軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

子連れ結婚式 3

結婚式当日は、雲ひとつない青空が広がっていた。

いや、朝は暗雲立ちこめていたのだが、強い風が雨雲をすべて吹き飛ばしてしまった。

「アレンディオ様の精霊の力ですか?」

「俺のそばにいる風の精霊にはそこまでの力はない。だが、精霊の力であることは間違いない」

ローレンが両手を挙げて、空に向かって手を振っている。

とても可愛らしいが……ローレンの周りにいるらしい風の精霊の力は、日に日に強くなっているようだ。

「まーま!」

中央神殿は、私たちの結婚式のために貸し切りになっている。

だが、中央神殿は婚姻届の受理を始め、各種手続きで常時長い列ができている。

――貸し切りにしたら、その方たちに迷惑なのでは。

そんな私のひと言により、急遽臨時出張所が設けられる騒ぎとなった。

私は最近、自分の発言の影響力に慄いている……。

それもこれも、アレンディオ様が全力で私の願いを叶えようとするのがいけない。

「ローレン!」

すると、可愛らしくも華やかな声が聞こえてきた。

声の主は、このミラベル王国の第一王女エミリア殿下だった。

以前よりも少し背が伸びただろうか……。

エミリア殿下は今日、私のベールを持ってくださる予定だ。

「本日は、お越しいただきありがとうございます。エミリア殿下」

「ええ、このたびはご結婚おめでとうマーレ子爵夫人」

エミリア殿下は優雅に微笑んだが、すぐに首をかしげた。

「あら、でもマーレ子爵夫人はもう結婚しているのよね? この場合は――このめでたい席にお招きいただいたこと、とても喜ばしく思います……かしらね?」

「エミー!」

「……っ!」

ローレンが近づいてきて、エミリア殿下のドレスのスカート部分に掴まった。

エミリア殿下が、大きな瞳をまん丸にした。

「今……私の名前を呼んだ?」

「エミー!」

「ローレン!」

エミリア殿下は微笑むと、ローレンを強く抱きしめた。

それから、年相応の子どもらしさが残る笑みを浮かべた。

神殿の入り口から祭壇まで、赤い絨毯が敷かれている。

ウェディングドレスのスカートがふわりふわりと揺れている。

全体に白い艶やかな色を使って刺繍されたドレスは、とても豪華で――そして重い。

デコルテ部分には繊細なレース。真珠の首飾り。髪飾りまでがズッシリと重い。

本来であれば、歩きづらいはずだが、風の精霊が力を貸してくれているのか、歩くたびにフワフワと揺れて軽やかだ。

緊張した面持ちの父が私のことをエスコートしてくれている。

絨毯の先には、アレンディオ様がいる。

彼は私以上に緊張しているようにも見える。

「ぱぱ!」

ローレンが私のベールから手を離して走り出した。

アレンディオ様が、ローレンを抱き上げてこちらを見つめている。

「もう……一緒にベールを持とうって、約束したのに」

エミリア殿下の少しむくれたような声が聞こえてくる。

けれど、ローレンはまだ二歳にもなっていない。

約束を守るということを覚えるには、まだもう少し時間がかかるだろう。

アレンディオ様のそばにたどり着く。

私たちは見つめ合う。

ローレンを抱き上げたままだから、誓いの口づけは少し難しいかもしれない。

「誓いの言葉を……どうか、俺の帰る場所でいてほしい」

「ええ、私とローレンは、いつでもアレンディオ様のお帰りをお待ちしています……」

すると、アレンディオ様がなぜか咳払いをひとつした。

何か伝えたいことがあるようだ。

アレンディオ様が、ローレンをしっかり抱えたまま私の耳元に唇を寄せる。

「――また、小さな魔力が君の中にある」

その言葉が告げられた途端、会場中にまるで星屑のような光が降り注いだ。

光と一緒に、赤い薔薇の花びらまで飛んできた。

精霊たちも喜んでいるようだ。

私は、賑やかな未来を想像し――感激のあまり、ローレンを挟むようにアレンディオ様を抱きしめるのだった。

* * *

結婚式から1年、王国の国境の魔獣は一掃された。

魔獣との戦いには一旦終止符が打たれたと言えよう。

千年前の神代から、人と魔獣はずっと戦ってきた。

そして、人が魔獣に抗えるようになったのは、力を貸してくれた精霊のおかげなのだ。

「かわいいね!」

「そうね。本当に可愛いわね」

ローレンは、飽きることもなくずっとベビーバスケットの中をのぞき込んでいる。

彼は二歳半になった。

ずいぶん言葉を話せるようになったし、こちらの話も少しわかるようになってきた。

赤ちゃんの頃は永遠に眠れない夜が続くと思っていたのに、最近は夜もしっかり眠るようになった。

――けれど、我が家の賑やかさは増すばかりだ。

なぜなら、新しい家族が増えたからだ。

バスケットの中に眠るのは、淡い茶色の髪に淡いグリーンの瞳の女の子だ。

彼女の名前は、レティア。

「せいれいさん、いっぱい!」

「まあ……またそんなにたくさん集まってきているの?」

レティアには私と同じで魔力がほとんどない。けれど……ローレンに言わせると、信じられないほどたくさんの精霊に囲まれているのだという。

「なにか思い当たることはありますか?」

「うーん、ローレンが光と闇の両方の属性を持っていることも珍しいが、レティアのように魔力がほとんどないのに、ここまで精霊に囲まれるというのは見たことも聞いたこともない」

筆頭魔術師であるアレンディオ様がわからないというのだから、前例を探すのは難しいのかもしれない。

レティアが目を開いた。

淡いグリーンの瞳が一瞬だけ見える。

「ままとおんなじ!」

ローレンはそのことに気がついたのがうれしかったようだ。

レティアの頬をツンツンと突きながらご機嫌だ。

――そのときだった。

レティアが手を伸ばして、何かを掴むような仕草をした。

そこには、まあるくて可愛らしい黒い何かがいる。

よく見てみれば、それには小さな目があった。

バタバタともがくように暴れている。

「せいれいさん!」

ローレンがうれしそうにそう言った。

そこに、アレンディオ様が王城から戻ってくる。

「おや、闇の精霊はこんな姿なのか」

アレンディオ様も驚いているようだ。

それもそのはず。光や闇の精霊は、ほかの精霊よりもさらに高位の存在であり、よほど気に入った相手でなければ姿を見せないのだ。

「やっぱり、闇の精霊なのですね」

「――君にも見えるのか。となると、レティアの手に何か秘密があるのだろうか」

黒い塊――改め闇の精霊は、レティアの手から逃れようと必死にもがいている。

ティアの握りこぶしに指を差し込んで少しだけ隙間を空ける。

すると、闇の精霊は慌てたようにレティアの手から抜け出した。

――不思議なことに、レティアの手から逃れた途端、その姿はまた見えなくなった。

カタンッと音が響けば、窓に少しだけ隙間があいた。

おそらく、その隙間から精霊は外に飛んでいったのだろう。

――空は今日も青くて、風は穏やかに吹いていた。