軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

120話 突破!

テツオをダンジョン攻略の助っ人に頼んで、7層までやって来た。

冒険者の適性もなく、レベルの補正もないのだが、彼とシャザームのコンビは超強力だ。

7層までシャザームに乗って空を飛び、楽ちんな行程だったが、ここで一休みすることになった。

慌てる必要もない。

テツオとシャザームがいれば、7層の大壁は攻略したも同義だからな。

それに、ちょっと試してみたいこともある。

それが上手くいけば、7層の壁に穴を開けられるかもしれない。

「 光よ!(ライト) 」

サナの魔法の明かりが照らす中、俺のアイテムBOXから出した食事を並べた。

「ギャ!」「ギャ!」

元気が出たハーピーたちが、俺にべったりとくっついて、カロリーバーを頬張っている。

「大丈夫みたいでよかった」

「なんか、前より懐かれてないか?」

テツオが手を伸ばそうとしたのだが、警戒されてしまった。

彼女たちからすれば、見慣れないやつなのだろう。

「危ないところを助けたと思われたのかな?」

「む~」

「ははは! 桜姫よ~、魔物にヤキモチを焼くなって」

イロハが、ここぞとばかりに姫をからかっている。

「ヤキモチなんぞ焼いておらん!」

「またまた~、あはは」

「本当にハーピーたちと仲良しですね~」

サナの言葉にもちょっと棘がありそうな感じなんだが……。

「なんだ、サナもヤキモチか?」

「ち、違いますけど……当然のように、ダイスケさんにくっついているから……」

「これは、犬とか猫とかと同じ括りだろ?」

「そ、そうですけど!」

言葉では、そうだけど、納得はしてないようす。

なにかブツブツ言っている。

そのとき――。

『ダ』『メ』

どこからか解らないが、声が聞こえたような気がする。

辺りを見回すが、当然いるのは俺たちだけ。

他の皆にも声は聞こえたようだ。

キョロキョロと辺りを警戒している。

これは、以前にも聞いたことがあるぞ――そうだ。

テツオが言う神さまの声ってやつだろ。

ダンジョンの中でも聞こえるのか。

「テツオ、今のって……?」

「ああ、神さまだな――サナちゃん」

「は、はい」

彼女の顔には、困惑と焦り――まるでイケナイなにかを見られてしまったような――そんな表情が浮かぶ。

「駄目だぜ? なにかイケナイことに神さまの願いを使おうとしたろ?」

「ご、ごめんなさい!」

マジか。

なにを願おうとしたのかは、ちょっと聞かないでおこう。

「サナちゃんは、イザルの聖女なんだから常に慈愛の心を持ってないと」

「……」

「オッサンには、一番似合ってない言葉だよな」

「わはは! はっきり言う、気に入らんな」

「イロハがすまんな」

一応、フォローをいれておく。

「構わんさ。異世界人はみんなこんな感じだしな」

気に入らんと言っていたが、冗談らしい。

あまり気にしていないようだ。

「やっぱり、日本とは違う感じなのか?」

「空気を読むとかしないからな、わはは。だいいち、そんな単語が存在してないし」

「マジか」

「金だけ、自分だけ、そのときだけ、後先なんて知らん――そんな連中ばっかよ」

彼が、飯を口に放り込んだ。

「ときは、まさに世紀末……」

「ヒャッハー! それはいいとして――サナちゃん、聖女が堕ちたり転向したりすると、神さまの力が大幅に低下するから、神さまも悲しむよ」

「ごめんなさい……」

「それに、心に隙があると、他の神さまにつけ込まれる可能性が上がるからよ」

「つけ込まれる?」

俺は、思わずテツオに聞き返した。

「君の願い――私なら叶えてあげられるよ? みたいな感じでな」

「まるで、詐欺みたいな」

「世界は、等価交換だ。そんな上手い話があるわけがない」

「ただより高いものはないってことか」

「そのとおり! お嬢ちゃんたちも気をつけな。ちな、イザルはいい神さまだから、心配いらんが」

「うさんくせーオッサンのくせに、真面目じゃんか」

また、イロハの暴言が炸裂する。

「確かに俺は、ろくでなしの人殺しのオッサンだが、神さまに対しては真摯だよ。嘘ついても、バレるし、わはは!」

俺たちの言動を見ているのか、見ていないのか――カオルコは黙々と食事をしている。

「そういえば、シャザームは食事はしないのか?」

「しない――要は俺の魔力が彼女のエネルギーみたいなものだし」

「俺には見えないけど、黒い穴の中にいるときにチャージしている感じか」

「そんな感じだ」

シャザームと出会ったときには普通の人型のサイズだったらしい。

「最初は追っかけてくるから、敵だと思ってひたすら逃げ回っていたぞ」

「サイボーグお民さんみたいな……」

「マジでそんな感じだった。まさか味方だとは……」

話している間に食事が終了した。

早速、シャザームに乗せてもらい、地上100mを目指すことになった。

「その前に聞きたいんだが……」

テツオから質問があるようだ。

「ん? なんだ?」

「俺の能力でトンネルが掘れるって言っただろ?」

「ああ」

「単純にこの壁に穴を開けたら駄目なのか?」

「普通に穴を開けると、別の空間につながってしまうんだよ」

「ははぁ……神さまの門と似たようなもんか」

よく解らないが、彼は納得してくれたようだ。

黒い触手に案内されて、シャザームの黒くて柔らかい身体に座った。

「皆、いいか?」

姫が確認する。

「大丈夫だ……テツオ、頼む」

「よっしゃ!」

彼の合図で、シャザームが垂直に上昇していく。

ほんの10秒ほどで、100mのテーブルに到着した。

「 光よ!(ライト) 」

今度は、カオルコの魔法だ。

テーブルが魔法の明かりによって照らし出されたが、そこはもぬけの殻。

ちょっと期待していたのだが、ハーピーたちの出迎えはなかった。

ここが巣だったのだが、冒険者たちがやってきたので、危険だと解って放棄されてしまったのだろう。

彼女たちにとっては、安全な寝床だったはずだが、ちょっと可哀想なことをしてしまった。

少々後悔はあるが、俺の考えていることが実現できれば、もうここに冒険者が訪れることはなくなるだろう。

そうなれば、またハーピーたちも戻ってくるかもしれない。

「マジかよ! あんだけ苦労したってのによ! これだからチート持ちのオッサンは!」

「わはは! そんなことを言われてもな。これも神さまの思し召しってやつよ」

「よく言うぜ」

どうにもイロハは、テツオが聖職者ってのが信じられないらしい。

そんなことよりも――。

「高さ100mのステージよ、私は帰ってきた!」

マジで、ここにはもう来れないのかと思ってたぜ。

「ダーリン、ここからどうするのだ? シャザームとやらで、穴の中を進むのか?」

姫は、俺の計画が気になるようだ。

「そこだ! テツオの黒い穴は、壁に穴を開けたり、岩をカットしたりできるんだろ?」

「できる。鉱山でトンネルを掘ったりしてたって、言ったとおり」

「だが、このダンジョンでトンネルを掘ると別の空間につながってしまう――そこで!」

「そこで?!」

「この穴を横に広げて掘ってくれ」

俺はステージの後ろに開いた穴を指した。

「こうか?」

テツオが手を振ると、通路が大きく横に掘れた。

「わかりました!」

突然、カオルコが声を上げた。

「わかった?」

「そのまま穴を広げて、7層の壁を貫通させようというのですか?」

穴をどんどん広げていけば、別の空間につながることもない。

そのまま7層の壁に到達すれば、どうなるか……。

「正解!」

「インチキじゃねぇか!」

イロハが呆れている。

意外と彼女は真面目だなぁ。

こんなバカバカしいゲームみたいな世界なんだから、バカ正直にルールを守る必要なんてない。

「無理を通せば道理が引っ込むんだよ――ちょっと意味が違うか?」

「まぁ、やったもん勝ちだ。勝てば官軍ってやつよ、わはは」

「普通のツルハシなんかじゃ、こんなインチキは無理だが、テツオのチートがあればできるだろ」

「モチのロンよ」

彼の能力を使って、元々の通路をどんどん広げていく。

そのまま下にも進む。

こうやって壁まで到達すれば、壁の内側に穴が開くはず。

他にも、壁全体をまんべんなく削って、部屋を拡張していけば、異空間につながることなく壁が消失するかもしれん。

そんなことをしたら、どれだけ時間がかかるか不明だが、テツオの能力があれば可能か。

「あ、あの~ダイスケさん……」

サナがなにかあるようだ。

「なんだい?」

「今いる通路が、全部変な空間になったりは?」

「……ありえな……なくもない」

「駄目じゃん!」

イロハからツッコミが入る。

「だが、他に方法がないぞ。まぁ、まともにこの虫だらけの細い通路を進む手もあるが……」

「他の冒険者がここに入って虫だらけって言ってたけど、本当なのかい?」

そういえば、俺たちのあとに、ここに入ったやつらがいたんだっけ。

「ああ、姫が幼児退行するほどの地獄だ」

あの惨状を思い出したのか、姫が無表情になっている。

「……そ、それなら……やっぱりダーリンの方法でいこうぜ」

「まぁ、大丈夫だよ……多分」

「多分かい!」

話している間にも、テツオの能力でどんどん穴が広がっていく。

それと同時に、下にも穴を拡大すると壁も削れていく。

かなりの急斜面なので、皆でシャザームに乗せてもらい、徐々に降りていく。

ここにいるのは高レベル冒険者ばかりなので、壁伝いに降りられないこともないが、せっかく便利な方法があるんだ。

便乗しない手はない。

「ギャ!」「ギャ! ギャ!」

黒いシャザームの上が飽きたのか、ハーピーたちは7層の安全地帯を飛び回っている。

それよりも――普通に壁を崩すと、破片などが山積みになってしまうが、それすらない。

「破片やゴミが出ないのはいいなぁ」

「わはは! そのとおり。なんでも放り込めるから、俺はゴミ箱って呼んでいる」

「神さまの奇跡なのに、それはいいのか?」

「偉い人はそんなの気にしないぜ。要は結果を出せばいいんだ」

「その手段は選ばないと?」

突然、カオルコが会話に入ってきた。

「そうだな――神の名の元に許される」

「テツオさんは、沢山の人を殺めていると仰られてましたけど……それはいいのですか?」

「まぁな、千単位で殺ってるなぁ」

「そんなにかよ!」

イロハも、その数に驚く。

俺は以前、聞いていたけどな。

「べつに好き好んで虐殺をしているわけじゃない。俺のやっていることは神の代行だから、俺の命を狙ってきたり、邪魔をするやつは、神の敵だ」

「私には理解できかねますが……」

「まぁ、俺も元日本人だから、この世界でヤバいことをしようなんて思ってねぇよ。空気を読むってのも知っているしな、わはは」

「……」

サナが俺たちの話を黙って聞いている。

さっき、サナが神さまに止められていたが、やはり聖女という肩書は大きいらしい。

テツオは神の尖兵で汚れ役でもある。

多少は大目に見られることもあるが、聖女は違うようだ。

彼と話していると、壁に変化が現れた。

穴が開いたのだ。

「なんだよダーリン、失敗か?」

「イロハ、まだ解らんぞ?」

「サナ、穴の中に魔法の明かりを――」

「いや、俺の魔法のランプを使おう」

テツオがどこからか、ランプを取り出した。

底から魔石を入れると、青白い光を出し始める。

「え?! なんだいそりゃ?! ランプ?!」

「彼が、異世界から持ち込んだ、魔法のアイテムだ」

「……え?! サナが異世界のオッサンだとか言ってたから、冗談だと思ってたのに……マジなのかい?!」

「「マジマジ」」

また、オッサンたちがハモる。

「それに今、どこから出したんだよ! アイテムBOXまで持ってるのかい?!」

「今のは、テツオの魔法の袋っていう魔法のアイテムだよ」

「はい?!」

テツオがイロハに袋を見せた。

「この袋に部屋1個分ぐらいの荷物が入る――ほら」

彼が袋からなにか出して見せた。

木の箱だが、蓋を開けると、石のようなものが入っている。

テツオの話だと、おはじきみたいな子どもの遊び道具らしい。

「お土産に買ったんだよ」

「……オッサン、子どもがいたのか?」

「ああ、本当の子どもじゃないけどな」

「そうなんだ…………いままで、ひどいことを言ってすまなかったよ」

「お?! どうした? なにか拾い食いでもしたか?」

「違うわい!」

イロハも親がいなくて、姉妹だけだって話だしなぁ。

ちょっと共感したのかもしれない。

「わはは!」

「でも、すげーじゃん! ダンジョンで使えるランプ!? アイテムBOX代わりになる魔法の袋?!」

「少しは、オッサンを見直したか?」

「ああ」

「わはは!」

テツオは機嫌よさそうである。

基本、オッサンは若いやつにおだてられると、嬉しい。

「実は、これらを姫の実家に売り込んだから、もしかして市販されるかもしれん」

「マジか! ホントなら、攻略がはかどるってもんだぜ!」

「最初は高いものかもしれんが……」

「ケミカルライトとか、使わなくてもよくなるんだろ? それに、誰でもアイテムBOXが使えるとなれば、荷物を運ぶ手間がなくなるし!」

「上手くいけばな」

ライトを出して穴を覗き込んでいたテツオだが、中に降りてみるつもりだ。

「シャザーム、ちょっと穴の中に降ろしてくれ」

「大丈夫か?」

「はは、無問題」

黒い触手が彼の身体に巻きつくと、そのままゆっくりと穴の中に入れた。

「だ、大丈夫ですか?」

サナが心配そうにしている。

こういう場所に真っ先に突入できる、鋼鉄の心臓がほしい。

俺は基本、ビビリだからなぁ。

「ちょっとかび臭いが大丈夫だぁ」

「どんな感じだ?」

「石造りの通路が伸びているな……」

「もしかして、壁を突破したんじゃないか?」

「やったぜ!」

イロハがガッツポーズをしているが――いや、まだ解らん。

このまま、迷路をマッピングして、あの温泉にたどり着ければ、この通路が当たりだということが証明される。

「オガ、まだ気が早いぞ」

姫が冷静になるよう、声をかけた。

「ダイスケたちは、この通路が当たりがどうかまだ疑っているわけだな」

「まぁ、そのとおりだ。なにせ、正式な手順でのアクセスじゃないからな」

「とりあえず、シャザームを50mほど走らせてみたが、危険はないみたいだぞ? 降りてみるか?」

「そんなこともできるのか?」

「ああ、罠のチェックなども、もちろんできる」

自由に形を変えられる彼女なら、どんな罠でもすり抜けてしまうし。

――その前に、後続の冒険者たちのために、テツオに穴を広げてもらう。

難攻不落の7層の巨大な壁が崩れて穴が開いた。

地上に帰ったら公開するために、映像も撮っておくか。

天井が高く、かすかにその形が闇に溶け込んで見えなくなるほどのダンジョンの迷路。

空間全体は、冷たい岩で造られており、その表面には苔と黒ずんだ湿気の跡がこびりついている。

壁は不規則にひび割れ、ところどころ剥がれ落ちた岩片が床に散乱していた。

空気は重く、動きがない。

鼻腔を突くのは古びたカビの匂いと、湿った石の冷たさが混じった、息苦しいほどに濃密なにおい。

この場所には、生命の気配は一切感じられない。

虫の羽音すらせず、ただ不気味な静けさが支配している。

「これで、簡単にアクセスできるようになった」

「ダーリン、まだこれが本当か解らないんだぞ」

「それはそうだ」

だめだったら、ここまで戻ってきて、でかい岩かなにかで穴を塞がないと駄目だな。

冒険者が間違って入り込んだら大変だ。

まぁ、ダンジョンはダンジョンに間違いないから、攻略してもいいのだろうけどな。

開いた穴から中に進むと、四方を石で組まれたいわゆるダンジョン。

通路もまっすぐで、角は直角――方眼紙でマップが書けそうだ。

ハーピーたちも中に入ってきた。

天井が低く飛んだりできないので、シャザームに便乗している。

自在に形を変える黒いウネウネに最初は警戒をしていたが、意外にちゃっかりしているな。

「カオルコ、マッピングを頼む」

「お任せください」

彼女のメガネがきらりと光る。

「いつも済まないね~」

「それは言わない約束ですよ」

ツマランギャグはそこら辺にして、通路を進む。

歩を進めるたび、足音が岩に反射して不自然に跳ね返り、まるで見えざる何かがこちらを覗き込んでいるかのような錯覚に襲われる。

こちらが迷宮を覗き込んでいるとき、迷宮もこちらを覗いているのだ。

だれかが侵入した足跡もない前人未到。

ここには誰も到達していないのは明らかだ。

魔法の節約のため、テツオの魔法のランプをシャザームに持ってもらう。

全員が暗闇でも見えるから、これで十分だ。

少しでも明かりがあれば、視界がモノクロから総天然色になるからな。

シャザームが50mほど先行して、ダンジョンのマップが作られていく。

彼女は話せないので、テツオが持っていたおはじきを並べて、意思の疎通をしている。

シャザームの知能はかなり高いように思えるのだが。

すくなくとも、ハーピーたちよりは高い。

そのまましばらく進んだのだが――。

「!」

シャザームが触手をピコピコさせて反応している。

「ギャ!」「ギャ!」

ハーピーたちも反応している――おそらく魔物とのエンカウントだ。

「姫どうする? 戦うか?」

「待ちに待った7層だ。もちろん戦う」

「あ、あの~回避したほうが……」

サナは回避を選択したいらしい。

「それじゃ、俺も回避で」

「ダーリン!!」

「え? だってなぁ……」

今までの実績からいって――姫の選択はロクなことにならない。

「あたいは戦闘に賛成だ!」

イロハは拳を掌にバシバシと打ちつけて、気合を入れている。

6層どまりだったために、皆のレベルが頭打ち状態になっている。

姫、カオルコ、サナの3人は、イレギュラーな強敵との戦闘で、通常より高めのレベルになってしまっているが。

イロハとしては、少しでも強敵と戦ってレベルを上げたいのだろう。

テツオはどちらでもいい、カオルコも戦闘に賛成なので、多数決で戦闘になった。

角を曲がって、戦闘に備える。

「さてぇ! 7層で初めての敵だ! どんな敵が来るんだ!」

イロハは初めてだが、俺たちはそれなりにここで戦闘をしている。

「俺たちが戦ったのは、リッチとグリフォンだな」

「リッチってのは、この前に戦ったアンデッドの親玉みたいなやつだろ?」

イロハの妹――カガリを救出したときにリッチと戦った。

「今なら、サナの 退魔(ターンアンデッド) があるから、アンデッドなら一発だ。まぁ、それだと、サナにしか経験値が入らなくなるが……」

「サナちゃん、ターンアンデッドが使えるのか?」

「はい」

テツオも、ターンアンデッドを知っているようだ。

「さすが、聖女だな」

「異世界にもその魔法はあったのか?」

「聖職者でも、司祭クラスが使う上位魔法だな」

「ギャ!」「ギャーッ!」

話していると、ハーピーたちが反応した。

「来るぞ!」

静寂に包まれた岩の迷路、その奥深く――闇の中から、まるで空間そのものが歪むような気配が現れた。 はじめは黒い影がじわじわと広がっているだけのように見えたが、それは次第に形を成し、巨大な魔物の輪郭を浮かび上がらせた。

その体は暗い紫、光を吸い込むような不気味な色で覆われ、岩の壁と見分けがつかないほど闇に溶け込む。

赤い2つの輝きが、まるで炎のようにぎらりと輝いた瞬間、その存在は確かな恐怖として顕現した。

角は頭から天井へと突き刺すように伸び、ねじれ、重厚な鉄の塊のような質感を持つ。

呼吸のたびにその鼻先から黒煙のような蒸気が漏れ、空気をさらに淀ませていく。

全身は筋肉に覆われており、皮膚はまるで焦げた革のように硬く、ひび割れていた。

ところどころには赤く輝く文様のようなものが浮かび上がり、まるで呪いを刻み込まれたような不気味さを醸し出している。

「なんだありゃ!」

異形を見たイロハが叫んだ。

「カガリを助けに行ったときに戦闘した、デーモンか?」

「あれとは、色が違うような気がする」

姫が俺の言葉に反応した。

「どちらにしろ、強敵です」

俺も、カオルコの意見に賛成だ。

赤いのが3倍強いなら、こいつはなん倍強いんだ?!

敵が足元を踏みしめるたびに地面が低くうなり、床と壁が震えた。

その動きは遅いが、確実に、そして圧倒的な存在感をもってこちらへと迫ってきている。

これは、間違いなく強敵だろう。