軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1話 突然裏庭に

令和◯年、突然世界は静止した。

――それから10年、試される北の大地。

「なんだ、なんだ?!」

俺は部屋の中で慌てていた。

朝に起きたら、電気製品が全部使えなくなっている。

スイッチをパチパチしてみても、反応なし。

玄関横のブレーカーを確かめてみたが……問題ない。

停電か? ――と、外に出たのだが、ぱっと見では解らない。

ここは田舎で、隣の家との間隔が少々離れているため、確認もできない。

電力メーターを確認するために、そのまま裏の畑に回ると――。

「なんだこりゃ!」

眼の前に、大穴が開いていた。

ぱっくりと開いた真っ黒い穴が見える……直径は5mほど。

かなり深いようで底は見えないが、あまり端に行くと崩れそうだ。

こんな所に落ちたらどうなるか解らん。

「う~ん」

あまり考えたくはないが、考えられるのは――。

「もしかして――ダンジョン?」

かつてなら、こんなことを言いだすと、頭がおかしなやつと思われたかもしれないが、今は違う。

今から10年ほど前、世界のあちこちに、「ダンジョン」なるものが出現。

その異形の出現とともに、世界が静止してしまったのだ。

コンピュータやらスマホ、家電も全部が使用不可になり、突然ガラクタに。

それらが全部ダンジョンのせいだと解るには、しばらくの時間がかかり、世界中が大混乱になった。

人類が積み上げてきたものが、いきなり足蹴にされてぶっ壊されたようなものだ。

突然やって来た試練にも人類は立ち向かい、なんやかんやで今はなんとか元の暮らしに戻りつつある。

今でも世界中のあちこちにダンジョンが出現しているので、ウチの裏庭にできる可能性があるわけだが……。

「なんで、ウチの裏庭に……」

俺は突然のできごとに、軽いめまいを起こしてしゃがみこんだ。

ダンジョンを発見したら、自治体に報告しなければならない。

俺が住んでいるのは田舎なので、役場ってことになるが……。

家の裏にダンジョンができたとなれば、ここは国の管轄になる。

警察やら警備もやってくるだろう。

俺の家が……。

所有している土地に、ダンジョンができた人の話がネットに上がっていたが、買い取りの金額は大きくないらしい。

ゴネても行政代執行で取り上げられる。

そうなれば二束三文。

なにせ、そういう法律ができてしまったのだから仕方ない。

政府に恨み言のひとつも言いたくなるが、ダンジョンができて世界がパニックになっていたのだ。

場所によっては、ダンジョンから魔物が溢れ出た所もあった。

そうなれば、国の管理になるのも致し方なし――といったところだし、俺もそれに文句を言うつもりはない。

「いやいや、まだ地面がただ陥没しただけかもしれんし」

赤い三角屋根で平屋の我が家に戻ると懐中電灯を手に取った。

スイッチを押してみるが――点灯しない。

スマホは――電源が入らない。

コンロをひねってみる――火がつかないが、ガスは出ている。

カセットボンベを使ったガスバーナーも着火しない。

今度はストーブの所にあった使い捨てのライターを使ってみた。

昔ながらの、 石(フリント) を使うタイプだが――火花は出るが、やっぱり点かない。

「……間違いなく、ダンジョンだ」

ダンジョンの周りでは、物理法則がひん曲がって電気や火が使えなくなるのだ。

これで、この穴がダンジョンなのは確実……。

俺は再びうなだれた。

なんで俺の家の裏庭に……本日、2回め。

幸い、ここは田舎なので、隣近所とも距離がある。

裏の畑は300坪あり、芋を収穫したあとでなにも生えていない。

近所付き合いもあまりないし、ダンジョンができたのはしばらくはごまかせるだろう。

俺は家から出ると、再び穴を覗き込んだ。

眼の前に現れたのは垂直の穴なので、魔物などが這い出てくる様子はない。

さすがの魔物も垂直の壁を上ってはこれまい。

これはラッキーだろう。

普通のダンジョンだったら、即通報するしかなかった。

地の底から吹き上がってくる風の音が聞こえる。

いや、なにか生き物のうめき声?

そんな音にも感じたのだが、穴の端から下を覗いているので、途中までしか見えない。

「そうだ!」

俺は、小屋から2連はしごを持ってきた。

こいつはスライドするようになって重なっており、伸ばすと8mほどになる。

5mの穴に8mあれば、穴に渡すことができるだろう。

穴の中心部分に行って下を見たら、底まで見えるかもしれない。

地面で2連はしごを伸ばすと、ずりずりと引きずって穴に近づけていく。

「さて……」

はしごを穴に渡すことができたので、動かないように両端にコンクリブロックを載せた。

できあがった橋に恐る恐る乗ってみる――大丈夫そうだ。

そのまま、はしごを渡り穴の中心部分まで行くと下を見るのだが、黒い穴がひたすら続いており、終わりが見えない。

多分、100m以上はある――いや、もっとだろうか。

試しにコンクリブロックを一個担いで持ってきて、橋の上から落としてみた。

白いブロックがどんどん小さくなる……が、下に落ちた音は聞こえてこない。

「は~? どんだけ深いのやら……」

俺はいいことを思いついた。

家に双眼鏡があったはず。

それで下を見たら、なにか見えるんじゃないのか。

俺は家に戻ると、双眼鏡を持って戻ってきた。

そいつで下を覗く。

ダイヤルでピントを合わせる――と、暗闇になにかがうごめいているように見える。

「え!?」

俺は一旦双眼鏡を目から離すと、もう一度覗き込んだ。

なにか赤いものが光っているような……生きものの目?

光る赤い目がこちらを見ているような気がする。

深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ――そんな言葉が頭に浮かぶ。

確かに、なにかがいるのは間違いない。

昔なら、試しにドローンを買って降ろしてみる――みたいなことができたのだが、今はそうはいかない。

懐中電灯ですら点灯しないのに、ドローンが動くはずがない。

たとえなにかいるとしても、100m以上の垂直な穴を上ってくる生き物はいないだろう――多分な。

「う~ん……」

俺はしばし考えた。

埋める――のは無理か。

こんな穴を埋めるとなると、いったいどのぐらいの土砂が必要になるのか。

それに電気製品が使えないということは、車も動かないのだ。

土砂搬入のためのダンプや重機も使えない。

昔ながらの人力――そんなに人を集めたら、ここにダンジョンができたとバレる。

――こういう場合は、まずは情報の収集か。

俺は穴を一旦放置して家に戻ると、スマホを持って外に出た。

歩き回って端末が使える場所を探す。

家の前の車道まで出るとスマホが使える。

車庫が少し離れた場所にあるのだが、そこなら電気も使えることが解った。

軽トラが入っている、斜め屋根でトタンに囲まれた車庫のシャッターを開けた。

中にある発電機を動かして照明も点灯させてみたが――大丈夫だ。

試しに相棒の軽トラのエンジンもかけてみる。

こっちも無事に始動した。

「参ったな……しばらく車庫で暮らすことになるぞ――こりゃ」

とりあえず、家の前の道路には影響ないようなので、車が止まったりしてダンジョンだとバレることはなさそう。

俺は車庫の中にホコリを被ったまま放置されていた椅子を綺麗にすると、それに座ってスマホで検索を始めた。

しばらくネットの海をたゆたっていたのだが、興味深い記事を発見する。

俺の家と同じように、庭に穴タイプのダンジョンが発生したという外国の話だ。

浅い竪穴にゴブリンが湧いたらしい。

ゴブリンってのは、青とか緑色の肌をした子鬼みたいな魔物だ。

穴の外から、石などを投げつけて退治したら、穴が塞がったというのだ。

外国なら銃があるじゃないかという話なのだが、ダンジョンの近くだと銃は使えない。

火も燃えないし、火薬も燃焼しなくなってしまう。

火が使えるなら、ガソリンでも流し込んで火を点ける選択もあるのだが……。

あとは水攻めか。

こちらも、ポンプなどが使えない状態では、少々難しい。

近くの川などから水を引き込むにしても、重機がないとかなり大変だ。

そもそもダンジョンの近くでは、重機が動かないからな。

まぁ、色々と考えて、「石を投げつける」――この一番原始的な攻撃ということになったのだろう。

あとは弓とかボウガンなどが考えられるが、手持ちになかったのだろう。

「――ということは、俺の選択もそれしかないってことになるが……」

とりあえず、穴の下にいるなにかをぶっ殺せば、ダンジョンは閉じる――これだな!

そいつが本当に死ぬかは解らんが。

失敗したら己の不運を嘆いて、役場にダンジョンの報告をしよう。

やるべきことが見つかったが、腹が減っては戦ができん。

家から、備蓄食糧を持ってきた。

地震やら災害に備えたものだが、今がそのときだ。

小屋にあるポータブルの石油ストーブで、お湯を沸かして備蓄している芋を煮た。

このストーブは冬に小屋で作業をするときの、暖房用に設置してあるものだ。

「……」

とりあえず、煮えた芋を食う。

ウチの畑で芋を作っているので、芋ならいくらでもあるのだが――いい加減飽きたな。

それよりも、攻撃の方法はなにがいいだろうか。

さっきみたいな、コンクリブロック攻撃はよさそうだが……。

鉄の塊とかはどうだ?

鍛冶屋で使うアンビルとか――。

俺はスマホで、アンビルをググってみたのだが、25kgのものが2万円以上する。

昔はもっと安かったかもしれないが、今はインフレしてるからな。

1日10発落としたら、20万円以上だぞ?

地元のホムセンで売っているだろうが、ちょっと高いな。

そんな金がどこにある。

金がいくらでもあって重機が使えるなら、コンクリの廃材やら鉄骨を放り込む。

強力な攻撃になるだろうが、そんな金もないし、ダンジョンのそばじゃ車は使えない。

手作業で運べて、威力が高そうなものか――プラス値段が安い。

それが必要だ。

「う~ん」

俺は頭を捻った。

そうだ――単管パイプはどうだろう?

建築現場などで、足場を作るときに使われている鋼鉄製のパイプだ。

あれなら、そんな高くないはず。

鉄の管で即席の槍を作って、放り込む。

それに、どうせ捨てるようなものだから、中古でも、錆びてボロボロでもいい。

それなら安くないか?

俺は早速、ネットをググった。

近くで、単管を売っている業者を探すためだ。

「あったあった」

中古の建設機械を扱っている業者が、中古の単管も扱っているらしい。

飯を食い終わった俺は――早速、愛車の軽トラに乗ると、ネットで見つけた業者を訪ねる。

山間の道に軽トラを走らせ、平地に出ると海の近くまでやってきた。

「ちわ~」

「いらっしゃ~い」

出迎えてくれたのは、グレーの作業服を着た、パンチパーマの小太りのオッサン。

いや、俺もオッサンなのだが。

辺りを見れば、土むき出しの広大な敷地に黄色や青い重機たちが、所狭しと並んでいた。

いくつか緑色に塗られた倉庫も見える。

色々と並んでいるが、錆びているものが多いな。

まぁ、こういうのは動けばいいのかもしれないが。

「へ~、色々あるなぁ」

「なにをお探しで?」

「あの~、ここに単管の中古があるって聞いてきたんだけど……」

「あるぜ~! いくらでもあるから、持っていってくれよ、ははは」

男に倉庫の裏に案内してもらうと、針金でまとめられた単管が山積みになっていた。

1束20本ぐらいかな。

野ざらしのせいか、かなり錆が出ているが問題ない。

値段を聞くと、捨て値だ。

「たくさんあるなぁ」

「昔、太陽光発電が流行ってたじゃない」

「はいはい」

「パネルを載せるのに、単管が使われたりしたんだよね。安いから」

「ああ、なるほどねぇ……」

ダンジョンが出現してから、世界の半導体が使えなくなってしまったわけだが、その理由は――。

シリコンやゲルマニウムといった元素が今までどおりに動かなくなってしまったせいだ。

それは太陽電池パネルも同じ。

パネルにはシリコンが使われていたからな。

そいつらが変化してしまっては、太陽光発電も不可能になってしまった。

まぁ、影響を受けていない材料もあるから、代替品の開発が進んではいるが、既存のパネルは全部ゴミだ。

世界中でエコの象徴が突然ゴミになり、廃棄もリサイクルもできない。

各地でゴミが山積みになり、全世界で大問題だ。

「昔、こういう鉄モノって結構高かったんじゃない? 廃品回収業者がぐるぐる回ってきたりしてたな」

「ああ、ほら――ダンジョンができたら、そういう鉄を買ってた国がヤバくなって、それどころじゃなくなったんだよ」

「なるほど……」

我が世の春を満喫していた某国だが、バブルが弾けたところにダンジョン事件が重なって、国が破綻。

それプラス政変でとんでもないことになった。

人口が多いってことは武器だが、弱点にもなる。

詳しい情報は隠蔽されているらしいが、人口の半分から1/3がいなくなったって噂もある。

まぁ、あっしには関わりのねぇことでござんす――ってやつだが。

海の向こうの国のことなんてどうでもいい。

とりあえず、2mの単管を60本購入した。

電子マネーで払う。

俺の軽トラに積んでもらえるという。

「俺素人なんだけどさ、単管って地面に打ち込むときにはどうするの?」

「ミサイルとかパイルを使うけど……」

「ミサイル?」

「はは、他じゃなんて言うかしらんが、ウチじゃそう言っているよ」

男に、それを見せてもらう。

「あ~なるほど」

単管の穴にすっぽりと挿入できるようなアタッチメントがあるんだ。

ミサイルってのは薄い鉄で作られてて、中は中空になっている。

見るからに作りが安い。

それに引き換え、パイルってやつは、中身がちゃんと詰まっていて頑丈そうだ。

当然、パイルのほうが高い。

単管を槍にしようってんだから、買うならパイルのほうだろう。

こちらも錆々のパイルを60個ほど購入した。

あとは、単管の反対側を塞ぐ蓋だ。

塞がればなんでもいいのだが、こちらも金属製にした。

単管の束を、フォークリフトで積んでもらう。

「また、買いに来ますから」

「おお~、いくらでも買ってくれよ。余ってるからな、はっはっは~っ」

俺は、60本の単管を軽トラに積んで、帰りの道をひた走った。

ふと、山を見れば――山を削って設置した太陽光パネルが、そのまま放置されて廃墟になっている。

発電事業をやっていた業者が逃げてしまって、どうしようもなくなっているのだ。

ゴミの処分なら打つ手がないわけではない。

「ああいうゴミも全部、ダンジョンに放り込めればいいんだがなぁ……」

ダンジョンに入れたものは、ダンジョンに吸収されてしまう。

綺麗さっぱりと。

ほら、簡単でしょ?

――と思うのだが、そうは簡単にはいかない。

ダンジョンでは、内燃機関も動かないし、モーターも動かない。

全部手作業で搬入しなくてはいけない。

その人件費やら費用対効果を考えると――今もゴミが山積みになったままだ。

実際、他の国からゴミを買って、自国のダンジョンで処分している国が存在している。

毒物だろうが、放射能物質だろうが、ダンジョンに突っ込めば、吸収されてなくなるのだ。

そこまで持っていくのが大変だが、そういうことをやっている国というのは、人件費が格安な途上国だ。

人権? なにそれおいしいの? そんな国が安い賃金で国民を使い、ダンジョンをごみ捨て場にしている。

「そういえば――」

俺の裏庭にできた竪穴なら、ゴミを簡単に放り込めるよなぁ。

廃品回収業者として一儲けできそうではあるが、すぐにダンジョンだってバレるだろうな。

突然近所にダンジョンができるなどというパラダイムシフトが起きても、なんとか社会が回り始めてしまうのはすごい。

ダンジョンのせいで、PCやスマホが使えなくなった件もそうだ。

今の日本でスマホやら電化製品を使わない生活なんて考えられない。

当然、代替半導体の開発が急遽進められたのだが、突如に福音がもたらされた。

その出処は――なんとダンジョン。

ダンジョンの魔物から出る魔石が半導体の素材として使えることが解り、一気に代替半導体として広まった。

PCなどは、魔物由来の半導体を使ったCPUに載せ替えるだけで、そのまま使える。

突然湧き上がった半導体の買い替え需要に、半導体産業はバブル状態に。

作れば作っただけ売れるのだが、原料は魔物から取れる魔石。

簡単には手に入らない。

かくして、現在はダンジョンに潜って魔物を倒し、魔石を回収するという商売が隆盛を誇っているわけだ。

当たり前だが、危険を伴うし、すべてが自己責任。

戦っている所を中継したりすれば、動画サイトで儲かりそうなのだが、ダンジョン内でカメラも使えない。

それでも、大昔のフィルムカメラなら使えるので、ダンジョン内の写真を撮って上げている人もいる。

そのぐらいしか情報がないのだ。

ダンジョンのことを考えながら運転していると、家に到着した。

さて、やることが色々とあるぞ。