噛む乾いた音、機器が作動する規則正しい駆動音が、反響を伴って耳に残る。

車両は、俺たちに気づくことなく通り過ぎた。

「見つかったら、捕まっちゃいますでしょうか?」

「わからん。不法侵入と言えば、そうだが……はは」

「ダイスケ、あれはなんにゃ? 魔法で動いているにゃ?」

ニーニャは列車に興味津々のようだ。

まぁ、異世界には乗り物といえば馬車ぐらいしかないからな。

「俺たちが使っている乗り物だよ。魔法じゃないんだ」

「へ~にゃ」

「じ~」

俺とニーニャの会話を、サナがじ~っと見ている。

「随分と仲が良さそうですね」

「そりゃ、テツオの屋敷で一緒に暮らしていたからな」

「うぐぐ……」

サナが複雑な表情をしている。

聖女的には、慈悲の心を見せないと駄目なところなのだろうが、そうはいかないのだろう。

「まぁ、責めるなら俺をせめてくれ。ニーニャは俺の世話をしてくれていただけで、悪くないからな」

「そ、そんなことはしませんけど……」

解っちゃいるが、納得はできてないって顔だ。

俺たちは自転車を出すと、再び坂を上り始めた。

残り20kmぐらいとして、時速30kmの自転車なら、40分もあれば地上に出られるはず。

俺の計算どおり、四十分ほどが経過したころ、闇の奥に針の先ほどの光点が現れた。

それは最初、幻かと思うほどかすかで、瞬きのたびに消えてしまいそうだったが、ペダルを踏み続けるうちに、確かな輪郭を持ちはじめる。

光はゆっくりと、しかし確実に膨らみ、トンネルの冷たい闇を押し退けるように広がっていった。

湿った空気の匂いが薄れ、代わりに外の乾いた風の気配が混じる。

反響していた自分の呼吸音やチェーンの軋みも、次第に吸い込まれるように変質し、出口が近いことを身体が先に悟っていた。

最後には、はっきりとした明るさとなり、トンネルの出口だと確信できる瞬間が訪れる。

出口付近には、工事車両が何台も停まり、黄色いヘルメットを被った作業員たちの姿が見えた。

作業灯が照らす中、影が忙しく行き交い、こちらに気づいたようで手を挙げてきた。

ここで減速する余裕はない。

闇から光へ、一気に突き抜け、黄色いヘルメットと工事灯の間をすり抜けるように。

俺たちは、全力のままトンネルを突っ切った。

背後から男たちの声が聞こえるが、無視だ。

「はは、申し訳ないな」

まさか、中から人が出てくるとは思ってなかっただろうが、ここを利用して海を渡るやつはいなかったのだろうか?

キタキツネなどが、トンネルを通ったみたいな話はあったがなぁ。

海岸沿いを自転車で走り、人気のない場所で一旦停止した。

辺りを見回すと、まだ雑草が生えていない。

ちょっと肌寒さも感じるので、春なのだろう。

コブシが咲く一歩手前という感じ。

俺は、アイテムBOXから上着を出すとサナに着せた。

「ここからどうやって、ダイスケさんの家まで戻るんですか?」

サナも、引っ越してきたとはいえ、ここらへんの土地勘はないだろう。

しばらく海底トンネルも使われてなかったしな。

「少し進むと、左右に分かれてどっちでも帰れるが――距離は100kmぐらいか」

「自転車で行くんですか?」

「いや、もう軽トラを出すぞ」

俺はアイテムBOXから、愛車を出した。

異世界でも少し使ったことがあったが、予備のガソリンも収納に入っていたので、燃料の問題はない。

「にゃ!」

突然現れた、白い鉄の塊にニーニャが驚いている。

こいつは彼女に見せたことはなかったな。

「そうだなぁ……ちょっと裏道を通ってみるか」

春なら山にも草も生えていないし、虫もまだいないだろう。

「大丈夫なんですか?」

「普段は使われてない道だが、今の俺たちなら平気だろう。一番の近道だし」

通れない場所は、俺がサナを背負えばいいしな。

獣人のニーニャは、酷道でも心配していない。

異世界なんて、酷道だらけだし。

それが普通だった。

「よし、乗ってくれ、ニーニャは荷台に」

「わかったにゃ」

彼女が軽々と軽トラの荷台に乗り込んだ。

サナがじ~っと、それを見ている。

「いじめないでやってくれよ」

サナと一緒に軽トラに乗り込んだ。

「そんなことしませんけど……」

エンジンをかけて、ちょっと走り出すと、窓を開けた。

「ニーニャ、大丈夫か?」

「大丈夫にゃ。馬車より乗り心地いいにゃ」

まぁ、異世界の馬車にはサスペンションもないからな。

それに比べたら、軽トラでも雲泥の差だろう。

問題ないようなので、そのまま国道を進む。

しばらく行くと、分かれ道があるので、左へ。

このままずっと行くと、山の中を通って半島を縦断することになる。

「港町に抜けるんですか?」

「いや、違うんだな~」

そのまま1時間ほど走ると、右側に林道がある。

俺はハンドルを切ると、山の中に分け入った。

「こんな場所、通れるんですか?!」

「はは、途中まで行けると思うぞ。この山の反対側がちょうど、俺たちの村なんだよ」

「そうなんですか?」

かつて、ここに道路を通そうとしたのだが、野鳥の繁殖地だの、自然保護だのという話が出て、頓挫。

工事も途中で終わってしまっていた。

「道がないと言っても、山頂の1kmぐらいなんだよ」

「もしかして、そこを通るつもりですか?」

「はは、そんなわけだ」

「ええ~?」

「だって、一番の近道なんだよ」

「それは、わかりますが……」

「大丈夫、サナは俺がおんぶして行くよ、ははは」

林道は舗装などされておらず、乾いた土と砕けた石がむき出しのまま踏み固められている。

車一台がやっと通れるほどの道幅しかなく、ところどころで轍が深くえぐれ、雨水が溜まった跡が黒く残っていた。

道は素直に先へ伸びることを拒むかのように、右へ左へと執拗に折れ曲がり、視界の先をすぐに遮ってしまう。

周囲には葉を落とした原生林が壁のように立ち並び、太い幹の古木が絡み合う枝を頭上で重ねて、空を細切れの青に押し込めている。

しばらく人の手が入った痕跡はほとんどなく、進むほどに人工物の気配は薄れてくる。

まぁ、こんな道路を使うやつはいないだろうな。

世界が静止してしまったことで、営林署――いや今は森林管理署だったか、それも停止してしまったし。

ルームミラーで、後ろをチラ見――ニーニャは平気そうだ。

「おっと!」

道を、腐った巨大な倒木が道を塞いでいる。

一旦降りて、軽トラを収納すると、サナの手を繋いで倒木を回り込んだ。

真っ白な聖女のドレスと、鬱蒼とした森――俺の隣には、フードを被った真っ黒な獣人。

まるでファンタジー世界なのだが、ここは日本だ。

「サナ、普通の服は――持ってないよな?」

「はい、神さまからこれを着ろと……」

「なにかエンチャントがかかっている装備なのかもしれないな」

「多分……」

俺のアイテムBOXの中にもサナの着替えは入っていない。

ダンジョンアタックするときには収納していたが、外に出ると彼女に返していたしな。

ニーニャは軽々とジャンプして巨木の上に乗った。

「すごいジャンプですね」

「いい森だにゃ」

ニーニャが、においをクンカクンカしている。

「ニーニャ、寒くないか?」

「大丈夫にゃ、葉っぱが落ちているけど、今は冬なのかにゃ?」

「いや、これから暖かくなる。冬には雪も大量に降るぞ?」

「ミマルってなんにゃ?!」

「ミマル?」

彼女の言葉に俺は首をひねった。

どうやら、雪に対応する異世界語がないらしい。

自動翻訳でテキトーな言葉が当てられているのだろう。

俺は説明を諦めると、倒木の反対側に出て、再び軽トラを出して走り出した。

アイテムBOXがあると、これができるから強い。

しばらく進むと、俺は車を止めて、スマホのGPSでマップを確認。

――この辺りか。

皆を下ろすと軽トラを収納したのだが、スマホを見て俺はあることを思い出した。

「そういえば、ダンジョンがなくなって、昔のコンピュータが使えるようになったかい?」

「いいえ、それはもう駄目みたいですよ」

「ええ? そうなのか」

どうやら、未だに物質の特性が変わってしまったままらしい。

ダンジョンの影響はなくなったが、今度はイザルの神さまの影響なのだろうか。

「あ、でも! 魔法のランプなどは使えるようになりましたよ」

「ええ?! そうなのか?!」

どうやら、八重樫グループの技術開発が成功して、魔石を使った商品が売り出されているらしい。

簡単に言えば、魔力を電力に変換して、明かりやコンロに使っているようだ。

見てみたいが、サナはなにも荷物を持っていない。

「それじゃ、魔法の袋は?」

「それはまだ無理みたいですね~」

「明かりとかコンロは、魔石から電気を取り出せれば作れそうだが、魔法の袋は――確かになぁ」

「カコさんの話では、そうみたいですね」

姫のお姉さんから、原理的な話を聞いているようだが、サナはよくわかっていないようだ。

魔力を電力に変換できるってだけで、革命的だ。

実際、使い道がなかった、クズ魔石の値段が上がっているという。

普通に生活ができる、儲かると解ると、冒険者を職業にする連中も増えるだろう。

スマホでマップを確認しながら、山の中に入った。

ここから直線で山を越える。

これが一番の近道だ。

「どのぐらいの距離なんですか?」

「直線で1kmぐらいだな」

まぁ、平地なら大したことない距離だが、山越えだからな。

深い森の奥へ足を踏み入れると、まず耳に触れるのは、静けさそのものが息づいているかのような空気だ。

その静寂を縫うように、あちこちから野鳥の声が湧き上がってくる。

澄んだ高音が木々の梢を跳ね回り、短く鋭いさえずりが枝から枝へと飛び交う。

見えない場所から甲高い鳴き声が聞こえてきた。

「すごく綺麗な鳴き声ですね」

「多分、キビタキだな。黒と黄色の綺麗な鳥だぞ」

「へ~」

「ニーニャ! こういう葉っぱには近づかないようにしろよ。ダニがいるからな」

俺は笹の葉を指した。

まだ寒いから大丈夫だと思うが、春先でも笹の中に入って食われたことがある。

「わかったにゃ」

異世界にもダニはいたので、わかっているだろう。

「よっしゃ、サナは俺が背負うか」

「だ、大丈夫ですよ」

「ほら、聖女の衣装が濡れるとマズいし……」

「そんなの 洗浄(クリーン) の魔法でなんとかなりますし」

「そうか」

彼女も高レベル冒険者だしな。

あれ――そういえば……。

「ダンジョンがなくなって、レベルはどうなった?」

「そういうのはなくなりました。ある程度の力の引き継ぎはできていましたが……」

「まぁ、システムが違うっぽいしなぁ」

そうなると、ダンジョンの探索は、より大変になりそうな気がするが……。

「でも、イザルの信徒はこれがありますし」

彼女がくるりと回って、背中の聖刻を俺に見せた。

「ああ、そうか。それが育てばより大きな力を使えるようになると、テツオも言っていたな」

実質、聖刻のでかさが、レベルに相当する感じか。

でも、聖刻を大きくするためには、信仰の深さが必要になるだろうし。

俺たちに先行している黒い毛皮の女の子は軽々と山を上り、すでに頂きにいた。

山頂に近づくと、さすがに少々肌寒く、窪みの日陰には雪も残っている。

「サナ、寒くないか?」

「大丈夫です」

ニーニャが手を振っている。

「ダイスケ! 街が見えるにゃ!」

「なんて言ってます?」

「街が見えるって言ってる」

「そんなにすぐ近くなんですか?」

「いや、ここから10kmぐらいはあるはずだが、道に出れば車が使えるし」

彼女と一緒に山の頂上についた。

目を凝らすと、懐かしのおらが村が見えるのだが……。

「ん~? なんだか、建物が増えてないか? ビルみたいのも見えるような……」

「マンションなども建ってますよ」

「おらが村に、マンション?!」

「もう村じゃなくて、町に昇格してますけど……」

「マジで?」

そんだけ人が増えたのか。

「はい」

「そんなに急に人が増えたんじゃ、村のインフラが間に合わないぞ?」

「それは大丈夫です。八重樫グループが全面的にバックアップしてくれてますから」

「ああ、姫が来たからか?」

「それに、ダンジョンもできましたから。八重樫グループの研究所もありますよ」

なんと、たった2年でそんなことになっているなんて。

まぁ、村がダンジョンの最前線になるんだから、研究所を作るのが合理的ではある。

サナの話では、魔物の研究所も作られたらしい。

「それじゃ、もしかして、魔物の研究をしてたセンセも……」

「はい、来てます」

「グループの研究所には、センセのオカンがいるのでは……?」

「いますね。すごく、嫌な顔をしてましたけど」

「やっぱりなぁ……あ、でも博士が若返っていたのを見て、なにか言ってた?」

「呆れてましたよ」

「はは……」

センセはまだ若いから大丈夫かもしれないが、もう少し歳を食ったら、わからんぞ?

オカンと同じことをするかもしれん。

俺たちは、頂上から降り始めたのだが、ニーニャの動きがピタリと止まった。

「どうした?」

「獣にゃ」

彼女の声に、俺はアイテムBOXから投石機を出した。

別に戦う必要はない。

追い払えればいいのだ。

落ち葉と、枝を揺らしながら、黒くて巨大な毛むくじゃらが近づいてくる。

「熊か」

冒険者になる前の俺なら、ビビリ散らかしていただろうが、今なら熊ぐらいで驚きはしない。

俺は大きな岩を投石機にセットすると、ぐるぐると回して、熊に向かって投げた。

「ブモッ!」

放物線を描いて、岩が熊の頭にヒットする。

突然の攻撃に相手も驚いたのだろう、ものすごい速さで、森の中を逃げていった。

「す、すごく脚が速いですね!」

「こういう足場が悪い所でも、時速60kmぐらい出るからな」

「怖いですね~」

「なに言ってんだ。サナなら一撃だろう?」

「そんなことないですよ」

彼女はそう言っているが、おそらくクリティカルが出て一撃だと思われる。

まぁ、無駄な殺生をする必要もない。

そのまま山を下り、俺たちは舗装道路に出た。

ここから車に乗れば、村――いや今は町になっているのか。

俺の家までもうすぐだが、姫たちにどんな顔をして会えばいいのだろうか。

いい歳して、俺の胸の中はぐるぐるといろんなものが回っていた。